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厳しい政治経済状況

ブラジル経済動向レポート(2015年10月)

地域研究センター 近田 亮平
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貿易収支:10月の貿易収支は、輸出額がUS$160.49億(前月比▲0.6%、前年同月比▲12.4%)、輸入額がUS$140.53億(同+6.4%、同▲28.0%)だった。貿易収支はUS$19.96億(同▲32.2%、同+269.6%)と7カ月連続の黒字を記録したが、黒字額は今年で3番目に小さいものであった。この結果、年初からの累計は、輸出額がUS$1,605.43億(前年同期比▲16.4%)、輸入額がUS$1,483.02億(同▲23.5%)で、貿易収支はUS$122.44億(同+753.7%)の黒字であった。

輸出に関しては、一次産品がUS$73.11億(1日平均額の前月比+2.1%)、半製品がUS$23.53億(同+3.3%)、完成品がUS$60.35億(同▲4.7%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$24.61億、同▲27.8%)、2位が米国(US$19.99億、同+2.9%)、3位がアルゼンチン(US$10.74億、同▲1.3%)、4位がオランダ(US$9.06億)、5位が日本(US$5.04億)で、中国への輸出が大きく減少した。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では鉄鋼管(+235.7%、US$1.99億)や大豆(+197.8%、US$9.90億)、減少率では鋳造鉄(▲69.4%、US$0.39億)やアルミニウム(▲42.8%、US$0.27億)が顕著であった。また輸出額では(「その他」を除く)、鉄鉱石(US$11.35億、▲34.2%)のみがUS$10億を超える取引高を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$27.62億(1日平均額の前月比▲1.9%)、原料・中間財がUS$66.70億(同+3.1%)、非耐久消費財がUS$13.11億(同+1.4%)、耐久消費財がUS$11.10億(同▲7.1%)、原油・燃料がUS$22.00億(同+53.6%)であった。主要輸入元は、1位が中国(US$22.86億、同▲10.6%)、2位が米国(US$22.37億、同+9.3%)、3位がアルゼンチン(US$8.48億、同+12.9%)、4位がドイツ(US$8.32億)、5位がナイジェリア(US$6.17億)で、輸入でも中国の減少が目立った。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では主要品目で増加したのは原油(同+55.5%、US$13.44億)のみであり、減少率では輸送機器(同▲48.7%、US$2.46億)や家庭用機器(同▲41.4%、US$2.20億)が顕著だった。また輸入額では、原料・中間財である化学薬品(US$19.77億、同▲17.4%)と農業用原料(US$11.26億、同▲3.6%)の2品目がUS$10億を超える取引高を記録した。

物価:発表された9月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.54%(前月比+0.32%p、前年同月比▲0.03%p)で、食料品価格が0.24%(同+0.25%p、▲0.54%p)と上昇したこともあり、前月より高く厳しい数値となった(グラフ1)。年初累計は7.64%(前月同期比+3.03%p)と引き続き政府目標の上限である6.5%を上回り、直近12カ月(年率)も9.49%(前月同期比▲0.04%p)と依然高い伸びを記録した。

食料品に関しては、タマネギ(8月▲8.28%→9月▲18.85%)やトマト(同▲12.88%→▲13.86%)などの一部の野菜が大幅に値を下げたが、ジャガイモ(同▲14.75%→7.26%)やアイスクリーム(同0.31%→2.62%)など値上がりした品目も多くあった。非食料品では、上下水道料金が値上がりした住宅分野(同0.29%→1.30%)や、航空券代が23.13%も高くなった運輸交通分野(同▲0.27%→0.71%)の伸びが顕著だった。一方、8月に学期はじめの影響で高騰した教育分野(同0.82%→0.25%)が落ち着いた数値となり、個人消費分野(同0.75%→0.33%)や通信分野(同0.14%→0.01%)も低い伸びとなった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は21日、Selicを14.25%で据え置くことを全会一致で決定した(グラフ1)。物価は依然として上昇傾向にあるが、さらなるSelicの引き下げは低迷する景気の回復の妨げになるとの判断から、2回連続の据え置きとなった。また、政府の財政状況をめぐる先行きが不透明なこともあり(グラフ2)、物価の低下は遅れるとの予測から、インフレの政府目標の達成は来年も不可能であり、2017年にずれ込むとの厳しい見通しを示した。
グラフ1 物価と政策金利の推移:2012年以降
グラフ1 物価と政策金利の推移:2012年以降
(出所)IPCAはIBGE、Selicはブラジル中央銀行。
(注)左軸がIPCA(月)、右軸がIPCA(年)とSelic。

グラフ2 連邦政府の財政の推移:2012年以降の月毎
グラフ2 連邦政府の財政の推移:2012年以降の月毎
(出所)ブラジル中央銀行
(注)赤字で表示した数値は年末の値。

為替市場:10月のドル・レアル為替相場は、前月に進行したドル高レアル安の反動もあり、月の前半はレアルが買われる展開となった。月のはじめ、米国の弱い雇用統計や貿易赤字の拡大から米国が予定より金利の引き上げ時期を遅らせるとの見方が強まった一方、ブラジルで閣僚や公務員の再編および削減が行われたことに加え、Moody’sがブラジルの信用格付けを据え置いたことで、9日にはドルの月内最安値となるUS$1=R$3.7380を記録した。

月の半ばになると、米国の小売売上高などの経済指標の低調によるドル売りも見られたが、中国経済に対する不安やブラジルの政治的混乱に加え、16日にFitchがブラジルの信用格付けをBBBから「投機的」の一つ手前となるBBBマイナスに引き下げ、見通しを「ネガティヴ」として今後の動向次第では「投資適格」の適用外とする可能性を示した影響もあり、レアル安が進んだ。また、政府の経済運営をLula前大統領や与党労働者党(PT)が批判し、それに対してLevy財務大臣が辞任も含めた不満を示したり、2015年の政府財政が赤字になる可能性が高まったりするなど、ブラジルの厳しい政治経済状況がレアル売りの要因となった。

月末にかけては、米国の金融当局が今年中の利上げの可能性を示唆したことによるドル買いと、発表されたブラジル政府の9月の財政赤字が懸念されたほど悪くなかったことによるレアル買いが交錯し(グラフ2)、狭いレンジでの取引となった。そして、月末は前月末比でドルが▲2.87%の下落となるUS$1=R$3.8589(売値)で10月の取引を終えた。

株式市場:10月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月の前半は右肩上がりで続伸したものの、月の後半はブラジルの厳しい政治経済状況から値を下げる展開となった。月のはじめ、Dilma大統領がPT枠のポストをブラジル民主運動党(PMDB)などの与党連合に与えるとともに、公言していた10大臣には及ばなかったが8大臣を廃止するなどの閣僚再編を実施した。また、支出削減策として自身や閣僚の給与の10%減を発表するとともに、30局長や3000人の公務員の削減を約束した。連立を組むPMDBは閣僚再編や支出削減案を支持し、政府が復活を提案している暫定税(CPMF)への賛成を表明したため、政治が安定に向かうとの見方が強まった。さらに、米国の経済指標が予想より悪く利上げ時期が遅くなる可能性が高まったことも影響し、13日には月内の最高値となる49,338pまで上昇した。

月の半ばになると、中国をはじめとする国際的な景気減速懸念から海外の主要株価が値を下げたことに加え、Dilma大統領の弾劾訴訟をめぐる政治的対立が激化したため、Bovespaは大幅に下落した。欧州中央銀行がさらなる景気刺激策を講じると発表したため、一時上昇する場面も見られたが、ブラジルの正規雇用状況(特にサービス業)が1992年の調査開始以降で9月として最悪だったことや(グラフ3)、今年の財政のプライマリー・バランスが対GDP比で▲0.9%ものマイナスになる見通しを政府が発表したため、株価は軟調な展開となった。その後、米国の利上げが今年中に実施される可能性が高まったことを嫌気し、株価は再び値を下げたものの、月末は前月末比1.26%の上昇となる45,628pで取引を終了した。
グラフ3  正規雇用状況の推移:2004年以降の各年の月毎
グラフ3  正規雇用状況の推移:2004年以降の各年の月毎
(出所)労働雇用省
(注)正規部門の新規の雇用者数から失業者数を引いた数値。