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2008年8月 投機と経済ファンダメンタルズ

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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2008年8月

経済

貿易収支:8月の貿易収支は、輸出額が今年7月に次ぐ過去2番目の額となるUS$197.47億(前月比▲3.4%、前年同月比30.8%増)、輸入額は過去最高額となるUS$174.78億(同1.9%、51.2%増)を記録し、貿易黒字額はUS$ 22.69億(同▲31.3%、▲35.9%)となった。また、年初からの累計は輸出額がUS$1,308.43億(前年同期比27.7増)、輸入額がUS$1,139.36億(同52.0%増)、貿易黒字額がUS$169.07億(同▲38.4%)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$81.83億(1日平均額の前年同月比74.8%増)、半製品がUS$27.89億(同49.0%増)、完成品がUS$82.86億(同19.6%増)であった。輸出額が大きかった主な品目は、原油(US$19.50億、同144.2%増)、鉄鉱石(US$19.09億、同110.0%増)、大豆(US$12.20億、同75.0%増)などで、輸出額の伸びが顕著であった主な品目は、鉄鋼半製品(US$5.24億、同231.4%増)、溶解鉄(US$3.98億、同153.7%増)、ガソリン(US$3.82億、同121.3%増)などであった。また、主要輸出先は1位が米国(US$24.11億、同18.8%増)、2位が中国(US$19.72億、同91.5%増)、3位がアルゼンチン(US$16.94億、同31.7%増)、4位がオランダ(US$9.95億)、5位がドイツ(US$7.86億)であった。

輸入に関しては、資本財がUS$36.44億(同64.4%増)、原料・中間財がUS$80.40億(同49.7%増)、非耐久消費財がUS$ 9.17億(同45.1%増)、耐久消費財がUS$11.75億(同57.9%増)、原油・燃料がUS$37.02億(同132.6%増)であった。輸入の額に関しては中間財品目の取引額が大きく、増加の伸びに関しては農業生産のための原料(US$13.28億、同143.7%増)、輸送関連機器(US$3.80億、同130.9%増)などが顕著であった。また、主要輸入元は1位が米国(US$26.37億、同57.0%増)、2位が中国(US$19.03億、同58.0%増)、3位がドイツ(US$12.19億)、4位がアルゼンチン(US$11.48億、同34.5%増)、5位が日本(US$7.72億)であった。

物価:発表された7月の IPCA(広範囲消費者物価指数)は0.53%となり、前年同月比では0.29ポイント高かったものの、前月比では▲0.21%ポイントと2ヶ月連続のマイナスを記録した。特に、最近の数ヶ月で急上昇し6月には2.11%まで高騰していた食料品価格が、前年同月の数値を下回る1.05%の上昇にとどまったことから、懸念が高まっていた物価上昇傾向に歯止めがかかったとの見方も出ている。しかし、非食料品価格が前月および前年同月よりも上昇していることもあり、インフレ懸念が収まったと判断するには時期尚早といえよう(グラフ1)。

上昇率が大幅に低下した食料品の中でも、コメ(6月9.90%→7月▲0.51)、一部野菜(ジャガイモ:同10.50%→▲6.40、ニンジン:同8.41%→▲4.74)、小麦粉(同2.37%→▲1.75)、精製糖(同3.62→▲1.82)など、6月に高騰した食料品の価格がマイナスに転じたことに加え、フェイジョン豆(カリオカ:同15.55%→6.59%、黒:同7.54%→5.39%)、肉(干し肉:同8.09%→4.12%、牛肉:同6.91%→4.35%)などの主要食料品価格の上昇も小幅なものにとどまったことが食料品全体の価格上昇を抑える要因になった。物価上昇は世界的な傾向であるが、農業国でもあるブラジルは食料供給能力が高いことから、食料品価格の上昇に対する耐久力は相対的に高いといえよう。一方の非食料品に関しては、電力などの公共料金調整が行われた住宅(0.60%)や、通行料金や燃料費上昇の影響を受けた運輸・交通(0.46%)分野での価格上昇が顕著であった。
グラフ1 IPCA(食料品・非食料品)の推移
(出所)IBGE

金利:8月は政策金利のSelic金利(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは9月9、10日に開催予定である。

為替市場:8月の為替相場は、1日にUS$1=R$1.5585(買値)のドル安レアル高で始まったが、月全体を通してドルが値を戻す展開となった。特に月の前半にドル高が進行し、15日にUS$1=1.6389(売値)をつけると、その後はUS$1=1.63を挟んだ動きとなり、そのままのレベルで8月の取引を終えた(グラフ2)。今回のドル高レアル安の主な要因としては、米国以外の欧州や日本などの先進諸国に対しても景気減速懸念が出始めたことや、原油をはじめとする一次産品の国際価格が下落したことなどから、ドルを買い戻す動きが強まったことが挙げられる。
グラフ2 対ドル為替相場の推移:2008年
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:8月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、前月までの動きを引き継ぎ軟調な展開となった。月内の最高値となった57,630ポイントで始まった株価は、18日に53,326ポイントまで値を下げ、その後若干値を回復したものの、前月末比▲6.43%の下落となる55,680ポイントで8月の取引を終えた。最近の株価下落の主な要因としては、米国のサブプライム・ローン問題発生後、ブラジルの株式市場や国際コモディティ市場を投資先として選好していた投機的な投資ファンドが、一次産品の国際価格の下落などを受け、ブラジルの株価を牽引するPetrobrás(ブラジル石油公社)やCVRD(ヴァーレ社)などの資源関連株を売るとともに資金を引き上げたことが挙げられる。

経済ファンダメンタルズ:最近の株価の下落に加え、8月は為替相場もドル高レアル安の展開となったが、これらはブラジルに流れ込んでいた投機的な資金が引き上げられたことによるものといえる。一方でブラジル経済に関しては、失業率と実質賃金は安定して改善しており(グラフ3)、中所得者層が拡大し貧困層は減少する傾向にある(社会欄参照)。また、2008年7月までの自動車生産台数が201万台を記録しフランスを抜いて世界第6位になるなど、工業部門も順調であり(グラフ4)、カントリー・リスクにも急激な悪化は見られていない(グラフ5)。つまり、最近の投機的な資金動向の影響からマーケットに混乱はあったものの、ブラジル経済のファンダメンタルズ自体に大きな変化は見られていないといえる。したがって、経済のグローバル化が進んでいるため国際経済の影響を受けることは避けられないが、ブラジルのマーケットは投機的な資金が減少した分、今後、自国の経済ファンダメンタルズを反映するような“通常の状態”を取り戻していくと考えられよう。
グラフ3 失業率と実質平均所得の推移:2002年以降
(出所)IBGE
(注)失業率は6大都市圏のもので数値は左軸。実質平均所得は右軸。

グラフ4 工業生産指数の推移:2003年以降
(出所)IBGE

グラフ5 カントリー・リスクの推移:2008年
(出所)J.P.Morgan

政治

資源ナショナリズム?:隣国のベネズエラやボリビアとは異なり、経済の自由化を進める中で自国経済の自律的な発展を模索してきたブラジルでは、天然資源に関して資源ナショナリズム的な発言や議論は今までほとんど見られなかった。しかし、最近サントスやリオ沖において海底油ガス田群(Pré-Sal)が次々と発見される中、Lula大統領は、新たな油ガス田の開発を行う新規の国営企業を創設し、石油から得られる利益を教育への投資という形で国民に還元すべきであるとの意向を表明した。

現在までのブラジルの油ガス田開発は、公社であるPetrobrásを含む国内外の民間企業による競争入札により行われている。しかし、Lula大統領の新たな国営企業案をはじめ、政府内で現在検討されているその他の諸案では、既存の契約に対する変更は行われないものの、新たに発見されたものを含む全体の60%超に及ぶ入札未実施の油ガス田の開発に関しては、民間企業に対してロイヤルティの割合や参入を許可する地域に変更や制限が加えられることになる。なお、ブラジルの憲法では国内の天然資源の所有権は連邦政府、つまりブラジル国民にあるとされているが、新たな開発方法を導入することになれば、石油法(Lei do Petróleo)の改正が必要となる。また、別件ではあるが、アマゾナス州のカリウム開発に関してPetrobrásがカナダ企業Falconと結んだ契約をキャンセルする事態も発生しており、Petrobrás は否定するものの、Dilma文民官を中心とした政府の圧力があったと報道されている。

今回の政府の資源ナショナリズム的言動の要因としては、社会政策向けの財源として創設されたCPMFが今年の初めに廃止されたことや(2007年12月レポート参照)、10月に全国統一地方選挙を控えていることなども考えられる。また、近年のブラジルの経済発展はLula政権が現実主義的な政権運営を行ってきた結果であるともいえることや、Pré-Salの油ガス田群は海底下の深い地層に存在しており、その開発には民間の資金や技術の導入が不可欠であることなどから、2年後に任期が終了する同政権が現時点で方向性を大きく転換するとは考えにくく、天然資源の国有化を実施したベネズエラやボリビアとは事情が異なる。しかし、今回の油ガス田開発などに関する政府の言動は、ブラジルが自国の豊富な天然資源、特に近年その存在が明らかになった原油の重要性を強く認識するとともに、それらをもとに様々な場での交渉力を高めようとしていることの表れともいえ、今後、同国の天然資源開発に関する動向をより注視する必要があるといえる。

社会

拡大する中間層: 民間の研究機関FGV(ヴァルガス財団)は、国内6大都市圏において人口の半数以上が中所得者層になったとの研究結果を発表した。同研究によると、最近の経済の安定や正規雇用の拡大により、2004年4月に42.26%であった中所得者層(Cクラス:毎月の世帯所得額R$1,064~R$4,591)の割合が2008年同月には51.89%まで増加したとされる。また、政府系研究機関のIPEA(応用経済研究所)も、6大都市圏において2003年から2008年末にかけ貧困人口は1,544万人から1,136万人へと約400万人、貧困人口割合は2003年の35.0%から24.1%へとそれぞれ減少する見通しだとの研究を発表した。