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2008年2月 驕れる人も久しからず

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター 近田 亮平
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2008年2月

経済

貿易収支: 2月の貿易収支は、輸出額がUS$ 128.00億(前月比▲3.6%、前年同月比26.4%増)、輸入額がUS$123.33億(同▲3.4%、64.8%増)となり、営業日が19日と少なかったため前月比ではマイナスとなったが、輸出入ともに2月としての過去最高額を記録した。一方、さらなるドル安レアル高の進行から輸入額が大幅に増加したため、貿易黒字額はUS$ 8.82億(同▲6.6%、▲69.6%)にとどまった。また、年初からの累計額も輸出額のUS$260.77億(前年同期比23.5%増)に対して輸入額がUS$242.51億(同54.5%増)と伸び率で上回ったため、貿易黒字額は前年同期比で▲69.3%のUS$18.26億となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$37.92億(一日平均額の前月比10.0%、前年同月比23.7%増)、半製品がUS$19.25億(同10.6%、20.9%増)、完成品がUS$66.89億(同12.8%、15.1%増)となった。前年同月との比較では航空機(US$3.62億:128.6%増、量:140.0%増)やガソリン(US$1.82億:349.6%増、量:211.4%増、価格:52.4%)をはじめ、鉄鋼および大豆関連の品目の量や価格における伸び率が顕著となった。

一方の輸入に関しては、資本財がUS$24.45億(同1.3%、58.1%増)、原料・中間財がUS$60.14億(同8.3%、53.9%増)、耐久消費財がUS$7.08億(同▲6.6%、54.9%増)、非耐久消費財がUS$ 7.31億(同24.8%、33.4%増)、原油・燃料がUS$20.20億(同50.5%、72.2%増)となった。為替相場でレアル高がさらに進んだことから2月も輸入額は全体的に大きく増加したが、史上最高値を更新して続伸した国際原油価格の影響を受け原油・燃料の輸入額の伸びが顕著となった。

物価: 発表された1月の IPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比0.20%ポイント低く、前年同月比では0.20%ポイント高い0.54%となった。1月は食料品全体の価格が1.54%上昇し、12月(2.06%)よりは小幅となったものの物価上昇の大きな要因となった。具体的には、年末という12月の季節要因により大幅に上昇していた肉類などの価格が落ち着きを取り戻す一方、トマト(35.12%)、タマネギ(22.21%)、黒フェイジョン豆(21.76%)などの主要食料品価格が高騰した。また、非食料品に関してはアルコールや石油をはじめとする燃料価格が1.58%(12月)→▲0.33%(1月)へと下落したことなどから、バスの運賃引き上げ(1.19%)などの影響があったものの、非食料品全体の価格上昇は0.38%(同)→0.29%(同)へと低下した。

金利: 2月は政策金利のSelic金利(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは3月4、5日に開催予定である。 為替市場: 2月の為替相場はドル安レアル高がさらに進行することとなった。月の前半はUS$1=R$1.75を挟んだ狭いレンジで推移したが、米国経済の先行き不安が強まりドル売りが活発化する一方、世界的な株式市場の混乱の影響が比較的少ないブラジル経済に対するポジティブな評価とともに、依然として高い同国の金利を目的にレアルが買われる展開となり、26日には1999年5月以来となるUS$1=R$1.6台に突入した。そして、翌日にレアルは一時US$1=R$1.6707(買値)まで上昇した後、月末もほぼそのままのレベルで2月の取引を終えた(グラフ1)。
グラフ1 対ドル為替相場の推移:2006年以降
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場: 2月のサンパウロ株式市場(Bovespa指数)は、世界同時株安の影響から月間で▲6.88%値を下げた1月の流れを引き継ぎ、月の前半は上値の重い展開となった。しかし、サブプライム・ローン問題に起因する米国経済の景気後退懸念が強まり、米国経済とのつながりの強い諸国地域への投資が落ち込む一方、ブラジルの主要輸出品である鉄鋼や大豆、原油などの一次産品の国際価格が上昇していることや、ブラジルの債権額が債務額を上回ったこと(後述)などへの好感とともに、同国経済のファンダメンタルズは強固となりつつあり世界的な金融市場の混乱の影響は限定的との見方が強まり、サンパウロ株式相場は徐々に回復へと向かった。このようなブラジル経済に対する評価は、11日に269ポイントまで上昇したカントリー・リスクが月の後半には235ポイントまで低下したことにも表れている。そして、Bovespa指数は25日には昨年12月以来となる65,000ポイントを突破し、28日に65,555ポイントまで上昇した後、若干値を下げて2月の取引を終えた(グラフ2)。

米国経済に対する先行き不安が完全に払拭されるまでは依然として時間が必要であり、今後、ブラジル経済にも少なからぬマイナスの影響が出ると予測される。しかし、2月のサンパウロ株式市場は月間で6.72%の上昇を記録しており、世界の金融市場の混乱が続き米国をはじめとする先進主要国の景気後退懸念が強まる中、堅実な経済パフォーマンスを見せるブラジルが投資先の1つとして選好されている傾向を表しているといえる。
グラフ2 サンパウロ株式相場(Bovespa指数)の推移:2006年以降
(出所)サンパウロ株式市場

  表1 対外債務の推移:2003年以降 単位:百万USドル
 
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年*
2008年
1月*
総官民対外債務額(グロス) (C)
214,930
201,374
169,450
172,589
197,697
196,207
(総公的対外債務)
135,689
132,259
100,284
89,245
85,999
85,993
政府外貨準備高 (D)
49,296
52,935
53,799
85,839
180,334
187,507
ブラジルが海外に有する債権 (E)
2,915
2,597
2,778
2,939
2,894
2,819
民間銀行が海外に有する資産 (F)
11,726
10,140
11,790
8,990
10,126
12,864
純官民対外債務額(ネット)
(G)=(C-D-E-F)
150,993
135,702
101,082
74,821
4,343
-6,983
(出所)ブラジル中央銀行 (注)*暫定値
最低賃金: 法定最低賃金額が2月までのR$380から9.2%引き上げられ、3月1日からR$415になることが決定された。過去のブラジルの最低賃金は物価の上昇率を参考に労働組合との交渉により毎年改定されており、近年の改定時期は4月か5月が多くなっていた。しかし今回の改定に当たっては、2007年から実施されている経済政策PAC(成長加速プログラム)により、調整金額がインフレ(INPC)にGDPの成長率を加えて算出されるようになるとともに、改定時期が2008年は3月1日、2009年が2月1日、2010年以降は1月1日に変更されることとなった。なお、為替市場におけるドル安レアル高の進行により、ブラジルの最低賃金はドル換算で大幅な増加傾向となっている(表2)。

 
    表2 法定最低賃金の推移:2000年以降 単位:百万USドル
改定日
最低賃金(R$)
上昇率
変更時の対ドル
為替レート(R$)
変更時のドル
換算額(US$)
03/04/2000
151
11.00%
1.7403
86.77
01/04/2001
180
19.20%
2.158
83.41
01/04/2002
200
11.10%
2.3216
86.15
01/04/2003
240
20.00%
3.3355
71.95
01/05/2004
260
8.30%
2.9565
87.94
01/05/2005
300
15.40%
2.5142
119.32
01/04/2006
350
16.70%
2.1538
162.5
01/04/2007
380
8.60%
2.0474
185.6
01/03/2008
415.00
9.2%
1.6812
246.85
(出所)ブラジル労働雇用省および中央銀行のデータから筆者作成。
(注)最低賃金改定日が休日の場合は翌営業日の為替レート(中値)を適用。
税制改革案: ルーラ政権は2003年の政権初年度に大規模な税制改革を行い、その後も税制の部分的な修正(2005年10月レポートなど)を行ってきたが、2月28日に新たな税制改革案を国会に提出した(政権初年度の税制改革および後述する各種税金の概要については、当ブラジル・サイトの「2003~04年の動向」「税制改革」を参照)。

今回の税制改革案の主な内容は、(1)「社会保険融資負担金」(Cofins)、「社会統合計画」(PIS)、「経済関連調整負担金」(Cide)を統合した新たな付加価値税(IVA-F)の導入、(2)各州によって税率などが異なる「商品流通サービス税」(ICMS)の統一および簡素化、(3)雇用、投資、基礎食料品に対する税金の減免、(4)「地域開発基金」(FNDR)の新設などである。そして、この政府案が国会で承認されると、現存する5つの税金(前述の3つに加え、給与から天引きされる「教育負担金」(Contribuição sabre folha para o Salário Educação)、「対純益社会納付金」(CSLL))の廃止が可能になるとされる。また今回の改革の目的は、税金システムの簡素化、各州間の税金優遇競争をなくすこと、経済発展にとって障害である事項の除去、投資と企業の競争力向上を妨げている税制の歪みの是正、地域開発政策および連邦制にもとづく行政関係の質的改善とされている(República Federativa do Brasil, Em questão, Nº 611, 29 de Fevereiro de 2008)。

政治

コーポレート・カード疑惑: Matilde Ribeiro人種平等局長をはじめとする政府高官が、政府のコーポレート・カードを私的な目的のために不正使用していたことが1月末に発覚し、2月に入り同局長が辞任に追い込まれる事態となった。さらに政府高官だけでなく、大統領府やルーラ大統領の家族のガードマンにもコーポレート・カードの不正使用疑惑が持ち上がった。この疑惑事件発覚により、カーニバル明けの国会は当疑惑に関するCPI(議会調査委員会)を設置するか否か、しかも現ルーラ政権だけでなく同カードを導入していたカルドーゾ前政権も対象とするか否かなどで紛糾し、与野党間だけでなく連立与党内でも政治的攻防が活発化した。結局、CPIは2月末にようやく設置されることが決定され、今後、同疑惑の糾明が進んでいくことになる。

コーポレート・カードは利用記録が残ることから不正使用対策としてより有効であるとし、政府は金額や使用回数などの利用制限を強めた上で同カードの使用継続を決定した。近年のブラジルは2000年に制定された財政責任法などをきっかけにインターネットなどを介した情報公開が進んでいるが、汚職という“ブラジル・コスト”の削減には依然として時間と労力、そして国民の意識変革が必要だといえよう。

社会

新たな社会政策F: ルーラ大統領は25日、Bolsa Família(2007年8月レポート参照)に次ぐ新たな社会政策「市民権の領域」(Territórios da Cidadania)を実施すると発表した。同政策は農村部を中心とした貧困な地域の活性化および同地域に居住する人々の社会権の保障を目的に、135もの取り組みをまとめた政策だとされる。政策実施初年度の2008年は人間開発指標(HDI)がより低い60地域の958ムニシピオ(市)を対象とし、次年度の2009年にはさらに60地域を加えるとしている。農業開発省が立案した同政策への支出は2008年でR$113億が予定され、同政策の恩恵を受ける人口は最終的に2400万人に達するものとされている。ただし、「市民権の領域」の具体的な内容は既存の複数の社会政策を強化し連結させるものとなっており、既存のものを若干変更したり整理したりした後に新たなネーミングを行うという、ブラジルでよく見られる政策手法である感は否めない。

政権6年目を迎えたルーラ大統領および政権は、現在でも高い支持率を維持している。しかし、2008年は10月に全国地方選挙(市長および市議会議員)の選挙が予定されており、今回の新たな社会政策「市民権の領域」の発表は、タイミング的にも選挙での票獲得を目的としたものとの批判が一部でなされているとともに、同政策にBolsa Famíliaほどの実効性や影響力があるかどうかは現時点では未知数な部分が多いといえる。