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2008年11月 災難のダブル・パンチ

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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2008年11月

経済

貿易収支:11月の貿易収支は、輸出額がUS$147.53億(前月比▲20.3%、前年同月比5.0%増)、輸入額がUS$131.40億(同▲24.1%、9.2%増)、貿易黒字額がUS$16.13億(同33.6%増、▲20.1%)となった。輸出入ともに11月としては過去最高額を記録したが、前月比では大幅なマイナスとなり、世界経済の景気悪化を裏付けるかたちとなった。また年初からの累計は、輸出額がUS$1,841.25億(前年同期比25.8増)、輸入額がUS$1,616.92億(同47.0%増)、貿易黒字額がUS$224.33億(同▲38.4%)となった(グラフ)。

輸出に関しては、一次産品がUS$51.75億(1日平均額の前年同月比21.1%増)、半製品がUS$20.48億(同5.7%増)、完成品がUS$72.11億(同▲4.2%)であった。輸出額が大きかった主な品目は、鉄鉱石(US$13.72億、同59.9%増)、原油(US$11.25億、同48.9%増)などで、輸出額の伸びが顕著だった主な品目は、エタノール(US$2.39億、同168.8%増)、大豆粕(US$3.52億、同103.3%増)などであった。その一方で、航空機(US$3.96億、同▲41.0%)や自動車(US$3.66、同▲18.0%)などの主要工業製品の輸出額はマイナスとなった。また、主要輸出先は1位が米国(US$20.17億、同▲5.7%)、2位がアルゼンチン(US$12.35億、同▲8.1%)、3位がオランダ(US$8.51億、同30.9%増)、4位がドイツ(US$7.46億)、5位がシンガポール(US$7.39億)であった。なお、シンガポールへの輸出額増加は石油採掘プラッタフォームの大型案件(U$6.23億)によるものであるが、近年、常に上位にランクしていた中国への輸出額(US$5.60億、同▲30.1)の減少が顕著であった。

輸入に関しては、資本財がUS$27.32億(同10.0%増)、原料・中間財がUS$67.72億(同20.1%増)、非耐久消費財がUS$ 8.61億(同12.5%増)、耐久消費財がUS$11.02億(同25.8%増)、原油・燃料がUS$16.73億(同▲26.2%)であった。為替相場がレアル安に触れたため全体的に輸入額の伸びは小幅なものとなったが、石油は国際原油価格が下落していることもあり輸入額を大幅に減少させることとなった(US$6.53億、同▲50.0%)。また、主要輸入元は1位が米国(US$20.82億、同30.0%増)、2位が中国(US$17.63億、同31.8%増)、3位がアルゼンチン(US$10.30億、同▲5.2%)、4位がドイツ(US$9.57億)、5位が日本(US$5.77億)であった。
グラフ 貿易収支の推移:2006年以降
(出所)ブラジル商工開発省

物価: IPCA(広範囲消費者物価指数)は9月まで前月比で4ヶ月連続のマイナスとなっていたが、発表された10月の数値は0.45%(前月比0.19%、前年同月比0.15ポイント増)と上昇に転じることとなった。非食料品価格は前月比で若干マイナスの0.38%(同▲0.04、0.14%ポイント増)となったものの、過去2ヵ月連続でデフレを記録していた食料品価格が0.69%(同0.96、0.17%ポイント増)と大幅に上昇したことが影響した。また、10月までの累計値は前年同期(3.30%)比1.93%ポイント増の5.23%となった。この結果、世界金融危機の影響から、ドル高レアル安傾向という物価上昇要因が存在する一方で金利引き上げが困難という状況下で、中央銀行は政府のインフレ目標(上限6%)達成という課題に直面することとなり、12月の政策金利決定において難しい判断を迫られることになったといえる。

上昇に転じた食料品の中でも、各種フェイジョン豆(5.66%)、肉類(牛肉:9月0.57%→10月3.61%、干し肉:同0.23%→3.32%)の価格上昇が顕著であった。一方の非食料品価格の安定には、ガソリン(同0.69%→▲0.18%)とアルコール(同1.20%→1.08%)に代表される運輸・交通(同0.39%→0.02%)や、保健医療・ケア用品(同0.46%→0.26%)分野での価格上昇が小幅なものにとどまったことが影響した。

金利:11月は政策金利のSelic金利(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは12月9、10日に開催予定。

為替市場:ドル・レアル為替市場では先月ドル高レアル安が急激に進んだが、11月はじめの為替相場はUS$1=R$2.15を挟んだ狭いレンジでの取引となった。しかし、米国の主要企業の資金繰りに対する不安が高まったことなどからドルを確保する動きが強まると、月の半ばに再びドル高レアル安の展開となり、21日にはUS$1=R$2.4を上回るレベルまでドルが買い進められた。その後、中央銀行の為替介入や信用供与に加え、米国政府による公的資金を活用した救済策の決定や、ブラジル政府が2009年GDP成長率の4%達成を目的とした減税を柱とする新たな金融危機対策を検討中と発表したことなどから、レアルは若干値を戻した。しかし、月末には再びドルがUS$1=2.3331(売値)まで上昇するかたちで11月の取引を終えた。

株式市場:11月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、4日に40,000ポイントを回復し11月の最高値を記録したものの、米国の自動車大手3社やシティー・グループの経営危機を巡り、米国株価が大幅に下落した影響を受け、その後は21日の31,251ポイントまで漸次値を下げる展開となった。また、株価下落に関する国内的な要因としては、世界金融危機の影響からValeや自動車メーカーをはじめとする主要企業が減産や生産調整のための休暇を発表したことや、10月末に419まで低下していたカントリー・リスクが20日に532まで上昇したこと、さらに、Petrobrasがエスピリト・サント州沖合の比較的浅い海底で軽油も含むとされる新たな油ガス田の発見を発表したが、原油の国際価格が大きく下落しているため同社の株価が大幅安となったことなどが挙げられる。しかし、月末にかけて米国の株式市場が好転するとともにBovespa指数も上昇し、月末には36,595ポイントまで値を戻して11月の取引を終えた。

ブラジル経済に関しては前述のような国内の動向に加え、金融機関の再編や大災害の発生(後述)など、プラスとマイナスともに独自の要素が見られる。しかし、世界金融危機の底や各国の実体経済への影響が見極め難いこともあり、依然として株式市場は、米国をはじめとする世界の主要株式市場の動向にほぼ連動して推移する状況が続いているといえる。

金融再編:11月3日、総資産額で国内第3位の銀行であるItaúと6位のUnibancoが合併を発表し、ブラジルだけでなく南半球で最大規模(R$5,751億)の金融機関が誕生することとなった。また20日には、連邦政府系のブラジル銀行(Banco do Brasil)がサンパウロ州政府系の銀行であるNossa Caixaを買収すると発表した。この買収によりブラジル銀行の総資産額はR$5,123億に達する見通しであるが、依然としてItaúとUnibanco連合に次ぐ国内第2位の銀行にとどまることから、同行はさらに複数の地方銀行の買収を予定しており、Lula大統領もこの方針に対する支持を表明している。

これら国内金融機関の合併や買収により、国内上位5行の預金残高が全体に占める割合は1994年の48%から79%へと上昇することになる。今回の金融再編は、世界金融危機への対応力を強めるという狙いも含んでいるが、合併や買収の交渉は世界金融危機の発生以前から開始されていることから、ブラジルが継続的に進めている国内金融システムの強化を意図した動きだといえる。一方、世界金融危機に対する金融政策としては、政府系のブラジル銀行と連邦貯蓄銀行(CEF)が政府系および民間の銀行を買収する際、入札なしで行えるようにする暫定措置(MP)が12日、下院議会において承認された。今後、上院で審議されるこの法案が成立した場合、世界金融危機対策という特殊な事情によるものであるが、ブラジルの金融機関の再編がさらに進むことになると予測される。

政治

エクアドル問題:今年9月にエクアドルのCorrea政権との間で発生していた問題が(9月レポート政治欄参照)、11月に入りさらに悪化することとなった。ブラジル側への事前連絡なしにCorrea政権は、総額US$5.97億に上るブラジルからの融資(BNDES)を不当として、債務不払いの可否に関する審査を国際仲裁裁判所に持ち込む旨の発表を行った。9月に問題が発生した際には、Lula大統領がCorrea大統領をはじめとする隣国首脳たちをブラジルに招いて話し合いを持つなど、対話による解決策を模索した。しかし、その後もCorrea政権が強硬姿勢を崩さず、今回の行為が「友好国のものではなく、非常に深刻な事態」(ブラジルのAmorim外務大臣)であったため、ブラジル政府は21日にエクアドルのブラジル大使を召還するとともに、24日にはUS$2.61億に上るブラジル製(Embraer)空軍機24機のエクアドルへの売却案件の中断を決定した。このようなブラジルの強硬な報復措置に対し、Correa大統領は「ブラジルが空軍機を売らないのであれば、ほかの国から購入する」と反論している。

エクアドルとの問題再燃に関して、Lula大統領は大洪水(後述)の災害対策などに追われていたこともあり具体的な行動を起こしていないが、今後、エクアドルとの関係改善のためCorrea大統領と直接話し合いを持つことも考えられる。しかし、ブラジル外務省はエクアドルに対する強硬姿勢を鮮明化させていることから、両国の関係がさらに悪化する可能性も考えられる。

Lula政権は、11月15日にワシントンで開催されたG20会議で国際社会におけるブラジルのプレゼンスを高めたり、11月後半にブラジルを訪問したロシアのメドベージェフ大統領との間で2009年に初のBRICs首脳会談を開催することで合意したりと、一定の外交成果を挙げている。しかしその一方で、一時期のベネズエラやボリビアなどに引き続き、今回はエクアドルとの関係悪化が顕在化しており、隣国との関係に関しては翻弄されるケースが多く見られる。これらは全て、ブラジルが地域大国となるための試練と考えられなくもないが、地理的に“急進左派”に包囲されていることもあり、対処法を誤ると地域内で孤立する危険性をはらんでいるといえる。

社会

南部大洪水:11月半ばにブラジル南部で降り続いた大雨により、サンタ・カタリーナ州を中心とした地域で大洪水や土砂崩れなどの災害が多数発生した。今回の大雨による死者と行方不明者は100名以上、避難を余儀なくされた住民は約8万人、家屋の浸水などの被害に見舞われた住民は約150万人にも上り、道路の遮断や浸水が原因で6つの町が孤立状態に陥るなど、同地域は深刻な打撃を受けた。また被災地では、食糧確保を目的とした商店での略奪や空き家を狙った強盗事件などが発生し、秩序の悪化も問題となった。

連邦政府は今回の災害に対して、総額R$16.29億もの資金援助などの緊急支援策を行うと発表した。しかし、被災者の救助、および住民の生活や地場産業の復旧に加え、各地を結ぶ主要幹線道路だけでなく南部諸州にガスを供給するパイプラインが各地で寸断されるとともに、港湾施設も機能不全に陥るなど経済インフラも大きな被害を被った。したがって、被災地域全体の被害総額は膨大な額に達すると予測されており、完全な復興にはかなりの時間とコストが必要だと見られている。

ブラジルは米国発の世界金融危機という“人災”だけでなく、被災地を訪れたLula大統領が「ブラジル史上最悪の水害」と述べた天災にも直面することとなった。したがって、災難のダブル・パンチを受けたブラジルがいつ“正常な”軌道に戻れるかに関しては、その見通しはさらに立て難い状況になったといえよう。

家庭開発指数:24日、ルーラ政権が推進する主要な社会政策の管轄省である社会開発飢餓撲滅省は、UNDPのHDI(人間開発指数)のブラジル版ともいえる「家庭開発指数」(IDF:Índice de Desenvolvimento Familiar)を作成したと発表した。IDFは、Bolsa Família実施の際に複数の社会政策への登録を1つにまとめ、貧困家庭の諸データを統合した情報システム(Cadastro Único)をもとに、家庭の脆弱性、学歴、労働へのアクセス、所得、乳幼児の発育、居住環境という6つの項目を0~1の指数で数値化した上で平均したもので、数値が低いほどより貧困な状態にあるとされる。

これによると、IDFが最も低い州はアマゾナス州、パラ州、マラニャン州の順で、パラ州では14のムニシピオで就労機会と収入源を意味する「労働へのアクセス」指数がゼロであり、「学歴」が全国最下位のムニシピオはマラニャン州に位置している。また、IDFの下位10ムニシピオのうち9つが北部に属しており、「乳幼児の発育」と「居住環境」が最下位のムニシピオは、アマゾン奥地にありペルーと国境を接するアクレ州に位置している。その一方で、IDFが最も高い州(相対的に状況の良い貧困)はサンパウロ州、南リオグランデ州、サンタ・カタリーナ州であり、上位10ムニシピオのうち5つがサンパウロ州に属している。

近年、徐々に減少傾向にあるとされるブラジルの貧困人口であるが、その大きな問題の一つとして地域間格差が挙げられ、IDFはそれが依然として明確に存在するとともに、その状況が非常に劣悪であることを表している。オーストラリア大陸よりも広大な国土を有するブラジルでは、その開発と経済発展が歴史的にも地域的なバランスを欠いていた。しかし、今後この地域間格差を是正する上で、他の途上国が貧困削減の取り組みに国際機関等のデータを多く用いるのに対し、ブラジルが独自のデータ・ベースを活用し得るということは意味あることだといえよう。

取り残される最貧困層:ブラジル政府の研究所であるIPEA(応用経済研究所)は、下位5%の貧困層、ブラジルの全人口、上位5%の富裕層における世帯1人当たり所得の年間成長率を比較した調査結果を発表した。これによると、2001~2007年ではそれぞれ7.9%、2.5%、0.9%となり、最貧困層の所得の伸び率が全人口と最富裕層のそれを上回るとともに、富裕層の伸び率が最も低いことから、国民間の所得格差が是正されていることがわかる。しかし2004~2007年に関しては、それぞれ4.1%、6.4%、4.9%と最貧困層の伸びが最も鈍化しており、そして2006~2007年の直近2年間では、▲13.0%、3.7%、0.8%となり、全人口の伸び率が最富裕層を上回ったものの、最貧困層のそれは大きく後退したとされる。

近年のブラジルでは、国民間の所得格差などの不平等が是正されつつあり、これは社会政策を重視するルーラ現政権およびカルドーゾ前政権という2つの長期政権が、継続性ある社会政策を促進してきたことが一つの大きな要因だといえる。しかし、実際に最貧困層が経済的に取り残されているのであれば、社会扶助を中心とした社会政策のみでは解決し得ない構造的な貧困が存在することを意味している。ただし、このような構造的貧困は途上国に限らず先進国の社会でも見られることから、世界的な景気後退の国民経済への影響が不透明ではあるが、今回の調査結果は、ブラジルの貧困削減の取り組みが新たな局面に入りつつあることを示唆しているともいえよう。