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司法や議会での政治をめぐる攻防の影響

ブラジル経済動向レポート(2017年10月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授) 近田 亮平

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ブラジル経済動向レポートをお読みくださり、ありがとうございます。筆者が10月初めにブラジル赴任となった関係から、同レポートの9月号をお休みすることにしました。お問い合わせくださった方もおり大変申し訳ございませんでしたが、10月号から再び毎月レポートを掲載していこうと思いますのでよろしくお願いします。なお、筆者はサンパウロ大学の客員教授として2年間サンパウロに滞在する予定なので、当地にいらっしゃる方やお越しになる方はご連絡いただければ幸いです(kontar@usp.br)。

貿易収支:10月の貿易収支は、輸出額がUS$188.77億(前月比+1.1%、前年同月比+37.6%)、輸入額がUS$136.76億(同+1.4%、同+20.2%)で、貿易黒字額はUS$52.01億(同+0.4%、同+121.7%)だった。年初からの累計は、輸出額がUS$1,834.81億(前年同期比+19.8%)、輸入額がUS$1,250.04億(同+9.1%)で、貿易黒字額はUS$584.77億(同+51.7%)と引き続き過去最高額を更新した。

輸出に関しては、一次産品がUS$84.68億(1日平均額の前年同月比+42.3%)、半製品がUS$29.57億(同+26.2%)、完成品がUS$70.00億(同+21.0%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$35.13億、同+27.8%)、2位が米国(US$22.85億、同+23.0%)、3位がアルゼンチン(US$16.16億、同+45.3%)、4位がオランダ(US$8.61億)、5位が日本(US$6.14億、同+89.5%)だった。輸出品目に関して、増加率では航空機モーター・タービン(同+1,461.4%、US$1.32億)や大豆油(同+987.0%、US$0.88億)を含め9品目で100%以上の伸びとなり、減少率では航空機(同▲57.3%、US$4.73億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、鉄鉱石(US$19.70億、同+68.9%)と原油(US$12.35億、同+5.9%)の一次産品がUS$10億以上を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$15.80億(1日平均額の前年同月比+18.7%)、中間財がUS$82.26億(同+7.9%)、耐久消費財がUS$5.16億(同+31.7%)、非・半耐久消費財がUS$16.06億(同+3.7%)、基礎燃料がUS$7.94億(同+58.8%)、精製燃料がUS$9.51億(同+76.9%)であった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$27.53億、同+23.7%)、2位が米国(US$20.74億、同+0.5%)、3位がアルゼンチン(US$8.71億、同+15.5%)、4位がドイツ(US$7.30億)、5位が韓国(US$4.69億、同+20.0%)だった。

物価:発表された9月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は▲0.16%(前月比▲0.03%p、前年同月比+0.08%p)で、前月比で2か月連続のマイナスとなったが、数値は市場関係者の予想より高かった。年初累計は1.78%(前月同期比▲3.73%p)、直近12か月(年率)は2.54%(前月同期比+0.08%p)であった。

分野別では、飲食料品分野が▲0.41%(前月比+0.66%p、前年同月比▲0.12%p)と5か月連続のマイナスとなった。牛肉(8月:▲1.75%→9月1.25%)と果実(同▲2.75%→1.74%)がマイナスから大幅なプラスに転じたものの、10%以上値下がりしたトマト(▲11.01%)とニンニク(▲10.42%)をはじめ、多くの品目で価格が下落した。また、電気料金が値下がりした住宅分野(▲0.12%)もマイナスを記録した。一方、伸び幅は8月より小さかったものの、燃料価格や航空運賃の値上がりにより運輸交通分野(8月:1.53%→9月0.79%)の上昇率が最も大きかった。個人消費分野(同:0.29%→0.56%)やマイナスからプラスに転じた通信分野(同:▲0.56%→0.50%)も比較的に高い数値となったが、その他の分野は落ち着いた物価だった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は25日、Selicを8.25%から7.50%に引き下げることを全会一致で決定した。今回でSelicの引き下げは9回連続だが、その幅は前回まで4回続いた1.00%pではなく0.75%pに縮小された。Selicの引き下げとペースの鈍化は予想されており、Copomも次回の会合での引き下げ幅について0.50%p前後にする可能性を示唆している。7.50%というレベルは2012年10月から2013年3月まで続いた最低水準(7.25%)に次いで低く(グラフ1)、次回のCopomでSelicは史上最低水準まで引き下げられる可能性が高い。政治的危機を脱したTemer大統領にとって、景気回復を後押しする低金利状態は有利な材料となろう。

グラフ1 政策金利Selicの推移:2009年以降

(出所)ブラジル中央銀行

為替市場:10月のドル・レアル為替相場は、司法や議会での政治をめぐる攻防の影響などにより、ドル高レアル安の展開となった(グラフ2)。

ブラジルでは1990年代、経済の自由化により多くの政府系企業が民営化されたが、石油公社のPetrobrasは国家のエネルギー政策の中枢であることや、近年発覚したように政府にとって不正資金の調達源だったことから完全な民営化は行われなかった。しかし、鉱物エネルギー大臣がPetrobrasの将来的な民営化を示唆したため、それを好感して月のはじめにレアルは上昇した。ブラジル経済の回復を示す指標の発表が続き、IMFが2017年のブラジルのGDP成長率を0.3%から0.7%に上方修正したことも、レアル買いの要素となった。

しかし、Temer(PMDB:ブラジル民主運動党)大統領の汚職疑惑に関して、2度目となる起訴の審議を行うか否かに焦点が集まる中、同大統領の汚職関与を証言するビデオがMaia(DEM:民主党)下院議長のイニシアティブにより最高裁の許可なしに公開され、Temer大統領の立場を危うくする事態となった。さらに、Temer大統領とMaia下院議長の間の亀裂は政治的対立の顕在化を意味し、年金改革法案などの行方にも悪影響を与えるとの見方からレアルは下落。米国で景気好況により株価が最高値を更新したことによりドル買いが進む一方、Temer大統領の2回目の起訴開始に関する下院議会での採決が近づくにつれ、年金改革などの議会審議よりも、Temer大統領が議員らに対して政府予算の供与と引き換えに賛成票の獲得を試みるなど政治的な駆け引きが活発化したため、それを嫌気してドル高レアル安が進んだ。

下院議会での起訴審議の是非を問う採決は結局、8月に行われた1回目よりTemer大統領への支持票が減少したものの、2回目も同大統領が訴追を回避することができた。このことで、景気回復の継続や政治的安定につながるとの見方から、一時レアルを買う動きが強まった。しかし、政策金利Selicが連続して引き下げられたことや、Temer大統領が健康問題で入院したことにより、月末はドルが前月末比3.44%の上昇となるUS$1=R$3.2769(売値)で取引を終えた。

グラフ2  レアル対ドル為替相場の推移

(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:10月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、13日に史上最高値となる76,990pを記録したものの、Temer大統領をはじめ司法や議会での政治をめぐる攻防の影響により、今年6月からの上昇トレンドが一服し横ばいの展開となった(グラフ3)。

株価は月の前半、9月の物価IPCAが市場関係者の予想より高かったため、政策金利Selicの引き下げペースを鈍化させるとの見方から一時下落する場面も見られたが、おおむね続伸する展開となった。その要因として、水力発電や石油ガス開発に関連する政府事業の入札が行われ、政府予想をR$40億上回る価格で応札されたことが挙げられる。また、石油公社Petrobrasを管轄する鉱物エネルギー大臣が、ブラジルの株式市場で取引額の大きい同社の民営化の可能性に言及したことや、Temer大統領の汚職疑惑に関する2回目の起訴が受理されない見通しが強まる一方、中断していた年金改革法案の議論が下院議会で活発化したことなども好材料となった。

月の半ば以降、汚職疑惑により議員権を最高裁から停止されていたAécio上院議員(PSDB:ブラジル社会民主党の党首)が、上院議会の採決により議員として復権した。Aécioの議員復帰は汚職が深刻なブラジル政治の浄化が困難との見方を強めた。また、政府は過酷な条件で労働を強いる奴隷的労働に関して定義や摘発基準を緩和したが、ブラジルを含むメルコスル(南米南部共同市場)との自由貿易協定の締結交渉を再開したEUなどが、このことを批判した。さらに、Temer大統領が2回目の起訴審議も回避できたものの、同大統領への反対票が1回目より増えたことや、同大統領が健康問題のため急きょ病院に入院したことにより、年金などの政府の改革がより困難になるとの観測が強まった。これらにより、それまで上昇していた株価は頭打ちとなった。一方、米国株が連日続伸し最高値を更新したこと、ブラジルの最高裁が政府の奴隷労働に関する変更を一時停止したこと、Selicが引き下げられたこと、Pré-Sal海底油田の入札が行われ8事業のうち2つに応札がなく落札額は予想を下回ったものの、恒常的な手数料収益が確保され政府財政にプラスとなったことなどが、株価の下支え要因となった。

月末にかけ、政府が削減を試みている財政に関して、9月の公的債務の総額がGDP比で73.9%と統計史上の最大値を記録したことや、民間調査機関(Fórum Brasileiro de Segurança Pública)が発表した2016年の犯罪統計で治安の悪化が示されたことにより、株価は値を下げた。月末は前月末比0.02%の上昇とほぼ同じレベルとなる74,308pで取引を終了した。

グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移

(出所)サンパウロ株式市場