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2008年10月 世界金融危機の波

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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2008年10月

経済

貿易収支:10月の貿易収支は、輸出額がUS$185.12億(前月比▲7.5%、前年同月比17.4%増)、輸入額がUS$173.05億(同0.2%、40.3%増)となり、輸出入ともに10月としては過去最高額を記録した。しかし、輸入額の増加が輸出額のそれを大きく上回ったことから、貿易黒字額はUS$12.07億(同▲56.2%、▲64.8%)と前月および前年同月比で大幅なマイナスとなった。また、年初からの累計は輸出額がUS$1,693.72億(前年同期比28.0増)、輸入額がUS$1,485.27億(同51.6%増)、貿易黒字額がUS$208.45億(同▲39.4%)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$71.80億(1日平均額の前年同月比27.8%増)、半製品がUS$27.77億(同30.4%増)、完成品がUS$79.76億(同3.5%増)であった。輸出額が大きかった主な品目は、鉄鉱石(US$19.17億、同93.2%増)、原油(US$13.84億、同37.2%増)、鶏肉(US$5.38億、同32.7%増)、大豆(US$5.25億、同▲21.0%)などで、全て一次産品であった。また、溶解鉄(US$4.45億、同140.7%増)、金半製品(US$1.21億、同102.6%増)などの輸出額の伸びが顕著であった。なお、主要輸出先は1位が米国(US$23.52億、同▲0.5%)、2位がアルゼンチン(US$16.34億、同10.9%増)、3位が中国(US$14.20億、同30.9%増)、4位がオランダ(US$8.48億)5位がドイツ(US$8.13億)であった。10月は世界金融危機の影響などもあり、前述の大豆に加え、自動車(US$4.28億、同▲10.6%)、航空機(US$3.07億、同▲17.9%)などの主要完成品、および米国への輸出額が前年同月比でマイナスを記録することとなった。

輸入に関しては、資本財がUS$34.27億(同39.4%増)、原料・中間財がUS$84.30億(同39.3%増)、非耐久消費財がUS$ 8.86億(同11.7%増)、耐久消費財がUS$13.92億(同45.6%増)、原油・燃料がUS$31.70億(同52.6%増)であった。輸入額の伸びが顕著であった主な品目は、輸送関連機器(US$4.54億、同111.9%増)、家電製品(US$3.11億、同94.0%増)、鉱物(US$17.63億、同85.7%増)、農業生産のための原料(US$12.47億、同71.1%増)などであった。また、主要輸入元は1位が米国(US$25.50億、同32.1%増)、2位が中国(US$20.79億、同45.3%増)、3位がアルゼンチン(US$14.18億、同58.4%増)、4位がドイツ(US$11.43億)、5位がナイジェリア(US$8.68億)であった。

物価:発表された9月の IPCA(広範囲消費者物価指数)は前月比▲0.02%ポイント、前年同月比0.08ポイント増の0.26%で、前月比で4ヶ月連続のマイナスとなった。非食料品価格は前月と同じ0.42%であったが、食料品価格が8月(▲0.18%)に引き続き▲0.27%のデフレ(前月および前年同期比ともに3ヶ月連続)を記録したことが物価の安定に大きく寄与した。しかし、9月までの累計値が前年同期の2.99%に対し4.76%となる中、為替相場でドル高レアル安が進んでいることから、今後、輸入品価格の上昇が考えられる。したがって、2008年の物価上昇率(IPCA)が政府のインフレ目標の上限6.0%以下に収まるかどうかは、依然として予断を許さない状況といえる。

デフレとなった食料品の中でも、一部主要野菜(タマネギ:8月16.63%→9月▲17.24%、トマト:同▲36.91%→▲14.54%、ジャガイモ:同▲6.55%→▲13.76%、ニンジン:2.20%→▲6.50%)の価格下落が顕著であったことに加え、小麦粉製品やフェイジョン豆などの基礎食料品価格も8月に引き続きデフレを記録した。一方の非食料品価格は、衣類(同0.39%→0.70%)に加え、アルコール(同0.43%→1.20%)とガソリン(同0.25%→0.69%)および運輸・交通(同0.06%→0.39%)が上昇したが、教育費と通信費でマイナスとなったため、全体的な価格上昇は抑制されるかたちとなった。

金利:29日、Copom(通貨政策委員会)は政策金利のSelic金利(短期金利誘導目標)を13.75%に据え置くことを決定した。過去4回連続で引き上げられてきたSelic金利は、ドル高レアル安の進行などによる物価上昇懸念があるものの、世界金融市場の混乱が深まり経済の先行きに対する不透明感が増したことから、今回は金利の据え置きが満場一致で決定された。今回の決定は、金利の引き下げを望んでいたLula大統領をはじめ政府や企業の意向に沿うものではなかったものの、翌日の株式市場における株価上昇の一要因ともなった。しかし、金融危機が実体経済へ及ぼす影響を危惧する声が高まっていることから、12月に予定されている今年最後のCopomに向け、金利引き下げの圧力および期待感が強まっていくものと予測される。

為替市場:10月のドル・レアル為替相場は、世界金融危機の影響によりドルの流動性が大きく低下し、為替市場でドル資金を確保しようとする動きが強まったため、急激にドル高レアル安が進むこととなった。2日にUS$1=R$2を突破したドル・レアル為替相場は、8日には2005年8月以来のドル高レベルとなるUS$1=2.3924(売値)まで急上昇した。その後、8日と30日に米国がそれぞれ▲0.50%ポイントの政策金利引き下げに踏み切ったことなどから、レアルが大きく値を戻す場面も見られたが、依然としてドル需要は旺盛であることから、月の後半のドル・レアル相場は乱高下の展開となり、月末US$1=2.1153(売値)で10月の取引を終えた(グラフ1)。
グラフ1 対ドル為替相場の推移:2005年以降
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:世界金融危機の波にさらされた10月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、米国をはじめとする主要各国の株式市場と連動する形で値を下げ、前月末比では▲24.80%と大幅な下落となった。株価が前月比でマイナスを記録したのは5カ月連続であり、今回の下げ幅は9月のそれを大きく上回り、アジア通貨危機の影響が顕在化した1998年8月(▲39.55)に次ぐものとなった。
株式相場は1日に49,799ポイントと9月の終値を若干上回って始まったが、世界的な景気後退が現実的なものになるとともに、月の前半は10日の35,610ポイントまで一方的に値を下げる展開となった。月の半ばに値を戻しもみ合う場面も見られた株価は、世界金融危機がブラジルの実体経済に与える影響に対する懸念が高まったこともあり、22日にブラジルのカントリー・リスクが2004年6月以来の高いレベルとなる677へと急激に悪化したことなどから(グラフ3)、27日に2005年9月以来の30,000ポイント割れとなる29,435ポイントを記録した。しかしその後は、米国株式市場の上昇やブラジル政府による金融危機対策の具体化などを受け、Bovespa指数は月末に37,257ポイントまで回復し10月の取引を終えた(グラフ2)。
グラフ2 Bovespa指数の推移:2005年以降
(出所)サンパウロ株式市場

グラフ3 カントリー・リスクの推移:2004年以降
(出所)J.P.Morgan

金融危機対策:ブラジル政府は今回の世界金融危機への対策として、金融市場が混乱し始めた9月に農業部門をはじめとする輸出企業向けの緊急融資枠を設定すると発表していたが、10月、資金繰りが困難になった民間銀行を政府系のブラジル銀行と連邦貯蓄銀行(CEF)が一時買収し、金融不安が終息した後に市場ベース価格で売却する案を発表し、29日には下院議会の承認を得た。なお、ブラジルの金融機関に関しては、国際的基準(新BIS規制)よりも厳格な規制が存在することに加え、海外のデリバティブ商品の購入が禁止されていること、さらに上位10行で総資産の80%以上を占めていることなどから、国内の信用不安は深刻化していない。しかし、海外からの資金調達が困難またはコスト高となっているため、一部の中小の金融機関における資金繰りの悪化や、金融機関による融資の慎重化などが指摘されている(『ブラジル政治・経済08年第3四半期レポート』JBICリオデジャネイロ事務所)。

政府はまた、景気回復の梃入れとしてPAC(成長加速プログラム)をはじめとする公共事業を優先的に実施すること、そして、金融危機への諸対策は政府の財政支出の増加を必要とするため、2009年のプライマリー・サープラスの目標値を4.3%から3.8%へ引き下げることを31日に決定した。さらに、為替市場におけるドル高進行に対処すべく、今まで為替動向を静観していた中央銀行が為替介入を積極的に行い、この結果、2006年7月から一貫して増加してきた外貨準備高は10月に前月比で約US$330万マイナスのUS$2,301.79億となった。これらのほかにも、11日にワシントンで開催され11月にもサンパウロと再びワシントンで行われる予定の主要20カ国財務相・中央銀行総裁会議に出席し、危機克服へ向けて米国をはじめとする主要各国と協調体制を取る姿勢を明確化している。なお、金融危機と直接関係はないが、2日にはアルゼンチンとの間の貿易決済がドルから自国通貨(レアルとペソ)へと変更され、為替リスクが軽減されることになった。

そして、11月に入ってからであるが、6日に政府は一連の総合金融危機対策を発表した。同対策は2009年の経済成長率の4%確保を目的とし、総額R$452.5億に上るものである。その内訳は、R$210億が企業の税金支払い期間の延長、R$100億が社会経済開発銀行(BNDES)による大企業向け融資、R$52.5億が労働者保護基金(FAT)からの零細企業向け融資、R$50億がブラジル銀行による中小企業向け融資、R$40億がブラジル銀行による製造業(自動車)向け融資となっている。

政治

全国統一地方選挙:4年に1度実施される全国の市長と市議会議員の選挙が、10月5日と26日(市長の決選投票)に行われた(選挙結果は下記表を参照)。この結果、与党陣営の各政党が市長および市議会議員ともに概ね多くの当選者を出し、Lula政権の支持基盤がより強固になったといえる。しかし、政権与党であるPT(労働者党)は、最も重要といわれるサンパウロ市長選でMarta候補(元サンパウロ市長)が敗れるなど、2004年の選挙では9つの州都の市で勝利したが今回は6つにとどまった。その一方、国内の最大政党であるPMDB(ブラジル民主運動党)は、州都の獲得市長数を前回の2から6へと伸ばすなど更に勢力を拡大する結果となった。ただし、PMDBは規模の大きさから強い影響力を持つ一方、中道左派といわれるものの政治的な姿勢が明確ではなく、局面や状況によって政権に対する態度を変化させることがあるため、Lula政権としては今後の政治運営をより慎重に進める必要性が出てきたといえる。野党勢力に関しては、PSDB(ブラジル社会民主党)をはじめ全体的に議席数を減少させる結果となったが、特に伝統的右派政党とされるDEM(民主党)はサンパウロ市長選挙で勝利したものの、今回の選挙での勢力後退が顕著であった。

また、Marta候補のサンパウロ市長選での劣勢および敗北を受け、Lula大統領は2010年の大統領選挙における自らの後継者にDilma文民官を正式に指名した。一方、PTにとって最大の対抗勢力であるPSDBは、前回の選挙でLula大統領に敗北したSerraサンパウロ州知事を大統領候補にすることを決定している。したがって、2年後に迫った大統領選挙に関しては、Dilma文民官とSerra州知事を中心とした展開になるものと思われる。
(出所)Tribunal Superior Eleitoral (http://www.tse.gov.br/)をもとに筆者作成。
(注)黄色が与党連合(PTはオレンジ色)で緑色が野党であるが、与野党等を構成する政党は2008年と2004年で異なる。

社会

改善されない治安問題:13日、サンパウロ市に隣接するSanto André市において、男性(22歳)が元恋人の少女(15歳)のアパートに押し入り、その場に居た少女の友人3人(少年2人と少女1人)を含めた4人を人質にし、約100時間も立てこもり続けるという事件が発生した。友人のうち少年2人は途中で解放されたが少女2人は人質にされたままとなり、最終的に警察の特殊部隊が強行突入した際、元恋人の少女は犯人により射殺され、もう1人の少女も口に銃弾を受ける重傷を負った。今回の事件はテレビで生中継されるなどマスメディアで大々的に取り上げられ、残忍かつ悲劇的な結末となったことから国民に大きな衝撃を与えた。

また、20日にはリオ市内の最高級住宅地の一つであるLeblonにおいて、大型スーパーマーケットSendasのオーナーが殺害される事件が発生した。犯人は殺害されたオーナーの孫の運転手であり、事件前にオーナーと言い合いになったことが判明している。さらに、21日にはリオ市郊外の高級住宅地区(Barra da Tijuca)において、犯罪組織の不正を告発していた市議会議員が射殺される事件も起きた。

一方、治安の維持や問題解決を責務とする警察に関しては、異なる警察組織間での対立が表面化する事態となった。サンパウロ市で発生した今回の事件は、賃金などの労働条件を改善すべく9月半ばからストライキ中であり、州政府庁舎および知事官邸(Palácio dos Bandeirantes)に向けデモ行進を行っていた市民警察と、周辺警備に当たっていた軍警察の間で緊張が高まり、最終的に24名もの負傷者を出す武力的な衝突にいたったものである。また、両警察組織の間の衝突が決選投票となった市長選挙が近づくにつれ激化したことから、選挙動向に影響を与えようとの意図があったとの憶測も取り沙汰された。

治安問題に関しては、あまりにも頻発していることもあり本レポートでは毎回取り上げてはいないが、ブラジル、特に大都市部の状況は依然として改善の見通しが見えないだけでなく、残念ながら悪化の方向に向かっているといっても過言ではない。