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ひとまず落ち着いた不透明感

ブラジル経済動向レポート(2017年7月)

地域研究センター 近田 亮平

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貿易収支:7月の貿易収支は、輸出額がUS$187.69億(前月比▲5.1%、前年同月比+14.9%)、輸入額がUS$124.71億(同▲1.0%、同+6.1%)であった。この結果、貿易収支はUS$62.98億(同▲12.5%、同+37.6%)で、7月として過去最大の黒字額を記録した。年初からの累計は、輸出額がUS$1,264.79億(前年同期比+18.6%)、輸入額がUS$839.65億(同+7.2%)で、貿易黒字もUS$425.14億(同+50.5%)と7月までで過去最大となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$83.61億(1日平均額の前年同月比+19.0%)、半製品がUS$26.08億(同+8.7%)、完成品がUS$73.86億(同+12.6%)であった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$40.56億、同+14.7%)、2位が米国(US$23.29億、同+22.8%)、3位がアルゼンチン(US$15.14億、同+47.9%)、4位がシンガポール(US$10.50億)、5位がオランダ(US$7.77億)だった。輸出品目に関して、増加率では燃料油(同+273.3%、US$1.52億)が突出し、減少率では銅カソード(同▲39.3%、US$0.23億)が顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$25.35億、同+4.6%)、原油(US$15.59億、同+72.0%)、鉄鉱石(US$11.78億、同+18.2%)の一次産品がUS$10億以上を計上し、原油採掘プラットフォーム(US$9.04億、同▲2.1%)の金額も大きかった。

一方の輸入は、資本財がUS$13.39億(1日平均額の前年同月比▲22.7%)、中間財がUS$78.71億(同+6.8%)、耐久消費財がUS$3.77億(同+2.7%)、非・半耐久消費財がUS$13.58億(同+3.6%)、基礎燃料がUS$7.82億(同+85.5%)、精製燃料がUS$7.40億(同+35.5%)であった。主要輸入元は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$22.98億、同+26.1%)、2位が米国(US$20.93億、同+4.5%)、3位がドイツ(US$7.49億)、4位がアルゼンチン(US$7.14億、同▲5.2%)、5位が韓国(US$4.25億、同▲29.6%)だった。

物価:発表された6月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は▲0.23%(前月比▲0.54%p、前年同月比▲0.58%p)で、2006年6月(▲0.21%)以来のデフレとなり、マイナス幅は1998年8月(▲0.51%)に次いで大きかった。年初累計は1.18%(前月同期比▲3.24%p)、直近12ヶ月(年率)は3.00%(前月同期比▲0.60%p)であった。最近の物価が低下傾向にあるため、政府は現在インフレ目標の中心値(現在4.50%)を2019年に4.25%、2020年に4.00%へ引き下げることを先月発表した。

食料品は▲0.50%(前月比▲0.15%p、前年同月比▲1.21%p)で、農作物が豊作だったこともあり2カ月連続のマイナスとなった。トマト(5月▲3.14%→6月▲19.22%)が20%近く値下がりし、ニンジン(同▲5.86%→▲9.68%)、タマネギ(同7.67%→▲6.77%)、フェイジョン豆(fradinho:同▲4.45%→▲6.60%)、ジャガイモ(同4.28%→▲6.17%)、果物(同▲6.55%→▲5.90%)も5%以上値を下げたことが全体の価格下落に寄与した。非食料品では、前月高騰した住宅分野(同2.14%→▲0.77%)が電気料金の引き下げで大幅に下落し、燃料価格が値下がりした運輸交通分野(▲0.42%→▲0.52%)も前月に続きマイナスを記録した。伸び幅が若干大きくなった個人消費分野(同0.23%→0.33%)を除き、その他の全分野でも数値は下落または同じとなり、全体的に落ち着いた物価上昇となった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は26日、Selicを10.25%から9.25%に引き下げることを全会一致で決定した。Selicの引き下げは今回で7回連続であり、その幅も前回と同じ1.00%pだったため、政策金利は約4年ぶりの低い水準になった(グラフ1)。Selicの引き下げ自体は予想されていたが、5月にTemer大統領をめぐる新たな汚職疑惑が発覚し、同大統領が起訴されるなど政治的な不透明感が増していたため、今回はSelicの引き下げペースが鈍化するとの憶測も一部であった。しかし、Temer大統領の裁判が回避される可能性が高まり、同政権をめぐる不透明感がひとまず落ち着いてきた。そのためもあり、景気回復を後押しすべく、前回までと同様の1.00%pの大幅な政策金利の引き下げが決定された。

グラフ1 政策金利(Selic)の推移:2011年以降

グラフ1 政策金利(Selic)の推移:2011年以降

(出所)ブラジル中央銀行

為替市場:7月のドル・レアル為替相場は、Temer大統領および同政権の改革をめぐる不透明感がひとまず落ち着いてきたことで、5月以降売られていたレアルを買う動きが強まった(グラフ2)。

レアル買いの主なポイントとして、政府の労働改革法案が上院で可決される可能性が高まるなか、労使関係や労働条件を多岐にわたり変更する同法案が最終的に可決されたことが挙げられる。また、収賄やマネーロンダリングの罪に問われていたLula元大統領に対して、連邦地裁が9年6カ月の実刑判決を下した。Lulaは上訴する方針であり、上訴審が決着するまで時間がかかるため、来年の大統領選への出馬は可能である。しかし、政治腐敗が是正されることへの期待や、経済を悪化させたDilma前大統領の労働者党(PT)のリーダーであるLulaにとって悪影響になるとの見方から、レアルは上昇した。さらに、収賄罪で告発されたTemer大統領の裁判に関して、下院委員会で否定的な勧告が支持され、改革を推進してきた同政権が継続する可能性が高まったこともレアル高の要因となり、21日にはUS$1=R$3.1250(買値)までドル安レアル高が進んだ。

その後、Temer政権をめぐる不透明感から、引き下げペースが鈍化するとも見られていたSelicが前回と同様1.00%p引き下げられ、政策金利が約4年ぶりの低い水準となったため、レアルが売られる場面もあった。しかし、政府が追加の財政削減を発表したこと、ペトロブラス汚職疑惑で同公社の元総裁が逮捕され政治腐敗の是正が進んだこと、4-6月の失業率(前期13.3%→13.0%)と失業者数(同1,377万人→1,349万人)が改善したことが、レアル買いの材料となった。そして月末は、ドルが前月末比▲5.37%となるUS$1=R$3.1301(買値)で取引を終えた。

グラフ2 レアル対ドル為替相場の推移

グラフ2 レアル対ドル為替相場の推移

(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:7月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は月のはじめ、6月および2017年上半期の貿易黒字が過去最高額を記録したことで上昇した。その後、原油の国際価格の下落に加え、汚職疑惑の審議が進みTemer大統領の先行きに対して不透明感が増したことで下落した。

月の半ば、政府が進める労働改革に関して、業務のアウトソーシングの柔軟化などに関する法案が3月に成立していたが、統一労働法(CLT)の多くの項目を変更する第2弾の法案が上院を通過したことが評価され、株価は値を上げる展開になった。政治に関しても、汚職疑惑のあったLula元大統領に実刑判決が下されたことがプラス要素として受け止められた。収賄疑惑で告発されたTemer大統領に関しては、下院委員会で行われた採決で同大統領の裁判に否定的な見解が支持された。最終的には8月2日に予定されている下院本会議でTemer大統領の裁判の可否が決定されるが、同大統領は政権継続に必要な支持を得られるとの見通しを示している。そのため、残された年金改革法案が通過する可能性が高まり、最近の不透明感がひとまず落ち着いたことも株価の上昇要因になった。

ただし、月の後半にかけて株価は軟調に推移した。その要因として、輸出関連企業にとって不利となるドル安レアル高が為替市場で進んだことや、6月の新規正規雇用者数から失業者数を引いた数値が3カ月連続でプラスになったものの、4月(約6万人)と5月(約3.4万人)に比べ9,821人と大きく減少したことが挙げられる。また、税収が予想を下回っているため政府は2017年の財政目標を達成すべく、燃料にかかる税金(PIS/Cofins)の増税を決定し、更なる増税の可能性も示唆した。このことが景気回復に悪影響を及ぼすとの懸念も株価を押し下げた。

その後、政府はインフラ整備をはじめとした経済政策(PAC)も含む予算の追加削減とともに、公務員の手当てを減額するよう調整中だと発表した。このような政府の財政健全化の姿勢が市場では評価され、月末の株価は前月末比で4.80%上昇し、月内の最高値となる65,920pで取引を終了した。

グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移

グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移

(出所)サンパウロ株式市場