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月間ブラジル・レポート(2011年2月):対処能力に見る可能性と課題

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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経済

貿易収支:2月の貿易収支は、輸出額がUS$167.33億(前月比+10.0%、前年同月比+161.9%)、輸入額がUS$155.34億(同+5.0%、同+156.8%)で、輸出入とも2月としての過去最高額を記録した。輸出額の伸びが輸入のそれを上回ったため、貿易収支はUS$11.99億(同+183.5%、同+317.0%)の黒字を計上した。また年初からの累計は、輸出額がUS$319.47億(前年同月比+35.9%)、輸入額がUS$303.25億(同+156.8%)、貿易黒字額がUS$16.22億(同+672.4%)となり、貿易収支は昨年と比べ好調な滑り出しとなった。

輸出に関しては、一次産品がUS$73.62億(1日平均額の前月比+15.6%)、半製品がUS$22.75億(同+2.4%)、完成品がUS$66.49億(同+17.9%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$22.00億、同+30.3%)、2位が米国(US$17.04億、同+7.8%)、3位がアルゼンチン(US$16.20億、同+21.9%)、4位がオランダ(US$7.60億)、5位が日本(US$7.05億)であった。品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では主に北アフリカ諸国向けの小麦(+319.8%、US$1.30億)、南米諸国へ主に輸出された鋳造鉄管(+241.8%、US$1.08億)、減少率では中国やタイが主要輸出先の大豆(▲62.4%、US$1.11億)、主に米国やアルゼンチン向けの履物(▲53.5%、US$1.36億)の増減幅が顕著であった。また金額では、中国や日本が主要輸出先の鉄鉱石(US$27.35億、同+151.3%)、中国や米国へ主に輸出された原油(US$11.88億、同+11.6%)が引き続きUS$10億を超える取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$33.48億(1日平均額の前月比+2.3%)、原料・中間財がUS$69.94億(同+4.1%)、非耐久消費財がUS$11.64億(同+12.1%)、耐久消費財がUS$16.97億(同+11.7%)、原油・燃料がUS$23.31億(同+51.6%)であった。主要輸入元は、1位が中国(US$23.77億、同+6.4%)、2位が米国(US$23.12億、同+5.3%)、3位がアルゼンチン(US$12.60億、同+11.9%)、4位がドイツ(US$10.14億)、5位が韓国(US$7.67億)であった。品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では自動車(+66.7%、US$7.95億)と輸送関連機器(+64.0%、US$4.36億)が60%以上増加し、減少率では食料品(同▲13.7%、US$3.01億)と事務機器(同▲2.3%、US$5.23億)のみが主要輸入品目の中でマイナスであった。さらに輸入額では、化学薬品(US$19.44億、同+24.1%)や鉱物品(US$14.10億、同+2.8%)など4品目が、今月もUS$10億を超える取引額を計上した。

物価:発表された1月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、食料品価格が1.16%(前月比▲0.16%p、前年同月比+0.03%p)、非食料品価格が0.73%(同+0.31%p、+0.09%p)で、全体では0.83%(同+0.20%p、+0.08%p)となった。前月に続き上昇率は低下したものの食料品価格が依然高い水準にあることに加え、非食料品も大きく値上がりしたことから、全体では昨年11月(0.83%)と同様、2005年4月(0.87%)に次ぐ物価上昇を記録した(グラフ1)。また、過去12カ月の物価上昇率は5.99%となり、政府目標4.5%(±2%p)の中心値を大きく上回った。

食料品では、最近高値が続いていた牛肉(12月:2.25%→1月:▲0.19%)が値下がりし、一部の品目の上昇率も低下したが、高騰した瓜(同0.05%→88.17%)をはじめ一部の野菜類が10%超の値上がりを記録したことに加え、魚(同3.11%→4.91%)や果物(同▲0.88%→4.40%)も大きく値を上げたため、全体の価格は高水準で推移することとなった。一方の非食料品では、衣料分野(同1.34%→0.12%)の上昇率が大きく低下したものの、大幅アップとなった運輸・交通分野(同0.29%→1.55%)をはじめ全体的に前月と比べ物価が上昇した。
グラフ1 物価(IPCA)の推移:2008年以降
(出所)IBGE

金利:2月にCopom(通貨政策委員会)は開かれなかったが、3月1日と2日に開催されたCopomにおいて、政策金利のSelic(短期金利誘導目標)が11.25%から11.75%へ引き上げられることが全会一致で決定された。今回のSelic引上げは2回連続であり、上昇傾向にある物価や強い消費動向により懸念されるインフレ再燃に対し、中央銀行が断固として対処していく姿勢を示すものとなった。しかし、引上げ幅の0.50%pは事前の大方の予想通りであり、より大胆な引上げが必要との意見も見られている。

為替市場: 2月のドル・レアル為替相場は、US$1=R$1.66~1.68の狭いレンジでの推移となった。前月末に強まったドル安レアル高傾向へ対処すべく、中銀が先物市場でのドル買い為替介入を行ったことに加え、エジプトの政情不安により有事のドル買いが強まったため、月の前半はドルが上昇し、7日にUS$1=R$1.6776(売値)の月内ドル最高値を記録した。その後、8日に中国が再び利上げを決定した影響もあり、一時ドル安レアル高に振れる場面も見られたが、リビアをはじめ中東の政治的混乱が拡大する中、国内的には最低賃金額や3月初めの政策金利の決定に対する様子見感が強まったことなどから、為替相場は方向感のない展開となった。そして月末は、利上げ観測の影響などからレアルが若干強含み、前月末比0.7%のドル安レアル高となるUS$1=R$1.6604(買値)で2月の取引を終えた。

株式市場:2月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は月の初め、エジプトの政治的混乱が鎮静化に向かうとの観測から上昇して始まった。しかし、その後のエジプト情勢の悪化を受け外国人投資家が新興国から資金を引き揚げる動きが強まり、9日に64,218pまで下落し今年の最安値を記録した。しかし、原油の国際価格の上昇によりPetrobrásなどの資源関連株が買われたことや、2010年のGDP成長率に関して中銀が7.8%と市場の予想を上回る数値を発表(IBGEによる正式発表は3月)したことなどから、ブラジルの株価は上昇に転じ18日には68,067pまで回復した。その後、リビア情勢の悪化などから世界の主要株価とともに下落したものの、政府の最低賃金額案が議会で滞りなく承認されたこともあり、月末に若干値を戻し前月末比+1.21%となる67,383pで今月の取引を終了した。

政治

最低賃金:最近の物価の上昇傾向とインフレ懸念はブラジルだけでなく新興国を中心に共通した問題であるが、昨年後半からの食料品価格に加え、最近の中東諸国の政治的混乱により原油価格も高騰しているため、今後如何にインフレを抑制できるかが焦点の一つになっている。またこのような状況に加えブラジルでは、最近の新規自動車販売台数がほぼ毎月その月の過去最多販売数を更新して推移するなど(グラフ2)、国内の消費需要が依然旺盛であり、このこともインフレ懸念を増大させる一要因となっている。
グラフ2 新規自動車販売台数の推移:2004年以降
(出所)ANFAVEA
(注)自家用車、商用車、トラック、バスの合計販売台数。

政府はこのような予測される経済状況の悪化に対処すべく、給与だけでなく社会保障などとも連結する最低賃金の金額調整を、野党や労組の反対があったものの、1999年(4.6%)に次ぐ低い上昇率(6.9%)にとどめ、3月1日からR$545とすることに成功した(表1)。緊縮財政を目指すDilma政権にとって、今回の最低賃金額決定は議会での初決議となったが、より高額な最低賃金を求める野党や労組との交渉を、党の総意として全下院議員が賛成票に投じたPMDBの協力などにより乗り切ることができた。この連立与党の勝利は、9日に公的支出をR$500億削減すると発表したDilma政権に大きな自信を与えたといえよう。

しかし、最大の連立与党であるPMDBは、月初の議会内選挙で連立政権として獲得した上院議長(Sarney)などだけでなく、まだ決定していないブラジル銀行をはじめとする政府機関の要職のポジションも要求している。身内であるPMDBへ如何に対処するかが、Dilma政権にとって議会や政権を運営して行く上での鍵であることは間違いない。

また今回、2015年までの最低賃金額の決定に関して、前年の物価上昇率と前々年のGDP年間成長率を合算した値で調整し、その金額を議会の承認なしに大統領令により制定することが決定された。したがって少なくとも2012年の最低賃金は、2011年の物価上昇率(予測6%前後)と2010年のGDP年間成長率(予測7.5%前後)を合わせた14%前後の上昇で調整されるため、Dilma政権は今からその対処に苦心しなければならない状況となった。

表1 最低賃金額の推移:1999年以降
変更日 最低賃金額(R$) 上昇率 変更日の対US$
為替レート(R$)
変更日のUS$
換算額(US$)
3/5/1999 136.00 4.6% 1.6731 81.29
3/4/2000 151.00 11.0% 1.7403 86.77
1/4/2001 180.00 19.2% 2.1580 83.41
1/4/2002 200.00 11.1% 2.3216 86.15
1/4/2003 240.00 20.0% 3.3355 71.95
1/5/2004 260.00 8.3% 2.9565 87.94
1/5/2005 300.00 15.4% 2.5142 119.32
1/4/2006 350.00 16.7% 2.1538 162.50
1/4/2007 380.00 8.6% 2.0474 185.60
1/3/2008 415.00 9.2% 1.6812 246.85
1/2/2009 465.00 12.0% 2.3471 198.12
1/1/2010 510.00 9.7% 1.7236 295.89
1/3/2011 545.00 6.9% 1.6623 327.86
(出所)最低賃金額はブラジル政府、為替レートは中央銀行。

社会

災害への対処:筆者は2月、調査のため1カ月弱ブラジルに滞在した。その際、3週間後にカーニバルを控えたリオデジャネイロ市では、パレードの山車や衣装が消失した「サンバの街(Cidade do Samba)」の大火事に遭遇した。関係者の物質的および精神的なダメージは計り知れないが、不運な災害に対処するsambista(サンバ関係者)の能力や情熱はそのダメージをはるかに上回り、3月初めに開催されるカーニバルのパレードに参加すべく(コンテストはなくなったが)、昼夜なく総出での準備が進められた。

また、サンパウロ市ではほぼ毎日夕方頃に大雨が降り、調査の実施に支障をきたす場合もあった。夏が終わりに近づくこの時期のサンパウロ市周辺では、雷を伴った大雨が長い時で数時間降り続くため、市内のいたる所で浸水や停電が発生し、道路が大渋滞や通行不能になったり信号が機能しなくなったりするなど、移動は非常に困難な状況となる。時には市内を流れるTietê川が氾濫し、同河川に沿ってサンパウロ市の大動脈の一つである幹線道路が走っているため、市内の交通は大混乱に陥る。世界の中でも発生頻度が高いブラジルの停電は、このような悪天候への高い脆弱性が一要因だとされる。

このような状況下、市内を流れるPinheiros川の水を大雨の際に南部のBillings湖へ移す計画もあるが、Pinheiros川の水は汚染度が高いため、サンパウロ大都市圏の水源であるBillings湖の環境悪化をもたらすとの問題点が指摘されている。しかし一方、サンパウロ市の大雨への対処が現状のままだと、予防措置が整備されるまでに約40年かかるとも言われている。1月のリオデジャネイロ州山間部の大災害(先月レポート参照)に代表される自然災害対策だけでなく、日常の経済活動や市民生活に多大な損害をもたらしている悪天候へ如何に対処するかも、ブラジルが更に発展を遂げるための課題であるといえよう。
(写真1)大雨のサンパウロ市中心部。撮影場所は下り坂のため雨水氾濫はしないが、
道路も歩道も浸水しで人の歩行は非常に困難(筆者撮影)。

(写真2)Pinheiros川。JBIC支援の浄化プロジェクトにより環境は以前より改善したが、
撮影場所のようにゴミが浮遊する場所も散見され、水質汚染は依然深刻な問題(筆者撮影)。