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Dilma政権の経済運営

ブラジル経済動向レポート(2012年9月)

地域研究センター 近田 亮平
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貿易収支:9月の貿易収支は、輸出額がUS$199.99億(前月比▲10.6%、前年同月比▲14.1%)、輸入額がUS$174.42億(同▲8.9%、同▲13.7%)で、営業日が19日と少なかったこともあり輸出入額ともに前月より減少したが、9月としては過去2番目に大きい額を記録した。また、貿易黒字額はUS$25.57億(同▲20.7%、同▲16.8%)であった。さらに年初からの累計は、輸出額がUS$1,805.97億(前年同期比▲4.9%)、輸入額がUS$1,648.70億(同▲1.2%)で、貿易黒字額はUS$157.27億(同▲31.8%)となり、前年同期比のマイナス幅が前月(▲34.1%)より縮小した。
輸出に関しては、一次産品がUS$94.61億(1日平均額の前月比+6.2%)、半製品がUS$26.35億(同+6.1%)、完成品がUS$74.82億(同+10.7%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$31.45億、同▲5.8%)、2位が米国(US$20.21億、同▲1.5%)、3位がアルゼンチン(US$14.80億、同+7.4%)、4位がオランダ(US$10.86億)、5位が日本(US$7.74億)であった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率ではセルロース関連機器(同+1,235.5%、US$1.45億)が突出しており、燃料油(同+183.7%、US$3.25億)、エタノール(同+149.4%、US$3.31億)も100%を超える伸びを記録した。また減少率では、半加工金(同▲57.5%、US$1.01億)やコーヒー豆(同▲41.5%、US$4.11億)が顕著であった。さらに輸出額では、鉄鉱石(US$24.32億、同▲34.2%)、原油(US$14.96億、同+19.9%)、大豆(US$10.09億、同▲23.5%)の一次産品3品目に加え、半製品に分類される粗糖(US$10.47億、同▲13.3)が、今月もUS$10億を超える取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$38.62億(1日平均額の前月比+10.6%)、原料・中間財がUS$80.80億(同+2.2%)、非耐久消費財がUS$14.88億(同+21.2%)、耐久消費財がUS$16.57億(同▲4.5%)、原油・燃料がUS$23.55億(同+61.5%)であった。主要輸入元は、1位が中国(US$29.13億、同+9.1%)、2位が米国(US$24.96億、同+11.0%)、3位がアルゼンチン(US$13.23億、同+1.2%)、4位がドイツ(US$10.63億)、5位が韓国(US$8.28億)であった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では輸送用機器(+93.4%、US$5.66億)やトイレ用品(+49.7%、US$1.14億)、減少率ではその他の燃料(同▲37.6%、US$13.63億)や自動車(同▲30.5%、US$6.40億)などの増減が顕著だった。また輸入額では、前述のその他の燃料に加え、化学薬品(US$22.03億、同+3.1%)や鉱物品(US$12.95億、同▲19.9%)などの原料・中間財、資本財である工業機械(US$12.27億、同+8.8%)などがUS$10億を超える取引額となった。

物価:発表された8月のIPCA(広範囲消費者物価指数:月率)は0.41%(前月比▲0.02%p、前年同月比+0.04%p)で、前月とほぼ同じ水準となった。食料品価格が0.88%(同▲0.03%p、+0.16%p)と前月より若干低いもものの依然として高く、非食料品価格は0.27%(同▲0.01%p、+0.01%p)で前月とほぼ変わらなかった。また、年初来累計は3.18%(前年同期比▲1.24%p)、過去12ヶ月(年率)は5.24%(前月同期比+0.04%p)と2カ月連続のプラスとなった。非食料品の価格は比較的安定しているが、旱魃による米国などでの農作物の不作の影響で、今後、食料品価格が上昇すると見られており、10月初旬に発表される9月のIPCAが、10月10日に決定される次回のSelicにとって重要な判断材料になるといえる。
食料品に関しては、消費量の多い各種フェイジョン豆が4~9%台も値下がりしたが、トマト(7月50.33%→8月18.96%)とニンジン(同17.81%→同12.47%)が前月に引き続き10%以上も値上がりしたことに加え、多くの品目で価格が上昇した。また非食料品では、薬品(同0.21%→0.48%)の値上がりが大きかった健康・個人ケア分野(同0.36%→0.53%)、新学期開始により授業料が調整された教育分野(同0.12%→0.51%)、家具(同▲0.14%→0.60%)の価格がマイナスからプラスに転じた家庭用品分野(同▲0.01%→0.40%)の上昇が目立った。しかし一方で、娯楽費(同0.97%→▲0.54%)がマイナスとなった個人消費分野(同0.91%→0.42%)や、家賃や光熱費の低下により住宅分野(同0.54%→0.22%)の伸びが鈍化したことに加え、その他の分野の物価は安定した数値となった。

金利:9月は政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは10月9日と10日に開催予定。

為替市場:9月のドル・レアル為替相場は、US$1=R$2.00を若干上回る小幅な値動きとなった。月のはじめ、欧州中央銀行が新たな対策を発表し信用不安が和らいでユーロ高ドル安になったことや、Moody’sが来年に米国の格付けを引き下げる可能性があると発表したこともあり、ドルが下落。しかしこれに対し、ブラジル中央銀行がスワップなどによる為替介入を連日実施したことから、ドルの下値は堅く、米国が追加金融緩和策の実施を決定した際にドルが大量流入するとの見方が一時広まったが、同緩和策の内容が大規模ではなく継続的な実施によるものだったことや、ブラジル中央銀行がレート・チェックを行ったことなどがドルの下落を下支えした。その後、米国の追加金融緩和策によりドル安傾向が強まったものの、Mantega蔵相が為替の安定には必要な措置を講ずると発言したことや、投機的な資金への対策として金融取引税(IOF)の引上げや為替介入の可能性を示唆したこと、さらには中央銀行のドル買い介入によりドル・レアル相場は底堅く推移した。そして月末の終値は、前月末と比べ▲0.32%とほぼ同水準で取引を終了した(グラフ1)。

最近のドル・レアル為替相場は、ほぼ4カ月にわたりUS$1=R$2.00~2.05の狭いレンジでの取引が続いている。このような状況から、Dilma政権はインフォーマルな為替バンド制を設定し、CardosoとLulaの政権と異なり、経済運営をインフレよりも為替と金利を優先するものへ変更したとする見方も一部で見られている。
グラフ1 レアルの対ドル為替相場の推移:2012年
グラフ1 レアルの対ドル為替相場の推移:2012年
(出所)中央銀行

株式市場:9月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、4日に56,234pの月内最安値を記録した後は、政府が国内産業の保護を目的に輸入税を引き上げたことや、欧州中央銀行が危機対策として無制限に国債を購入すると発表したことが好感され、世界の株価が全面高となるともに大幅に上昇した。そして今年5月以来となる60,000p台を回復すると、14日には月内最高値となる62,105pを記録した。しかしこの上昇局面は、ドイツによるさらなる危機対策への期待感やオランダ選挙での欧州統合を支持する与党の勝利、米国による量的金融緩和の実施決定などが要因となり、世界経済が上向くとの見方から強まったリスク・テイクの動きに牽引されたが、ブラジル国内では、政府の電気料金引き下げ策の発表を受け、収益が悪化するとの見方からエネルギー関連株が大幅に売られるという、逆の動きが見られた。

月の半ば以降は、原油の国際価格の下落によりPetrobras関連株が売られたことや、政府の圧力により、民間銀行が個人向けクレジット・カードの金利引き下げを実施したことで収益が悪化するとの懸念から、株価の上値は重く横ばいでの推移となった。そして月末になると、米国の金融緩和策の効果を疑問視する発言や、鉄鉱石などのコモディティ価格が下落する可能性、米国の弱い経済指標やスペインの格下げ懸念などを受け、株価は急激に値を下げた。しかしそれでも月末の終値は、前月末比+3.71%と3カ月連続のプラスとなる59.176pで取引を終えた(グラフ2)。
グラフ2 株式相場(Bovespa指数)の推移:2012年
グラフ2 株式相場(Bovespa指数)の推移:2012年
(出所)サンパウロ株式市場

景気対策:政府は4日、主に国内の工業を保護育成すべく、資本財、製鉄、石油化学、薬品など100品目の輸入税を引き上げ(現在12%~18%→25%)、さらに10月までに適用品目を200へと拡大することを決定した。この新たな税率はMercosul以外からの輸入に適用される。政府は国内消費が減退しないよう、企業に便乗値上げをしないよう警告したが、今回の措置に対してはDilma政権が保護主義を強めているとの批判もなされている。

またDilma大統領は、7日の独立記念日を前にした国民向けのラジオ演説で、2013年から電気料金を一般家庭で平均16.2%、産業用で最大28%削減すると発表した。またDilma大統領は、Selicが史上最低レベルまで引き下げられたことを強調し、民間金融機関に対してクレジット・カードなど個人向け融資の金利を引き下げるよう要請した。Dilma大統領の演説の少し前に公的金融機関は融資金利を引き下げており、消費拡大により景気を浮揚させようとするDilma政権の姿勢をアピールするかたちとなった。

さらに政府は13日、製造業を中心とした25部門の企業に対して、2013年、年金拠出金である従業員給与の20%の納付を免除し、その代わりに、売り上げの1または2%を税金として納付する減税措置を講ずると発表した。また、設備投資用の機械機器を今年中に購入した企業も税制優遇を受けられるとした。今までの減税措置により、2013年の減税額はR$142億に達し、政府予算の減税枠(R$152億)は残り僅かとなったが、Mantega蔵相はさらなる景気刺激策を用意していると述べた。ただし政府は同時に、2012年のGDP予測の3%から2%への引き下げを行った。また、中央銀行は14日、政府の一連の景気対策に加え、民間銀行の準備預金を減額する措置を発表した。同措置によりR$300億相当の資金が市中に出回るようになり、個人向け融資の金利引き下げとそれによる消費拡大が期待される。Mantega蔵相は個人用クレジット・カードの金利が高過ぎると民間銀行を批判するとともに、来年、中央銀行は金利を引き上げる必要性はないとの見解を明らかにした。一方、社会経済開発銀行(BNDES)のCoutinho総裁は、政府の一連の景気対策を評価しつつも、今後は投資に関する税金をはじめ税制改革が必要だとの見解を表明した。

経済運営に関してDilma政権は、2011年の政権発足から徐々に独自色を出して来たといえる。一連の景気対策に対しては保護主義的だとの批判もなされているが、Dilma大統領は25日、国連総会の演説でそれらの批判に反論するとともに、先進諸国の金融緩和策や緊縮財政策を非難した。Dilma政権の経済運営に関しては様々な見解があるが、ブラジルのカントリー・リスクを見る限り、9月半ばに年初最低値となる152まで低下しており、市場では一定の評価が得られているとも考えられよう(グラフ3)。

グラフ3 ブラジルのカントリー・リスクの推移:2012年
グラフ3 ブラジルのカントリー・リスクの推移:2012年
(出所)J. P. Morgan