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抗議デモの影響

ブラジル経済動向レポート(2013年7月)

地域研究センター 近田 亮平
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貿易収支:7月の貿易収支は、輸出額がUS$208.07億(前月比▲1.5%、前年同月比▲0.9%)、輸入額がUS$227.04億(同+20.6%、同+25.2%)で、輸入額が過去最高を記録したため、貿易収支は▲US$18.97億(同▲182.4%、同▲166.1%)と再び赤字となった。また年初からの累計は、輸出がUS$1,352.30億(前年同期比▲2.2%)、輸入額がUS$1,402.19億(同+9.3%)で、貿易収支は▲US$49.89億(同▲150.2%)と6月より赤字額が拡大した。

輸出に関しては、一次産品がUS$99.84億(1日平均額の前月比▲12.5%)、半製品がUS$24.02億(同▲12.4%)、完成品がUS$79.30億(同▲17.5%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$40.92億、同▲27.3%)、2位が米国(US$22.28億、同▲11.8%)、3位がアルゼンチン(US$18.66億、同▲1.3%)、4位がオランダ(US$17.28億)、5位が日本(US$6.92億)であった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では自動車(+83.2%、US$5.39億)と炭化水素(+60.8%、US$1.29億)、減少率では鉄鋼半製品(▲55.6%、US$1.38億)と原油(▲50.9%、US$6.92億)が50%を超える増減率となった。さらに輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$30.60億、同+30.1%)と鉄鉱石(US$26.66億、同▲10.3%)の一次産品がUS$10億を超える取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$45.40億(1日平均額の前月比▲12.8%)、原料・中間財がUS$95.91億(同▲2.9%)、非耐久消費財がUS$15.25億(同▲12.4%)、耐久消費財がUS$21.10億(同▲2.5%)、原油・燃料がUS$49.38億(同+85.1%)であった。主要輸入元は、1位が中国(US$33.97億、同▲3.6%)、2位が米国(US$31.02億、同+2.5%)、3位がナイジェリア(US$18.47億)、4位がアルゼンチン(US$14.85億、同▲16.3%)、5位がドイツ(US$13.59億)であった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では100%を超えた原油(+142.3%、US$31.24億)のほか、医薬品(+46.0%、US$4.45億)と食料品(+43.1%、US$4.32億)が40%を超える伸びを記録した。また減少率は、主要品目の中では耐久消費財部品(同▲10.1%、US$1.09億)と家庭用機器(同▲3.2%、US$4.90億)のみがマイナスであった。さらに輸入額では、前述の原油およびその他の燃料(US$18.18億、同+9.3%)に加え、化学薬品(US$25.74億、同+7.6%)や鉱物品(US$15.36億、同+7.5%)などの原料・中間財5品目と工業機械(US$13.05億、同+6.1%)がUS$10億を超える取引額となった。

物価:発表された6月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、0.26%(前月比▲0.11%p、前年同月比+0.18%p)で、大方の市場予想を下回る数値となった。食料品価格が0.04%(同▲0.27%p、▲0.64%p)と2011年7月以来の低い伸びにとどまったことが、全体の物価安定に寄与した。ただし、上半期の食料品価格の伸びは6.02%で、2012年上半期の3.26%を大幅に上回った。また、年初からの累計は3.15%(前年同期比+0.83%p)で依然として昨年同期を上回っており、過去12ヵ月も6.70%(前月同期比+0.01%p)と政府の年間インフレ目標の上限である6.5%を上回る結果となった。

食料品に関しては、ニンジン(5月:7.33%→6月:▲18.53%)、トマト(同▲10.31%→▲7.21%)、液状アサイー(同▲8.53%→▲6.37%)などに加え、前月高騰したフェイジョン豆(ムラチーニョ:同16.58%→▲4.27%)の価格が下落するなど、多くの品目でマイナスを記録した。その一方、低脂肪乳(同3.90%→4.60%)と黒フェイジョン豆(同2.78%→4.19%)が4%を超えて値上がりするなど、一部の品目で価格上昇が顕著であった。

また非食料品では、4月に大幅に上昇した健康と個人ケア分野(同0.94%→0.36%)、衣料分野(同0.84%→0.50%)、住宅分野(同0.75%→0.57%)の伸び率が低下し、全体的な価格安定に寄与した。ただし、ガソリンやエタノールの燃料価格は引き続きマイナスだったが、6月に発生した全国的な抗議デモの発端となったバスや電車の運賃値上げが影響し、5月にマイナスを記録した運輸交通分野(同▲0.25%→+0.14%)がプラスに転じたことなどが、価格を押し上げる要素となった。ただし、抗議デモの要求に応えるかたちで、ほとんどの都市で交通機関の運賃引き上げが撤回されたため、抗議デモの影響により7月以降の物価の押し上げ要因が一つなくなったといえる。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は10日、Selicを8.00%から8.50%へと0.50%p引き上げることを全会一致で決定した。Selicの引き上げは3回連続となるが、引上げおよびその幅も市場関係者の予想通りであった。引上げの主な理由としてCopomは、最近の為替市場でドル高レアル安が進行したことにより、輸入品価格の上昇によりインフレ圧力が強まったことなどを挙げている。

ブラジル経済は、6月の全国規模の抗議デモによる経済的な損失も懸念されるなか、5月が▲2.0%(前月比)と発表された鉱工業指数が6月は1.9%とプラスに転じ(グラフ1)、実質平均賃金も若干の低下に止まっている(グラフ2)。しかし、中央銀行版のGDP(IBC-Br)は5月が▲1.4%(前月比)と市場の予想を大幅に下回り、リーマンショックの2008年12月以来の大幅なマイナスを記録するなど、直近の景況感が悪化している。しかし、このような状況でインフレ懸念が払拭されなければ、景気が低迷したままでのさらなる金利引き上げに踏み込まなければならず、経済的な打撃は大きくなるといえる。ただし18日に発表されたCopomの議事録では、インフレ懸念の高まりからさらなる金利引き上げが必要との見方が示された。
グラフ1 鉱工業生産指数の推移:2011年以降
グラフ1 鉱工業生産指数の推移:2011年以降
(出所)IBGE

グラフ2 実質平均賃金額の推移:2002年3月以降
グラフ2 実質平均賃金額の推移:2002年3月以降
(出所)IBGE
(注)6大都市圏における就業者の数値。

為替市場:7月のドル・レアル為替相場は、ブラジルの抗議デモをめぐる政治的混乱や経済状況の悪化を受け、レアルから安全通貨のドルへと資金を移動させる動きが強まったことや、発表された米国の雇用統計が良かったことなどから、中央銀行が為替介入を行ったもののドルが上昇した。その後は、米国の金融緩和政策が当面維持されるとの報や、銀行の海外支店の資金調達およびブラジルの本社への送金を容易にしてドルの流動性を高めるという新たな為替対策を中央銀行が発表したことが、ドルの下落要因となる一方、中央銀行が発表したブラジルの経済指標(IBC-Br)が予想より大幅に悪かったことなどが、レアル売りの要素となり、相場はもみ合いの展開となった。月の半ばになると、中国の第2四半期GDPや米国の6月の小売売上高などの経済指標が市場予想を下回るものだったため、景気の先行き不透明感が高まり、これを受けて米国が金融緩和政策の維持を決定したことで、ドルは弱含みの推移となった。

しかし月の後半に向け、景気低迷に抗議デモの影響も加わったためか6月の雇用状況がリーマンショック後に次ぐ低い結果になったことや(グラフ3)、中国経済の成長鈍化が明らかとなったことでコモディティに依存するブラジルの通貨が売られ、中央銀行がドル売り介入を行ったもののレアル安が進行した。そして月末には、米国FRBが金融緩和政策の継続姿勢を鮮明にしたことから、ドルが取引時間中に一時US$1=R$2.3レベルまで上昇。これに対し中央銀行が3回もの為替介入を行ったため、若干レアルが値を戻したが、US$1=R$2.2903(売値)で7月の取引を終えた。なお月末のレベルは、前月末比で3.37%と3カ月連続のドル高レアル安であるとともに、今年のドルの最高値であった。
グラフ3 全国正規雇用状況の各年の推移:2004年以降
グラフ3 全国正規雇用状況の各年の推移:2004年以降
(出所)労働雇用省
(注)数値は新規雇用者数から失業者数を引いた数の月間累積数。単位は人で「M」は百万。

株式市場: 7月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月の前半は大きく値を下げ、3日に2009年4月と同じレベルとなる45,044pの年初来最安値を記録した。それらの要因としては、抗議デモの影響で政治的な不透明感が高まったこと、資源関連株が大きく売られたこと(ブラジルの富豪Eike Batistaが所有する資源開発会社OGXがリオ沖の海底油田の採掘を来年にも中止すると発表し、OGXが破産するのではないかとの噂から同社株が約30%も下落し、Moody’sもOGXの格付けを引き下げた。海底ガス油田開発のためにPetrobrasが発行する公債について、市場の予想をR$50億上回るR$150億が必要だと政府が発表し、Petrobrasの財務状況やガス油田開発への懸念が高まり、同社株が過去8年間で最も低い価格まで売られた)、経済指標が予想より大幅に悪かったこと(5月の鉱工業生産指数が前月比▲2.0%。GDPに相当する中央銀行の経済活動指標IBC-Brが5月にリーマンショックに次ぐマイナス)、そして、このような状況からブラジルに対する不信が高まり、外国人投資家が資金を引き揚げたことが挙げられる。

しかし月の半ばからは、米国FRBのBernanke議長が金融緩和政策を継続すると発言したことや、BNDES(経済社会開発銀行)がEike Batistaのグループ企業の支援に乗り出すとの情報が伝わったこと、さらには、値を下げていたブラジルの株に対する値頃感や為替相場でのレアル安の進行により輸出企業を中心に買いが入ったことで、株価は上昇に転じた。そして月末は、米国FRBが金融政策の変更時期を明確にしなかったことで若干値を下げたものの、前月末比が1.64%と今年初めてのプラスとなる48,234pで7月の取引を終了した。