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ベネズエラ・チャベス大統領:就任せずに権力継続

ベネズエラ

地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ長 坂口 安紀
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2013年1月11日
ベネズエラは、憲法が規定する大統領の就任日である1月10日を大統領不在のなか迎えた。チャベス大統領は術後回復が引き続きデリケートな状況で、政府によると「1月3日に発症した呼吸不全に変わりない状況が続いて」いる。カベジョ国会議長は、チャベス大統領が1月10日の就任式に参加しないことを1月8日発表した。最高裁憲法法廷は、「チャベス大統領は“選出された大統領候補 (candidato electo) ”ではなく、“再選された大統領(presidente reelecto)”である。そのため大統領権限の継続性が存在する。したがって就任式への出席は必ずしも必要ない」との判断を示した。これにもとづき政府は、1月10日に憲法231条が定める国会での宣誓・就任式は行わないが、チャベス大統領は大統領として職責を継続し、体調が回復した時点で後日、最高裁の前で宣誓を行うとしている。ただし、その「後日の事後宣誓」がどの時点で、どこにおいて(カラカスなのかハバナなのか)行われることになるのかは、明確にしていない。


反チャベス派は、これは政府に有利になるよう憲法を歪曲解釈したものであるとして強く反発しており、1月10日にチャベス大統領が宣誓・就任できないのであれば、2006-2012年の大統領任期はその時点で終了するため、すみやかにカベジョ国会議長が暫定大統領につくことを求めてきた。また憲法学者らも、同国の憲法や法律は大統領の再選を前提にはしておらず、したがって「権力や権限の継続性」という概念も存在しないと批判している。筆者による12月20日付けウェブ報告も、これと同じ憲法解釈にもとづくものだが、上述のように政府がいう「再選大統領の権限の継続性」という概念にもとづけば、継続した大統領が任命したマドゥロ副大統領も副大統領職を継続するということになるのであろう。そのため、カベジョ国会議長ではなくマドゥロ副大統領が引き続き大統領の職責を代行することになる。

チャベス派がカベジョ国会議長の暫定大統領就任を受け入れない理由は、それを受け入れると、「チャベス大統領の(一時的にしろ)不在」を認めることになり、遅かれ早かれ再び大統領選挙を実施しなければならないためであると考えられる。上記の「再選大統領の権限の継続性」という概念にもとづけば、チャベスが生存している限り、さまざまな憲法解釈により、大統領の不在という認識を避けることが可能であり、そうすればマドゥロ副大統領のもとチャベス派政権を維持することができる。実際、最高裁裁判長は、大統領権限の継続性という判断を発表した際、「(現在の)チャベス大統領の不在は、憲法234条が規定する“大統領の一時的不在”として認識するべきではない、なぜならば大統領の一時的不在は大統領自らが大統領令によって発令するものであるから。それがない現状は、大統領の一時的不在にはあたらない」と答えている。この解釈によれば、チャベスが生存している限り、大統領は一時的でさえも「不在でない」状況が続くことになる。また、憲法が規定する期日に大統領が宣誓しないという不規則な事態について反チャベス派が求めている医師団による病状報告について、同裁判長は、「チャベス大統領自身が12月8日に(キューバに出発するときに)、国を離れるのは病気を治療するためと理由を国営放送を通じて明確にしているため必要がない」と発言している。

国会での宣誓・就任式は実施されなかったが、政府はチャベス大統領の新しい任期の開始を祝う大規模な集会を開催した。これには、ボリビアのモラレス大統領、ニカラグアのオルテガ大統領、ウルグアイのムヒカ大統領が出席したが、盟友であるアルゼンチンのクリスティーナ大統領やブラジルのルセフ大統領は出席しなかった。出席した3カ国は、いずれもチャベス政権により多大な石油の優遇供給や融資などの経済的恩恵を受けている国々である。ちなみにアルゼンチンのクリスティーナ大統領とペルーのウマラ大統領は、近いうちにハバナにチャベス大統領を訪ねるとしている。

その集会で目を引いたのが、真っ赤な背景に書かれたチャベス派のスローガン、「私はチャベスである」(Yo soy Chávez)というものである。集会の背景パネルや、チャベス派リーダーや多くの支持者が着用する真っ赤なTシャツの胸元に大きく書かれ、演台からの掛け声にあわせて大合唱でそのスローガンを繰り返し叫んでいた。

おそらくこれは、将来的に再選挙が実施されることになった場合、マドゥロ副大統領の勝利とそれによるチャベス派政権継続のための戦略なのであろうと考えられる。マドゥロ副大統領にせよカベジョ国会議長にせよ、個人としてのカリスマ性はチャベス大統領にはるかに及ばない。反チャベス派はおそらく昨年10月7日の大統領選挙でチャベスの対抗馬となったエンリケ・カプリレスが再度統一候補となるであろうと思われる。マドゥロがカプリレスに勝利するためには「チャベスの威を借りること」が不可欠な戦略となるであろう。上述の新たなスローガンは、電話での声さえ届かず不在期間が1カ月を超えたチャベス大統領のプレゼンスを有権者の間に生き生きと維持させると同時に、マドゥロをマドゥロとしてではなくチャベスと同一視させることによって、支持を固めようとする戦略であるように思われる。
 

(2013年1月11日 坂口安紀)
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