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2008年9月 短期的な影響と長期的な方向性

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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2008年9月

経済

第2四半期GDP:2008年第2四半期のGDP(速報値)が発表され、前期比1.6%、前年同期比6.1%となった(グラフ1~3)。この数値は過去最長となる26四半期連続のプラス成長であるとともに、大方の事前予想を上回るものであったため、2008年の年間GDP成長率予測を前年(5.4%)並みの5%以上へと上方修正する政府や市場関係者も見られた。

その内訳を見ると、投資を示す総固定資本形成の伸びが顕著であり(前期比5.4%、前年同期比16.2%)、米国のサブプライム・ローン問題に端を発した最近の世界経済の先行き不透明感の高まりにも関らず、ブラジルへの投資が活発に行われていたことを示す結果となった。しかし、6月以降に世界金融市場の状況がより悪化し、主に投機的で短期的なものではあるが大量の資金がブラジル市場から引き揚げられているため、この影響が第3四半期には少なからず出るものと考えられよう。また、家計消費支出(同1.0%、同6.7%)と政府支出(同0.3%、同5.3%)の堅調な伸びに関しては、前者は国内市場の継続的な拡大、後者は10月の全国地方選挙を前にした公共事業費や選挙関連費の増加などを表しているといえる。貿易に関しては、輸入は長引くレアル高により今回も大幅に増加し(同8.4%、同25.8%)、輸出もコモディティの国際価格が堅調に推移したことや、全国規模の税関職員のストライキ終息という国内的な特殊事情などから、為替のマイナス影響にも関らず前期のマイナス成長からプラスへと転じた(同8.5%、同5.1%)。

部門別では、主要農作物の収穫期であった農牧畜業(同3.8%、同7.1%)の成長が最も顕著であったことに加え、工業(同0.9%、同5.7%)とサービス業(同1.3%、同5.5%)も堅調な伸びとなった。なお、工業では建設業が(前年同期比9.9%)、サービス業では金融・保険業が(同12.7%)、それぞれ公共事業や住宅建設などのインフラ整備の活発化、国内の消費および信用市場の拡大などを反映するかたちで、最も高い伸びを示した。

さらに2008年上半期のGDP成長率は6.0%となり、13期連続のプラス成長を記録するとともに半期GDPの推移から、近年、経済がより順調に成長していることがわかる(グラフ4)。また部門別の伸びは、農牧畜業が5.2%、工業が6.3%、サービス業が5.3%であった。
グラフ1 内訳および部門別2008年第2四半期GDP
(出所)IBGE(グラフ1~4)

グラフ2 四半期GDPの推移

グラフ3 四半期GDPの内訳および部門別推移:前年同期比

グラフ4 上下半期GDPの推移:1998年以降
(出所)ブラジル中央銀行

貿易収支:9月の貿易収支は、輸出額がUS$200.25億(前月比1.4%増、前年同月比41.4%増)、輸入額がUS$172.63億(同▲1.2%、61.5%増)、貿易黒字額がUS$27.62億(同21.8%、▲20.6%)となり、輸出入ともに過去2番目の額を記録した。また、年初からの累計は輸出額がUS$1,508.68億(前年同期比29.4増)、輸入額がUS$1,312.12億(同53.2%増)、貿易黒字額がUS$196.56億(同▲36.5%)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$74.35億(1日平均額の前年同月比44.5%増)、半製品がUS$27.46億(同31.6%増)、完成品がUS$92.90億(同4.9%増)であった。輸出額が大きかった主な品目は、鉄鉱石(US$21.38億、同107.3%増)、原油(US$11.07億、同31.3%増)、大豆(US$9.08億、同44.3%増)、採掘・開発プラットフォーム(US$8.62億、同13.3%増)などであった。また、輸出額の伸びが顕著であった主な品目は、マンガン鉱石(US$1.11億、同767.9%増)、鋼鉄線(US$1.42億、同127.1%増)、溶解鉄(US$3.52億、同109.0%増)、鉄鋼半製品(US$5.07億、同108.9%増)などであった。また、主要輸出先は1位が米国(US$31.08億、同20.4%増)、2位が中国(US$17.93億、同53.9%増)、3位がアルゼンチン(US$17.23億、同13.3%増)、4位がドイツ(US$10.29億)、5位がオランダ(US$9.07億)であった。

輸入に関しては、資本財がUS$35.67億(同35.8%増)、原料・中間財がUS$83.19億(同41.3%増)、非耐久消費財がUS$ 10.04億(同39.6%増)、耐久消費財がUS$13.90億(同55.1%増)、原油・燃料がUS$29.83億(同32.8%増)であった。輸入の額に関しては化学薬品をはじめとする中間財品目の取引額が大きく、増加の伸びに関しては輸送関連機器(US$4.21億、同171.7%増)、農業生産のための原料(US$13.65億、同123.2%増)などが顕著であった。また、主要輸入元は1位が米国(US$25.31億、同26.2%増)、2位が中国(US$20.54億、同52.9%増)、3位がアルゼンチン(US$14.54億、同45.3%増)、4位がドイツ(US$11.79億)、5位が日本(US$7.06億)であった。

物価:発表された8月の IPCA(広範囲消費者物価指数)は前月比▲0.25%ポイント、前年同月比▲0.19ポイントの0.28%で、前月比では3ヶ月連続のマイナスとなった。特に数ヶ月前まで高騰していた食料品価格が▲0.18%のデフレを記録したことから、非食料品価格は0.42%と前月同様に上昇傾向を示したものの、一時強まっていたインフレ懸念はかなり後退したといえる。しかし、8月までの累計値は4.48%となり、政府のインフレ目標の中心値である4.5%とほぼ同じとなった。

デフレとなった食料品の中でも、一部野菜(トマト:7月10.59%→8月▲36.91%、ジャガイモ:同▲6.40%→▲6.55%)、フェイジョン豆(褐色:同▲2.12%→▲6.46%、カリオカ:同6.59%→▲5.90%、黒:同5.39%→▲1.96%)、小麦粉(同▲1.75%→▲4.16%)などの基礎的な食料品価格の下落が顕著であった。一方の非食料品に関しては、固定電話(同0.62%→2.27%)や電力(同0.93%→1.03%)などの公共料金が上昇した一方、燃料費(ガソリン:同0.59%→0.25%、アルコール:同1.89%→0.43%)および運輸・交通(同0.46%→0.06%)分野での価格上昇が小幅なものにとどまった。

金利:9月10日、Copom(通貨政策委員会)は政策金利のSelic金利(短期金利誘導目標)を4回連続で引き上げ、13.00%から13.75%にすることを決定した。前回同様の0.75%ポイントという大幅かつ予想を上回る引き上げに対しては、物価が落ち着きを見せている現状から、Copom内部でも意見が分かれるとともに、経済界や労組から批判の声が上がった。

しかしながら政府および中央銀行には、2008年のインフレ(IPCA)を目標値(4.5%を中心とした上下幅2%:2008~10年)の上限(6.5%)以下の6%前後、2009年を4.5%前後に収めたいという強い意志があると見られている。したがって次回10月のCopomにおいても、引き上げ幅は縮小するであろうがSelic金利は14.25%へと引き上げられるだろうとの見方が多い。

為替市場:9月の為替相場は、1日にUS$1=R$1.6439(買値)のドル最安値で始まった後は、株式市場と同様に米国の金融市場の混乱を受け、急激なドル高レアル安が進むこととなった。ドル円相場などではドル安傾向が強まったが、ドル・レアル相場においては今までレアル買いに向いていた投機的な短期外貨資金が引き揚げられたことなどから、18日には1年ぶりにUS$1=1.9を超えるレベルまでドルが買い進められた。その後、利食いなどから一旦レアルが値を戻したものの、米国の金融市場の回復がさらに遅れるとの見方が強まったため、29日にUS$1=1.9559(売値)までドルが再び上昇し、ほぼそのままのレベルで9月の取引を終えた。

ブラジルの輸出企業にとって、ドル高レアル安の為替相場はプラスであるが、金融市場の混乱が長引けば米国などの主要輸出相手国の景気が大きく後退するためマイナスとなる。Lula大統領は、輸出企業や農業生産者などを対象に金融支援策をはじめとする緊急措置を講じるとしているが、投資先として選好されてきた一次産品も国際価格は下落傾向にあり、短期的には国内景気の減速などといった形で影響が出てくるものと思われる。

株式市場:9月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、米国発の世界的な株式市場の混乱の影響を受け、前月末比▲11.03%の大幅下落となった。株価が前月比でマイナスを記録したのは4カ月連続であるが、今回の下げ幅は2004年4月に次ぐ大きなものとなった。

9月の最高値となった55,162ポイントで始まった株価は、米国の大手証券会社リーマン・ブラザーズの破綻、大手保険会社AIGへの公的資金投入、下院による金融安定化法案の否決など、米国の金融不安の深刻さを象徴するショッキングなニュースが伝わるたびに急落した。17日には今年の最安値となる45,909ポイント、29日には46,028ポイントまで値を下げ、月末も50,000ポイントを回復することなく9月の取引を終えた。なお、17日に記録した最安値は、今年5月20日に記録した史上最高値73,517ポイントと比べると▲37.55%もの下落となる。

ただし9月の株価に関しては、下げ幅が大きかったのもの反発時の上昇幅も大きく、6月以降続いてきた続落という展開とは異なり、乱高下を繰り返す動きとなった(グラフ5)。これは米国をはじめとする世界の金融市場が大きく混乱したことによるものであるが、この他にも、今まで続いてきたブラジルからの投機資金流出が一段落したことを表しているとも考えられる。ブラジルもグローバル化した世界経済の中に組み込まれており、米国での金融の市場や制度的な混乱が続く限り、特に短期的にはその影響から免れることはできない。しかし、GDPをはじめとする経済指標は現在のところ順調であり、今回の世界経済の混乱に対しても政府はすでに方策案を表明している。したがって、主に長期的に考えた場合ではあるが、ブラジルの経済ファンダメンタルズ自体がネガティブに大きく変化する可能性は低いといえよう。
グラフ5 Bovespa指数の推移:2007年以降
(出所)サンパウロ株式市場

政治

隣国をめぐる交渉:9月は隣国のボリビアやエクアドルにおいて政治的な対立や紛争が発生し、Lula大統領はじめブラジル政府は問題解決のための仲介や調整の交渉に追われることとなった。ボリビアでは憲法改正の是非を問う国民投票をめぐり、Morales大統領と反対派の対立が激化し多数の死者を出す事態となった。そして、15日にボリビア情勢を協議する南米諸国首脳によるUnasul(南米諸国連合)緊急会議がチリで開催され、対立する両陣営を交渉のテーブルに着かせるための話し合いが行われ、問題解決の道筋を示す宣言が採択された。今回のUnasulに関しては、米国が影響力を持つ米州機構(OAS)の介入阻止のため公式文書にOASへの言及が行われなかったこと、南米諸国独自の努力により事態沈静化への道が開かれたこと、その際にLula大統領の現実主義的な姿勢がChavezベネズエラ大統領などの強硬派の説得に有効であったことなどが、注目されるべき点としてメディアを中心に取り上げられた。

また、エクアドルではCorrea大統領が24日、ブラジルのコンサルタント会社(Odebrechat)が携わった水力発電所建設プロジェクトに意図的な欠陥や不正があったとして、同社に対し国外撤退命令を下すとともに、同プロジェクトへのブラジルからの融資額US$2.43億を不払いとする意向であると発表した。これに対しLula大統領は即時の強硬的な反発は行わず、30日にブラジルのマナウスにCorrea大統領およびMorales大統領とChavez大統領を招き、2国協議に加え4カ国首脳会談も行い、話し合いによる問題の解決を模索した。現在のところCorrea大統領の方針に大きな変化は見られないものの、問題発生後すぐに急進左派といわれる各国首脳と対話や交渉を行ったことは、エクアドルとの政治的な関係悪化の回避という点において大きな意味があったといえる。また、Chavez大統領がブラジルを援護する言動を行っていることもあり、今後の展開に関して不透明な部分もあるが、継続的な話し合いによる状況改善の可能性は小さくないといえよう。

これら隣国との関係におけるLula大統領の姿勢や言動は、同大統領の調停や交渉能力およびバランス感覚の高さを表しており、このことが大統領への高い支持率の一要因になっているともいえよう。10月の第1日曜日である5日には、市長と市議会議員を選出する全国統一地方選挙が行われる。同選挙は今後のブラジルの政治勢力図の変化だけでなく、高い人気を誇るLula大統領の次の政権を占う意味でも重要だといえ、特に同大統領が所属するPT(労働者党)と対抗政党であるPSDB(ブラジル社会民主党)の動向に注目が集まっている。

社会

貧困減少: ブラジル地理統計院(IBGE)は、毎年実施している全国家計調査(PNAD)の2007年の結果を発表した(詳細は下記表を参照)。PNADによると、近年のブラジルでは国民間の不平等と社会指標が継続的に改善される傾向にあるとされる。しかしその一方で、所得の不平等を示すジニ係数は、他のBRICsなどの新興諸国に比べ依然として高く、より貧困な途上国と同じ水準にあることに加え、社会指標の改善ペースも緩慢であると指摘している。

近年のブラジルの大局的な方向性としては、経済的にはグローバル化への順応と自律性の模索、政治的には主に南米の地域統合の推進にあるといえよう。したがって、最近の世界経済の先行き不透明感の高まりや政治的に不安定な近隣諸国の動向など、短期的に外的要因に左右される事態は避けがたく、また、進むスピードも速いとは必ずしもいえない。しかし、多少の振幅があり進歩の勢いが不足しているとしても、紆余曲折の末に到達した現在の長期的な方向性はブラジルの国益にかなったものであり、社会指標の改善や政治経済的な安定性がこのことを明示しているといえよう。
表 2007年全国家計調査の概要
  概要:→の右側は2007年
人口 0~9歳の居住人口割合:22.1%(1992年)→15.9%
60歳以上の居住人口割合:7.9%(同)→10.6%
教育 15歳以上の非識字者:17.2%(1992)→9.9%
7~9歳の就学率: 87.5%(1992年)→98.1%
10歳以上の平均修学年数:5.2年(1995年)→6.9年
所得 10歳以上の就労者の月額実質所得:R$1,011(1997年)→R$960
10歳以上の就労者のジニ係数:0.580(1997年)→0.528
住宅 住宅インフラ普及率(1992年との比較):上水道73.6%→84.3%、下水道・浄化槽56.7%→74.3%、ゴミ収集66.6%→88.4%、電灯88.8%→98.5%、電話19.0%→77.7%
耐久消費財所有率(同):冷蔵庫71.5%→91.4%、洗濯機24.1%→40.0%、テレビ74.0%→94.8%、インターネットへのアクセス8.6%(2001年)→20.4%
児童労働 5~17歳の児童の就労率:19.6%(1992年)→10.8%
(出所)IBGE
(注)ロンドニア、アクレ、アマゾナス、ロライマ、パラー、アマパの北部各州の農村部人口を除く。