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W杯の影響と隣からの火の粉

ブラジル経済動向レポート(2014年7月)

地域研究センター 近田 亮平
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貿易収支:7月の貿易収支は、営業日数が23日と多かったこともあり、輸出額が7月の最高額となるUS$230.25億(前月比+12.5%、前年同月比+10.7%)、輸入額がUS$214.50億(同+18.5%、同▲5.5%)で、貿易収支はUS$15.75億(同▲33.4%、同▲183.0%)と今年2番目の黒字額を計上した。また年初からの累計は、輸出額がUS$1,335.57億(前年同期比▲1.2%)、輸入額がUS$1,344.72億(同▲4.1%)で、貿易収支は▲US$9.15億となり赤字額は前月比で81.6%減少した。

輸出に関しては、一次産品がUS$116.31億(1日平均額の前月比▲6.9%)、半製品がUS$28.34億(同+5.4%)、完成品がUS$79.81億(同+3.0%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$41.34億、同▲25.0%)、2位が米国(US$27.68億、同+5.8%)、3位がオランダ(US$15.54億)、4位がアルゼンチン(US$12.40億、同▲12.0%)、5位がシンガポール(US$9.90億)だった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では原油(+276.0%、US$26.03億)や鉄鋼半加工品(+148.2%、US$3.42億)の伸びが大きく、減少率では自動車(▲51.8%、US$2.60億)や航空機(▲41.0%、US$2.18億)が顕著だった。また輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$31.51億、同+3.0%)と鉄鉱石(US$21.86億、同▲18.0%)、および前述の原油の3品目がUS$10億を超える取引高を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$40.33億(1日平均額の前月比▲5.9%)、原料・中間財がUS$95.40億(同+3.5%)、非耐久消費財がUS$15.51億(同▲7.9%)、耐久消費財がUS$17.51億(同▲3.1%)、原油・燃料がUS$45.75億(同+19.7%)であった。主要輸入元は、1位が米国(US$32.49億、同▲3.2%)、2位が中国(US$31.66億、同+4.2%)、3位がドイツ(US$13.04億)、4位がアルゼンチン(US$12.27億、同▲12.5%)、5位がナイジェリア(US$9.29億)だった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率ではその他の燃料(+48.0%、US$26.84億)や縫製品(+34.5%、US$2.57億)、減少率では原油(同▲39.5%、US$18.91億)や家庭用機器(同▲30.1%、US$3.43億)の増減率が顕著だった。また輸入額では、原料・中間財である化学薬品(US$26.59億、同+3.3%)や鉱物品(US$15.97億、同+4.0%)などの5品目、資本財である工業機械(US$11.94億、同▲8.7%)、前述のその他の燃料と原油がUS$10億を超える取引額を計上した。

物価:発表された6月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.40%(前月比▲0.06%p、前年同月比+0.14%p)と前月より更に低下し、事前の予想を下回った。食料品価格が▲0.11%(同▲0.69%p、▲0.15%p)とマイナスになったことが影響した。ただし、年初累計は3.75%(前月同期比+0.60%p)であり、過去12ヶ月(年率)は6.52%(同+0.15%p)で政府目標の上限である6.5%を上回る数値となった。

食料品に関しては、アサイー(4月▲0.86%→5月3.68%)など値上がりした品目もあったが、ジャガイモ(同▲9.13%→▲11.46%)の価格が前月より更に下落したことに加え、トマト(同10.52%→▲9.58%)やニンジン(同▲2.08%→▲7.67%)など値下がりした品目が多かった。また、家庭消費用(同0.41%→0.60%)の食料価格の伸びが若干大きくなった一方、外食用(同0.91%→0.82%)は前月より上昇率が低下した。非食料品に関しては、W杯開催前のテレビなどの需要増で5月に高い伸びを記録した家財分野(同1.03%→0.38%)が落ち着いた数値となった。しかし、航空運賃が21.95%上昇した運輸交通分野(同▲0.45%→0.37%)や、ホテルの宿泊代が25.33%値上がりした個人消費分野(同0.80%→1.57%)など、W杯開催期間中の需要増による価格上昇が顕著に見られた分野もあった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は16日、Selicを11.00%に据え置くことを全会一致で決定した。インフレ懸念が続いている一方、更なる金利引き上げは低迷している景気にとってマイナスとの判断から、市場の予想通りSelicは2回連続で据え置かれることとなった。中央銀行は6月後半、2014年のインフレ(IPCA)予測を6.1%から6.4%(政府目標の上限は6.5%)に変更しており、今回の2回連続のSelic据え置きは、政府目標は遵守しつつも景気の回復にも配慮したものといえよう。ただし24日に発表されたCopomの議事録では、インフレ懸念が払拭されない状況でのSelic引き上げはないとの姿勢が示された。

為替市場:7月のドル・レアル為替相場は月の前半、ポルトガルの銀行で経営問題が浮上したことでEUの金融システムへの不安が広がり、ユーロ売りからドルが買われた一方、W杯でのブラジルの大敗を受けDilma政権の支持率が低下するとの見方からレアルを買う動きも強まり、狭いレンジでの取引となった。月の半ば、ウクライナで航空機が撃墜されたことで緊張感が高まり、ドルが一時急上昇する場面も見られたが、その後は大統領選の世論調査におけるDilma大統領の支持率の上下により、レアルが若干影響を受ける程度で小幅な取引が続いた。しかし月末に向け、ウクライナや中東情勢の緊張化により有事のドル買いが進んだことに加え、米国の第2四半期GDPが4%と市場予測を上回ったことでドルが上昇。31日には、隣国アルゼンチンの債務危機という火の粉や、ポルトガルの民間銀行の経営悪化の再燃を受け、大幅なドル高レアル安となった。月末の終値はUS$1=R$2.2674(売値)で、ドルは前月末比2.95%もの上昇で7月の取引を終えた(グラフ1)。
グラフ1 2014年のレアル対ドル為替相場の推移
グラフ1 2014年のレアル対ドル為替相場の推移
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:7月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月の半ば過ぎまで、ほぼ右肩上がりの上昇となった。月のはじめ、発表された米国の雇用統計が予想を上回ったことや、ブラジルがW杯で屈辱的な大敗を喫したため、経済運営が批判されているDilma政権にとってマイナスになるとの見方が強まり、政府系企業を中心とした株が買われ株価は上昇。月の半ば、米国とロシアの関係悪化を懸念して一時下落する場面もあったが、大統領選の世論調査でDilma大統領と野党の有力候補Aécioの支持率が拮抗したこと、Valeの鉄鉱石生産量(第2四半期が7940万トンで過去2番目)や中国経済に関するデータが好調だったことで鉄鉱石関連株が買われたこと、Copomが議事録でSelicの引き下げを否定した次の日に中央銀行が景気回復のためR$450億に上る与信促進策を発表したことなどから、24日には57,978pの今年の最高値を記録した。

しかし月末に向け、格付け会社のMoody’sがラテンアメリカの石油公社をめぐる信用状況が悪化していると指摘したためPetrobras株が大きく売られ、また、米国の第2四半期GDPが好調だったものの、FRBが量的金融緩和の前倒しは行わないと発表したことで株価は下落に転じた。そして月末、対外的にアルゼンチンのデフォルト懸念やポルトガルの民間銀行をめぐる懸念が高まったこと、国内的には2014年上半期の政府財政が半期として過去最低だったことで株価は大幅に下落し、月末は55,829pまで値を下げ取引を終了した。ただしそれでも7月の終値は、前月末比で+5.01%の上昇となった(グラフ2)。なお、隣国アルゼンチンの債務危機という火の粉は、今後ブラジル経済へより影響を与えると予想されており、若干ではあるがブラジルのカントリー・リスクも月末に上昇した(グラフ3)。
グラフ2 2014年の株式相場(Bovespa指数)の推移
グラフ2 2014年の株式相場(Bovespa指数)の推移
(出所)サンパウロ株式市場

グラフ3 2014年のブラジルのカントリー・リスクの推移
グラフ3 2014年のブラジルのカントリー・リスクの推移
(出所)J.P.Morgan