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ブラジル停止前の2018年第1四半期GDP

ブラジル経済動向レポート(2018年5月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平

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第1四半期GDP:2018年第1四半期のGDPが発表され、成長率の前期比が0.4%、前年同期(年初累計)比が1.2%、直近4四半期比が1.3%で、総額(名目)はR$1兆6,411億であった(グラフ1)。前期比に関して大方の予想が0.5%以上だったことや、前年同期比の伸びが低下したことから、第1四半期GDPは予想や期待よりも景気回復の足取りが鈍いことを示すものとなった。また今月、長距離トラック運転手が主要幹線道路を連日封鎖したストライキやデモにより、ブラジルは停止状態に陥ったが、その影響は第2四半期だけでなく長期的にも出てくるとみられている。そのため、今年通年のGDP成長率の予測を2.5%前後から0.5%程度引き下げる市場関係者が多かった。

グラフ1 四半期GDPの推移

グラフ1 四半期GDPの推移

(出所)IBGE

第1四半期GDPの需給面を見ると(グラフ2と3)、物価の下落や信用市場の拡大により家計支出(前期比0.5%、前年同期比2.8%)が上向いているのがわかる。政府支出(同▲0.4%、同▲0.8%)には財政支出の削減が表れており、投資である総固定資本形成(同0.6%、同3.5%)はプラスながらも前期比の伸びが縮小した。コモディティをめぐる貿易環境の好転などの影響から、輸出(同+1.3%、同+6.0%)と輸入(同+2.5%、同+7.7%)とも好調であった。

一方の供給面では、農牧業(同1.4%、同▲2.6%)に関して前期比はプラスだったが前年同期比は大幅なマイナスとなった。製造業(同▲0.4%、同4.0%)、建設業(同▲0.6%、同▲2.2%)、鉱業(同0.6%、同▲1.9%)などが低調な数値だったため、工業(同0.1%、同1.6%)は前期比でプラスの伸びが低下した。サービス業(同0.1%、同1.5%)は、消費の回復により商業(同0.2%、同4.5%)が比較的に好調だった一方、情報通信業(同▲1.2%、同▲3.3%)で落ち込みが顕著だったこともあり、相対的に低い伸びにとどまった。

グラフ2  2018年第1四半期GDPの需給部門の概要

グラフ2  2018年第1四半期GDPの需給部門の概要

(出所)IBGE
グラフ3 四半期GDPの需給部門別の推移:前期比

グラフ3 四半期GDPの需給部門別の推移:前期比

(出所)IBGE

貿易収支:5月の貿易収支は、輸出額がUS$192.41億(前月比▲2.5%、前年同月比▲2.8%)、輸入額がUS$132.60億(同▲3.8%、同+9.3%)で、貿易収支はUS$59.81億(同+0.8%、同▲21.9%)の黒字額を計上した。今月後半、トラック運転手が道路封鎖ストライキを連日行ったため全国規模で物流がストップし、一時ブラジルは機能停止状態に陥った影響から、輸出額が前月と前年同月に比べマイナスとなった。また、年初からの累計は、輸出額がUS$936.25億(前年同期比+6.5%)、輸入額がUS$674.70億(同+14.6%)で、貿易黒字額はUS$261.55億(同▲10.0%)だった。

輸出に関しては、一次産品がUS$109.68億(一日平均額で前年同月比+18.4%)、半製品がUS$24.00億(同▲9.5%)、完成品がUS$54.25億(同▲17.3%)だった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$68.01億、同+33.2%)と金額が突出し、2位が米国(US$17.61億、同▲24.2%)、3位がアルゼンチン(US$12.40億、同▲15.4%)、4位がオランダ(US$7.14億)、5位がチリ(US$4.74億)であった。輸出品目に関して、増加率では生体牛(同+243.0%、US$0.72億)が200%以上増加し、減少率では精糖(同▲53.9%、US$0.93億)が50%以上減少した。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$49.99億、同+28.9%)が顕著で、さらに原油(US$16.60億、同+60.4%)と鉄鉱石(US$15.46億、同▲2.0%)の一次産品がUS$10億以上の取引額となった。

一方の輸入は、資本財がUS$14.58億(一日平均額で前年同月比+29.4%)、原料・中間財がUS$79.86億(同+11.6%)、耐久消費財がUS$4.76億(同+9.1%)、非・半耐久消費財がUS$17.46億(同+11.3%)、基礎燃料がUS$8.60億(同+23.7%)、精製燃料がUS$7.21億(同+23.1%)だった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$23.51億、同+15.9%)、2位が米国(US$21.44億、同+9.6%)、3位がドイツ(US$8.93億)、4位がアルゼンチン(US$7.94億、同▲8.6%)、5位が韓国(US$4.60億、同+9.9%)であった。

物価:発表された4月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.22%(前月比+0.13%p、前年同月比+0.08%p)だった。年初累計は0.92%(前月同期比+0.02%p)、直近12カ月(年率)は2.76%(前月同期比+0.08%p)で昨年12月以来の上昇となった。

分野別では、飲食料品分野は前月より若干上昇したものの、0.09%(前月比+0.02%p、前年同月比▲0.49%p)と低い数値だった。家庭内消費分(3月▲0.18%→4月0.27%)は上昇したが、家庭外消費分(同0.52%→▲0.22%)は値下がりした。価格調整が行われた医薬品(1.52%)や健康保険(1.06%)が値上がりしたため、保健・個人ケア分野(同0.48%→0.91%)で上昇率が最も大きかった。また、衣料分野(同0.33%→0.62%)や、サッカーのW杯が近づきテレビの需要が高まり始めた家電(0.42%)の影響を受け、家財分野(同0.08%→0.22%)でも相対的に大きな伸びとなった。ただし、全体的には落ち着いた数値であった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は16日、Selicを6.50%に据え置くことを全会一致で決定した。Copomは事前に更なる引き下げを示唆していたこともあり、多くの市場関係者が0.25%bpの引き下げを予想する中でのSelic据え置きは驚きをもって受け止められた。Selicは2016年10月から12回連続で引き下げられてきたが、為替市場での急激なドル高レアル安の進行によりインフレ圧力が強まったことをはじめ、米国の利上げや中東情勢といった海外要素および大統領選などの国内要素により、経済に関する先行き不透明感が高まった。そのため、足取りの鈍い景気回復を政策金利の更なる引き下げで後押しするよりも、既に史上最低値まで引き下げられたSelicの水準で状況をしばらく見守ることが優先されるかたちとなった。

為替市場:5月のドル・レアル為替相場は、米国での金利引き上げへの期待感やブラジル国内の大統領選をはじめとする政治的な先行き不透明感から、月の初めはドル高レアル安が進行した。中央銀行が為替介入を行ったものの、アルゼンチンが自国通貨の急激な下落を受けIMFに支援を要請したことや、大統領選で中道左派の有力候補と目されていたBarbosa元最高裁長官が選挙に出馬しない旨を表明したことで、ドルを買ってレアルを売る傾向が強まった。急激なドル高で輸入品価格の上昇によるインフレ誘発が懸念されていたが、発表された4月の物価(IPCA)が落ち着いた数値だったことや、更なる引き下げが予想されていた政策金利(Selic)が据え置かれたためブラジルの景気回復を不安視する見方が強まったことにより、18日には2016年3月以来のドル高水準となるUS$1=R$3.7503(売値)を記録した。

月の半ば、急激に進行するドル高レアル安に対して再び中央銀行が為替介入を実施した影響で、一時レアル高に振れた。しかし月の後半、長距離トラック運転手たちが燃料価格の高騰に抗議して全国の主要幹線道路を連日封鎖しストライキを行ったため、燃料の陸路輸送ができなくなりガソリンスタンドに長蛇の列ができるだけでなく公共交通機関も混乱した。また、食料や日用品の輸送も不可能になったため多くの地域で物資が不足し、病院や学校などの公共サービスにも影響が出て経済活動だけでなく日常生活が大きく混乱した。トラック運転手の代表者と政府との交渉が一旦は合意に至り事態は収束に向かうと思われたが、結局その後も道路封鎖デモは継続されたためサプライ・チェーンが機能不全となり、約一週間ブラジルは停止状態に陥った。そのためレアルは売られる展開となり、月末はドルが前月末に比べ7.35%も上昇しUS$1=R$3.7370(売値)で5月の取引を終えた。

株式市場:5月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月の初めに値を下げる展開となった。その要因としては、為替相場でドル高レアル安が進みインフレ上昇や企業の対外債務増加など国内経済に悪影響が出るとの懸念、米国の輸入鉄鋼品の割り当て設定をブラジル側が受け入れたため米国への鉄鋼品輸出の減少が見込まれること、3月の鉱工業生産指数が▲0.1%とマイナスだったことなどが挙げられる。しかし、米国のトランプ大統領のイラン核合意からの離脱決定を受け原油の国際価格が高騰したことや、石油公社Petrobrasの第1四半期の業績が過去5年間で最高だったことをから、株式市場で取引額の大きい同社株が買われた。また、4月の物価(IPCA)が0.22%と前月より若干上昇したが予想範囲内の低い数値だったことも好感され、株価は16日に86,537pまで上昇した。

ただし月の半ば、為替市場での急激なドル高レアル安を考慮し、更なる引き下げを示唆していたにも関わらず中央銀行がSelicの据え置きを決定したことや、第1四半期の中央銀行版GDP(IBC-Br)が前期比▲0.13%と2016年第4四半期以降で初めてマイナスになったことで、株価は下落。そして、為替市場でのドル高や原油の国際価格の上昇といった海外要因に加え、汚職の中枢であるPetrobrasの利益確保などの国内要因により、最近の燃料価格が著しく値上がりしたことに対して、長距離トラック運転手が全国の主要幹線道路を封鎖して抗議ストライキを断行した。そのため、陸路交通を利用する経済活動はもちろんのこと、飛行機の燃料が輸送できなくなり空路交通にも支障が出る事態となった。道路封鎖ストライキは連日実施され、国内の物流がほぼ停止状態となったため、政府は燃料価格の引き上げ一時停止などを提示しトラック運転手代表者の合意を取り付けた。しかし、その後も主要道路での封鎖ストライキは続いたため国内の物流は滞ったままとなり、ブラジルでは経済活動だけでなく日常生活が一週間以上に渡り混乱し、株価は28日に今年の最安値となる75,356pまで下落した。月末に事態は正常化へ向かったものの、ストライキを収束すべく政府が燃料価格の一時凍結を決めた影響からPetrobras株は大きく売られた。その結果、月末の終値は前月末比▲10.87%もの下落となる76,754pで5月の取引を終了した。