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2008年4月 手放しで喜べない格上げ

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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2008年4月

経済

貿易収支: 4月の貿易収支は、輸出額がUS$140.59億(前月比11.5%、前年同月比13.0%増)、輸入額がUS$123.15億(同6.2%、49.0%増)となり、輸出入ともに4月としての過去最高額を記録した。また、輸出額の伸びが輸入額の伸びを上回ったことから、貿易黒字額は前年同月比ではマイナスとなるものの前月比で大幅増のUS$ 17.44億(同72.2%増、▲58.3%)となった。この結果、年初からの累計額は輸出額がUS$527.49億(前年同期比13.6%増)、輸入額がUS$481.69億(同43.6%増)、貿易黒字額がUS$45.80億(同▲64.5%)となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$46.10億(1日平均額の前年同月比5.1%増)、半製品がUS$18.19億(同8.6%増)、完成品がUS$72.88億(同8.1%増)となった。輸出額の増加が顕著であった主な輸出品目は、鉄鋼半製品(US$3.80億、同81.9%増)、燃料油(US$4.09億、同78.7%増)、自動車の車体(US$1.12億、同62.1%増)、大豆(US$13.98億、同57.6%増)、溶解鉄(US$1.46億、同51.1%増)などであった。また、主要輸出先は1位が米国(US$18.46億、同▲19.2%)、2位がアルゼンチン(US$13.66億、同21.5%増)、3位が中国(US$13.28億、同25.3%増)、4位がオランダ(US$8.75億)、5位がドイツ(US$6.24億)であった。米国の1位は変わらなかったものの、同国の景気減速から米国への輸出額が減少する一方、対中国輸出額は前月比では87.9%も増加した。

輸入に関しては、資本財がUS$26.72億(同39.8%増)、原料・中間財がUS$58.59億(同35.4%増)、非耐久消費財がUS$ 7.18億(同15.5%増)、耐久消費財がUS$9.16億(同55.0%増)、原油・燃料がUS$21.50億(同75.6%増)であった。国際原油価格の高騰により原油・燃料の輸入額が大幅に増加したことに加え、国内の自動車市場の拡大により耐久消費財に含まれる自動車の輸入額の伸び(US$4.17億、同110.1%)も顕著であった。また、主要輸入元は1位が米国(US$19.17億、同26.5%増)、2位が中国(US$14.28億、同60.0%増)、3位がドイツ(US$9.43億)、4位がアルゼンチン(US$9.39億、同21.3%増)、5位が日本(US$5.12億)であった。

物価: 発表された3月の IPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比で0.01%ポイント低いものの、前年同月比では0.11%ポイント高い0.48%となった。食料品全体の価格が0.60%(2月)→0.89%(3月)へとさらに上昇し、その中でもバイオ燃料の世界的な需要増加の直接および間接的な影響を受け、小麦、大豆、砂糖関連の食料品や、穀物を飼料とする鶏卵や牛乳などの価格上昇が顕著となった。また、季節要因のため2月に3.47%と高騰した教育関連品目の価格は0.24%の上昇にとどまったため、非食料品全体の価格上昇は0.46%(同)→0.36%(同)に低下した。しかしその一方で、水力発電への依存度が高い電気および水道料金に加え、世界的な原油およびバイオ燃料高の影響を受けたアルコール燃料とガソリンの価格は、2月よりも上昇することとなった。

金利: Copom(通貨政策委員会)は4月16日、過去4回連続で11.25%に据え置いてきた政策金利のSelic金利(短期金利誘導目標)を11.75%に引き上げることを全会一致で決定した。Selic金利の引き上げは、同金利が0.25%引き上げられ19.25%に達した2005年5月以来、約3年ぶりのことである(グラフ1)。今回の引き上げの主な理由としては、前回と同様に需給のアンバランスによるインフレ懸念の高まりが挙げられている。

今回のSelic金利引き上げ自体は多くの市場関係者が予測していたが、0.50%という引き上げ幅が事前予測を上回るものであったことや、決定が全会一致であったことなどから、市場では驚きをもって受け止められるとともに、経済団体や労働組合だけでなく与野党からも今回の決定に対する批判の声が上がった。ただし、今回のCopom議事録において、中央銀行はインフレ抑制のための予防措置を講じていくとの文言があったことから、今後もCopomはSelic金利を漸次的に引き上げていくと予測する見方が市場関係者の間で強まっている。
グラフ1 Selic金利の推移:2005年以降
(出所)ブラジル中央銀行

為替市場: 為替相場は3月にドルが値を戻す展開となったが、4月は再びレアル高が進行することとなった。ドルは1日にUS$1=R$1.7534(売値)の月間の最高値をつけた後は、Selic金利の引き上げを見込んだレアル買いが進み、実際にSelic金利の引き上げが決定されると、この傾向がさらに強まり、22日にはUS$1=R$1.6567(買値)までレアル高が進んだ。その後、ブラジルの経常収支の悪化が発表されたことなどから、月の後半は一時US$1=R$1.7レベルまでドルが値を戻したが、月末30日にブラジルのソブリン格付けが引き上げられるとレアルはUS$1=R$ 1.6864(買値)へと再び上昇し4月の取引を終えた。

株式市場: 4月のサンパウロの株式相場(Bovespa指数)は月の前半、世界の主要株式市場の動向と連動するかたちで上昇した後に弱含む展開となり、月央に向けSelic金利の引き上げ観測が強まるとともに下落し、14日には4月の最安値となる62,153ポイントを記録した。しかし月の後半には、世界の株式相場の回復や発表された国内主要銀行の業績結果が好調だったこと、さらには決定されたSelic金利の引き上げは既に織り込み済みだったことなどから、Bovespa指数は65,000ポイントを上回るレベルまで上昇した。その後、29日には利益確定などから一時2.82%下落したが、月末にブラジルのソブリン格付け引き上げが発表されると史上最高値を更新する67.868ポイントまで一気に上昇し4月の取引を終えた。

ソブリン格付け: 月末の30日、米国の格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)が、ブラジルの長期外貨建てソブリン格付けをBBプラスから投資適格級であるBBBマイナスへと引き上げた。ブラジルにとって投資適格級の格付けは史上初であり、近年、市場において同国の信用力が高っていることを反映したものとされる。実際に、ブラジルの失業率(6大都市圏)は昨年10月から8%台以下で推移し、財政収支もプライマリー・サープラス(利払い費を除く財政収支黒字)は政府の2008年目標である対GDP比3.8%を上回っている(グラフ2)。また、政治的なリスクなどを反映しやすいカントリー・リスクも、2004年5月をピークにその後は安定している(グラフ3)。さらに、今年の1月にブラジルは対外資産の総額が史上初めて対外債務総額を上回り、債務国から債権国へとなっている(2008年2月レポート経済欄参照)。

しかし、最近のブラジル経済が順風満帆かというと必ずしもそうではない。為替相場の長引くレアル高などが貿易収支の大幅な黒字減少や、外資系企業などによる海外への利益や債務返済送金の増加をもたらし、昨年末から経常収支は赤字に転落するとともに、2008年3月と第1四半期の赤字額は過去最高を記録した(グラフ)。株式や為替市場では今回の格付け引き上げを好感して“ブラジル買い”となったが、状況は必ずしも手放しで喜べるものではない面もあるといえる。
グラフ2 財政収支の推移:2004年以降
(出所)ブラジル中央銀行
(注)左軸が公的部門のプライマリー・サープラスの実額で、
右軸は対GDP比割合。
なお、数値のマイナスは黒字、プラスは赤字を意味する。

グラフ3 カントリー・リスクの推移:2004年以降
(出所)J.P.Morgan

グラフ4 経常収支の推移:2004年以降
(出所)ブラジル中央銀行

政治

BNDES汚職疑惑: 投資適格級に引き上げられたソブリン格付けとは裏腹に、ブラジルの政治的な腐敗は依然として根の深い問題だといえる。当レポートでは主に連邦レベルのものだけを報告しているが、よりミクロなレベルのものまで含めると枚挙に暇がない。そして4月にも、政府の長期融資金融機関であるBNDES(社会経済開発銀行)を舞台とした汚職事件が発覚した。この汚職事件は、公的資金である同銀行の資金横領や不正融資を目的に賄賂や売春行為などが組織的に行われていたとされる疑惑で、同銀行の職員、関連コンサルタント企業、10名以上のサンパウロ州の市長、そして全国規模の労働組合である「Força Sindical」出身のPaulo Pereira da Silva連邦下院議員(PDT:民主労働党)が関与していたとされる。また、現在までに汚職がほぼ確定している3件のBNDESの融資案件だけでも、R$200万もの賄賂の存在が明らかになっている。

今年は10月に全国地方選挙が行われることや、ポスト・ルーラへの関心が徐々に高まりつつあることから、今後さらに様々なレベルにおいて汚職疑惑が発覚する可能性が高いと考えられる。政治的な腐敗はブラジルに限ったことではなく、“膿”が表面化するようになっただけ同国の民主化や透明性に進展が見られているといえるかもしれない。しかし、ブラジルがソブリン格付けでなく自らの品格をより高めるためには、汚職へのより厳格な対策と国民の意識改革が必要だといえよう。

社会

赤い4月: 近年のブラジルでは毎年4月になると、農地改革を訴えるMST(Movimento dos Sem-Terra:土地なし農民運動)をはじめ、“Sem-Teto(屋根なし)”と総称される住宅問題関連の社会運動団体が、“赤い4月(abril vermelho)”という一連の抗議活動を全国規模で展開しており(過去の4月レポート社会欄参照)、今年も様々な抗議活動が全国各地で行われた。ただし、以前の“赤い4月”は農村地域における農場内の土地占拠が主な活動で、警察や農場主との間で暴力的な対立へと発展し、死者やケガ人が出る事態となるケースもあったが、最近は道路封鎖や政府機関の建物内の占拠、デモ行進などの抗議行動が主流となりつつある。その要因として、ルーラ政権が大々的に実施している社会政策のBolsa Família(2007年8月レポート社会欄参照)により、農村地域の生活状況が改善されたことを指摘する声もある(Estado de São Paulo, 27 de abril)。しかし、今回の“赤い4月”では、17日にパラー州で鉄鋼会社リオドセ社(CVRD)の鉄鉱石を運ぶ鉄道がMSTメンバーによって封鎖されるなど、経済活動への被害が出たことにも注目が集めった。

最近の“赤い4月” の活動は、ブラジル社会全般にとってより可視的であることから、社会運動参加者が抱える問題のアピール度は高まりつつあるといえる。しかしその一方で、社会全般に対する実害も出るようになっているため、この点を“問題”とするマスコミや世論の厳しい見方があることも事実である。

地震再び: 2007年12月にブラジルの内陸部で死亡者1名を出す地震があったが(同月レポート社会欄参照)、22日の夜9時過ぎ、サンパウロ州沖の海底でマグニチュード5.2の地震が再び発生し、同州を中心とした4州で体に感じる揺れが観測された。今回の地震はサンパウロ州で過去に記録された地震の中で最も大きなものであり、死者やケガ人は出なかったものの、一部の建物にヒビが入るなどの被害が出た。サンパウロ市をはじめとするブラジルの都市部では、高層ビルが多く隣接するとともに外観や芸術性を重視した建築物も少なくないが、「ブラジルは地震のない国」との“神話”から、充分な耐震設計が施されていない建物が多い。しかし、短い期間で地震が続発したことから、今後、何らかの対策が必要だといえよう。