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「水か、金か」ウマラ政権にとって最初の試金石

ペルー情勢レポート

在リマ海外研究員 清水 達也
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2011年11月30日
2011年11月24日、ペルー北部のアンデス山脈に位置し、国内で最も多く金を産出しているカハマルカ州で、金鉱山大手ヤナコチャ社がすすめる新規金鉱山開発プロジェクト「コンガ」に反対する無期限ストが始まった。“Agua sí, mina no”(水は要るが、鉱山は要らない)と叫ぶ人々が市の中心部を練り歩き、カハマルカ市に通じる幹線道路を封鎖する姿がテレビで報道された。新聞報道によれば、グレゴリオ・サントス州知事と地元自治体の首長をはじめとする約3000人の市民がプロジェクトの敷地に力ずくで進入し、その一部がプロジェクトの施設を破壊した。強硬な抗議活動に直面したヤナコチャ社は11月29日、コンガ・プロジェクトの延期を決めたと発表し、反対派との対話を求めた。しかし反対派は、ウマラ大統領がプロジェクトの中止を決定する書類に署名するまでストを解除しないと主張し、現在もストが続いている。鉱山開発と地元住民の権利や環境保全という相反する2つの方針を巡って政府の方針が揺れている。この問題解決への取り組みが、ウマラ政権の最初の試金石となっている。

コンガ・プロジェクトについては、ヤナコチャ社が提出した環境アセスメント調査を2010年10月にエネルギー・鉱山省が承認した。2011年6月にはヤナコチャ社の親会社であるニューモント社がプロジェクトの実施を最終的に決めており、実際に動き始めたところであった。同社はこのプロジェクトに国内の鉱山投資では最大規模となる48億ドルの投資を予定しており、操業予定期間である19年間に金を890万オンス、銅を26億ポンド産出する計画である。このプロジェクトは法人税やロイヤリティなどの形で、ペルーの国庫に約40億ドル以上の歳入をもたらすほか、施設の建設時には6000人の雇用を生み出すとされている。

今回の抗議活動で争点となっているのが、プロジェクトの敷地内にある4つの湖の水資源である。金を含む鉱石はこれらの湖の真下に位置している。プロジェクトではこのうち2つの湖の水を抜いて掘り進んで鉱石を取り出し、残りの2つの湖についても水を抜いて採掘の過程で出る捨石を堆積する場所にする計画である。ヤナコチャ社はこの4つの湖が蓄えていた水量の2倍の容量をもつ貯水池を新たに建設し、これまで以上の水資源の供給を確保するとしている。これに対して反対派は、4つの湖はカハマルカ州の最も重要な水源の一つで、ここで鉱山開発を行うことは州全体の水系に大きな影響を与えるとして反対している。

このような事態に対して政府はどのように対応してきたのだろうか。少しさかのぼって振り返ってみたい。

2000年代半ばからの一次産品価格の高騰を背景に、ペルーでは鉱山投資が活発化した。2011年7月までの5年間を担当したガルシア政権は、1990年代のフジモリ政権からの新自由主義的な経済政策を継承し、堅実なマクロ経済運営を行い、外国資本を積極的に受け入れてきた。鉱山開発も歓迎し、そこから得られる歳入をもとに社会開発への投資を拡大してきた。つまり成長と分配のうち、成長を優先し、全体のパイを大きくすることでその一部分を分配する政策をとってきた。

ウマラ大統領は2011年大統領選挙のキャンペーンの中で、新自由主義を批判することで支持を伸ばした。カハマルカの鉱山開発についても、金よりも水が大切であることを人々に呼びかけ、成長より分配を優先する姿勢をみせた。しかし決選投票を控えた選挙キャンペーンの頃から、新自由主義への批判を取り下げ、成長と分配の両立を主張し始めた。大統領就任後は、公約として掲げていた鉱山企業への課税強化についても、業界団体との協議を重ねて合意を得た上で、これを導入した。また、投資家に対しては、ペルーの健全な経済運営とラテンアメリカ域内でも好調な経済成長をアピールし、積極的な投資を呼びかけた。その結果、11月上旬には大手格付け機関の一つであるフィッチが、ペルーのドル建て国債に対する格付けを、それまでのBBBマイナスからBBBへ引き上げた。

成長の勢いを止めないというウマラ政権の方針がはっきりしてきたこと対して、就任100日を迎えた11月初め頃から反発が強くなり、全国各地で社会紛争が増加してきた。カハマルカ州のほかにも、アプリマック州アンダワイラ市、アンカシュ州ワラス市でも鉱山に反対する抗議活動が始まった。このほか、ガルシア政権時に決まった、ブラジルとの国境に近いアマゾン地域に発電所を建設したブラジルに電力を供給するプロジェクトについても、地元住民が反対の声を上げた。

11月16日、就任から3カ月以上経って初めて大統領官邸で正式な記者会見を行ったウマラ大統領は、コンガ・プロジェクトへの抗議活動について触れ、コンガ・プロジェクトは社会改革のために必要な資金を得るために重要であると明言した。そして「水か、金か、といった極端な議論には与せず、水と金の両立を目指す」と述べた。

図1に示したウマラ大統領の支持率からわかるとおり、国民全体の支持率はそれほど下がっていない。しかし、所得の高いA、B階層で支持率が上がっている一方、ウマラ氏のもともとの支持基盤である所得の低いD、E階層で支持率が下落している。

まずは成長の果実を手にし、これを分配することで貧困削減や所得格差の是正を実現するという開発モデルに対する国民の不満は強い。現在の開発モデルを継続できるように国民を説得できるのか、それとも新たな方針を示すのか、ウマラ政権の手腕に注目が集まる。

2011年11月30日


図1 ウマラ大統領の支持率
図1 ウマラ大統領の支持率
出所 El Comercio紙。Apoyo社全国世論調査の結果に基づく。
注 A~Eは所得階層別の支持率。Aが最も所得が高い階層。