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年金改革をめぐり一喜一憂

ブラジル経済動向レポート(2017年11月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授) 近田 亮平

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第3四半期GDP: 2017年第3四半期のGDPが12月1日に発表され、前期比0.1%、前年同期比1.4%、年初累計比0.6%、直近4四半期比▲0.2%、名目額がR$1兆6,413.68億であった(グラフ1)。今回の四半期GDPは前期比のプラスが僅かであり、その幅も過去2期より縮小したが、3カ月連続でのプラス成長だったことから緩やかながらも景気の回復を示すものだとして、市場では概ね好意的に受け止められた。また、GDPを算出し発表しているブラジル地理統計院(IBGE)が今回、2017年の第1と第2四半期のGDPの見直しを行い、それぞれ1.0%→1.3%と0.2%→0.7%(前期比)へ上方修正したこともあり、2017年通年のGDP成長率は1%を超えるとする見方も出ている。

グラフ1 四半期GDPの推移

グラフ1 四半期GDPの推移

(出所)IBGE     (注)GDPの成長率(%)は左軸、名目額(R$)は右軸。

第3四半期GDPの需要面を見ると、最近の物価や金利の低下に加え、政府が労働者個人の積立金(勤続年数補償基金:FGTS)の一部引き出しを行った影響もあり、家計支出(前期比1.2%、前年同期比2.2%)が好調で前期比が3期連続のプラスとなった。政府支出(同▲0.2%、同▲0.6%)は財政削減を進めていることもありマイナスだったが、投資を意味する総固定資本形成(同1.6%、同▲0.5%)は前期比が過去の四半期に比べ回復傾向を示すものとなった。コモディティをはじめとする貿易環境の回復により、輸出(同4.1%、同7.6%)と輸入(同6.6%、同5.7%)とも大幅なプラスを記録した。

供給面では、年間生産量に関して増加が見込まれるトウモロコシ(+54.9%)などがある一方、コーヒー(▲7.9%)や砂糖(▲6.8%)では減少が予測され、農牧業(同▲3.0%、同9.1%)は前期比でマイナスとなった。建設業(同0.0%、同▲4.7%)が振るわなかったものの、鉱業(同0.2%、同2.4%)に加え、今まで低調だった組立製造業(同1.4%、同2.4%)が大きく伸びた影響から、工業(同0.8%、同0.4%)は前期比と前年同期比ともプラスを記録した。家計支出の伸びや商業(同1.6%、同3.8%)に表れているように最近の景気回復を個人消費が牽引しており、サービス業(同0.6%、同1.0%)は前期比が3期連続でプラスと好調だった(グラフ2と3)。

グラフ2  2017年第3四半期GDPの受給部門の概要

グラフ2  2017年第3四半期GDPの受給部門の概要

(出所)IBGE
グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

(出所)IBGE

貿易収支:11月の貿易収支は、輸出額がUS$166.88億(前月比▲11.6%、前年同月比+2.9%)、輸入額がUS$131.42億(同▲3.9%、同+14.6%)で、貿易黒字額はUS$35.46億(同▲31.8%、同▲25.5%)だった。年初からの累計は、輸出額がUS$2,001.54億(前年同期比+18.2%)、輸入額がUS$1,381.46億(同+9.6%)で、貿易黒字額はUS$620.08億(同+43.2%)と引き続き過去最高額を更新した。

輸出に関しては、一次産品がUS$70.07億(1日平均額の前年同月比+26.5%)、半製品がUS$25.21億(同+3.1%)、完成品がUS$67.75億(同▲14.2%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$30.38億、同+40.7%)、2位が米国(US$22.71億、同+9.6%)、3位がアルゼンチン(US$15.57億、同+30.6%)、4位がオランダ(US$71.0億)、5位がインド(US$5.26億)だった。輸出品目に関して、増加率では大豆(同+522.8%、US$8.15億)、トウモロコシ(同+243.5%、US$5.37億)、土木作業機械(同+133.0%、US$2.21億)が100%以上の伸びとなり、減少率では精糖(同▲39.0%、US$1.48億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、US$10億以上を計上したのは鉄鉱石(US$15.22億、同+68.9%)のみだった。

一方の輸入は、資本財がUS$14.38億(1日平均額の前年同月比+10.8%)、中間財がUS$78.33億(同+6.7%)、耐久消費財がUS$5.22億(同+21.6%)、非・半耐久消費財がUS$17.31億(同+19.6%)、基礎燃料がUS$7.45億(同+43.8%)、精製燃料がUS$8.59億(同+99.8%)であった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$25.61億、同+24.4%)、2位が米国(US$20.30億、同+0.9%)、3位がアルゼンチン(US$8.30億、同▲6.3%)、4位がドイツ(US$7.95億)、5位がメキシコ(US$4.69億、同+45.3%)だった。

物価:発表された10月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.42%(前月比+0.26%p、前年同月比+0.16%p)で、2016年8月(0.44%)以降で最も高い数値となった。年初累計は2.21%(前月同期比▲3.57%p)、直近12カ月(年率)は2.70%(前月同期比+0.16%p)であった。

分野別では、飲食料品分野が▲0.05%(前月比+0.36%p、前年同月比0.00%p)と6カ月連続のマイナスとなった。ジャガイモ(9月▲8.06%→10月25.65%)やトマト(同11.01%→4.88%)が大幅なプラスに転じたものの、主食であるフェイジョン豆(mulatinho▲18.41%、carioca▲3.29%)など値下がりした品目も多かった。また、家電(▲1.10%)が値下がりした影響で家財分野(9月0.13%→10月▲0.39%)もマイナスを記録した。一方、電気料金(3.28%)が大きく値上がりしたため住宅分野(同▲0.12%→1.33%)が最も上昇し、衣料分野(同:0.28%→0.71%)や健康・個人ケア分野(同0.32%→0.52%)も伸びが前月より高かった。

【訂正とお詫び】先月のレポートで9月のIPCAを「▲0.16%」と記載しましたが「0.16%」の誤りでした。お詫びとともに訂正させていただきます。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、11月に開催されなかった。次回のCopomは12月5日と6日に開催予定。

為替市場:11月のドル・レアル為替相場は、政府が年内に議会での採決を目指している年金改革法案をめぐり一喜一憂する展開となった。

月のはじめ、年金改革法案に関して野党や労働組合の反対から議会での採決が困難な状況に陥り、これを嫌気して2日に月内のレアル最安値となるUS$1=R$3,2920(売値)までドル高が進行した。また、米国のTrump大統領がFRB次期議長にPowell氏を指名すると発表したことも、ドル高レアル安要因となった。しかし、受給開始年齢の設定など基本的な内容のみでも改革を行うべきとの姿勢を政府が示したこと、また、10月の新車販売台数が20万台超と前年同月比で27.6%もの増加になったことを好感し、レアル高に振れた。

月の後半、主要な連立与党PSDB(ブラジル社会民主党)内部でTemer政権から離脱する動きが強まり、都市大臣だったPSDB議員が大臣を辞任。Temer大統領にとって年金改革法案をめぐる議会運営が困難になるとの見方から、レアル安となった。一方、10月の正規雇用状況(新規雇用-失業)が2014年9月(+12.4万人)以降で最も多い+7.7万人だったことなど、ブラジル経済の回復基調は引き続きレアル買いの要素となった。しかし、次期PSDB党首と大統領選候補者に内定したAlckminサンパウロ州知事のもと、連立政権からの離脱を明確化したPSDBが年金改革法案に関して新たな修正案を提示したり、年内に同法案を採決するには時間がないとMaia下院議長が発言したりするなど、同法案の成立や内容の形骸化への懸念が高まり、レアルは売られた。月末はドルが前月末比▲0.47%となるUS$1=R$3.2616(売値)で取引を終えた。

株式市場:11月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)も為替相場と同様、年金改革法案をめぐり一喜一憂する展開となった。

月の前半、株価は反発する場面も見られたが、14日の月内最安値となる70,827pまで値を下げた。その要因としては、注目の集まる年金改革法案に関して、議会で可決されない可能性にTemer大統領が初めて言及したことや、政権与党PMDB(ブラジル民主運動党)にとって重要な連立与党であるPSDBが政権離脱の方向であるとともにPSDB内部でも意見が分かれるなど、年金改革法案の採決を前に政治的に混乱したことが挙げられる。また、公務員の給与調整の先送りや年金保険料の引き上げを政府が決定したことに対して、公務員の労働組合などが法的措置に訴えたことで政府の財政支出削減の実効性が不安視されたこと、9月の鉱工業生産指数(前月比)がマイナスだった9月(▲0.7%)からプラス(0.2%)に転じたものの予想より低調だったこと、Petrobrasの第3四半期の純利益がR$2.7億と予想を大幅に下回ったことも影響した。海外においても、S&Pなどの格付け会社がベネズエラを部分的な債務不履行状態である選択的デフォルトに位置付けたことや、米国で税制改革に対する不透明感が増したことが、株安の要因となった。

月の後半、PSDBが連立与党を離脱するなかで年金改革法案の成立を試みるため、Temer大統領が予定していた内閣改造を前倒しで行う方針を固めた。また、世界銀行によるブラジル政府の財政調査の結果が発表され、公務員の給与や年金水準が民間より高いことや政府支出の中高所得階層への偏重が明らかになり、このことで政府財政の健全化とともに年金改革の必要性が再認識され、年金改革法案の可決にとってプラスになるとの見方が強まった。これらを好感して、株価は上昇に転じた。しかし、Temer大統領が先月末に続き再び入院することとなり、年金改革法案の採決を前にしたTemer大統領の健康状態が問題視される事態となった。さらに、年金改革法案審議の最終局面においてPSDBが修正案を提示するなど、議会で同法案の可決に必要な賛成票を政府が確保できていない状況が露呈された。これらを嫌気して株価は再び下落し、月末は前月末比▲3.15%の下落となる74,308pで取引を終了した。