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月間ブラジル・レポート(2010年2月):先行き不透明感

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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経済

貿易収支:2月の貿易収支は、輸出額がUS$121.97億(前月比7.9%増、前年同月比27.2%増)、輸入額がUS$118.03億(同2.9%増、同50.8%増)で、輸出入ともに月間の取引額としては過去最高の2008年2月を若干下回ったものの、一日の平均取引額では2月として過去最高額を記録した。また1月に赤字を計上した貿易収支は、2月はUS$3.94億(同337.3%増、同▲77.6%)と再び黒字へと転じた。

なお年初来累計は、輸出額がUS$235.02億(前年同期比21.3%増)、輸入額がUS$118.03億(同28.3%増)、貿易黒字額がUS$2.28億(同▲81.5%)となった。ブラジルの中央銀行が2010年の貿易黒字を2009年より約US$100億少ないUS$150臆と予測しているように、為替相場のレアル高傾向や国内の消費需要の増加により、近年のような貿易黒字額の伸びはあまり期待できないであろう。しかし、直近の輸出入を合わせた貿易取引額は増加傾向にあり、依然として先行き不透明感はあるが、このことは世界の景気が回復に向かっていることを表しているといえる。

2月の輸出に関しては、一次産品がUS$47.55億(1日平均額の前月比▲29.7%)、半製品がUS$17.95億(同▲16.2%)、完成品がUS$53.21億(同▲13.7%)であった。主要品目の中で1日平均額の前年同月比では、銅鉱石(1,447.8%増、US$1.10億)や半加工金(94.3%増、US$1.26億)に加え、圧延鋼材(91.4%増、US$1.64億)や航空機(90.1%増、US$3.46億)など今まで不調だった完成品でも増加率が大きく伸びた。また減少率では、鋳造鉄(▲61.9%、US$0.57億)やタバコ葉(▲24.1%、US$0.89億)が顕著であった。さらに輸出額では、原油(US$11.90億、同136.1%増)と鉄鉱石(US$11.65億、同17.2%増)の両一次産品、および半製品の粗糖(US$4.48億、同62.5%増)が今月も大きかった。なお主要輸出先は、1位が米国(US$13.42億、同17.3%増)、2位が中国(US$12.11億、同29.0%増)、3位がアルゼンチン(US$11.53億、同66.1%増)、4位がオランダ(US$8.14億)、5位がドイツ(US$5.48億)となり、前月に引き続きアルゼンチンの増加が顕著であった。

一方の輸入は、資本財がUS$25.21億(1日平均額の前月比9.2%増)、原料・中間財がUS$56.45億(同11.5%増)、非耐久消費財がUS$8.53億(同16.1%増)、耐久消費財がUS$11.03億(同6.8%増)、原油・燃料がUS$16.81億(同42.0%増)の取引額となった。主要品目の中で1日平均額の前年同月比では、前月同様の家庭用機器(163.8%増、US$2.70億)と乗用車(116.5%増、US$4.54億)に加え、その他農業原料(142.1%増、US$3.06億)の増加率が顕著であった。一方の減少率はその幅だけでなく品目の数自体も少なく、飲料とタバコ(▲9.3%、US$0.23億)の数値が最大であった。また輸入額は、化学薬品(US$14.92億、同26.1%増)や鉱物品(US$13.07億、同114.6%増)が引き続き大きかった。なお主要輸入元は、1位が米国(US$16.66億、同8.7%増)、2位が中国(US$16.01億、同54.5%増)、3位がアルゼンチン(US$9.99億、同50.0%増)、4位がドイツ(US$7.89億)、5位が韓国(US$6.38億)であった。

物価:発表された1月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、0.75%(同0.38%p増、0.27%p増)と約1年半ぶりの高い数値となった。デフレの月が続くなど最近落ち着いていた食料品価格が1.13%(前月比0.89%p増、前年同月比0.38%p増)と高騰したことに加え、非食料品価格も0.64%(同0.23%p増、0.24%p増)と大きく上昇した。

食料品では、トマト(11月:▲8.69%→12月:▲13.74%)やタマネギ(同▲7.31%→▲9.43%)などは引き続き値を下げたが、ニンジン(同28.70%→12.21%)、ジャガイモ(同▲10.85%→10.80%)、クリスタル糖(同0.71%→10.27%)の10%以上をはじめ、多くの主要食料品で価格が上昇した。また非食料品では、バス運賃や燃料価格が上昇したため、前月に引き続き運輸・交通費(同0.78%→1.45%)の上昇が最も顕著だった。一方、クリスマスや年末のバーゲンと2月のカーニバルの合間になることもあり、衣料品価格(同0.76%→0.31%)の上昇は前月比で低下した。

金利:2月は、政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは3月16日と17日に開催予定。

為替市場: 2月のドル・レアル為替相場は、月の半ば過ぎに緩やかながらドル安レアル高傾向となったものの、全般的にはUS$=R$1.8台の狭い範囲内での取引となった。月内のドル最高値は前月のドル高レアル安の流れを受けた1日のUS$=1.8773(売値)で、月の前半はギリシャの財政危機の影響で一時乱高下したが、概ねUS$=R$1.85を上回るレベルでの推移となった。しかし、5日に243まで上昇したカントリー・リスクが18日に206まで低下したこともあり、レアルが買われる展開となり、22日にはUS$=R$1.8038(買値)までレアル高が進行した。月末に向けては、24日にブラジル中央銀行が実施した預金準備率引き上げへの懸念もあり、ドルが値を戻す場面も見られたが、月末の26日はUS$=R$1.8102(買値)へと再びレアル高に振れ、2月の取引を終えた。

2月も含め、US$=R$1.7割れ寸前までのレアル高を記録した昨年10月以降、ドル・レアル為替相場は明確な方向性のない展開が続いている。この要因として、世界的に景気は回復基調にあると見られるものの、ドバイ・ショックやEU財政危機が発生したことなどから、世界経済に対する先行き不透明感が絶えず膨縮していることが挙げられる。

株式市場:2月の前半、ギリシャをはじめとする一部の欧州諸国の財政危機が表面化したことから、ブラジルの株式相場(Bovespa指数)も世界各国の株価と同様大幅に下落し、5日には62,763pの年初来最安値を記録した。しかしその後は、米国などの主要株価が上昇に転じたことや原油や鉱物の国際価格が上昇したことに加え、国内的にも3日、アマゾン地域に建設が予定されている世界第3位の規模となる水力発電所Belo Monteダムに関して、政府が環境許認可を得たことから、依然反発はあるものの今後計画が進むことで、さらなる経済発展やエネルギー懸念の軽減が可能になるとの見方が強まり、ブラジルの株価は続伸する展開となった。そして18日には67,836p まで上昇し、その後月末にかけやや弱含んだものの、前月末比1.68%のプラスとなる66,503pで2月の取引を終了した(グラフ1)。

なお、月末に株価が一時的に下落した国内要因の一つに、中央銀行が市中金融機関の預金準備率を13.5%から15%へと引き上げたことが挙げられる。これにより、2008年後半からの世界金融危機対策として、中央銀行が市場の流動性を高めるため供給した約R$1,000億の資金のうち、R$710億が市場から引き上げられることになった。今回の措置は、世界金融危機対策の終了と国内金融市場の平常状態への回帰、つまり「出口戦略」を意味するため、基本的には歓迎すべきことではある。しかしそれとともに、金融機関の貸出金利の上昇をもたらすこと、また、中銀による物価抑制の意思表示でもあるため、Selicの予測より早いペースでの引き上げも考えられることから、今後の経済への影響に関しては先行き不透明な部分もあるといえよう。
グラフ1 株式相場(Bovespa指数)の推移:過去1年間
(出所)サンパウロ株式市場

政治

Dilma労働者党候補: 政権与党であるPT(労働者党)は20日に全国党大会を開き、政党結成30周年を祝うとともに、Dilma Rousseff文官長を同党の大統領選挙の正式候補とすることを決定した。Dilma文官長はその際の演説で、10月の大統領選挙で当選した場合、来年以降の同氏の政権ではLula政権に比べ「政府」のプレゼンスがより重要になる一方、経済運営路線に関しては現政権との継続性を強調し、財政均衡、インフレのコントロール、変動為替相場などをもとにマクロ経済の安定に努める意向を表明した。

このようなDilma文官長による「政府」重視の姿勢は、同氏が現政権の経済政策である“PAC の母”と言われ、政府のイニシアティブにより国家開発を進めている姿にも現れているが、PT内部にLula政権の現実主義路線を不満に思う勢力が存在することも、その背景にあるとされる。ただしDilma政権が誕生した場合、実際の政策面において政府のプレゼンスが高まるであろう点でより左派的だが、それはイデオロギー的な左傾化などを意図するものではないと、PT党首を4年間務め、今回の全国大会で同職を退いたBerzoini下院議員は述べている。

また、現在も非常に高い支持率を誇るLula大統領はDilma候補決定に際し、Dilma政権が誕生した場合、同政権はLula大統領の傀儡政権ではなく「PTの政権」であることや、1期4年のみの短命でなく2期連続を視野に入れた長期政権を目指すものであることを強調した。そして一部で取り沙汰されている、Lula大統領自身の2014年大統領選への再出馬に関して、その意向はないと明言した。しかし、治療の経過は良好のようであるがDilma文官長は癌を患っており、大統領に当選したとしても健康問題を理由にDilma自らが政権2期目を望まなければ、Lula現大統領が大統領候補として担ぎ出される可能性は十分に考えられよう。また一部の報道では、これらのLula大統領やPTの正式見解とは反対に、Dilma文官長自身が「Lulaは間違いなく2014年に大統領選に戻って来られる(sem sombra de dúvida o presidente Lula pode voltar a disputar o Planalto em 2014)」と述べたとされている(21 de fevereiro, Folha de São Paulo)。

したがって、PTの大統領候補はDilma文官長に正式決定し、当選した場合のDilma政権のあり様もだいぶ明らかになってきたが、その先行き(または背後)に関する不透明感は依然くすぶったままだといえよう。

大統領選動向:大統領選挙に関して、現時点でどの候補に投票するかを問う世論調査(IBOPE)が行われ、前回までと同様に、PSDB(ブラジル社会民主党)Serraサンパウロ州知事の優位は変わらないものの、PT(労働者党)の候補者に正式決定したDilma文民長が支持率を大きく伸ばす結果となった(グラフ8)。この傾向は、IBOPEよりも直近の 2月末に発表された他の世論調査(Data Folha)でも同じであり、しかも同調査における両者の差は4%ポイントとより縮まる結果となった。

このようなDilma文官長の追い上げの要因としては、国民から圧倒的な人気のあるLula大統領が、知名度の低かったDilma文官長を頻繁に随行させるなど、積極的にDilma文官長をLula大統領の後継者として国民に売り込んでいることが挙げられる。ただし、公式な選挙キャンペーン期間前におけるLula政権のこのような戦略は、PSDBをはじめとする野党から強く非難されており、選挙法に抵触する可能性も取り沙汰されている。また、選挙前に敵陣が用いる“常套手段”としてPTは一蹴しているが、Dilma候補の選挙責任者が2005年のPTの一大汚職事件に絡んでいたとする疑惑が、2月に入り持ち上がっている。

一方の対抗馬であるPSDB側の問題としては、常に協力関係にあるDEM(民主党)の汚職疑惑が昨年末にBrasíliaで発覚し、今年に入り同党の連邦区知事Arrudaなど数名が逮捕され、このことがDEMと親密なPSDBのイメージ・ダウンに少なからずつながったと考えられる。さらに、PTが早くからDilma文官長をLula大統領の後継者として国民にアピールし、2月には正式な同党候補に選出したのに対し、PSDBの正式候補者についてSerra知事はいまだに自らの意思を正式に表明していない。そして、今回の調査結果に現れた状況変化もあり、昨年末にPSDBの大統領候補争いから退くと表明したAécio Nevesミナスジェライス州知事に対し、その存在感や待望感が再び高まりつつもある。つまり、候補者を正式に決定しない(またはできない)PSDBの一種の迷走ぶりに加え、Serra州知事の意思不表明と元からの個人的なカリスマ性の弱さが相俟って、Lula大統領がいるPT候補の追随を許している、というのが現状だといえよう。

ただし、現在までの世論調査の結果から、今後の傾向や情勢の推移をある程度予測することは可能だとしても、PTおよびPSDB双方とも懸念材料がないわけではない。したがって、ブラジルの政治は今後、選挙日同日まで先行き不透明感を深めていくものと思われる。
グラフ2 大統領選挙の投票動向調査
(出所)IBOPE

イランと米国:イランの核燃料開発に関して、ブラジルは以前より原子力発電といった平和的利用のためであれば容認する姿勢を打ち出すとともに、イランと欧米諸国の間の仲介者になり得ると主張してきた(2009年11月レポート参照)。しかし2月に入り、イランが国産ロケットの打ち上げ実験やウラン燃料の製造に着手したため、同国の核兵器開発疑惑とそれに対する欧米諸国の反発が一気に高まった。そして、イランへの経済制裁強化へ向けた動きが米国を中心に国連内部で活発化し、非常任理事国であるブラジルにも欧米諸国と共同歩調を取るように促す圧力が強まった。しかし、ブラジルは中国とともにイランとの対話により問題の解決を試みる立場を堅持し、国際的に反イランの世論が強まるなか、5月にLula大統領がイランを公式訪問することを決定した。

これに対し、是が非でもイランへの経済制裁強化を通じて中東地域への核兵器拡散を防止したい米国は、3月初旬のClinton国務長官の中南米諸国歴訪時にブラジルを訪れ、Lula政権の説得に当たると見られている。そしてその際に、対イラン経済制裁包囲網へのブラジルの参加を強く求めてくると思われるが、米国からの一方的な要求だけでは交渉成立は不可能である。したがって、イランとの対話重視というブラジルの姿勢を米国は尊重(および利用)しつつ、ブラジルの国連常任理事国入りの支援を交渉カードとして用いてくる可能性が考えられる。さらにまた米国は、ブラジルが生産するサトウキビ原料のエタノールに対する国内市場の開放、過去にWTOで敗訴した自国の綿花農家向け補助金をめぐる両国間の報復合戦、防衛問題とも絡む空軍機の売込みなどの貿易問題を、交渉材料に含めてくることも十分に考え得る。

したがってブラジルにとって、核兵器開発疑惑が高まるイランとの関係は、国際社会におけるブラジルの独自な立場の確立やプレゼンスの向上と関わるだけでなく、依然として政治経済的に非常に重要な米国との関係をも左右する問題だといえる。調整能力やバランス感覚の高さがLula政権の優れた点であるが、対イラン外交に関する現在のブラジルは、あまりにも先行き不透明な問題に手を出した後、徐々に引き返せなくなりつつあるように見えなくもない。このような見方とは異なり、政権の残り時間が10ヶ月を切ったなか、その独自外交が画期的な成果をもたらす見通しがあるのかもしれないが。

社会

チリ大地震など:27日、チリでマグニチュード8.8の巨大地震が発生した。3月初旬の時点で死者数は約800人、被災者は200万人に上る大惨事となった。ブラジルはチリと南米大陸で唯一国境を接していないなど距離的に遠く、また面している海が太平洋と大西洋ということで、地震および津波の影響はなかった。しかし、ハイチに続く中南米地域で発生した大地震ということで、ブラジルでも大々的に報道されるなど国民の関心は高く、Lula大統領も震災後最初の外国首脳としてチリを急遽訪問し、政府もチリへの救援策を打ち出し始めている。今回のチリの大地震に関して、ハイチ地震のような政治的背景(1月レポート参照)はないが、ブラジル政府の対応の速さには、中南米の地域大国として自ら責務を果たそうとする姿勢が見られるともいえよう。

なお、ブラジルはチリやハイチのような大地震の経験はないが、「地震がない国」という神話は最近発生した地震により崩れ去ることとなった(2008年4月レポート参照)。また、確かにメキシコ湾地域のハリケーンやアジアの台風のような季節性の暴風雨はないが、昨年末からの南東部沿岸地域での大雨(1月レポート参照)は、2月に入ってもさらに死者を出す事態となっている。したがって、ブラジルを「人災はあるが天災はない」と評する言い回しがあるが、少なくとも「天災はない」という部分に関しては現状と合致していないといえる。

ブラジルにとってさらなる経済発展やオリンピックなどの国際イベント開催には、再三の延期の末5月に入札が予定されている高速鉄道を含めた交通をはじめ、住宅や港湾などのインフラ整備が重要な課題となっている。その際に、地震や暴風雨などブラジルでは「ない」とされてきた「天災」対策も考慮に入れる必要があろう。もちろん治安問題のように、「ある」という神話が崩壊する兆しの見えない「人災」への対策も、徹底して行うべきであることは言うまでもないが。