skip to contents.

月間ブラジル・レポート(2010年3月):過去よりも今後のこと

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
PDFpdf(254KB)

経済

2009年GDP: 2009年の年間と第4四半期GDPが発表され、年間が1992年(▲0.54%)以来のマイナスとなる▲0.2%を記録した。しかし今回の結果は、2009年第3四半期発表の昨年12月時点で既に予測されていたレベルだったこと、四半期ベースでは前期比2.0%、前年同期比4.3%とブラジル経済の回復基調を裏付けるものだったこと、中国(8.7%)やインド(予測7%前後:3月年度末)を除き世界各国がリーマン・ショック後の不況に苦しむ中で最悪期の落ち込みが相対的に軽微だったことなどから、数値としてはマイナスを記録したが今後の経済成長を予感させるものとして、比較的前向きに受け止められた。

また、2009年時点の人口が約1億9,148万人(推計)のため、1人当たりGDPはマイナスとしては2003年(▲0.2%)以来、幅の大きさでは1999年(▲1.2%)以来となる▲1.2%を記録した(グラフ1と2)。ただし2010年のGDPに関しては、政府機関をはじめ市場関係者や国際機関の大半の予測が、5%台半ばを中心とした数値となっている。ブラジル経済に関して、2009年GDPは世界同時不況の影響を受け後退を余儀なくされたが、今後また元の安定成長に戻るであろうとの見方が大勢を占めている。
グラフ1 過去10年間の年間および1人当たりGDPの推移
(出所)IBGE

グラフ2 四半期GDPの推移:2008年第4四半期以降
(出所)IBGE

2009年GDPの需要面を見ると、世界同時不況の影響が大幅な投資の減少(▲9.9%)と貿易環境の悪化というかたちで鮮明に現れることとなった。なお、輸出の減少(▲10.3%)は海外市場での需要後退が主な要因であるが、輸入(▲11.4%)に関しては設備投資用機器の輸入が多く、マイナス成長となった総固定資本形成との関連を指摘できる。しかし一方で、政府支出(3.7%)と家計支出(4.1%)の伸びが示すように、政府の景気対策で官製需要が創出されたこともあり国内の大衆消費市場は堅調であった。また供給面は、国内消費市場拡大の一要因である金融分野を含むことからも、サービス部門(2.6%)は不況にも関わらずプラス成長を記録した。しかし、農牧業(▲5.2%)と工業部門(▲5.5%)はともに5%を超えるマイナスとなった(グラフ3)。
グラフ3 2009年の需給別GDP:2007・2008年との比較
(出所)IBGE

また第4四半期GDPから、需要面では家計支出(前期比1.9%、前年同期比7.7%)が引き続き好調なことがわかる。10月の大統領選挙との関連からも政府支出(同0.6%、4.9%)は今後増加していくと予想されるため、四半期ベースで大幅なプラスに転じた投資(同6.6%、3.6%)も合わせ、国内消費市場は活性化していくものと思われる。ただしその際にはインフレ懸念も高まるため、金利の上昇は避けられないと考えられる。また貿易環境に関しては、輸出が前年同期比▲4.5%で依然マイナスだが、それ以外はプラス成長を記録しており、徐々に世界の景気が回復していることを示すものといえる。一方の供給面は、不況下でも好調だったサービス部門(同0.6%、4.6%)に加え、工業部門が前期および前年同期比ともに4%のプラス成長を記録した。工業部門の成長は正規雇用増加への寄与も大きいため、今後の経済成長が期待できるといえよう。ただし農牧業部門(同0.0%、同▲4.6%)は、世界経済危機だけでなく天候不順の影響も受けたため、依然として明確な回復兆候が見られない。しかし、次期の収穫は良好との予測がなされており、また長期的には世界的な食糧需要の高まりから成長部門であることは間違いなく、特殊要因の終息した後、農牧業も順調な成長に転ずると考えられる(グラフ4)。
グラフ4 2009年第4四半期GDPの需給部門の概要
(出所)IBGE

貿易収支:3月の貿易収支は、輸出額がUS$157.27億(前月比28.9%増、前年同月比33.2%増)、輸入額がUS$150.59億(同27.6%増、同49.8%増)で、輸出入ともに3月としての過去最高額を記録した。ただし輸入額の伸びが大きかったため、貿易黒字額はUS$6.68億(同69.5%増、同▲62.0%)にとどまった。また年初来累計は、輸出額がUS$392.29億(前年同期比25.8%増)、輸入額がUS$383.34億(同36.0%増)、貿易黒字額がUS$8.95億(同▲70.0%)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$66.37億(1日平均額の前月比9.2%増)、半製品がUS$20.72億(同▲9.7%)、完成品がUS$66.48億(同▲2.2%)であった。1日平均額の前年同月比では、原油(412.1%増、US$15.24億)、燃料油(142.5%増、US$1.72億)、セルロース(119.3%増、US$4.64億)などの増加率が大きかった。また減少率では、大豆油(▲42.1%、US$0.50億)、モーター・発電機(▲34.0%、US$1.30億)、送受信機器(▲33.0%、US$1.31億)などが顕著であった。さらに金額では前述の原油に加え、鉄鉱石(US$14.29億、同3.7%増)と大豆(US$11.65億、同14.5%増)の一次産品3品目が、US$10億を超える取引額を計上した。なお主要輸出先は、1位が中国(US$23.11億、同26.8%増)、2位が米国(US$15.45億、同16.4%増)、3位がアルゼンチン(US$14.07億、同49.7%増)、4位がオランダ(US$7.21億)、5位がドイツ(US$5.97億)で、中国が米国を抜き久しぶりに1位となった。

一方の輸入は、資本財がUS$31.81億(1日平均額の前月比▲1.3%)、原料・中間財がUS$72.31億(同0.5%増)、非耐久消費財がUS$11.98億(同7.9%増)、耐久消費財がUS$13.93億(同▲1.2%)、原油・燃料がUS$20.56億(同▲4.3%)となった。1日平均額の前年同月比では、その他農業原料(171.0%増、US$3.56億)や家庭用機器(126.7%増、US$3.02億)の増加率、食料品(▲24.5%、US$2.58億)や衣料・繊維品(▲13.1%、US$1.44億)の減少率が顕著であった。また金額では、化学薬品(US$22.7億、同66.1%増)、鉱物品(US$15.33億、同93.4%増)、運輸交通機器(US$10.23億、同40.9%増)の原料・中間財3品目がUS$10億を超える取引額を計上した。なお主要輸入元は、1位が米国(US$23.50億、同23.6%増)、2位が中国(US$20.49億、同59.6%増)、3位がアルゼンチン(US$11.75億、同22.8%増)、4位がドイツ(US$10.42億)で、日本(US$6.55億)が久しぶりに5位へランクインした。

物価:発表された2月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、大幅に上昇した1月を若干上回る0.78%(前月比0.03%p増、前年同月比0.23%p増)を記録し、2月としては2003年(1.57%)以来の高い数値となった。1月に比べれば低下したものの食料品価格が0.96%(同▲0.17%p、0.69%p増)と依然高い上昇率だったことに加え、非食料品価格も0.73%(同0.09%p増、0.10%p増)と2006年3月(1.14%)に次ぐ高い数値を記録した。この結果、年初来の累計は1.54%(前年同期比0.51%p)となり、2010年の物価上昇率は政府目標の範囲内(中心値4.5%の上下2.0%)に納まるものの、中心値を上回るレベルになると多くの市場関係者が予測している。

食料品では、ニンジン(1月:12.21%→2月:▲6.23%)やタマネギ(同▲9.43%→▲2.68%)などはデフレを記録したが、1月はマイナスだったトマト(同▲13.74%→17.26%)、近年国内外で栄養食材として人気のある熱帯果物のアサイー(同4.67%→14.20%)、青物野菜(同8.44%→11.89%)、砂糖(精糖:同6.25%→10.90%、クリスタル糖:同10.27%→10.48%)が10%以上の値上がりとなるなど、多くの主要食料品で価格が上昇した。また非食料品では、カーニバル明けで新学期が始まる学校の授業料改定や学用品への需要増から、季節要因的に教育関連分野(同0.26%→4.53%)の価格上昇が突出するかたちとなった。しかし、他の分野の値段に大幅な変化は見られず、カーニバル後の在庫処分セールの影響もあり衣料品価格(同0.31%→▲0.52%)はマイナスを記録した。

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は17日、Selicを5回連続で8.75%に据え置くことを決定した。しかしながら、昨年7月にSelicが現在のレベルへ引き下げられてから、今までは全て全会一致で据え置きが決定されてきたのに対し、今回は据え置きに対する賛成が5名、反対が3名と委員の中で意見が分かれた。このことに加え、ブラジル経済が回復傾向で物価も上昇気味であるため、多くの市場関係者が4月開催のCupomでSelicaは0.50%p引き上げされると予測している。

なお、2003年のLula政権発足時から中央銀行総裁を務めてきたMeirellesが、今年10月3日に行われる選挙で上院議員に立候補する意向を示しているため、選挙規定により選挙日の6ヶ月前(4月3日)までに現職を辞職する予定となっている。したがって、Meirelles総裁のもとで開催されるCupomは今回が最後になると見られ、このことも次回Selicが引き上げられるとの見方を強める一要因となっている。

為替市場:3月のドル・レアル為替相場は、一時US$=R$1.8を超えるドル高となる場面も見られたが、基本的にUS$=R$1.7台後半での推移となった。月内のレアル最高値は12日のUS$=1.7629(買値)で、最安値は26日のUS$=R$1.8231(売値)であった。月の後半にドルが若干強含む展開となったが、中央銀行がドル買い介入を行ったこともあり、月末は再びUS$=R$1.7802(買値)までレアルが値を戻し今月の取引を終えた。3月が狭いレンジの取引になった主な要因としては、EU諸国の財政問題や世界主要各国の景気が改善に向かうか否か、その方向性の見極めが難しく、特定の通貨を買う動きが控えられたことが挙げられる。

株式市場:3月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、前月に引き続き欧州危機の影響もあり上値の重い局面も見られた。特に、ギリシャ救済案に関するドイツやフランスなどEU諸国内での意見対立や、格付け会社Fitchによるポルトガルの格付け引き下げなどにより、Bovespaは一時下落する場面もあった。しかし、月内の最安値が取引初日の67,228pで、最高値が1月13日以来の70,000p超えとなる月末の70,371pだったことに象徴されるように、緩やかながらも上昇トレンドに大きな変化はなく、株価は月間で5.82%増を記録した。

この株価上昇の要因として、対外的にはEU内で財政問題を抱える国への支援策がまとまったことや、発表された米国の経済指標が景気回復を示すものが多く、欧米などの株価が上昇したことが挙げられる。また国内的にはまず、資源大手のValeが今まで年一度だった鉄鉱石の価格決定を、国際価格の変動をより反映し得る四半期ごとの決定へと変更するとともに、前年度比90%もの値上げに暫定ながら新日鐵などのバイヤーと合意することに成功した点が挙げられる。さらに、北東部を中心に事業展開する小売グループRicardo EletroとInsinuanteが合併を発表し、家具・電化製品の小売業界で国内第2位の会社が誕生したことも好感された。つまり3月は判断材料として、ここのところ株価上昇の頭を抑えていた主に外的要素がある程度取り除かれた一方、発表されたGDPも含め、ブラジル経済に関し過去よりも今後の成長に期待できるものが多かったといえよう。


政治

Serra出陣:最大野党PSDB(ブラジル社会民主党)のSerraサンパウロ州知事は、大統領選挙で与党PT(労働者党)の正式候補に決まったDilma Rouseff文官長と雌雄を争うと目されてきたが、今まで立候補に関しては明言を避けてきた。しかし19日、テレビのインタビューに答えるかたちで選挙への出馬を公の場で初めて認め、31日にサンパウロ州知事の職を辞職した。今後は、4月10日のPSDB集会で同党の大統領候補者となる旨を正式に表明するとともに、当選した場合の政権構想などについて明らかにするものと見られている。

このように名実ともに大統領選挙への出馬を表明したSerra知事は最近、サンパウロ州内の公共事業の落成式など、自らの功績を明示しやすい場に姿を見せる機会を増やしていた。このようなSerra知事に対し、給与などの労働条件の改善を求めデモを行っていた州内の学校教員の一部が、知事の式典出席の際に抗議を活発化させるとともに妨害行為をエスカレートさせた。しかし、この学校教員たちがPTと関係の深い教員労組Apeoesp(サンパウロ州公教育教員労組)の組合員だったことから、彼らの抗議活動には選挙戦へ悪影響を与える意図があったとして、PSDBは最高選挙裁判所へ訴えるという事態になった。

また一方の与党PT陣営であるが、Dilma文官長に対する国民の認知度とイメージのアップをもくろみ、正式な選挙キャンペーン期間前にも関わらず、Lula大統領が頻繁に同文官長を帯同し、未完成の公共事業の落成式などにも出席していた。このようなPTの戦略に関しては最高選挙裁判所でも賛否が分かれていたが、その行為があまりにアグレッシブで露骨であったことなどから、ついに最高選挙裁判所も選挙キャンペーン期間前の宣伝行為に当たるとの判断を下した。これによりLula大統領には2度の罰金(R$5,000とR$10,000)が課されることになったが、それにもめげず3月末にLula政権は、Dilma文官長を前面に押し出して後述のPAC2を大々的に発表している。

なお、民間調査機関による世論調査(IBOPE)では、Serraの2月と3月の支持率が36%→35%であったのに対し、Dilmaのそれは25%→30%と上昇し、両者の差は11%pから5%pへ縮まった。しかし別の世論調査(Data Folha)による3月末の結果では、両者の差は9%pへとまた広がっている。大統領選をめぐるブラジル政治の動きは、Serra知事が出馬を明言していなかった今までよりも、今後はより熱く激しいものになって行くといえよう。

経済政策?のPAC2:政府は29日、2007年から大々的に推進してきた経済政策の第2弾「PAC2(成長加速プログラム)」を発表した。PAC2は第1弾のPAC(http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Latin/pdf/200705_03.pdf)と同様、大規模なインフラ整備への投資がメインであるが、投資予定額は総額でR$1兆5,905億に達し、第1弾PACのR$6,380億(当初のR$5,039億から増額)の倍以上にも上る。また今回は、さらなる経済成長に不可欠なエネルギーや運輸交通などへの投資に加え、分野的に社会分野、地域的に大都市周辺部、受益者ではより低所得層が、政策対象になっていることが特徴として挙げられる(表)。

ただし、このような想定“Dilma政権”色が強いともいえるPAC2は、政策内容が具体性に欠けるとともに、第1弾PACから単に移行されてきた事業もあり、Lula大統領自身も同政策を絶賛する傍らで「複数のプロジェクトを棚に入れまとめたもの(plateleira de projetos)」と形容している。また一方で、第1弾PACは2009年末までの進捗状況が芳しいものとは言い難く、完結事業の割合は40.3%(R$2,569億)、投資実行額は63.3%(R$4,038億)に止まっている。しかしこのような問題点にも関わらず、PAC2の“お披露目”式典は、現政権の主要閣僚だけでなく全国から18もの州知事や多くの市長などの出席のもと大々的に行われ、そこではLula大統領とDilma文官長が最も存在感を示すこととなった。そしてPAC2が、Serra知事のお膝元のサンパウロ州が年末年始に被った大水害への対策としても有効だとする主張が、両氏の姿とともにメディアを通じ国民へ強くアピールされた。

つまり、現地の新聞なども多く指摘しているが、PAC2は明らかにDilma候補の選挙を強く意識したLula政権の“経済政策”だといえる。Lula政権は現政権である強みを活かし、公式選挙キャンペーン期間が始める前に、絶大な人気を誇るLula政権との継続性や同大統領の後ろ盾を強調しながら、Dilma候補の実質的な選挙マニフェストを国民に知らしめたのである。PAC2は国家のさらなる発展を目指すという点で、その方向性や焦点の順序は適切だと思われるが、その発表の仕方などに、過去のPACの問題点などより今後のことに無我夢中といった印象を覚えてしまうところもある。しかしその一方で、現在のブラジルのこのような活気や多少強引とも感じる勢いが、最近の日本には足りないのではと思ったりもするのだが。


表 PAC2の概要
項目 内訳(運輸交通とエネルギーは投資予定額の総合計) 投資予定額
2011-14年 2014年-

より良い街

衛生改善(R$221億)、居住不適切地域対策(R$110億)、都市公共交通網整備(R$180億)、土地舗装(R$60億)

R$571億

市民コミュニティ

救急診療所(R$26億)・基礎医療診療所(R$55億)・保育託児所(R$76億)・学校の運動施設(R$41億)・地域公共施設(R$16億)・コミュニティ交番(R$16億)の設置・整備

R$230億

マイホーム・マイライフ

低所得者用住宅供給(R$717億)、不動産融資拡充(R$1,760億)、劣悪住宅の都市整備化(R$305億)

R$2,782億

電気と水を全ての人に

全世帯への電気供給(R$55億)、都市部の上水道整備(R$130億)、水資源開発・整備(R$121億)

R$306億

運輸交通

道路(R$504億)・鉄道(R$460億)・港湾(R$51億)・河川路(R$27億)・空港(R$30億)の整備、建設重機の入手支援(R$18億)

R$1,045億 R$45億

エネルギー

発電(R$1,366億)・送電(R$374億) ・海底資源採掘施設 (R$367億)の整備、石油と天然ガス (R$8,792億)・再生可能な燃料(R$10億) ・効率的エネルギー (R$11億)の開発、鉱物調査(R$6億)

R$4,655億 R$6,271億
合計 R$1兆5,905億(総合計) R$9,589億 R$6,316億
(出所)ブラジル政府の資料(http://www.brasil.gov.br/pac/pac-2/)をもとに作成。


社会

人種問題:民間の研究機関FGV(ヴァルガス財団)は、2008年時点のブラジルにおいて黒人は半数以上の53.5%、混血は47.3%が中間層以上(月額世帯収入がR$1,115より上)であったとの調査結果を発表した。また、この数値は15年前の1993年時点では、黒人が23.8%、混血は21.7%であった。したがって、近年のブラジルでは人種に起因する経済的格差が是正されつつあると考えることができる。

ただし、同調査が用いたIBGE(ブラジル地理統計院)の全国家計調査(PNAD)のデータにおいて、同時期の黒人と混血を合わせた割合が45%から50.1%へ増加している点、および、同データの「人種」カテゴリーが自己認識にもとづき選択される点に留意する必要があろう。なぜなら近年のブラジルでは、長年にわたり同国の「人種」を不可視化していた「人種デモクラシー」という言説に代わり、多文化主義が称揚されるとともに黒人系ブラジル人であることやその文化をポジティヴに捉える傾向が強まっている。そのため、同調査で黒人と混血の中間層以上の割合が増加した要因には、実際に彼らの経済状況が改善されたという点だけでなく、以前から中間層以上だった非有色人の人が、今回“黒人”や“混血”になったという可能性も考えられるからである。

また一方で、Instituto Sangariという民間NGOが出版した『Mapa da Violência 2010(暴力の地図 2010年版)』によると、2007年時点のブラジルにおいて黒人が殺害される割合は、白人のそれの2倍以上に上ったとされる。同調査によると、2007年1年間にブラジルで殺害された人の数は47,707人(1日平均約131人)で、そのうち白人が14,308人、黒人が30,193人だったため、白人1人に対する黒人の比率は約2.1人であった。そしてまたこの比率は、2002年が1対1.4で、2004年が1対1.6であったため、ここ数年悪化傾向となっている。したがって、治安問題と関連した被殺害者数を見る限り、黒人系ブラジル人が置かれた状況は依然として厳しいだけでなく、改善どころか近年さらに悪化していると考えられる。なお同調査結果は、インターネットの同NGOサイト(http://www.institutosangari.org.br/)で公開されている。