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月間ブラジル・レポート(2010年6月):経済成長のピークは中国並み

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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経済

第1四半期GDP:発表された2010年第1四半期のGDPは、前期比2.7%、前年同期比9.0%で、年率換算では最近の中国の経済成長に匹敵する11.2%となり、世界金融危機から脱したブラジル経済の好調さを裏づけるものとなった(グラフ1~3)。第2四半期以降のGDPは貿易での輸入超過、景気回復策の終了や金利上昇に伴う国内需要の低下などから緩やかな伸びになると予想されているが、過去9ヶ月の間、ブラジルは年率換算で10%以上の経済成長が続いて来ており、2010年のGDPも当初の予測を上回る7~8%になるとの見方が多くされている。

第1四半期GDPの需要面を見ると、特に総固定資本形成(前期比7.4%、前年同期比26.0%)の伸びが顕著で、前期比で3期連続の7%台、前年同期比では同統計が開始された1995年以来で最高の数値を記録した。このことは、世界金融危機で冷え込んだ投資が工業を中心に再び活発化していることを意味しており、後述する供給面でも確認することができる。また、家計支出(同1.5%、同9.3%)は前年同月比が26期連続でプラスと今回も順調だったが、直近の各四半期に比べ伸び率が鈍化しており、旺盛な国内需要に牽引されて来た最近のブラジル経済の成長が、今後は若干スピード・ダウンするだろうとの観測の一根拠となっている。政府支出(同0.9%、同2.0%)は、10月の選挙も意識した中で公共事業の推進や最低賃金の引き上げなどが行われたため、若干ながら伸び率が漸増している。なお貿易に関しては、輸出(同1.7%、同14.5%)と輸入(同13.1%、同39.5%)ともにプラス成長を記録したが、為替のレアル高、国内需要の増大、投資の増加による産業機械をはじめとする資本財の輸入増加などの影響から、輸入の伸びが顕著なものとなった(前年同期比の39.5%は過去最高)。

供給面では、工業が前期比で4.2%と4期連続のプラス成長、前年同期比でも14.6%と大幅な伸びを記録した。特に、設備投資の活発化や景気回復策による耐久消費財への税金減免措置の影響もあり、前年同期比で製造業が17.2%、建築業が14.9%の高い伸びとなった。また、前回までと同様にサービス業(同1.9%、同5.9%)が堅調な伸びを示したが、その中でも商業(小売・卸業)が前年同期比15.2%の高い成長率を記録した。さらに、過去にマイナス成長が続いていた農牧業(季節調整のない前年同期比で4期連続)も、前期比2.7%、前年同期比5.1%とようやくプラス成長に転じた。

なお中央銀行は月末の30日、今年の年間GDP予測を5.8%から7.3%へと引き上げた。この数値は市場関係者の平均予測である7.13%を上回るもので、今回発表された中国並みの第1四半期GDPに見られるように、最近のブラジル経済は予想を上回るペースで成長を遂げている。第2四半期以降そのペースはダウンすると見られているが、今後は高い経済成長に起因するインフレを如何にコントロールできるかにより注目が集まって来るといえる。
グラフ1 四半期GDPの推移
(出所)IBGE

グラフ2 2010年第1四半期GDPの需給部門の概要
(出所)IBGE

グラフ3 四半期GDPの需給部門別の推移:前期比(季節調整済み)
(出所)IBGE

貿易収支:6月の貿易収支は、輸出額がUS$170.95億(前月比▲3.4%、前年同月比18.2%増)、輸入額がUS$148.17億(同3.9%増、同50.2%増)で、輸出入とも前年同月比では増加したが輸出が前月比でマイナスとなったため、貿易黒字額も前月比マイナスのUS$22.78億(同▲33.9%、同▲50.5%)にとどまった。また年初からの累計は、輸出額がUS$891.89億(前年同期比27.5%増)、輸入額がUS$813.02億(同45.1%増)、貿易黒字額がUS$78.87億(同▲43.3%)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$76.28億(1日平均額の前月比▲11.0%)、半製品がUS$25.41億(同9.0%増)、完成品がUS$65.32億(同0.6%増)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$28.23億、同▲18.6%)、2位が米国(US$17.00億、同18.6%増)、3位がアルゼンチン(US$14.88億、同1.8%増)、4位がオランダ(US$7.83億)、5位がドイツ(US$7.24億)であった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では鋳造鉄(171.0%増、US$1.12億)や鉄鋼半製品(170.2%増、US$3.02億)が大きな伸びを記録し、減少率では半加工金(▲57.6%、US$0.56億)や大豆(▲42.2%、US$14.89億)のマイナスが顕著であった。さらに輸出額では、増加率も大きかった鉄鉱石(US$23.25億、同130.0%増)や原油(US$11.52億、同123.1%増)、前述の大豆など一次産品3品目が今月もUS$10億を超える取引額を計上した。最近のブラジルの輸出に関しては、一次産品や半製品などコモディティー関連品目が大きなシェアを占める傾向にあり、輸出品目のバランスを改善すべきとの指摘もなされている。

一方の輸入は、資本財がUS$33.57億(1日平均額の前月比3.7%増)、原料・中間財がUS$67.25億(同2.7%増)、非耐久消費財がUS$9.88億(同▲4.4%)、耐久消費財がUS$15.17億(同6.4%増)、原油・燃料がUS$22.30億(同10.8%増)となった。主要輸入元は、1位が米国(US$22.24億、同5.5%増)、2位が中国(US$20.00億、同5.5%増)、3位がアルゼンチン(US$13.21億、同▲8.0%)、4位がドイツ(US$9.94億)、5位が韓国(US$8.80億)であった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では家庭用機器(122.4%増、US$3.13億)、家具・装備品(115.3%増、US$0.73億)、鉱物品(112.6%増、US$14.67億)、輸送関連機器(107.5%増、US$4.86億)が100%を上回る伸びとなった。一方の減少率に関して主要品目の中でマイナスを記録したものは、農業のためのその他原料(▲26.2%、US$3.80億)のみであった。また輸入額では、化学薬品(US$18.48億、同38.5%増)、前述の鉱物品、部品等中間財(US$10.02億、同49.3%増)の原料・中間財3品目がUS$10億を超える取引額を記録した。

物価:発表された5月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.43%(前月比▲0.14%p、前年同月比▲0.04%p)で、第1四半期GDPなどに見られるように景気が過熱気味なため依然インフレ懸念が残るものの、今年に入り最も低い上昇率にとどまった。非食料品価格は0.48%(同0.17%p増、0.00%p)であったが、今年に入り大幅な値上がりが続いていた食料品価格の上昇率が0.48%(同▲1.17%p、▲0.16%p)と大きく低下したことが、物価全体の安定の要因となった。また、年初来の累計は3.09%(前年同期比0.89%p増)となった。

食料品に関しては、タマネギ(4月:11.85%→5月:14.68%)やフェイジョン豆(カリオカ:同43.13%→12.96%、茶色:同10.43%→8.28%、黒:同4.72%→8.01%)の値上がりが顕著であったが、トマト(同9.01%→▲23.78%)、クリスタル糖(同▲0.61%→▲7.66%)、魚(同0.88%→▲5.26%)などの食料品価格が下落または小幅な上昇にとどまったことが、全体の価格安定に寄与した。また非食料品では、家具類(同▲0.36%→1.35%)、マンション管理費(同▲0.60%→1.17%)、医薬品(同2.22%→1.16%)、家庭内労働者の賃金(同1.60%→1.12%)などが1%を超える値上がり率となる一方、下落幅は縮小したが燃料代(同▲1.23%→▲0.04%)は前月に続きマイナスを記録するなど、全体では小幅な価格上昇となった。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は8日、Selicを9.50%から10.25%へ引き上げることを全会一致で決定した。Selicの引き上げは前回の4月に続き2回連続で、引上げ幅も前回と同様0.75p%であり、市場関係者の大方の予測と一致するものであった。今後のSelicに関しては、同日発表の5月のIPCAは落ち着いた数値だったが、前日発表の第1四半期GDPが急速な経済成長を裏付けるものだったため、インフレ・コントロールと安定的かつ持続的な経済成長を実現するため、今後も漸次引上げられるとの見方が多くされている。Lula大統領も「インフレ抑制のためには何でもする」、「選挙プロセスがブラジルの経済発展の妨げとなってはならない」(Estado de São Paulo, 9 de junho)と述べ、金利引き上げは今後激しさを増す選挙戦にとって必ずしも有利な材料ではないが、現実主義的な立場から経済の安定的成長を優先する姿勢を強調した。

為替市場:6月のドル・レアル為替相場は、EU諸国の財政問題とそれに伴う通貨ユーロの下落などの影響から、月の初めは先月までと同様、ドル高レアル安の流れとなり、8日には月内のドル最高値となるUS$=R$1.8658(売値)までドルが上昇した。しかし、EU問題が小康状態になるとともに財政不安のある一部諸国の国債入札が無事終了したことや、米国景気の予想以上の回復の遅れからドルが敬遠されたこと、さらに国内的には、発表されたGDPに見られる高い経済成長とそれに伴うSelic金利の引き上げにより、高金利通貨レアルの魅力が増したこともあり、ドル安レアル高の展開となり21日にはUS$=1.7655(買値)までレアル高が進行した。その後、中国が表明した通貨元の柔軟化などを好感しドルが再び値を戻し、月末はUS$=1.8007(買値)で6月の取引を終えた。

株式市場:6月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、国内経済が中国並みの好調さを示す一方で金融市場では不安材料が多く、前月末比で3カ月連続のマイナスとなる月間▲3.35%の下落を記録した。月の初めのBovespa指数は、ハンガリーなどでも財政問題が顕在化したことなどを受けて軟調に推移し、7日に61,183pの月内最安値をつけた。その後は、EU諸国の財政懸念がひとまず収まったことや中国による通貨元の柔軟化などを好感し、世界の主要株価が上昇に転ずるとBovespa指数も値を上げる展開となり、23日には65,160pの月内最高値を記録した。しかし、楽観的な見方が多かった米国経済に関して、発表された経済指標が景気減速懸念を強めるものだったことや、Petrobrásが7月に予定していた増資を9月に延期したことをはじめ、同社の信用力および資金や技術面におけるPré-Sal油ガス田開発の実現可能性に対し懐疑的な見方が強まったことなどから、月末には60.936pまで急落し6月の取引を終了した。

政治

大統領選挙動向:民間調査機関(IBOPE)による大統領選挙に関する世論調査が行われ(グラフ4)、Dilma候補(PT:労働者党)とSerra候補(PSDB:ブラジル社会民主党)の支持率が3日時点で両者とも37%、決選投票の場合でも42%と全くの同率となった。しかし、21日の調査ではDilma候補が40%、Serra候補が35%となり、昨年来の同世論調査においてDilma候補が初めてSerra候補を上回り、選挙戦のトップに躍り出ることとなった。また、決選投票の場合もDilma候補(45%)がSerra候補(38%)を上回る結果となり、この傾向は月末に発表された他の世論調査(Vox Populi)でも同様の結果となった。

今回行われた他の項目の調査結果などから、Dilma候補の支持率上昇要因としては、9割弱にまで達したLula大統領の国民からの圧倒的な人気がまず挙げられる(グラフ5)。調査でも約半数の回答者が「Lula大統領が支持する候補に投票する」と答えている。また、第1四半期GDPに見られるように中国並みにまで達した最近の経済の好調さも、現政権のDilma候補には有利な材料となっており、6割以上の回答者が「現政権の政策の継続または若干の修正を望む」と答えている。さらにDilma候補は、規模的に最大であるPMDB(ブラジル民主運動党)のMichel Temer下院議員を副大統領候補に指名し、同党との選挙協力をいち早く確立しており、このことがDilma候補への組織的な支持拡大につながったと考えられよう。

一方、全国的に高い知名度から常に世論調査のトップであったSerra候補であるが、副大統領候補の決定で迷走したことが、自身の出馬表明の相対的な遅れとも相俟って、選挙戦への準備不足との印象を与えてしまい、支持率が低下したと考えられる。副大統領候補としては、政治的な関係の深いDEM(民主党)から選出し選挙での協力関係を結ぶという選択肢もあったが、昨年末から今年にかけブラジリアで同党の汚職事件が発覚したこともあり、PSDB内では正副大統領候補ともに自党から選出することを望む声が強くなっていた。そのため、同党所属で人気の高いNeves前ミナス・ジェライス州前知事への期待が高まっていたが、同士は早々と副大統領候補としては立候補しない旨を表明。そこでSerra候補およびPSDBは候補者選びに奔走を続けた末、25日に一旦は同党のÁlvaro Dias上院議員を副大統領候補にすると発表した。しかしDEMは、副大統領候補に自らの党首を推していたことに加え、事前協議なしにPSDBが副大統領候補を一方的に発表したため、この決定に強く反発した。そして、DEM が30日開催の党大会でPSDBのDias上院議員案を拒否し、両党の選挙協力関係が決裂する危機に陥ったため、Serra候補の副大統領候補者選びはさらに迷走することになり、最終的にSerra候補はDEMとの選挙協力を優先するため、同党のÍndio da Costa下院議員を自らの副大統領候補として選出することを決定した。

10月の選挙日までまだ3ヶ月あることから、今後も状況の変化は大いに考えられ、今回リードしたDilma候補側に対しても過去の選挙での不正行為疑惑が取り沙汰されている。しかしリーダー・シップやカリスマ性に関して、Serra候補のそれはDilma候補プラスLula大統領と比べると大きく見劣りする面は否めないであろう。さらにPT陣営側は昨年、巨大“乗り合いバス”政党PMDBの有力議員Sarney上院議員が窮地に追い込まれた際(2009年8月レポート政治欄を参照)、なりふり構わず同議員とPMDBの防衛に奔走した。その結果が今回の選挙戦への周到な準備につながっているといえ、良きにつけ悪しきにつけ、現在のところPT陣営の方が一枚上手だと言うことができよう。
グラフ4 大統領選挙の投票動向に関する世論調査
(出所)IBOPE

グラフ5 Lula大統領に関する世論調査
(出所)IBOPE

社会

北東部大雨:北東部のアラゴアス州とペルナンブコ州の一部の地域は、18日から断続的な大雨に見舞われた。この大雨により浸水や土砂崩れ、堤防の決壊による大洪水などが発生し、これらの災害による死者数と行方不明者数はそれぞれ50人以上、家屋を失うなどの被災者は10万人以上に達し、エタノール工場などの産業施設も被害を受ける事態となった。また、大雨による直接的な被害に加え、ライフ・ラインの断絶と復旧の遅れもあり、商店や家屋からの略奪行為による治安の悪化や、衛生状況の悪化による伝染病の蔓延などの間接的な被害も発生した。

政府はこれらの問題へ対処すべく被災地に軍隊を派遣するとともに、R$1億もの資金を援助対策として拠出することを決定した。またLula大統領は、予定していたG-20への出席を急遽取りやめて被災地を訪問するなど、国内問題を優先し事態の沈静化へ向け断固として取り組む姿勢を鮮明にした。このような政府およびLula大統領の対応は、大統領選挙との関連があることも明らかであるが、大規模かつ迅速だったといえる。

しかし問題は、今回のような大雨を“天災”にしてしまう都市インフラ整備の遅れにあるといえよう(1月と4月レポートの社会欄を参照)。最近は中国並みの高い経済成長を実現し、今後は現在南アフリカで開催中のワールド・カップやオリンピックが開催されるブラジルだが、同国で頻発する“天災”には“人災”の側面が多く、このような災害発生の抑制や防止が喫緊の課題だといえる。