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2009年5月 第3期Lula政権?

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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2009年5月

経済

貿易収支:5月の貿易収支は、輸出額がUS$119.85億(前月比▲2.7%、前年同月比▲37.9%)、輸入額がUS$93.34億(同8.4%増、▲38.7%)で、貿易黒字額はUS$26.51億(同▲28.6%、▲34.9%)となった(グラフ1)。営業日数が同じだった4月とほぼ変わらぬ取引額を記録し、世界同時不況にも底入れ感が見られるが、前年同月比は引き続き大幅なマイナスであり、堅調な景気回復を示すものとは言い難い。また年初からの累計は、輸出額がUS$554.84億(前年同期比▲23.0%)、輸入額がUS$461.12億(同▲27.4%)で、貿易黒字額はUS$93.72億(同9.3%増)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$53.70億(1日平均額の前年同月比▲35.8%)、半製品がUS$14.29億(同▲45.1%)、完成品がUS$49.66億(同▲36.8%)であった。輸出額の大きい品目は、大豆(US$17.24億、同▲7.3%)、鉄鉱石(US$8.03億、同▲47.1%)、原油(US$6.03億、同▲68.9%)などの一次産品であった。自動車(US$2.51億、同▲37.7%)や航空機(US$1.94億、同▲49.4%)などの工業製品をはじめ多くの品目がマイナスとなる中、粗糖(US$4.70億、同72.9%増)や精糖(US$1.91億、同38.2%増)、タバコ葉(US$3.28億、同44.5%増)はプラスを記録した。また、主要輸出先は1位が中国(US$20.60億、同▲10.7%)、2位が米国(US$10.80億、同▲58.9%)、3位がアルゼンチン(US$8.33億、同▲49.2%)、4位がオランダ(US$6.34億)、5位がドイツ(US$4.60億)で、中国への輸出額が2位の米国のほぼ倍に達した。

一方の輸入に関しては、資本財がUS$22.67億(同▲24.3%)、原料・中間財がUS$42.86億(同▲40.9%)、非耐久消費財がUS$7.13億(同0.8%増)、耐久消費財がUS$7.72億(同▲24.6%)、原油・燃料がUS$12.96億(同▲60.1%)であった。主要品目では、化学薬品(US$11.43億、同▲31.7%)や工業機器類(US$8.05億、同▲6.2%)の輸入額、薬品(US$3.04億、同39.4%増)の増加率、その他の農業原料(US$4.18億、同▲63.7%)の減少率、がそれぞれ大きかった。なお、主要輸入元は1位が米国(US$13.93億、同▲34.1%)、2位が中国(US$10.64億、同▲33.8%)、3位がアルゼンチン(US$8.89億、同▲16.4%)、4位がドイツ(US$7.75億)、5位が日本(US$4.07億)であった。
グラフ1 貿易収支の推移:2008年以降
(出所)商工開発省

物価:発表された4月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比で0.28%p増と大きく上昇したものの、前年同月比では▲0.07%pの0.48%となった。食料品価格は0.15%(前月比▲0.15、前年同月比▲1.14%p)と落ち着いていたが、非食料品価格は0.58%(同0.41、0.24%p増)と上昇幅が大きかった。

食料品の価格安定には、鶏卵(3月7.75→4月4.36%)や砂糖類(精糖:同11.99→3.42%、粗糖:同7.10→0.12%)の価格上昇が大きく低下したことに加え、果物類(同5.89→▲0.34%)や青果類(同9.47→▲1.90%)の価格が下落に転じたこと、フェイジョン豆(カリオカ:同▲12.01→▲8.72%、黒:同11.87→▲12.32%)やコメ(同▲1.80→▲2.57%)などの価格が引き続き下落したことが寄与した。一方の非食料品では、景気対策として減税が継続実施された自動車や家電製品などからの税収減を補填すべく、4月に増税されたタバコ(14.71%)の影響が最も大きく、さらに3月末に価格調整が行われた医薬品(2.89%)も全体の価格を押し上げる要素となった。しかし、減税の対象となった家電製品(▲1.34%)やAV機器(▲0.66%)、自動車(新車:▲0.47%、中古車:▲1.62%)などは、世界経済危機による需要減退もあり価格は下落した。

金利:5月は政策金利のSelic金利(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは6月9、10日に開催予定。

為替市場:5月のドル・レアル為替相場は、5日にUS$1=R$2.1476(売値)をつけた後はほぼ一方的なドル安レアル高の展開となった。再びレアル高が加速した要因としては、世界経済が今後回復に向かうとの見方が広まる中で、ブラジル経済のポテンシャルに対する期待感や相対的な金利の高さなどから、投資通貨としてレアルが選好されたことが挙げられる。このような状況は株式市場でも類似しており、つまり最近の金融市場に関しては、世界金融危機以前の状態に戻りつつあるといえる。ただし、過度のドル安レアル高はブラジルの輸出にとってはマイナス要素であるため、中央銀行は幾度となく大規模な為替介入を行った。しかし、為替相場のトレンドを変えるには至らず、最終取引日の29日には、昨年10月1日以来のUS$1=R$1台となるUS$1=R$1.9722(買値)を記録し、5月の取引を終えた。

なおブラジルの外貨準備高は、今年1月の貿易収支が赤字になったことや、政府の景気対策の財源として使われたこともあり、最近は若干減少し今年2月にはUS$2,000億を下回っていた。しかし、今回の中央銀行の為替介入により、5月末はUS$2,056億まで再び増加している(グラフ2)。
グラフ2 外貨準備高の推移:2007年以降
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:5月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、取引初日の4日に50,000pを回復した後、米国の株価が下落したことなどから13日には一時48,679pまで値を下げた。しかし、世界的な需要回復を見込んで原油や穀物の国際価格が上昇したことや、それに伴いブラジルのカントリー・リスクが下落して27日には昨年9月と同水準の281pまで低下したことなどから、月の後半は3月以降の上昇トレンドを引き継ぐかたちで続伸した。そして、月末の29日には53,198pと年初来最高値を記録し、5月の取引を終了した。

Brasil Foods誕生: 鶏肉をはじめとする食品加工企業のPerdigãoとSadiaは19日、両社の合併とともに新会社Brasil Foodsの設立を発表した。今回の合併は、ブロイラー年間飼養羽数(2007年)でラテンアメリカ第1位のSadia(6.4億羽)と第2位のPerdigão(5.5億羽)によるものであり、新会社Brasil Foodsは売上高が単純合計で約R$22億に達し、鶏肉加工企業としては世界最大になる予定である。また、合計約12万人の従業員数は国内最大となる。両社の合併の話は10年ほど前に開始されており、紆余曲折を経ながら継続的に行われてきた交渉がようやく結実することとなった。しかし、両社合わせ約R$100億にも上る債務があり、企業の規模だけでなく効率を高めていくことが今後の課題といえる。

なお、近年のブラジルの鶏肉に関する生産量、消費量、輸出量の推移を表したのがグラフ3であり、直近データが利用可能ではないという制約があるが、近年は鶏肉分野の成長の勢いが鈍化傾向にあるともいえる。したがって、今回の合併による巨大食品加工企業の誕生が、国内外の鶏肉のみならず加工食品市場の拡大をもたらす一起爆剤になることが期待されているといえよう。
グラフ3 ブラジルの鶏肉の生産量、消費量、輸出量の推移:1994年以降
(出所)国際連合食糧農業機関(FAO)のFAOSTAT(http://faostat.fao.org/)
(注)FAOの推計値を含み、消費量は2003年、輸出量は2006年、生産量は2007年まで。

政治

第3期Lula政権?:4月にDilma Rousseff文民官が自らの健康問題を公表したことから(4月レポート参照)、来年の大統領選挙に向けた主要政党の候補者選びが迷走する事態となった。Dilma文民官が癌治療のため数日間入院を余儀なくされたこともあり、連立与党内ではLula大統領の三選を支持する動きが一部で活発化した。これに対し野党からは反発の声が上がる一方、政権与党のPT(労働者党)内部では、健康に問題のあるDilma文民官ではない別の候補者を立てるべきであり、第1期Lula政権時の汚職疑惑で失脚したPalocci前大蔵大臣を推す意見も聞かれた。

このような状況の変化に対し、Lula大統領自身は来年の大統領選挙への出馬を改めて否定するとともに、再度Dilma文民官への支持を強調した。しかし一方で、その次の2014年大統領選挙へ出馬するか否かについてはその時の情勢が決めることだとし、将来的な第3期Lula政権発足への含みとその意欲とも取れる発言を行った。さらにまた、連立与党連合としての候補者を一本化すべきであること、政権が一貫した国家運営を行う上で現在の大統領任期の4年は短過ぎるため、将来的に任期を5~6年間に伸長すべきであること、そして、野党PSDB(ブラジル社会民主党)のAécio Nevesミナス・ジェライス州知事が現連立与党のPMDB(ブラジル民主運動党)に移籍するのであれば、Neves知事を支持する用意がある旨についても言及を行った。

また、26日から28日にLula大統領の三選に関する世論調査(Datafolha)が行われ、有権者の49%は反対の意思を表明したが、賛成派も47%にのぼり、現時点では世論が二分した状況となっている。その一方で、同時に行われた大統領選挙の主要候補者への支持率に関して、現時点の最有力候補であるSerraサンパウロ州知事(PSDB:ブラジル社会民主党)との差を、Dilma文民官が8ポイント縮めるという結果が出た(Dilma文民官の支持率は11%→16%、Serra知事は41%→38%)。この要因として、Dilma文民官は軍事政権下で民主化のためのゲリラ闘争に献身した経歴を持つが、今回、自らの健康問題を明らかにしたことにより、同氏への同情票とともに病魔にも打ち勝つ“不屈の女戦士”というポジティブなイメージと期待感が、国民の間で創り出されたとも考えられる。

なお隣国のコロンビアでも、政権2期目にあるUribe大統領が国民の広範な支持を集めている一方、有力な対立候補が不在なこともあり、来年行われる大統領選挙への同大統領の再出馬、つまりは第3期Uribe政権の是非を問う国民投票が行われることになった。Uribe大統領自身は、憲法で禁止されている三選はコロンビアの民主主義にとって好ましくないと消極的だとされるが、第3期Uribe政権誕生の可能性も低くはないといえよう。

これに対しブラジルも大統領の連続三選を憲法で禁止しているため、ここに来て再び議論され出した第3次Lula政権へ道を開くには、憲法改正が必要となる。しかし、連邦最高裁判所はLula大統領三選のための憲法改正を認めない方針だと明言しており、たとえ議会で憲法改正案が承認されても、第3次Lula政権が誕生する可能性は高くないと考えられる。このような点は、ブラジルで民主主義が定着し同国が政治的にも“普通の国”になったことを表しているが、その可能性がゼロになったわけではなく、今後、議会内の最大政党でLula政権と連立を組むPMDBの動向、さらにはLula大統領と政権与党PTとの関係など、来年の選挙に向け政局の動きは活発かつ複雑化していくことは間違いないといえよう。

社会

集中豪雨:ブラジル北東部は周期的に旱魃や豪雨などの異常気象に見舞われることがあるが、5月は同地域で大量の雨が降り続き、20日時点で9州299都市が洪水などの被害を受け、45名が死亡、約20万人が避難し、10万人以上が家屋を失う事態となった。これら被害の規模は死亡者数を除き、昨年11月のサンタ・カタリーナ州を中心とした南部集中豪雨(2008年11月レポート社会欄参照)を上回るものであるが、今回の政府による救済策や企業・一般市民の寄付などが、南部集中豪雨の時よりも小規模にとどまっていることから、これらを批判する声も上がった(O Estado de São Paulo紙5月21日)。さらに28日には、ピアウイ州のダムが大雨で決壊し、8名が死亡する災害も発生した。また、北東部だけでなく北部でも大雨が降り、一部の地域ではアマゾン河支流の氾濫により洪水が発生し、多くの家屋が水害に曝されることとなった。

ブラジルが抱える問題のひとつにインフラ整備の遅れが挙げられるが、今回のような水害の発生自体は防げなくとも、被害の深刻化を食い止めるべく、雨水インフラを整備する必要があろう。このような中、5月はじめに2016年オリンピック候補地のリオデジャネイロをIOC評価委員会が訪問し、31日にはブラジルで2014年に開催されるサッカーW杯の開催12都市が決定された。しかし、現在でもブラジルで大雨や局地的な豪雨が降ると、特に都市部で交通などが麻痺し生活や都市機能に大きな支障をきたすことがある。このような状況の改善は、国際的なプレゼンスの拡大を目指すブラジルにとって、まさに火急の問題だといえよう。