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2009年9月 Chegou a Hora!(その時が来た)

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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経済

第2四半期GDP:2009年第2四半期のGDP(速報値)が発表され、前期比1.9%、前年同期比▲1.2%となった(グラフ1~3)。世界金融危機発生前の前年同期と比べると依然マイナスだが、前期比ではプラス成長に転じたことに加え、▲3.4%と大幅に悪化した2008年第4四半期の後、今年の第1四半期が▲1.0%と回復傾向にあったことから、テクニカルにも実質的にも景気後退期を脱する時が来たとの見方が大半となった。

その内訳を見ると、家計支出(前期比2.1%、前年同期比3.2%)が経済成長を牽引しており、ブラジルの景気回復が内需主導型であることがわかる。また、政府支出(同▲0.1%、同2.2%)は安定的であり、総固定資本形成(同0.0%、同▲17.0%)は昨年のレベルまでは達していないが、第1四半期が▲12.6%(前期比)だったことから投資が戻りつつあることを示している。貿易も昨年に比べ取引額は減少しているが、最大の貿易相手国となった中国の経済が好調なこともあり、輸出(同14.1%、同▲11.4%)が前期比で大幅な伸びを記録した(第1四半期は▲16.0%)。また輸入に関しても、為替市場でレアル高傾向が強まったことや国内需要が堅調だったことなどから、第1四半期に▲16.8%を記録した前期比がプラス成長へ転じた(同1.5%、同▲16.5%)。

部門別では、サービス業(同1.2%、同2.4%)が前期だけでなく前年同期比でもプラスの伸びを記録し、同部門の好況さを示すかたちとなった。また前期比に関して、第1四半期▲3.1%と最も落ち込みの大きかった工業(同2.1%、同▲7.9%)がプラス成長に転じており、世界経済危機の影響を強く受けた製造業などでも景気回復の兆候が見られる。ただし農牧業に関しては、明確な回復の兆しは見られなかった(同▲0.1%、同▲4.2%)。
また、2009年上半期のGDP成長率(前年同期比)は▲1.5%となり、14期連続でプラス成長を記録していた半期GDPが、電力危機(apagão)に陥った2001年下半期以来のマイナスとなった(グラフ4)。また、内訳別の伸びは家計支出が2.3%、政府支出が2.5%とプラスであったが、総固定資本形成は▲15.6%と大幅に落ち込んだ。部門別では農牧業が▲3.0%、工業が▲8.6%、サービス業のみがプラス成長となる2.1%であった。
グラフ1 四半期GDPの推移
(出所)IBGE

グラフ2 内訳および部門別2009年第2四半期GDP
(出所)IBGE

グラフ3 四半期GDPの内訳および部門別推移:前期比
(出所)IBGE

グラフ4 上下半期GDPの推移:1999年以降
(出所)IBGE

貿易収支:9月の貿易収支は、輸出額がUS$ 138.64億(前月比0.3%増、前年同月比▲30.7%)、輸入額がUS$125.34億(同16.4%増、▲27.4%)で、輸入額の増加が輸出額のそれを上回ったため、貿易黒字額はUS$13.30億(同▲56.5%、▲51.8%)と前年および前年同期比でマイナスとなった。なお年初からの累計は、輸出額がUS$ 1,117.83億(前年同期比▲25.9%)、輸入額がUS$ 905.08億(同▲31.0%)、貿易黒字額がUS$ 212.75億(同8.1%増)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$55.03億(1日平均額の前年同月比▲22.4%)、半製品がUS$18.82億(同▲28.2%)、完成品がUS$61.62億(同▲30.5%)であった。主要品目の中で鉄鉱石(US$12.53億、同▲38.6%)、大豆(US$8.18億、同▲4.9%)、原油(US$7.65億、同▲27.6%)など今月も一次産品の輸出額が大きく、増加率では粗糖(US$6.42億、同81.2%増)および精糖(US$2.58億、同70.6%増)の砂糖関連や圧延鋼材(US$2.34億、同79.9%増)、減少率では大豆油(US$0.70億、同▲70.2%)や鋳造鉄(US$1.09億、同▲67.6%)などの増減率が顕著であった。また、主要輸出先は1位が中国(US$18.54億、同8.3%増)、2位が米国(US$13.24億、同▲55.4%)、3位がアルゼンチン(US$11.55億、同▲30.1%)、4位がオランダ(US$6.94億)、5位がドイツ(US$5.75億)で、中国が増加する一方で米国やアルゼンチンなどは大きく減少した。

一方の輸入に関しては、資本財がUS$27.75億(同▲18.5%)、原料・中間財がUS$58.43億(同▲26.2%)、非耐久消費財がUS$8.61億(同▲11.8%)、耐久消費財がUS$11.98億(同▲9.7%)、原油・燃料がUS$18.57億(同▲34.8%)であった。主要品目の中で化学薬品(US$15.99億、同▲18.2%)に加え、為替相場がレアル高となった関係から工業機器(US$8.78億、同▲8.3%)の輸入額も大きかった。また先月に引き続き、飲料・タバコ(US$0.44億、同9.3%増)は増加したが、その他の燃料(US$6.97億、同▲55.3%)や鉱物品(US$8.96億、同▲39.0%)など多くの品目が前年同月比でマイナスとなった。なお、主要輸入元は1位が米国(US$17.55億、同▲27.4%)、2位が中国(US$15.76億、同▲19.7%)、3位がアルゼンチン(US$10.71億、同▲22.9%)、4位がドイツ(US$9.64億)、5位がナイジェリア(US$6.41億)であった。

物価:発表された8月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比▲0.09%p、前年同月比▲0.13%pの0.15%となった。食料品価格が▲0.01%(同0.05%p、0.17%p増)と2カ月連続のデフレを記録するとともに、非食料品価格も0.20%(前月比▲0.13%p、前年同月比▲0.22%p)と落ち着いた数値となった。

食料品では、トマト(7月:▲12.23%→8月:14.96%)とタマネギ(同▲2.07%→11.11%)が2ケタの上昇率を記録したが、主食の一つであるフェイジョン豆(カリオカ:同6.46%→▲5.24%、茶色:同▲6.30%→▲5.21%、黒:同▲1.37%→▲2.17%)や、年初累計が25.21%と今年に入り大きく値上がりしている牛乳(同4.02%→▲6.61%)が値を下げたため、全体の価格上昇は抑えられることとなった。また非食料品では、電気料金(同3.25%→0.39%)、航空運賃(同▲6.81%→▲10.97%)、家具(同1.15%→▲1.06%)などの価格変動が、全体的な価格の落ち着きに寄与した。

金利:政策金利Selic(短期金利誘導目標)を決定する9月のCopom(通貨政策委員会)については、先月のレポートを参照。次回のCopomは10月20と21日に開催予定。

為替市場:9月のドル・レアル為替相場は、2日にUS$1=R$ 1.9038(売値)の月内レアル最安値を付けた後、ほぼ一貫してドル安レアル高の展開となった。これは、2日にSelicの据え置きが決定された後、景気回復を示すGDPの発表やMoody’sによるソブリン格付けの引き上げなどから、ブラジルは相対的に金利が高い一方で経済の先行きが明るいとの評価にもとづき、通貨レアルを買う動きが強まったためである。そして月末には、US$1=R$ 1.7773(買値)と2008年9月9日に次ぐレベルまでレアル高が進行し、9月の取引を終えた。

株式市場:9月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、米国の株価下落などの影響で2日に月内最安値の55,386pまで下落した後は、ほぼ右肩上がりで続伸する展開となった。そして、16日に2008年7月21日以来となる60,000pの大台を突破すると、月末には今年の最高値を更新する61,518pまで値を上げ、9月の取引を終了した。この要因としては為替相場と同様、世界の他の諸国地域より相対的に早く不況から脱する兆しがGDPで確認されたこと、ブラジルのソブリン格付けが投資適格級の「Baa3」へMoody’sにより引き上げられたこと、カントリー・リスクが16日に2008年6月25日と同水準の210まで低下したことなどから、主に外国人投資家によるブラジル買いが強まった点が挙げられる。ただし一部の専門家の間では、これら最近の金融市場の動きを“小バブル”状態だとして警戒する見方もある。

政治

大統領選挙動向:来年の大統領選挙に関して、現時点でどの候補に投票するかを問う世論調査(IBOPE)が行われ、その結果が発表された。これによると、Cardoso前大統領が所属する最大野党のPSDB(ブラジル社会民主党)のSerraサンパウロ州知事が34%とトップで、与党PT(労働者党)のRousseff文民官は、最近、大統領選挙への出馬の意向を表明したPSB(ブラジル社会党)のCiro Gomes下院議員と同率の14%となった。Ciro Gomes議員は過去にPMDB(ブラジル民主運動党)やPSDBなどにも属し、大統領選挙へ2回出馬した経験を持つ著名な政治家で、Lula政権下で国家統一大臣も務めたことから、Serra知事の第1回投票での当選阻止が同氏の出馬目的ではないかとする見方もある。その次には、PTを追放された急進左派PSOL(自由と社会主義党)のHelena上院議員、8月にPTからPV(緑の党)へ移籍したMarina上院議員が続いている。

来年の大統領選挙に関しては、今後もSerra知事を中心とした争いが展開されていくものと予測される。しかし、同時に行われたLula大統領の支持率調査では、支持81%、不支持17%、わからない/不明2%という結果となり、同大統領の人気が依然として高いことが確認された。したがって、2010年にPTが大統領選挙で敗北しても、誘致に成功したサッカーのW杯やオリンピックとの兼ね合いもあり、2014年にLula大統領が再び立候補した場合、第3次Lula政権の可能性も現状では低くないといえよう。
グラフ5 大統領選挙の投票動向調査
出所:IBOPE

社会

不平等是正: ブラジル地理統計院(IBGE)の全国家計調査(PNAD)2008年版が発表され、そのスピードは緩やかであるが、ブラジルの不平等や貧困の問題が概ね改善傾向にあるという結果となった(詳細は下記表を参照)。また人口に関しては、更なる少子高齢化や人種の混交が進んでいることが確認された。

さらに民間の研究機関ヴァルガス財団(FGV)は、昨年来の世界経済危機にも関わらず、ブラジルで中間層が増加しているとの調査結果を発表した。同調査では、世界金融危機発生前の2008年7月と1年後の今年7月における所得階層の割合が推計され、月間所得が同R$4,807以上の高所得層(A・Bクラス)が15.05%から14.97%へと減少したのに対し、同R$1,115~4,807の中所得層(Cクラス)は51.91%から53.20%へと増加したとの結果が報告されている。また高所得層だけでなく、同R$804~1,115の低所得層(Dクラス)も14.09%から13.51%へ、同R$0~804の最低所得層(Eクラス)も18.95%→18.32%へとそれぞれ割合が低下したされる。つまりブラジルでは、より所得の高い階層が世界経済危機のダメージを最も受けたが、近年の安定した経済成長や社会政策の実施などにより、世界同時不況にも関わらず国民の経済的な底上げが実現されていることになる。

10月に入ってからであるが、2016年夏季オリンピックの開催地がリオデジャネイロに決定され、悲願であった南米でのオリンピック開催の時が来ることとなった。ブラジルが誘致活動の際に主張したことの一つに、オリンピック開催が同国の貧困削減につながるという点がある。山積するブラジル・コストなどのため、“永遠に未来の大国”と揶揄されたこともあるブラジルだが、近年はポジティブな要素も多く見られる。リオデジャネイロがオリンピック獲得のため3度も挑戦し続けてきたように、ブラジル国民が同様の熱意や継続性を持って不平等などの問題に取り組めば、遠かった“未来”について「Chegou a Hora!」と言える日も現実味を帯びて来るといえよう。
表 2008年全国家計調査の概要
概要:2007年→2008年
人口 0~4歳の居住人口割合7.3%→7.2%(1999年9.3%)
60歳以上の居住人口割合10.5%→11.1%(1999年9.0%)
合計特殊出生率1.95→1.89(1960年6.28、1998年2.43)
肌の色:白人49.2%→48.4%、混血42.5%→43.8%、黒人7.5%→6.8%、その他(黄色・先住民)0.8%→0.9%(1940年:白人64.0%、混血21.0%、黒人14.0%、その他1.0%)
教育 15歳以上の非識字者10.1%→10.0%(北東部19.9%→19.4%)
機能的非識字者21.8%→21.0%
6~14歳の就学率97.0%→97.5%
10歳以上の平均修学年数6.9年→7.1年
労働所得 失業率8.2%→7.2%(2003年9.7%)
10歳以上の就労者の月額実質所得R$1,019 →R$1,036
(1998年R$1,074、2004年R$883)
10歳以上の就労者のジニ係数0.521→0.515(1998年0.567)
住宅 住宅インフラ普及率:上水道83.2%→83.9%、下水道・浄化槽73.4%→73.2%、ゴミ収集87.3% →87.9%、電気98.2%→98.6%、電話76.8%→82.1%
耐久消費財所有率:レンジ98.1%→98.2%、冷蔵庫90.7%→92.1%、洗濯機39.2%→41.5%、テレビ94.4%→95.1%、インターネット接続パソコン20.0%→23.8%
児童労働 5~17歳の児童の就労率10.9%→10.2%
(出所)IBGE