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月間ブラジル・レポート(2010年5月):世界とのブラジル的結びつき方

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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経済

貿易収支:5月の貿易収支は、輸出額がUS$177.02億(前月比16.8%増、前年同月比47.7%増)、輸入額がUS$142.59億(同2.7%増、同52.3%増)で、輸出入ともに増加したが輸出の増加幅が輸入のそれを上回ったため、貿易黒字額はUS$34.43億(同168.4%増、同31.3%)と今年の最高額を記録した。また年初からの累計は、輸出額がUS$720.92億(前年同期比29.9%増)、輸入額がUS$664.47億(同43.9%増)、貿易黒字額がUS$56.18億(同▲39.6%)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$85.74億(1日平均額の前月比16.4%増)、半製品がUS$23.30億(同15.6%増)、完成品がUS$64.94億(同4.0%増)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$34.66億、同30.5%増)、2位がアルゼンチン(US$14.54億、同5.9%増)、3位が米国(US$14.33億、同▲15.9%)、4位がオランダ(US$8.50億)、5位がドイツ(US$5.98億)で、前月比でマイナスとなった米国が先月の2位から3位へと順位を下げた。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、土木作業機械(225.7%増、US$1.23億)、酸化・水酸化アルミニウム(225.0%増、US$1.20億)、アルミニウム鉱石(220.4%増、US$1.15億)が200%を上回る大幅な増加率を記録した。その一方、タバコ葉(▲16.9%、US$2.86億)や大豆粕(▲11.9%、US$4.55億)の減少率が顕著であった。さらに輸出額では、資源大手のValeにより大幅に値上げされた鉄鉱石(US$21.90億、同159.6%増)をはじめ、大豆(US$20.90億、同15.5%増)、原油(US$17.44億、同175.5%増)の一次産品3品目がUS$20億前後の取引額を計上し、今月も大きなウェイトを占めた。

一方の輸入は、資本財がUS$32.36億(1日平均額の前月比8.0%増)、原料・中間財がUS$65.74億(同▲0.9%)、非耐久消費財がUS$10.10億(同1.4%増)、耐久消費財がUS$14.26億(同2.9%増)、原油・燃料がUS$20.13億(同▲21.3%)となった。主要輸入元は、1位が米国(US$22.27億、同5.5%増)、2位が中国(US$18.41億、同5.5%増)、3位がアルゼンチン(US$11.22億、同▲8.0%)、4位がドイツ(US$9.90億)、5位が韓国(US$8.15億)であった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率に関しては100%超となった家庭用機器(166.9%増、US$3.02億)と家具・装備品(150.7%増、US$0.77億)をはじめ、多くの品目でアップしたのに対し、減少を記録したものは主要品目ではなかった。また輸入額では、化学薬品(US$18.07億、同50.6%増)、鉱物品(US$14.03億、同65.0%増)、産業機械(US$14.03億、同65.0%増)がUS$10億を超える取引額となった。

5月の貿易黒字額は昨年6月(US$46.06億)に次ぐ高いものとなったが、最大の輸出先は金額および増加率から中国であることがわかる。特に、先述した3大輸出品の輸出先の1位はいずれも中国であり、このことは最近のブラジルの一次産品輸出と中国の高度経済成長が相互依存関係にあることを表している。また、中国は毎月の輸入額でもほぼ常に2位であることから、貿易に関してブラジルが中国との双方向の関係を軸に世界と結びついていることがわかる。

物価:発表された4月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.57%(前月比0.05%p増、前年同月比0.09%p増)で、景気回復策だった自動車への時限的減税措置の終了や医薬品の価格調整などの特殊要因があったものの、最近継続的に高まりつつあるインフレ圧力を感じさせるものとなった。なお、食料品価格は1.45%(同▲0.10%p、1.30%p増)、非食料品価格は0.31%(同0.09%p増、▲0.27%p)であった。また、年初来の累計は2.65%(前年同期比0.93%p増)となり、3月(0.83%p増)より増加幅が拡大した。

食料品に関しては、コメや果物など一部の主要食料品が値下がりしたものの、各種フェイジョン豆(3月:6.64%→4月:27.88%)、ジャガイモ(同8.44%→19.70%)、タマネギ(同5.63%→11.85%)が10%を超える値上がりとなったほか、多くの食料品も価格が上昇したため、全体として物価は高止まりとなった。また非食料品では、前述の減税措置終了により自動車(同▲0.72%→1.04%)価格が大幅に上昇したことに加え、衣替えの時期に当たる衣料品(同0.66%→1.28%)も大きく値上がりした。その一方、家具・家庭用品(同1.00%→▲0.04%)をはじめ3つの分野では価格が下落することとなり、食料品に比べ全体としての大幅な物価上昇とはならなかった。

金利:5月は、政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは6月8日と9日に開催予定。

為替市場:5月のドル・レアル為替相場は、月初めの3日に月内ドル最安値のUS$=R$1.7307(買値)で取引が始まった後は、ギリシャ財政危機とEU諸国による支援体制の迷走ぶりに振り回され乱高下しながらも、通貨ユーロの信用低下と将来に対する不安の高まりからドルが強含み、先月とは異なるドル高レアル安傾向へと転じた。そしてさらに、朝鮮半島での軍事的緊張が高まると“有事のドル買い”からドルを買う動きが活発化し、25日には昨年9月初旬以来となるUS$=R$1.8811(売値)までドル高が進行した。しかしその後、海外の不安要素に対する懸念が後退するとともにレアルが買われ、月末はUS$=1.8159(買値)までレアルが値を戻し5月の取引を終えた(グラフ1)。
グラフ1 為替相場の推移:過去2年間
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:5月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、為替相場と同じく外的要因に翻弄され、月間で▲6.64%もの大幅な下落を記録することとなった(グラフ2)。まずは先月から引き続く欧州危機に関して、ギリシャをはじめとする財政問題の拡散と事態の混迷化、EU諸国内での支援方策をめぐる足並みの乱れ、さらにはEU存続自体への先行き不安の波及などから、Bovespa指数は月初に67,119pの月内最高値をつけたあと急落した。さらに、メキシコ湾の原油流出事故が米国史上最悪の規模へ拡大したことや、北朝鮮と韓国の情勢が緊迫化したことから、今年初めて60,000pを割り込み、20日には昨年9月前半以来のレベルとなる58,192pまで下落した。しかし、海外の情勢がひとまず落ち着きを取り戻したことや、ブラジルのカントリー・リスクの変動にも現れているように(グラフ3)、ブラジルの経済成長に関しては楽観的な見方が強いことなどから、月末には63,046pまで回復し5月の取引を終了した。

近年のブラジルの安定した経済発展の実現には、グローバル化した世界との経済的な結びつきをより適切かつ有利なかたちで深めることが、一つの重要なポイントだったといえよう。したがって、今回の欧州危機をはじめとする外的要因による影響はある程度不可避な部分もあるが、現在までのところ2008年のリーマン・ショックほどのインパクトを受けるには至っておらず(グラフ1,2,3)、また、2010年の第1四半期GDPに関しては中国やインド並みの高い数値になるとの予測もされている。
グラフ2 株式相場(Bovespa指数)の推移:過去2年間
(出所)サンパウロ株式市場

グラフ3 ブラジルのカントリー・リスクの推移:過去2年間
(出所)
(出所)J.P.Morgan

政治

イラン核問題:イランの核問題に関して、欧米諸国だけでなくロシアや中国も含め世界の大半の国々が強硬な姿勢を強める中、ブラジルは経済制裁に反対し仲介役として独自外交を展開してきた(2009年11月レポート参照)。そして5月17日、Lula大統領は訪問先のテヘランでAhmadinejadイラン大統領および急遽合流したトルコのErdogan首相と会談し、イランが保有する低濃縮ウランのトルコへの移送などに関する合意文書への調印を行った。なお、主にブラジル側の情報にもとづく見方であるが、当初予定されていたトルコ代表のトップは外相で、Erdogan首相の出席は想定外だったことからも、今回の合意締結はブラジルが少なからぬイニシアティブを取るかたちで進められたと考えられよう。

しかし、欧米諸国はこの合意に反対または懐疑的な見解を表明し、特に米国は合意発表直後に追加の経済制裁決議案を国連安保理に提出するなど強硬な姿勢を改めて示し、イランや仲介を行ったブラジルとトルコを強くけん制した。これに対しイランおよびブラジルとトルコは反発するのであるが、27日にはブラジリアを訪れたErdogan首相が「合意を批判する欧米諸国は妬みを持っている」と述べ、Lula大統領も外交による交渉の重要性と成果を強調した。一方の米国は今回の合意を“受け入れられざるもの”と評し、Hillary国務長官は「米国とブラジルの外交の相違は深刻な問題で、世界をより危険な状況に追い込む」(Estado de São Paulo, 28 de maio)と述べ、ブラジルの外交姿勢を強く非難した。

さらにまた今回のイラン核問題合意に関し、ブラジルと米国の外交関係を複雑化させたのが、Obama大統領の書簡である。この書簡は4月20日にObama大統領からLula大統領へ送られ、ブラジルの対話外交に対するObama大統領の同調を伝えたとされるものである。しかし、米国外務省はこの内容を強く否定するとともにブラジルの外交路線を批判し、ブラジル側もこれに対し不快感を表明する事態となった。同書簡の内容が如何であったかは定かでないが、もし事実であるとすれば、対イラン外交で一見反目し合うように見える両国が、実は首脳レベルで連絡を取り合っていたこと、さらにはブラジルを通して米国とイランが対話していた可能性さえも浮上することになる。いずれにせよ、国際舞台において新興国のスポークスマンとしてプレゼンスを高めようと目論むブラジルと、過去に中南米地域を“自国の裏庭”としてきた米国との関係は、一面的でなく多面かつ重層的なものだといえよう。

また、ブラジルがイラン核問題を仲介する主な意図としては、経済、核問題、政治の3つを挙げることができよう。はじめの経済的意図は、イランが人口7,400万人を抱えブラジルの輸出にとって魅力的な市場である点や、産油国であるためPetrobrasなどによる石油開発事業の展開が期待できる点が挙げられる。実際に今回のLula大統領のイラン訪問時にも、対イラン輸出融資枠や石油産業施設の近代化などに関する調印がなされている。

次の核問題に関する意図は、ブラジルの核エネルギー開発に対する世界各国からの賛同の取り付け、および最近一部のメディアなどが報じているブラジルの核武装疑惑(SPIEGEL, 5/7/2010)の払拭、という狙いがあると考えられる点である。水力発電に大きく依存するブラジルは、エネルギー問題の改善策の一つとして原子力発電に力を入れているが、さらなる原子力発電所の建設や技術導入には海外からものも含む巨額の投資を要するため、世界各国の賛同が不可欠となる。ただこれだけでなく、近年、近海で相次いで発見された大規模な海底油ガス田などの資源を守るという観点から、ブラジルは国防を強化している。そしてブラジルは、この国防強化を主にフランスとの関係を密にしながら進めているが、その中に原子力潜水艦が含まれている。ブラジルは憲法で核兵器の所有や開発を禁じていることから、同国が核武装することはまず考えられないが、核エネルギーの“平和的”利用は「権利」であると主張しており、この論理により原子力潜水艦の開発を正当化しているとされる。したがってブラジルは、核エネルギーの平和的利用は権利だとする論理や主張でイランと合致する面があり、この大義名分をもとにイラン問題へ介入することで、イランだけでなく実は自国の核エネルギー開発の諸問題をも解決しようと試みていると考えられよう。そしてそれらの諸問題とは、原子力発電への賛同とそれに基づく投資誘致、核エネルギーを“平和的”に利用した原子力潜水艦などの軍事力強化への理解が挙げられる。そしてさらに、海外の一部でささやかれているブラジルの核武装疑惑(軍事施設内の可能性が指摘されている)の否定または回避も考えられ、このことは、濃縮ウランをブラジルでなくトルコへ移送するかたちで合意した点にも現れているといえよう。

最後の政治的意図に関しては、ブラジルが世界における政治的プレゼンスの増強を図っている点を指摘できる。この試みは概して、国連の安全保障理事会の常任理事国入りという具体的な目標に収斂できるが、今回の件に関しては、米国などの主要各国からあまり賛同を得られていないため、このような具体的な目標は念頭に置いていないと思われる。それよりもブラジルは、現在またはこれからを世界の勢力図のターニング・ポイントと捉えていると考えられよう。つまり、米国のヘゲモニーの低下と中国をはじめとする新興国の台頭により、今後世界はいくつかの国を中心にパワー・バランスが分散化して行くと捉え、ブラジルはその中でラテンアメリカ地域を代表する“いくつかの国”の一つである、またはそうなろうとしていると理解できるのである。

イランはラテンアメリカの急進左派政権のボス的存在であるベネズエラと友好関係にある。そのため、ブラジルが途上国のリーダーとしてイラン問題を仲介することは、変わりつつある世界の勢力図の中でブラジルだけでなくラテンアメリカ地域の政治的安定や地位向上に資するといえる。またその一方でLula大統領は、イラン訪問前にロシアに立ち寄って根回しを行い、イラン訪問時には現地においてスパイ活動の容疑で拘束されていたフランス人女性の解放に一役買い、Sarkozy大統領から感謝の言葉を送られている。さらに先述のObama大統領の書簡に関しても、内容は如何にせよLula大統領が米国のトップとパイプを維持して動いていることを物語っている。したがって、たとえイランが今回の合意を守らなかったとしても、その交渉に奔走し、上記のような具体的行動を行ったブラジルは、「核問題の平和的解決に尽力した国」という肯定的なイメージを世界から獲得することができよう。そしてこのことは、前述の核問題に関する意図に対してもポジティブな影響をもたらすといえる。

今回のイラン核問題へのブラジルの介入の仕方から、ブラジルが世界とどのように結びつこうとしているのかを理解することができよう。しかしこのブラジルの世界との結びつき方は、主に欧米諸国から反感を買うリスクもあり、バランスや説明責任が求められるものだといえる。またそして、このブラジルの独自外交の実現には交渉と調整に長けたLula大統領の存在が大きく、来年の政権がPT(労働者党)でなくなった場合、現在とは展開が異なってくる可能性も大いにある。ただし最近の世論調査では、PTのDilma候補の支持率が上昇し、PSDB(ブラジル社会民主党)のSerra候補とほぼ同率になったという結果が出ている。

社会

道筋を指し示す?IPEA:ブラジルには同国の政治、経済、社会を分析するIPEA(応用経済研究所)という研究機関がある。IPEAは政府の研究機関であるため、その研究成果は公共政策に反映されることも多い。IPEAの詳細については、拙稿「IPEA—ブラジルの「道筋を指し示す」応用経済研究所pdf」を参照いただきたいが、政治や経済を含むブラジル社会の動向や構造を理解するにあたり、その調査研究は、国内外の研究者にとって非常に有用であるとともに、ブラジル国民にとっても現地のメディアなどで多く取り上げられるため影響力の強いものだといえる。ただし、最近のIPEAの動向や調査研究の内容に関しては、2007年にLula政権がIPEAの管轄変更や所長交代を行ったため、研究所の中立性という観点から議論や批判を引き起こす事態となっていた。

そしてこの5月末、IPEAの所長がベネズエラへ向かうことになった。その目的は、今年の後半にベネズエラでIPEAのカラカス事務所を開設することだとされている。IPEAはベネズエラのほかにアンゴラとも事務所を開設すべく準備交渉を進めており、これら2カ国がIPEA最初の海外事務所になる予定だとされる。アンゴラはアフリカの大西洋岸に位置するポルトガル語圏の国であるため、より経済発展を遂げたブラジルがIPEA事務所の開設を通じ、アンゴラを足がかりとした南南協力の推進を意図していると理解できよう。しかし、南米諸国の中で何故ベネズエラが最優先されたのであろうか。

ベネズエラでのIPEA事務所開設は、2年ほど前から進められてきた計画だとされる。Lula大統領は4月にChávez大統領と会った際、「ブラジルとベネズエラの関係の真の強固さに多くの人がまだ気づいていない」(Estado de São Paulo, 25 de maio)と述べている。しかし現在ベネズエラの社会は、6月20日発行予定の『ラテンアメリカ・レポート』の現地報告(坂口安紀・海外研究員)にあるように、非常に混乱した状況だと言わざるを得ない。またLula大統領は前述の機会の際に、「現地の経済発展に寄与すべく、今後、他の南米諸国へもIPEA事務所を開設していきたい」(同)とも述べている(注:原出所では各国名が挙げられているが、なぜかコロンビアは言及されていない)。今回のIPEAのベネズエラ事務所開設に見る、世界とのブラジル的またはLula政権的結びつき方には、ブラジル社会がベネズエラのような状況に陥ることは現実的にあり得ないとしても、一抹の危惧を禁じ得ない面もある。