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2008年12月 景気悪化に立ち向かうための蓄え

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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2008年12月

経済

第3四半期GDP:発表された2008年第3四半期のGDP(速報値)は、前期比1.8%、前年同期比6.8%と市場関係者の予想を大幅に上回るとともに、世界金融危機が悪化する直前(7~9月)まではブラジル経済が好調であったことを表すものとなった(グラフ1~3)。今回で四半期GDPは過去最長となる27期連続のプラス成長を記録したが、世界的な景気後退の影響が現れると予測される2008年第4四半期GDPは、0%(前月比)近辺になるとの見方が大半を占めている。しかし、もし第4四半期GDPが予想通り0%になったとしても、第3四半期が非常に高い伸びとなったため、2008年の年間GDP成長率は6%程度(2007年5.7%)になる見通しとなった。

2008年第3四半期GDPの内訳を前年同期比成長率の推移も合わせて見ると、為替のレアル高と旺盛な国内需要などの影響を受けた輸入(前期比6.4、前年同期比22.8%)、および海外直接投資の流入をはじめとする総固定資本形成(同6.7、19.7%)の成長率が突出していることがわかる。また、家計消費支出(同2.8、7.3%)と政府支出(同1.5、6.4%)の安定した伸びは、それぞれ国内消費市場の拡大、大型インフラ計画(PAC)や10月の選挙戦の進展によるものといえよう。ただし、低い伸びにとどまった輸出(同▲0.6、2.0%)に関しては、為替のみならず米国などの主要輸出先国における需要減少が影響したと考えられる。

部門別では、農牧畜業(同1.5、6.4%)が収穫期との関係から時系列的な成長率にばらつきがあるものの、第3四半期が小麦、コーヒー、サトウキビなどの収穫期となったことから堅調な伸びを示した。工業(同2.6、7.1%)に関しては、個人消費に加え建設業(前年同期比11.7%)や鉱工業(同7.8%)の好調さを背景に、第3四半期は特に高い成長率となった。また、拡大が続いてきた国内信用市場などが要因となり、サービス業(前期比1.4、前年同期比5.9%)も安定した成長率を記録した。

なお今回、GDPの算出方法が見直されたため、2007年のGDP年間成長率が5.4→5.7%、2008年第1四半期が5.9→6.1%、第2四半期が6.1→6.2%へとそれぞれ上方修正された。世界および国内の景気に関しては、今後のさらなる悪化とその長期化が懸念されており楽観視はできないが、このような時期に突入したばかりのブラジルにとって、今回のGDPの高い成長率は危機を乗り切るための蓄えとして心理的な下支え効果があるといえよう。
グラフ1 内訳および部門別2008年第3四半期GDP
(出所)IBGE(グラフ1~4)

グラフ2 四半期GDPの推移

グラフ3 四半期GDPの内訳および部門別推移:前年同期比

貿易収支:12月の貿易収支は、輸出額がUS$138.18億(前月比▲6.3、前年同月比▲2.9%)、輸入額は12月としての最高額となるUS$115.17億(同▲12.4、8.7%増)となった。また、貿易黒字額はUS$23.01億(同42.7増、▲36.8%)となり、前年同月比では大きく減少したものの、為替相場でドル高レアル安が進行した影響もあり、前月と比べ大幅に増加した。この結果、2008年の貿易収支は、輸出額がUS$1,979.42億(前年同期比23.2%増)、輸入額がUS$1,732.07億(同43.6%増)、貿易黒字額がUS$247.35億(同▲38.2%)となった(グラフ4)。長期に及んだドル安レアル高の影響などから、貿易黒字額は2003年のLula政権発足以降で最も低いものとなったが、輸出入額はともに過去最高を更新し、近年のブラジルの貿易拡大を表すものとなった。

12月の輸出に関しては、一次産品がUS$47.42億(1日平均額の前年同月比▲11.6%)、半製品がUS$15.48億(同▲21.5%)、完成品がUS$72.63億(同▲8.6%)であった。輸出額が大きかった主な品目は、原油(US$11.668億、同▲21.2%)、鉄鉱石(US$9.835億、同▲3.4%)、航空機(US$8.297億、同15.5%増)などで、輸出額の伸びが顕著だった主な品目は、鉄鋼管(US$1.269億、同324.6%増)、燃料油(US$2.670億、同101.1%増)、砂糖(US$4.328億、同70.5%増)などであった。また、主要輸出先は1位が米国(US$17.73億、同▲27.6%)、2位がアルゼンチン(US$9.36億、同▲32.1%)、3位が中国(US$7.10億、同▲2.9%)、4位がオランダ(US$7.01億)、5位がドイツ(US$6.60億)であったが、輸出額の減少という形で世界的な景気後退の影響がより明確に表れることとなった。

一方の輸入に関しては、資本財がUS$27.13億(同10.1%増)、原料・中間財がUS$51.58億(同▲5.7%)、非耐久消費財がUS$8.20億(同10.4%増)、耐久消費財がUS$8.59億(同3.8%増)、原油・燃料がUS$19.67億(同▲8.4%)であった。輸入品目としては輸送関連機器(US$4.84億、同118.7%増)や、イベントが多い年末という季節要因で装飾関連品(US$0.49億、同46.5%増)の輸入額が増加した一方、国際原油価格の低迷によりカテゴリーとしての石油の輸入額は前月に引き続き減少することになった(US$7.95億、同▲39.6%)。また、主要輸入元は1位が米国(US$20.68億、同25.8%増)、2位が中国(US$13.38億、同9.6%増)、3位がアルゼンチン(US$8.72億、同▲23.7%)、4位がドイツ(US$7.41億)で、中国の伸び悩みとアルゼンチンの減少が顕著であった。
グラフ4 2008年の貿易収支の推移
(出所)ブラジル商工開発省

物価: 10月に上昇傾向が若干強まっていたIPCA(広範囲消費者物価指数)であるが、発表された11月は0.36%(前月比▲0.09、前年同月比▲0.02%p)と落ち着いた数値となった。また、食料品価格は0.61%(同▲0.08、▲0.12%p)、非食料品価格は0.29%(同▲0.09、0.01%p増)であり、物価全体の安定的な推移を示すものとなった。しかし、11月までの累計値は前年同期(3.69%)比1.92%ポイント増の5.61%となり、例年12月はクリスマスや年末商戦などの影響で物価が上昇しやすいため、政府のインフレ目標(上限6%)達成は微妙な状況となった。

今回、食料品の中で上昇幅が大きかった主な品目は、トマト(10月4.44→11月20.87%)、果物(同0.40→3.91%)、肉類(干し肉:同3.32→3.21%、牛肉:同3.61→2.53%)などであった。一方の非食料品価格では、衣料(同1.27→0.71%)、上下水道料金(同0.77→0.00%)をはじめとする住宅(同0.62→0.43%)、中古自動車(同▲0.58→▲2.61%)やアルコール燃料(同1.08→▲0.21%)などの価格下落に影響された交通・運輸(同0.02→▲0.02%)などの分野での価格安定が、全体の価格上昇を抑えるかたちとなった。

金利:中央銀行の Copom(通貨政策委員会)は10日、政策金利のSelic金利(短期金利誘導目標)を前回に引き続き13.75%で据え置くことを満場一致で決定した。今回の金利据え置きは、他国で政策金利がすでに引き下げられており、ブラジルでも世界金融危機の影響で景気後退が明らかになる中での決定であったため、国内の政財界からは強い批判の声が上がった。

しかし、今回の決定が満場一致によるものであったことは、中央銀行内部では依然として過去のハイパー・インフレのトラウマが強く、年末を迎える最後のCopomにおいて、景気回復を遅らせてでも政府のインフレ目標を達成したいとの意見が大勢を占めていたことを表しているといえよう。ただし今回、中央銀行は「金利は“まだ”据え置く」としていることから、次回のCopomでは金利引き下げが行われるであろうとの見方が強まっている。

為替市場:12月のドル・レアル為替相場は、世界経済の景気後退が明らかになった月初の5日に2005年5月3日以来のUS$1=R$2.5004(売値)まで急速にドル高レアル安が進んだ。しかし、このレベルになると中央銀行が大規模な為替介入を行ったためレアルは大きく値を戻し、ブラジルのカントリー・リスクが漸次低下したことなどもあり(月末には月初比で100ポイントあまりの低下)、その後はUS$1=R$2.4を下回る狭いレンジでの取引に終始した。そして、更なる中央銀行による為替介入などから、為替相場は月末にUS$1=R$2.337(売値)という12月で最もドル安レアル高水準で今年の取引を終えた。なお2008年末のドル・レアル為替相場は、2007年末に比べドルがレアルに対して約32%も上昇することとなった(グラフ5)
グラフ5 2008年の対ドル為替相場の推移
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:12月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、11月の国内自動車販売台数が前月比▲25.7%を記録したことや、米国政府が1年前(2007年12月)からの景気後退入りを認めたことなどから、3日に12月の最安値となる34,740ポイントまで下落した。その後、米国政府による更なる利下げとそれにともなう世界主要株式市場の上昇に加え、2009年GDPを0.3%押し上げる効果があるとする追加景気対策で、主に中所得者層を対象とした減税措置〔所得税、自動車の工業製品税(IPI)、個人への金融取引税(IOF)など2009年分で総額R$84億。2009年内に期日が来る企業(政府・民間)の対外債務への融資(外貨準備高を財源とするUS$100億)〕を政府が発表したことなどが好感され、月の半ばまでは堅調に推移し、16日に39,993ポイントまで上昇した。

しかし月の後半になると、過剰在庫を抱えている企業(1,112社中)の割合の急増(9月3.5%、10月7.9%、11月15.7%)という、景気悪化を裏付ける調査結果が民間の調査機関FGV(ヴァルガス財団)から発表されたことや、11月の正規雇用者数が前月比で2002年以来初のマイナスとなる▲0.13%(4万人強分の雇用喪失)を記録したこと(季節要因の強い12月は除く)などにより、実体経済の悪化への懸念が高まると株価は値を下げる展開となった。そして為替市場でのドル高傾向が弱まったことなどもあり、株価は月末に向け若干値を戻したものの、30日に前年末比で▲41.22%もの大幅な下落となる37,550ポイントで2008年の取引を終了した(グラフ6)。
グラフ6 2008年のBovespa指数の推移
(出所)サンパウロ株式市場

政治

Lula政権の高支持率:Lula政権に対する世論調査(IBOPE)が行われ、同政権を「非常に良い」または「良い」と評価する割合が、政権発足以来最高値の前回(9月:69%)より4%ポイント高い73%に達した(グラフ7)。過去の世論調査の支持率では1986年にSarney政権が記録した72%が最も高かったが、今回の数値はこの記録を更新するものとなった。Lula政権の高い支持率の主な要因として、世界経済危機に対して政府が適切な対策を講じているとの国民の評価が挙げられている。Lula政権は国民からの厚い信任という政治的な蓄えを持ち、それが充分だとは明言できないが、今後さらなる悪化が予測される経済に立ち向かわなければならないにも関らず、支持率が20%前後のどこかの国とは状況が異なっているといえる。

一方、2010年の大統領選挙に関する世論調査(CNT/Sensus)も行われ、最大野党であるブラジル社会民主党(PSDB:Cardoso前大統領の所属政党)のSerraサンパウロ州知事(過去の選挙でLula大統領に敗北)が、いずれの想定ケースでも政権与党の労働者党(PT)候補(Dilma Rousseff文民官)などよりも高い支持率を得る結果となった。このことから、現在に至るまでのLula政権への国民の高い支持は、Lula“政権”よりもLula“大統領”に対するものと理解することができ、次の大統領選挙での政権交代の可能性は低くないといえよう。ただし、政権与党が変わっても現在のブラジルの長期的な方向性は大きく変化するとは考え難く、選挙を通じた定期的な政権交代は民主主義の定着としてポジティブに捉えることができよう。
グラフ7 Lula政権に対する評価の推移
(出所)IBOPE

ラ米・カリブ首脳会議:ラテンアメリカとカリブ海地域の33カ国の代表が初めて一堂に会した「ラ米・カリブ首脳会議」(CALC:Cúpula da América Latina e do Caribe)が、ブラジルのバイーア州で16日と17日の2日間にわたり開催された(新米的とされるコロンビアとペルーの2カ国以外の31カ国は国家元首が出席)。同会議は、ラ米・カリブ地域の将来的な更なる地域統合を話し合うことを目的としたものであるが、南北アメリカ地域の国際機構である米州機構(OEA:Organização dos Estados Americanos)の主要メンバーの米国を含まず、その一方で同機構に加盟していないキューバの参加を認めるとともに、ラウル・カストロ議長のプレゼンスを地域の内外に向けてアピールするなど、ラ米・カリブ地域が今まで依存度の高かった米国から脱却する意志を強調するものとなった。2010年2月にメキシコで開催される予定の次回ラ米・カリブ首脳会議において、同会議を地域国際機構として正式発足させるべく、今後、交渉が行われていく予定である。

今回のラ米・カリブ首脳会談は、同地域から米国の影響力を低下させる方向性を確認する一方、地域の統合と発展を推進するリーダーとして、今後ブラジルがより重要な役割を果たすよう各国首脳が支持や期待を表明する場ともなった。最近、ブラジルの融資に対する不払いを主張するなど強硬な姿勢を強めているエクアドルのCorrea大統領も、今回の会議では「ブラジルとの問題は純粋に経済的なものである」と述べるなど、慎重かつ友好的な態度を示した。またベネズエラのChavéz大統領も、国内的な事情や国際原油価格の下落の影響、さらには増大する近年のブラジルの経済および政治力を認めたためか、会議期間中に反動的な言動は見られなかった。ただし、「ブラジルは唯一の地域リーダーではなく、地域内の複数のリーダーシップが協力し合うことが重要」と述べ、ブラジルの地域大国化に対して釘を刺すことも忘れなかった。なお、このようなChavéz大統領の穏健的な態度を受け、ブラジル国内で懸案であったベネズエラのメルコスル正式加盟が下院議会において承認され、上院での採決へと回されることとなった。

今回が初となったラ米・カリブ首脳会談に加え、今年5月に発足した「南米諸国連合」(Unasul:União Sul-Americana de Nações)の第1回会合、2005年に初めて行われた南米アラブ首脳会議などもブラジル国内で開催されており、これらのことは、近年ラテンアメリカ地域で増しつつあるブラジルのプレゼンスを端的に表すものといえよう。またこのほかにもLula大統領は、12月後半にブラジルを訪問したフランスのSarközy大統領と首脳会談を行い、ブラジルが進めている原子力潜水艦計画へのフランスの技術供与など、総額US$83億に上る両国間の軍事協力関係の強化で合意したと発表した。この合意の背景としてLula大統領は、最近、新たなガス油田が次々に発見されるなど自国の資源を防衛する必要性が高まっていることに加え、「国際社会でリスペクトされる国には、軍事力が不可欠である」との説明を行った。

確かにブラジルのポテンシャルを鑑みれば、同国がラテンアメリカ地域においてリーダーシップを高めることは理解できる。しかし、そのやり方や方向性を間違えると、ラ米・カリブ首脳会談が“排除”したブッシュ政権の米国のように、周辺諸国との関係だけでなく国内外における立場が微妙になる可能性もあるといえよう。

社会

いつもの年末?:日本では景気後退がより鮮明化し、雇用の悪化が話題となるとともに年末年始などを“巣ごもり”して過ごす人が多い師走となった。一方、ブラジルはというと、クリスマスや年末年始の利用者の増加に航空会社(Gol)が対応できず、航空便に大幅な遅れが出るとともにトラブル解決にかなりの日数がかかるという、時期的に“恒例”ともいえる航空問題が発生した。また、今年のクリスマス商戦の売り上げに関する調査結果が発表され、前年度比で3.5%(ショッピング・センター小売店協会:Alshop)や5%(サンパウロ州商業連盟:Fecomércio)の増加という、景気後退局面としては“まあまあ”の売上高を記録した。そして、リオやサンパウロ近郊の海沿いリゾート地などには年末年始の休暇をビーチで過ごそうという人々が大挙して訪れ、ホテルなどがほぼ満席状態となり、カウント・ダウンでは各地で花火が打ち上げられるという、これまた年末“恒例”の光景が見られた。

ブラジルでも世界的な経済危機は政府やマスコミなどにより大々的に取り上げられ、その影響もかなり出始めているが、相対的に日本ほど2008年の年末における景況感の落ち込みは深刻ではなく、年末特有の買い物やフェスタ(お祭り)、それに起因したトラブルなどが見られ、比較的“いつもの年末”だったといえる。ただし、世界経済が2009年の後半に景気悪化の底を迎えるとの見方もあり、ブラジルの2009年は“いつもの年末”とは異なるものになる可能性も大いにあるといえよう。