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ブラジルが今すべきこと

ブラジル経済動向レポート(2011年5月)

地域研究センター 近田 亮平
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貿易収支:5月の貿易収支は、輸出額がUS$232.11億(前月比+15.1%、前年同月比+31.1%)、輸入額がUS$196.82億(同+7.5%、同+38.1%)で、輸出入ともに過去最高額を記録した。また貿易黒字もUS$35.29億(同+89.4%、同+2.3%)を計上し、毎月更新してきた今年の最高額を大幅に上回る数値となった。この結果、年初からの累計は輸出額がUS$946.16億(前年同月比+31.2%)、輸入額がUS$860.58億(同+29.4%)、貿易黒字額がUS$85.58億(同+52.5%)となり、輸出入を合わせた貿易取引額では過去最高を記録した2008年を上回る数値となった(グラフ1)。

輸出に関しては、一次産品がUS$121.01億(1日平均額の前月比+1.3%)、半製品がUS$29.71億(同▲0.9%)、完成品がUS$76.14億(同▲3.0%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$47.03億、同+4.0%)、2位が米国(US$24.27億、同+11.1%)、3位がアルゼンチン(US$19.20億、同▲5.8%)、4位がオランダ(US$13.12億)、5位がドイツ(US$8.10億)であった。品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では小麦(+515.2%、US$0.74億:主な輸出先、イエメン、サウジアラビア、ケニア)、鉄鋼半製品(+194.9%、US$4.71億:同、米国、韓国、ドイツ)、大豆油(+131.6%、US$1.99億:同、米国、韓国、ドイツ)の3品目が100%を超える大幅増となった。また減少率ではタバコ葉(▲15.7%、US$2.53億:同、米国、ドイツ、ロシア)や自動車(▲14.0%、US$3.31億:同、アルゼンチン、ドイツ、メキシコ)の減少が顕著であった。さらに輸出額では、鉄鉱石(US$36.07億、同+57.2%:同、中国、日本、オランダ)、原油(US$26.82億、同+46.8%:同、中国、米国、セントルシア)、大豆(US$25.59億、同+16.9%:同、中国、スペイン、オランダ)がUS$20億を超える取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$42.44億(1日平均額の前月比▲2.6%)、原料・中間財がUS$90.61億(同▲3.3%)、非耐久消費財がUS$12.37億(同▲15.1%)、耐久消費財がUS$18.74億(同▲16.4%)、原油・燃料がUS$32.66億(同▲13.5%)であった。主要輸入元は、1位が米国(US$30.66億、同+0.3%)、2位が中国(US$27.09億、同+5.9%)、3位がアルゼンチン(US$12.94億、同▲25.2%)、4位がドイツ(US$12.92億)、5位がナイジェリア(US$11.14億)であった。アルゼンチンとの輸出入は5月に貿易摩擦が顕在化した関係から、同国からの輸入サイドで特に取引額がマイナスとなった。品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では農業向けその他原料(+90.5%、US$9.27億)や燃料・潤滑油(+54.9%、US$32.66億)が50%以上増加し、減少率では医療品(同▲6.8%、US$4.06億)と工業機械付属品(同▲5.9%、US$2.75億)のみが、主要輸入品目の中でマイナスを記録した。さらに輸入額では、化学薬品(US$23.97億、同+26.6%)、鉱物品(US$19.64億、同+33.7%)、工業機械(US$15.56億、同+42.8%)など5品目が、今月もUS$10億を超える取引額を計上した。
グラフ1 貿易収支の推移:2009年以降
グラフ1 貿易収支の推移:2009年以降
(出所)商工開発省

物価:発表された4月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.77%(前月比▲0.02%p、前年同月比+0.20%p)で、依然として物価の高い状況が続いているものの、事前予想よりも低い数値となった。食料品価格の上昇は0.58%(同▲0.17%p、▲0.87%p)と鈍化したが、物価高の要因が食料品から燃料等へと変化したため、非食料品価格は0.83%(同+0.03%p、+0.52%p)と高い上昇率となった。この結果、年初来の累計は3.23%(前年同期比+0.58%p)で3月より前年同期比での上昇幅が拡大した。また、過去12カ月は6.51%(同+0.21%p)で政府目標の上限6.5%を0.01%p超える結果となったが、公式な統計として小数第2位は考慮しないため、依然として現状の物価水準は政府目標の範囲内とされる。また今後、物価は低下して行くと見られていることから、年末を基準とする政府目標は達成されるとの見方も強まった。

食料品では、3月に高騰したトマト(3月:13.38%→4月:▲18.69%)が大幅なデフレとなったのをはじめ、クリスタル糖(同1.48%→▲2.68%)や果物(同2.01%→▲2.21%)など値下がりした品目があった一方、2ケタの上昇率を記録したジャガイモ(同12.40%→17.71%)とタマネギ(同17.76%→11.64%)など、値上がりした品目も多く見られた。また非食料品では、家財分野(同0.21%→▲0.62%)がデフレを記録し、季節要因のなくなった教育分野(同1.04%→0.09%)も安定した物価水準となった。しかし、エタノール(同10.78%→11.20%)やガソリン(同1.97%→6.26%)などの燃料価格の上昇に影響され、運輸・交通分野(同1.56%→1.57%)が高止まりしたことに加え、上昇幅の大きかった衣料分野(同0.56%→1.42%)など一部の分野が全体の物価を押し上げるかたちとなった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、5月は開催されず。次回のCopomは6月7日と8日に開催予定。

なお中銀は18日、昨年後半に鈍化した経済成長が第1四半期に再び加速し、GDPで前期比1.28%、年率に換算すると5.2%に達したと発表した。また、4月の新車販売台数が同月の過去最高となる29万台を記録するなど、依然国内の消費が旺盛であることを示すものとなった。ブラジルをはじめ新興諸国でインフレが懸念材料となる中で、国内の景気過熱に歯止めがかからない状況に対し政府は、物価高とそれを支える融資の増大、さらには為替のレアル高への対策として、先月までにIOF(金融取引税)を連続して引き上げたが、さらに今月11日には物価対策としてガソリンやエタノールの燃料価格を補助金により引き下げる措置を講じた。インフレ懸念の収束は今後の物価の推移を見守る必要があるが、信用市場への介入はある程度その効果が現れ始めたともいえる。今年に入り銀行貸出の不良債権の割合は、特に個人向け融資に関して漸増傾向にあったが、4月はその傾向に歯止めがかかりほぼ横ばいの数値となった(グラフ2)。

ただし、このような状況に対しTombini中銀総裁は、これから数ヵ月は物価が政府目標の上限である6.5%を上回って推移するとともに、政府目標の達成に関して今年は厳しく来年になる可能性があるとの見方を示した。中銀の別の理事も、「融資抑制策は一定の効果があったが、物価安定のためには経済の減速が必要」だと述べている。また政府は今年の経済見通しについて、インフレ予測を今までの5%から5.7%へと引き上げる一方、GDP予測を5%から4.5%へと引き下げた。Tombini総裁が発言しているように、ブラジル政府が今すべきことのひとつに過熱気味な消費を抑える融資抑制策があり、ブラジル国民が今すべきこととして「消費に走るのではなく、金利が高い時に貯金すること」が挙げられるといえよう。
グラフ2 銀行の不良債権比率の推移:2007年以降
グラフ2 銀行の不良債権比率の推移:2007年以降
(出所)中央銀行

為替市場:5月のドル・レアル為替相場は、2日にUS$1=1.5739(買値)の月内レアル最高値で取引を開始した後、世界経済の先行き不透明感が高まったことや、ヨーロッパでの信用不安のくすぶりからユーロが売られドルが買われた影響を受け、リスクの高い通貨であるレアルは月の半ば過ぎまで軟調な推移となった。しかし、米国の景気回復の足取りは弱くドルを積極的に買い進む材料に乏しい一方、ブラジルのカントリー・リスクの上昇もあり高金利通貨レアルを買う動きが再び強まり、23日にUS$1=1.6339(売値)の月内レアル最安値をつけた。その後、月末に向け急激なドル安レアル高となり、月末はUS$1=1.5791(買値)で5月の取引を終えた。

なお、政府は前Lula政権時代からこれまでに様々な為替対策を実施してきたが、今後は為替への大掛かりな施策は実施しないと発表した。今回の決定は、インフレ懸念が高まる中、レアル高で輸入品価格が低下することにより物価全体の上昇を抑える狙いがあるとされる。政府のインフレ目標達成のため、Pimentel商工開発大臣は輸出企業に対し現在の為替レベルに適応するよう、Mantega大蔵大臣は製造業などに価格転移などを行わないよう、協力や企業努力を求める声明を発表した。つまり政府は、国内に更なる経済発展の鍵を握る大型プロジェクトを複数抱えていることもあるため、ブラジルが今すべきことは為替よりインフレへの対策だという姿勢を明確にしたといえよう。

株式市場:5月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月の半ば過ぎまでは年初来最安値を更新しながら下落する展開となった。月の初めに2,000p以上急落した後、米国の就業者数の増加や国内物価(IPCA)が予想より低かったことを好感して一時上昇する場面も見られたが、その後は再び下落に転じ、23日に去年の7月16日に次ぐ安値となる62,345pまで下落した。しかし、格付け会社S&Pがブラジルの外貨建てソブリン債の格付けを「安定的」から「ポジティヴ」へ引き上げたことや、コモディティ商品の国際価格が持ち直したこともあり、月の後半は値を挙げる展開となった。そして、月末には64,620pまで値を戻したが、それでも前月末と比べると2ヵ月連続のマイナスとなる▲2.29%を記録し5月の取引を終了した(グラフ3

5月の株価下落の要因として、国内的にはインフレ懸念や金利高および更なる利上げ観測を嫌気して、海外投資家が資金を引き揚げたことが挙げられる。また海外的には、発表された経済指標などから米国はじめ先進国の景気回復の足取りが予想ほど強固ではなかったことに加え、ビンラディン殺害に対する報復懸念もあり、海外の主要株価が軟調に推移したことが影響した。また、ブラジルの株価を牽引する資源関連企業にとって、中国でもインフレと景気減速への懸念が高まり、原油や農産品といったコモディティ商品の需要が減退するとの見方から、主に月の前半にこれらの関連商品の国際価格が大幅に下落したこともマイナス要因となった。
グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移:2010年以降
グラフ3 株式相場(Bovespa指数)の推移:2010年以降
(出所)サンパウロ株式市場