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過熱気味な景気抑制策の効果

ブラジル経済動向レポート(2011年6月)

地域研究センター 近田 亮平
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第1四半期GDP:2011年第1四半期のGDPが発表され、前期比1.3%、前年同期比4.2%(年初累計比4.2%)、直近4四半期比が6.2%となった(グラフ1~3)。また実額は、R$9,395.97億(前期比▲5.5%、前年同期比+12.5%)であった。2010年の後半は景気が減速傾向となったが、市場関係者の大方の予測(前期比1.2%)を若干上回る成長率を記録し、依然ブラジル経済が好調であることを示すものとなった。しかし今後に関しては、過熱気味の状態が懸念された信用市場に対し、政府が講じた抑制策の効果が現れ出したこともあり、第2四半期以降の経済成長は鈍化するものと見られている。このような観測は、6月半ばに行われた今年のGDP予測に関する市場関係者への調査にも現れており、今年になって初めて4%を下回る3.96%という結果になった。

第1四半期GDPの需要面を見ると、最近の経済成長を牽引してきた家計支出(前期比0.6%、前年同期比5.9%)の伸びが、特に前期比において大きく鈍化した。これは前述のように、主に政府の対策により耐久消費財購入のための融資条件が厳しくなったことや、物価の高い状況が続いたことが影響したと考えられる。ただし、この家計支出の減退は物価上昇を抑えることから、インフレ目標達成にとっては良い傾向だといえる。また、政府支出(同0.8%、同2.1%)と総固定資本形成(同1.2%、同8.8%)は2010年第4四半期より成長したが、物価と金利の先行きが不透明なこともあり、今後も依然変動幅の大きい状況が続くと見られている。さらに貿易に関しては、輸出(同▲3.2%、同4.3%)と輸入(同▲1.6%、同13.1%)となり、輸出入とも前年同期比ではプラスだが前期比ではマイナスとなった。しかしながら前期比でのマイナスは、2010年の数値が世界金融危機直後の2009年をもとにしていることが影響しており、コモディティへの需要は依然高いこともあり、今後ブラジルを取り巻く貿易環境については楽観的な見方が多くされている。

一方の供給面では、生産性が向上するとともに主要作物の収穫期と重なった農牧業(同3.3%、同3.1%)の伸びが顕著であった。また、一時景気の悪化した工業(同2.2%、同3.5%)も復調の兆しを見せ、前期比では製造業が2.8%、前年同期比では建設業が5.2%と高い伸びを記録した。さらにサービス業(同1.1%、同4.0%)も好調で、国内消費市場と結びついた商業(同1.9%、同5.5%)は高い伸びとなったが、金融部門(同▲0.4%、同6.4%)は信用のタイト化の影響から前期比でマイナスを記録した。
グラフ1 四半期GDPの推移
グラフ1 四半期GDPの推移
(出所)IBGE

グラフ2  2011年第1四半期GDPの需給部門の概要
グラフ2  2011年第1四半期GDPの需給部門の概要
(出所)IBGE

グラフ3 四半期GDPの需給部門別の推移:前期比
グラフ3 四半期GDPの需給部門別の推移:前期比
(出所)IBGE

貿易収支:6月の貿易収支は、輸出額が過去最高のUS$236.92億(前月比+2.1%、前年同月比+38.6%)、輸入額が6月としては過去最高のUS$192.62億(同▲2.1%、同+29.9%)であった。また、前月比で輸入がマイナスだったのに対し輸出額はプラスだったため、貿易黒字はUS$44.30億(同+25.6%、同+95.4%)を計上し、6月も今年の最高額を記録した。この結果、年初からの累計は輸出額がUS$1,183.06億(前年同月比+32.6%)、輸入額がUS$1,053.21億(同+29.5%)、貿易黒字額がUS$129.85億(同+64.7%)となり、輸出入とも上半期の取引額として初めてUS$1,000億超を記録した。

輸出に関しては、一次産品がUS$109.49億(1日平均額の前月比▲5.2%)、半製品がUS$32.99億(同+16.3%)、完成品がUS$89.89億(同+23.7%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$42.99億、同▲4.2%)、2位が米国(US$24.99億、同+7.9%)、3位がアルゼンチン(US$19.87億、同+8.4%)、4位がシンガポール(US$13.12億)、5位がオランダ(US$8.10億)であった。シンガポールがランクインしたのは、後述の油ガス採掘プラットフォームの輸出によるものである。品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では半加工金(+259.4%、US$1.99億:主な輸出先、イタリア、中国、香港)、燃料油(+169.2%、US$5.29億:同、アルゼンチン、オランダ、オランダ領アンティル)、コーヒー豆(+103.5%、US$5.92億:同、ドイツ、米国、日本)の3品目が100%を超える大幅増となった。また減少率では、ハイテク産業の工業製品である航空機(▲35.2%、US$2.29億:同、中国、アルゼンチン、ポーランド)と自動車(▲21.5%、US$3.30億:同、アルゼンチン、メキシコ、コロンビア)の減少が顕著であった。さらに輸出額では、主要一次産品である鉄鉱石(US$34.87億、同+50.0%:同、中国、日本、オランダ)や大豆(US$22.32億、同+50.0%:同、中国、スペイン、台湾)に加え、油ガス採掘プラットフォーム(US$10.43億)など計5品目が10億ドルを超える取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$40.36億(1日平均額の前月比▲0.4%)、原料・中間財がUS$87.85億(同+1.9%)、非耐久消費財がUS$12.25億(同+1.6%)、耐久消費財がUS$19.71億(同+10.2%)、原油・燃料がUS$32.45億(同+4.1%)であった。主要輸入元は、1位が米国(US$29.18億、同▲0.3%)、2位が中国(US$26.33億、同+1.8%)、3位がアルゼンチン(US$14.95億、同+21.0%)、4位がドイツ(US$12.98億)、5位が韓国(US$8.72億)であった。品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では農業向けその他原料(+152.7%、US$9.60億)が150%以上の増加となり、減少率では輸送機器(同▲18.1%、US$3.98億)のみが主要品目の中でマイナスを記録した。さらに輸入額では、化学薬品(US$23.73億、同+28.4%)、鉱物品(US$17.39億、同+18.6%)、工業機械(US$13.62億、同+40.1%)など5品目が、今月もUS$10億を超える取引額を計上した。

物価:発表された5月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.47%(前月比▲0.30%p、前年同月比+0.04%p)で、昨年10月以降8カ月ぶりに0.50%を下回る低い水準となった。食料品価格の上昇は0.63%(同+0.05%p、+0.35%p)と前月から若干上昇したが、最近高止まりしていた非食料品価格が0.42%(同▲0.41%p、▲0.06%p)と大きく低下したことが影響した。この結果、年初来の累計は3.71%(前年同期比+0.62%p)で、過去12カ月は6.55%(同+0.04%p)となった(政府目標の上限は6.5%だが、公式統計として小数第2位は考慮しないため、依然物価は政府目標の範囲内)。

食料品では、4月に大幅なマイナスだったトマト(4月:▲18.69%→5月:9.41%)の値上がり、ニンニク(同6.96%→6.89%)やジャガイモ(同17.71%→6.02%)の高止まり、影響力の大きい牛乳(同2.66%→3.15%)の価格上昇などが見られた一方、ニンジン(同4.16%→▲9.30%)や果物(同▲2.21%→▲3.61%)などの品目ではデフレを記録した。また非食料品では、衣料分野(同1.42%→1.19%)や住宅分野(同0.77%→0.97%)では物価が高い水準のままだったが、4月に高騰した運輸・交通分野(同1.57%→▲0.24%)がマイナスとなったため、物価全体の価格は安定した。これは、政府のインフレ対策によりエタノール(同11.20%→▲11.34%)やガソリン(同6.26%→0.85%)の燃料(同6.35%→▲0.35%)価格が低く抑えられ、その効果が航空チケット(同▲9.42%→▲11.57%)や新車(▲0.28%→▲0.58%)にも波及した結果だと考えられる。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は8日、Selicを12.00%から12.25%へと4回連続で引き上げることを全会一致で決定した。また、政府のインフレ目標(IPCA:4.5%±2%p)を達成するためであれば、今後も漸次Selicを引き上げる意向だとの声明を発表した。今回の引き上げおよびその幅0.25%pは、事前の市場関係者の予想通りであった。ただし、ブラジルの実質金利が6.8%と主要国の中で断トツ1位となる中(2位はチリの1.5%、3位はオーストラリアの1.4%)、今後もSelicの引き上げ可能性が高いことは、過熱気味の国内消費による物価上昇を抑える効果があるが、為替市場でのレアル高や企業経営圧迫などの点で株式市場でのマイナスの要因になるといえる。

為替市場:6月のドル・レアル為替相場は、ブラジル経済の好況やSelic引き上げなどレアル高の地合いに変化はなかったが、ギリシャの財政問題の推移によりユーロとドルが上下したことに大きく影響された。特に月の前半、ギリシャ問題の悪化によりユーロ安ドル高が強まると、ドルは対レアルでも買われる展開となり、16日にはUS$1=1.6108(売値)の月内ドル最高値を記録した。しかし月の後半には、ギリシャの財政支援策への期待感が高まりユーロに対してドルが下落する一方、ブラジルのカントリー・リスクが低下したことや(月末30日には2007年7月以来の水準となる147を記録)、金利高通貨のレアルを買う動きが活発化したため、月末はリーマンショック直前に記録した2008年8月1日のUS$1=1.55台に次ぐレアル高水準となるUS$1=1.5603(買値)で6月の取引を終えた。

株式市場:6月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、2日に64,218pの月内最高値を記録した後、ブラジルの好調なGDPを好感して上昇する場面も見られたが、月内最安値となる16日の60,881pまでほぼ続落する展開となった。その要因としては、ギリシャの財政再建問題が難航したこともありMoody’sやS&Pが同国の格付けを引き下げたことや、欧米や中国の工業や雇用に関する指標が思わしくなかったこと、さらには原油の国際価格が下落したことなどを受け、世界的に株価が下落したことが挙げられる。また国内的な要素として、Selicの引き上げや汚職疑惑によるPalocci官房長官の辞任なども嫌気された。しかし、過熱気味の景気に対する政府の抑制策を評価してMoody’sがブラジルのソブリン格上げを引き上げたことや、ギリシャに関する不安が後退したこともあり、月の後半には株価は下げ止まるとともに横ばいでの推移となった。そして月末にかけては、ギリシャ支援決着への期待感の高まりや、ブラジルの小売業界1位のPão de Açucarグループと2位Carrefourの合併交渉発表を好感して上昇し、62,403pまで値を戻して6月の取引を終了した。しかしながら月末の株価は、前月末比で▲3.43%と3ヵ月連続のマイナスを記録した。