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月間ブラジル・レポート(2010年9月):事前予想の難しさ(GDPや大統領選挙)

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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経済

第2四半期GDP:2010年第2四半期のGDPが発表され、前期比1.2%、前年同期比8.8%と、事前の予想を上回る高い数値となった(グラフ1~3)。ただし、前期比の数値は2.7%から1.2%へ低下しており、第3四半期以降は経済成長が鈍化すると見られている。また、過去1年間の4四半期の成長率は5.1%と高く、今回の第2四半期GDPの高い成長率により、今後、政策金利が引き上げられる可能性が強まると考えられる。

その需要面を見ると、家計支出(前期比0.8%、前年同期比6.7%)はプラス成長を記録したが、前期比で4期連続、前年同期比でも成長率が鈍化しており、国内消費が低下傾向にあることがわかる。政府支出(同2.1%、同5.1%)は、10月実施の選挙や公共事業がメインの経済政策との関連から伸びを示している。総固定資本形成(同2.4%、同26.5%)は輸入(同4.4%、同38.8%)と同様、前期比の伸びは鈍化したが、2009年前半が世界金融危機の影響を最も受けた時期だったため、前年同期比では大幅な増加となり、1996年に現在のGDP算出方式が導入されてから最も高い成長率を記録した。また輸出(同1.0%、同7.3%)の数値からは、世界経済が景気回復傾向にあるもののその足取りは不確かなことや、為替相場の長引くドル安レアル高の影響を強く受けている様子を見て取ることができる。

一方の供給面は、農牧業が(同2.1%、同11.4%)、工業が(同1.9%、同13.8%)、サービス業が(同1.2%、同5.6%)であった。前年同期比の数値からは、農牧業と工業における景気の回復、およびサービス業での安定した伸びが理解できる。しかし事前予測よりは良かったものの、前期比ではどの部門も成長率が鈍化しており、このような傾向は他の経済指標にも現れている。

また、2010年上半期のGDP成長率(前年同期比)は8.9%となり、1996年以降で最も高い成長率を記録した(グラフ4)。需要別では、家計支出が8.0%、政府支出が3.6%、総固定資本形成が26.2%、輸出が10.5%、輸入が39.2%となり、好調な国内市場およびそれへの投資と輸入の増加という傾向を表すものとなった。一方の供給別は、農牧業が8.6%、工業が14.2%、サービス業が5.7%といずれの部門でもプラス成長を記録し、世界金融危機からの全般的な回復基調を示すものとなった。
グラフ1 四半期GDPの推移
(出所)IBGE

グラフ2  2010年第2四半期GDPの受給部門の概要
(出所)IBGE

グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比
(出所)IBGE

グラフ4 上下半期GDPの推移:2001年以降
(出所)IBGE

貿易収支:9月の貿易収支は、輸出額がUS$188.33億(前月比▲2.1%、前年同月比35.9%)、輸入額がUS$177.40億(同5.6%、同41.3%)となり、貿易黒字額はUS$10.93億(同▲55.2%、同▲16.5%)に止まった。また年初からの累計は、輸出額がUS$1,449.29億(前年同期比29.6%)、輸入額がUS$1,321.52億(同45.8%)で、貿易黒字額はUS$127.77億(同▲39.7%)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$89.06億(1日平均額の前月比1.6%)、半製品がUS$24.49億(同3.6%)、完成品がUS$71.52億(同5.0%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$32.77億、同7.6%)、2位がアルゼンチン(US$18.63億、同13.1%)、3位が米国(US$16.57億、同▲8.8%)、4位がオランダ(US$9.06億)、5位が日本(US$7.46億)であった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率ではトウモロコシ(217.9%、US$3.65億)、非冷凍オレンジ・ジュース(181.6%、US$1.33億)、土木作業機器(168.3%、US$1.47億)などが高い伸びを記録した。また減少率では、鋳造鉄(▲50.5%、US$0.54億)や圧延鋼材(▲42.3%、US$1.35億)のマイナス幅が顕著であった。さらに輸出額では、鉄鉱石(US$33.09億、同1.64%)と原油(US$12.99億、同69.8%)の一次産品に加え、半製品の砂糖(US$9.99億、同1.64%)がUS$10億前後の高い取引額を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$41.76億(1日平均額の前月比5.4%)、原料・中間財がUS$79.42億(同9.9%)、非耐久消費財がUS$11.91億(同11.3%)、耐久消費財がUS$18.45億(同7.0%)、原油・燃料がUS$25.86億(同26.1%)となった。主要輸入元は、1位が中国(US$27.27億、同21.6%)、2位が米国(US$26.31億、同6.1%)、3位がアルゼンチン(US$13.49億、同9.6%)、4位がドイツ(US$11.70億)、5位が韓国(US$7.67億)であった。最近、輸出の1位には中国が定着しつつあるが、9月は輸入でも中国が米国に代わり1位となった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では家庭用機器(101.0%、US$4.08億)、工業機械(89.8%、US$16.67億)、鉱物品(88.0%、US$16.85億)などが高い伸びとなった。一方の減少率に関しては、農業関連その他原料(同▲9.1%、US$7.33億、)が主要品目の中で唯一マイナスを記録した。さらに輸入額では前述の工業機械と鉱物品に加え、化学薬品(US$21.25億、同32.9%)、中間部品(US$11.50億、同32.5%)、輸送関連機器(US$10.41億、同38.0%)の5品目がUS$10億を超える取引額を計上した。

物価:発表された8月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.04%(前月比0.03%p増、前年同月比▲0.11%p)で、3か月連続(6月:0.00%、7月:0.01%)で低い上昇率となった。食料品価格が▲0.24%(同0.52%p増、▲0.23%p)と3ヵ月連続のデフレを記録し、非食料品価格も0.12%(同▲0.12%p、▲0.08%p)と前月および前年同月に比べマイナスとなった。この結果、年初来の累計は3.14%となり、前年同期との差は7月の0.29%p増から0.17%p増へと縮小した。また過去12カ月の累計は4.49%(7月:4.60%)で、政府目標の中心値4.5%とほぼ同じとなった。

食料品に関しては、主要食料品である肉類(7月:0.33%→8月:2.11%)が最もインパクトの大きい価格上昇を記録したが、20%以上の価格下落となったジャガイモ(同▲13.33%→▲22.40%)やタマネギ(同▲9.22%→▲20.81%)など、多くの品目でデフレとなったため、全体の価格は押し下げられた。また非食料品では、学校の下半期開始の影響から教育分野(同▲0.03%→0.44%)の上昇幅が顕著であった。しかし、最近価格上昇が続いていた航空運賃(同9.15%→▲10.32%)が大きく値を下げた運輸・交通分野(同0.08%→▲0.09%)のほか、家財分野(同0.29%→▲0.31%)と通信分野(同0.00%→▲0.03%)でデフレを記録するなど、全体的な物価は落ち着いたものとなった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、9月1日に開催済み(前月レポート参照)。次回のCopomは10月19日と20日に開催予定。ただし、公表されたCopomの議事録により、状況の急変がない限り2010年と2011年に政府金利を引き上げる必要性はない、とする中央銀行の方針が明らかにされた。

為替市場:9月のドル・レアル為替相場は、1日にUS$=R$1.7441(売値)の月内ドル最高値をつけた後、月の後半に予定されていたPetrobrasの増資への期待感もあり、ドル安レアル高が進む展開となった。これに対しMantega大蔵大臣が、2009年創設の政府ファンド(FSB)に上限なしでのドル購入を許可するなど、さらなるレアル高への対策や牽制を行ったこともあり、月の半ばにはドルが買い戻される場面も見られた。しかし月の後半になると、23日に終了したPetrobrasの増資により大量のドルが市場に流入したため再びドル安が進み、月末はUS$=1.6934(買値)と約2年ぶりにUS$=1.7を切るレアル高水準で9月の取引を終えた。

株式市場:9月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、誰が次期大統領になっても経済政策に大きな変更はないとの見方が市場では一般的なため、大統領選挙の影響を受けずに推移した。9月後半に実施が予定され、史上最高額を記録したR$1,200億(US$700億)ものPetrobrásの増資に対する期待感や、米国のリセッション終了と世界経済の回復という楽観的な見方も強まったため、漸次的ではあるがBovespa指数は値を上げる展開となった。月末には月内の最高値である69,430pを記録し、9月は前月末比で6.58%の上昇となった。

なお、23日に終了した今回のPetrobrásの大規模増資は、Pré-Sal海底油ガス田開発を主な目的としているが、これにより同社は株価に関し、世界第4位の規模をMicrosoftと争うまでに拡大することになった。また、Petrobrásの案件によりサンパウロ株式市場は、香港市場に次ぐ世界第2位の取引高を誇るまでに増大することになった。ただし、Petrobrásの増資における連邦政府の占有率が40%から48%へと引き上げられたことや、小規模投資家の利益が軽視されたとの意見もあったこと、さらには、今後の油ガス田開発の見通しや実現可能性に対し懐疑的な見方もあることから、増資実施後のPetrobrás株は事前予想を下回る値での推移となった。

政治

選挙速報:大統領選挙戦は9月に入ると、PT(労働者党)のDilma候補が選挙出馬のため辞した文民局長官のポストに就いたErenice氏に関し、複数の汚職疑惑が浮上する事態となった。それは、Dilmaの側近だったErenice長官の身内が政府機関や請負会社の要職に就き、郵便局や太陽光発電所の案件入札の際に、賄賂や公金横領などの違法行為を行っていたとするものである。そして、その際に入手した不正な資金の一部を、Dilma陣営が選挙活動に使っていたとの疑いが取り沙汰された。これらの汚職疑惑に関し、DilmaやLula大統領は当然関与を否定したが、それとともにこれらの事件が投票日直前に浮上したことから、野党やマスコミによる意図的な策略だとの批難を行った。しかし、連日のように伝えられる汚職疑惑は、Lula大統領をはじめPT陣営の“権威主義”とも称された対マスコミ批判とともに、Dilma候補の支持率低下へボディー・ブローのように効いて行ったのである(グラフ5)。

さらにまた、投票日前夜とも言える9月の最終週には、妊娠女性の中絶の可否に関するDilma候補の二枚舌的な発言が問題視され、対抗馬であるPSDB(ブラジル社会民主党)のSerra候補やPV(緑の党)のMarina候補から批判されるだけでなく、カトリック教徒からの支持が減少する契機となった。汚職疑惑で支持基盤が揺らぎ始めていたDilma候補にとって、この中絶に関する発言問題は“最後の止め”ともいえる効果があり、投票日直前の世論調査でDilma候補の支持率は明らかに低下し、1回目の投票での当選が微妙な情勢となった。
そして、10月3日(日)に行われた第1回投票の有効得票率は、Dilma候補46.9%、Serra候補32.6%、Marina候補19.3%、その他候補合計1.2%となった。1位のDilma候補は2位のSerra候補に14.3%もの差をつけたが、事前に予想されていた過半数に達しなかったため、両者による決選投票が10月31日(日)行われることになった。
グラフ5 大統領選挙の投票動向に関する世論調査:6月以降
(出所)IBOPE

また今回は大統領だけでなく、連邦上院・下院議員、州知事(決選投票あり)、州議員の選挙も行われた。これら選挙の結果により、Lula大統領のPTと選挙協力関係を結んだ政党(PRB、PDT、PMDB、PTN、PSC、PR、PTC、PSB、PC do B)グループが、連邦議会での議員数を増やす結果となった(表1)。

表1 2010年の連邦上院議員選挙の結果(暫定)

下院議員
選挙前
選挙後
PMDB
90
79
PT
79
88
PSDB
59
54
DEM(PFL)
56
43
PP
41
40
PSB
27
34
PDT
23
26
PR(PL)
40
40
PPS
15
14
PTB
22
20
PCdoB
12
15
PSC
16
16
PV
14
14
その他
19
30
合計
513
513
表2 2010年の連邦下院議員選挙の結果(暫定)

上院議員
選挙前
選挙後
PMDB
17
19
PT
8
13
PSDB
16
11
DEM(PFL)
13
7
PP
1
5
PDT
6
4
PR(PL)
4
4
PTB
7
6
その他
9
12
合計
81
81

 

(出所)TSEと上下院議員サイト、及びEstado de São Paulo, 4 e 5 de outubro(表1と2)。
(注)選挙戦における協力関係により政党を色分け。また選挙前の議席数は2010年8月18日時点のもの(表1と2)。

社会

社会指標:IBGE(ブラジル地理統計院)が毎年実施している全国家計調査(PNAD)の2009年版が発表され、全般的に社会経済指標は改善傾向にあるが、そのスピードは緩慢であるという結果となった。特に、7年連続で低下していた合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)が上昇したものの、人口に関して少子高齢化が進んでいること、正規雇用の増加の一方で失業率の改善が進まないこと、家計の消費力は増大したが、下水道をはじめとする衛生設備の普及や教育の改善が課題であること、などがブラジルの現状として明らかになった。なお今回のPNADには、いくつかの主要な指標に関して過去のヒストリカルなデータも記載されている(表2)。

また、このPNADのデータをもとに民間の研究機関FGV(ファルガス財団)が調査研究を行い、2009年にブラジルの総人口の半数以上となる9,490万人が、中間層(Cクラス:世帯平均月額所得がR$1,126~R$4,854)を構成するに至ったとの結果を発表した。このような近年ブラジルで拡大する「新たな中間層」に関しては、以前から別の調査研究により人口の半数以上に及ぶとの指摘がなされていた。しかし、今までの指摘は国内の6大都市圏のデータを根拠としたもので、今回初めて全国規模のデータをもとに、ブラジルの「新たな中間層」が人口の半数以上に上ることが実証された
表3 全国家計調査の概要
人口指標 概要:地域別以外はブラジル全国の数値
高齢者(60歳~)割合 1992年(7.9%)  1997年(8.6%)  2001年(9.0%)  2009年(11.4%)
合計特殊出生率:人 2001年(2.33)  2004年(2.13)*  2008年(1.89)*  2009年(1.94)*
世帯保有財
上水道 1981年(60.1%) 1990年(73.4%) 2001年(81.0%) 2009年(85.3%)
幹線下水道 1992年(38.9%)  2001年(45.4%) 2009年(53.3%)
ゴミ回収 1981年(49.2%) 1990年(64.5%) 2001年(83.2%) 2009年(89.4%)
電気 1981年(74.9%) 1990年(87.8%) 2001年(96.0%) 2009年(99.1%)
電話 1992年(19.0%)  2001年(58.9%) 2009年(84.9%)
 携帯電話のみ 2001年(7.8%)  2009年(41.3%)
冷蔵庫 1981年(56.6%) 1990年(71.1%) 2001年(85.1%) 2009年(93.9%)
テレビ 1988年(71.5%) 1990年(73.7%) 2001年(89.0%) 2009年(96.0%)
インターネットPC 2001年(8.5%)  2009年(27.7%)
自動車* 2008年(36.4%) 2009年(37.4%)
教育
文盲率:15歳以上 1992年(17.2%)  1997年(14.7%) 2001年(12.4%) 2009年(9.6%)
機能的文盲率:同上 2004年(24.4%)  2009年(20.3%)
就学率:7-14歳 1992年(86.6%)  1997年(93.0%) 2001年(96.5%) 2009年(98.1%)
就学11年以上割合 1992年(14.1%)  1997年(17.0%) 2001年(21.7%) 2009年(33.3%)
就学年数3年以下*
:年齢10歳以上
2008年(22.8%)  2009年(23.3%)
労働・所得
失業率 1992年(6.5%)   1997年(7.8%)   2001年(9.3%)  2009年(8.4%)
正規雇用率 1992年(56.6%)  1997年(55.0%) 2001年(54.1%) 2009年(59.9%)
児童(5-17歳)労働率* 2008年(10.2%)  2009年(9.8%)
世帯平均所得:R$ 1992年(1,482)   1997年(2,149)  2001年(1,894)  2009年(2,099)
有所得世帯ジニ係数 1992年(0.547)   1997年(0.573)  2001年(0.558)  2009年(0.509)
(出所)IBGE/PNAD
(注)Rondônia, Acre, Amazonas, Roraima, Pará, Amapáの農村部を除く。ただし*の数値は同農村部を含む。