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2007年2月 Até a Próxima!

ブラジル現地報告

ブラジル

海外派遣員 近田 亮平
2007年2月

今月のひとり言—ブラジル現地主義的孤軍奮闘記最終章

今月、2年間に及んだ私のブラジル滞在が終了した。今、久しぶりの日本へ向かう飛行機の中で、最後となる“今月のひとり言”を書いている。

今月は赴任地のリオだけでなく、サンパウロとブラジルの“ふるさと”(2006年1月参照)を再訪し、帰国の挨拶や送別会、そして、最後の想い出作りなどなど。また、研究に関する最後の“あがき”や地球の反対側への引越しなど、バタバタと心も身体も落ち着かない中、毎日が過ぎ去るように積み重なって行った。帰国の荷造りに取り掛かれたのは、ブラジル出国の当日であった。

今回の2年間に及ぶブラジル滞在。研究に関して、私は何を学ぶことができ、何が足りなかったのか、そして、今回の経験を今後の研究にどう活かして行けるのか。また、私自身の人生にとって、今回の経験はどのような意味を持っているのか。今はまだ、それらを自分の中で明確に整理し、十分に理解することはできない状態である。

しかし、現時点で一つだけ断言できることを挙げるならば、それはアジ研が掲げる「現地主義」(2006年7月参照)の実践だと言えよう。ブラジル社会にどっぷり浸かり、良くも悪くも非常に“ブラジル的”なリオで孤軍奮闘してきたこの2年間。度々ブラジルやここの人々に対し、嫌悪感や拒絶感を伴った“ブラジル・アレルギー”状態に陥ったこともあった。しかしそれでも、現地主義を自分なりに納得の行くところまで実践できたことにより、ブラジル研究者として、また、ブラジルを第2の故国と思う一個人として、ブラジル社会を心身ともに深く知り得たと思うのとともに、このことに対して満足感と充実感を感じている。

今回、私は生活の場をブラジルから日本へ移すことになるが、仕事の場(対象)をブラジルから移すことは考えられない。したがって、しばらくは短期となるが、今後も再びブラジルを訪れる機会は度々あるであろう。しかし、2年間お世話になったブラジルとここの人たちとは、しばしのお別れとなる。ブラジルという国とここの人々、日本で今回の私のブラジル滞在をご支援・応援下さった方々、そして、この徒然なる現地報告をお読み下さった皆さん、「Obrigado(ありがとう)!」、そして、「Até a Próxima(また会う日まで)!」。

今月のブラジル 
経済

GDP: 2006年のGDP(暫定値)成長率が発表され、市場の予測2.7%を若干上回る2.9%となり、1人当たりのGDP成長率は1.4%となった(グラフ1および2)。この結果、Lula政権の第1期目(2003~06年)のGDP成長率は2.6%、1人当たりのそれは1.2%となった。これは、Cardoso前政権の第1期目(1995~98年)のそれぞれの数値(2.1%、0.6%)を上回るものである。しかし、両政権のGDP成長率を同時期の世界のその他諸国地域のそれと比べると、インフレ抑制に成功した第1期Cardoso政権の場合、世界の平均GDP成長率との差は▲1.08%ポイントであるのに対し、Lula政権の場合は▲2.10%ポイントとなっている。ブラジルはBRICsとして21世紀における経済成長が注目を集めているが、第1期目を終了した現時点でのLula政権は、依然としてこの期待に応えることができずにいるといえる。
グラフ1  年間GDPおよび1人当たりGDPの推移:1996年~
(出所)IBGE

グラフ2 内訳および部門別年間GDP:2004~06年
(出所)IBGE

また、2006年第4四半期のGDPも発表され、前年同期比で3.8%、前期比で1.1%の伸びとなった(グラフ3)。政府が目標とする今年度のGDP成長率4.5%の達成は、依然として厳しい状況にあると言わざるを得ないが、個人消費や投資が堅実な伸びを示すなどプラスな材料も見られることから、僅かながら今後の経済成長の加速に期待を持たせるものとなった(グラフ4)。
グラフ3 四半期GDPの推移
(出所)IBGE

グラフ4 内訳および部門別2006年第4四半期GDP
(出所)IBGE

貿易収支: 2月の貿易収支は、取引日が少なかったことから前月比では減少したものの、輸出額がUS$101.04億(前月比▲7.8%、前年同月比15.5%増)、輸入額がUS$72.26億(同▲14.7%、21.4%増)で、輸出入ともに2月としての過去最高額を記録した。また、貿易黒字額はUS$ 28.78億(同15.4%、2.8%)と前月および前年同月比でプラスとなり、同様に2月としての過去最高額を記録した。一方、年初からの累計額は、輸出額がUS$210.67億(前年同期比16.9%増)、輸入額がUS$156.96億(同26.6%増)、貿易黒字額がUS$ 53.72億(同▲4.4%)となり、為替市場でのドル安レアル高の影響が如実に表われたものとなった。

物価: 発表された1月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比で0.04%ポイント、前年同月比で0.15%ポイント低い0.44%となった。物価が上昇した主な項目として、サトウキビの収穫の谷間となったアルコール燃料価格(7.23%)、継続して引き上げられた市内バス(1.66%)や長距離バス(2.24%)の運賃、大雨の影響による食料品価格(0.89%)などが挙げられる。一方、年始特有のバーゲンがあった衣料品(▲0.19%)やガソリン(▲0.57%)の価格はデフレを記録した。

金利: 今月は、政策金利であるSelic金利(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは3月の6、7日に開催予定である。

為替市場: 今月の為替相場は、前回1月末のSelic金利の引き下げ幅が緩やかだったことを好感し、機関投資家などが更なるレアル買いの動きに出たため、月のはじめに昨年5月以来となるUS$1=R$2.1のレベルを割り込むと、一時US$1=R$2.0766(買値)までレアル高が進んだ。このドル安レアル高傾向の強まりに対し、US$1=R$2レベルを死守しようとする中銀が連日大量のドル買い為替介入を実施したため、外貨準備高は史上初めてU$1,000億を超えることとなった。しかし、中国に端を発した世界同時株安により、新興諸国から資金を引き上げる動きが強まるとレアルは下落し、今月の最終日にUS$1=R$2.1182(売値)までドルが値を戻し、今月の取引を終えた。

株式市場: 今月のサンパウロ株式市場Bovespa指数は、先月後半の好調な流れを引き継いで堅調に推移。21日のカーニバル明けにカントリー・リスクが175の過去最低値まで低下すると、株価は初めて46,000ポイントを突破し、翌日には46,452ポイントの史上最高値を記録した。しかし、中国株式市場で始まった世界同時株安の影響から、27日には43,145ポイントまで大きく下落し、ほぼそのままの水準で今月の取引を終えた(グラフ5)。
グラフ5 サンパウロ株式市場の推移:2006年6月~
(出所)サンパウロ株式市場

政治

第2期Lula政権: 昨年末から数度にわたり延期されてきたLula政権2期目の組閣人事であるが、人選等が難航していることもあり、議会内で最大議員数を誇る連立与党PMDB(ブラジル民主運動党)の全国大会が終了するまで待ちたいとのLula大統領の意向から、3月以降へと再び延期されることとなった。第2期Lula政権の組閣は、ポストLulaを見越しての政治的な駆け引きが行われていることもあるが、Lula政権は第2期目がスタートしてから2ヶ月以上も新たな閣僚が決まらぬまま政治運営を行うという、異常な事態となっている。

社会

リオの治安: 今月7日の夜9時頃、女性2人と子供2人が乗った車がリオ北部の街中を走行中、拳銃で武装した数人の少年犯罪グループに襲われた。女性2人と子供1人はその場で車から降ろされたが、シート・ベルトを締め後部座席に座っていた6歳になる男の子は、降りるのに時間がかかってしまった。すると犯人達は、男の子がまだシート・ベルトから抜け出せずにいたにも関わらず、そのまま奪った車を急発進させ、男の子を車で引きずったまま、まだ人通りの多い街中を7kmに渡り暴走し、死亡させるという痛ましい事件が発生した。犯人達が車を止めて逃走した時点で、男の子の頭部は既になかったという。

この悲惨な事件の発生後、少年に対する刑罰を重くすることや死刑の導入などを求める声が高まったほか、リオで行われたカーニバルのパレードにおいて、殺害された男の子に対する哀悼の意を表する場面が見られた。しかし、リオでは依然として日常的に犯罪等があまりにも多発しており、この現地報告でも今までに何度か大きな話題になったものを報告してきたが、それら全てを取り上げることは不可能といえよう。大事には至らなかったものの、今月、筆者も自宅近くで犯罪に巻き込まれた。リオの治安問題は麻薬犯罪組織と深く結びついていることもあり、政府などの治安対策や、今回のような痛ましい事件が繰り返され、国民の間に治安改善の必要性と重要性が強く認識されているにも関わらず、その改善の兆しは一向に見えない状態だと言わざるを得ない。

MST: カーニバルが始まった18日の日曜日、多くのブラジル国民がお祭り騒ぎやバカンスを楽しんでいる間、この時期を意図的に狙ったと思われるMST(土地なし農民運動)による土地占拠が、サンパウロ州など10以上の農場において開始された。しかも、今回の土地占拠には、左派傾向の強い労働組合であるCUT(統一労働本部)が関与していたとされ、注目を集めた。CUT自体はMSTによる土地占拠との関連性を否定しているが、今回の事件は、一部の派閥ではあるにしろ、ブラジル国内の左派団体同士が強固に結び付いている可能性があることを示すものといえよう。