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2007年11月 “外的影響にどう対処するか

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ 近田 亮平
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2007年11月

経済

貿易収支: 11月の貿易収支は、輸出額がUS$ 140.52億(前月比▲10.9%、前年同月比18.1%増)、輸入額がUS$ 120.25億(同▲2.5%、38.9%増)、貿易黒字額がUS$ 20.27億(同▲41.0%、▲37.4%)となった。営業日が10月比で2日少なかったこともあり、輸出入ともに前月比で減少したが、11月の取引額としては過去最高額を記録した。また、為替相場においてドル安レアル高が更に進み、輸入額の伸びが輸出額の伸びを大幅に上回ったため、貿易黒字額は今年に入り最も少ない額となった。一方、年初からの累計額は、輸出額がUS$1,464.19億(前年同期比16.6%増)、輸入額がUS$1,100.19億(同30.8%増)となり、12月分を残した11月の時点で、年間の輸入額が初めてUS$1,000億を超えることとなった。この結果、貿易黒字額は前年同期比でマイナス12.1%となるUS$364.00億にとどまった。

輸出に関しては、完成品がUS$75.28億(一日平均額の前月比7.5%、前年同月比17.1%増)、半製品がUS$19.38億(同0.1%、7.4%増)、一次産品がUS$ 42.76億(同▲16.3%、25.2%増)となり、各項目とも11月の過去最高額を記録した。前年同期比で大幅増加となった主な製品は、輸出量ではガソリン(301.4%増)、燃料油(235.1%増)、トウモロコシ(183.2%増)、航空機(100.0%増)であった。また、輸出価格では石油(70.8%増)、トウモロコシ(60.6%増)、燃料油(59.0%増)、ガソリン(52.3%増)、大豆油(51.8%増)などであった。10月同様、トウモロコシなどに対する世界的な需要増加とともに、国際原油価格の更なる高騰がブラジルの主要輸出産品の量的増加と価格上昇の要因となり、輸出に不利な状況であるレアル高において輸出を支えるかたちとなった。

一方の輸入に関しては、資本財がUS$24.84億(同11.1%、47.1%増)、原料・中間財がUS$ 56.32億(同2.5%、39.1%増)、耐久消費財がUS$ 8.76億(同0.8%、42.2%増)、非耐久消費財がUS$ 7.93億(同6.1%、31.0%増)、原油・燃料がUS$22.68億(同20.1%、31.9%増)となった。為替相場での更なるレアル高の進行などから、輸入額は全体的に増加したが、国際原油価格の上昇により石油関連品の輸入額の上昇が顕著であった。

物価: 発表された10月の IPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比で1.20%ポイント高く、前年同月比では▲0.03%ポイント低い0.30%となった。この結果、年初来の累計値は昨年同期比0.97%ポイント高の3.30%となったものの、2007年の物価上昇は目標値の4.50%以下に収まる可能性が高くなった。

10月の物価上昇の主な要因として、食糧生産地における長引く旱魃の影響により、9月に上昇率が低下した食料品全体の価格が0.44%(9月)→0.52%(10月)へと再び上昇に転じたことが挙げられる。中でも、フェイジョン豆(インゲン豆に似たブラジルの主食品の一つ)、果物、ジャガイモ、肉類、コメなどの主要食料品の価格が大きく上昇した。一方、牛乳への化学物質混入事件の影響もあり(10月レポート参照)、牛乳及び乳製品価格は9月に続くマイナスとなる▲6.45%となった。

また、非食料品価格に関しては、9月に引き続きアルコール燃料が▲0.90%下落する一方、世界的な原油価格の上昇などの影響からガソリンは▲0.79%(同)→0.36%(同)へと上昇に転じた。特に、ゴイアニア(ゴイアス州の州都)の燃料価格の上昇が、アルコール燃料20.42%、ガソリン12.79%と非常に顕著であった。その他の項目では、衣料品や医療品価格の上昇率が若干高かったものの、非食料品価格全体では0.11%(同)→0.24%(同)と小幅な上昇に留まった。

金利: 11月は、政策金利であるSelic金利(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。2007年最後となる次回のCopomは、12月4と5日に開催予定である。

為替市場: 11月の為替相場は、10月後半に加速したドル安レアル高の流れを引き継ぎ、上旬の6日には2000年3月以来の水準となるUS$1=R$1.7317(買値)までレアル高が進行した。しかしその後は、米国のプライム・ローン問題再燃への懸念と米国経済への先行き不透明感という外的影響を受け、主要各国同様にブラジルの株価が下落したこと、そして、ブラジルのカントリー・リスクが年初来最高値の252ポイント(26日)まで一気に急上昇したことなどから(グラフ1)、為替相場でもレアルが売られる展開となり、27日には一時US$1=R$1.8501(売値)までレアル安が進んだ。しかし、世界の株式市場が落ち着きを取り戻すとレアルは再び値を戻し、為替相場はUS$1=R$1.7929(買値)で今月の取引を終えた。
カントリー・リスクの推移:2007年
(出所)J. P. Morgan

株式市場: サンパウロ株式市場(Bovespa指数)は、米国のプライム・ローン問題への懸念再燃や国際原油価格の更なる高騰などによる世界的な株価下落の影響を受け、11月は値を下げる展開となった。特に月の後半になると急激に下落し、26日には2ヶ月ぶりの60,000ポイント割れとなる59,069ポイントまで株安が進行した。その後、月末にかけて世界の株価が回復するとBovespa指数も63,006ポイントまで値を戻したが、月間の変動率は、2月の中国、7月の米国発の世界同時株安時以来、今年3回目となるマイナスとなるとともに、下げ幅は今年最大の▲3.54%を記録した(グラフ2)。しかし、近年の月毎の株価変動率と比較すると、2007年のBovespa指数は堅調かつ安定的に推移してきており、外的な要因による一時的な下落はあるものの、ブラジル経済のファンダメンタルズに対する市場の信頼および期待感は過去に比べ強まっているといえる。
グラフ2 Bovespa指数の月間変動率の推移:2003年以降
(出所)サンパウロ株式市場

直接投資: 10月の直接投資額が発表され、海外からの直接投資額(FDI)はU$31.88億となり、外資系企業によるブラジル市場への大型参入案件が相次いだ6月以降も(6月レポート参照)、海外からの直接投資が活発に行われていることを裏付ける結果となった(グラフ3)。過去の年間FDIの最高額は、大型公営企業の民営化案件が続いた2000年のUS$327.79億であるが、2007年はUS$350億に達するものと見られている。

その一方で、11月10日にはPetrobrás(ブラジル石油公社)が中国をはじめとしたアジア地域における今後の事業展開の拠点とすべく、沖縄にある米エクソンモービル系の南西石油を55億円で買収するなど、ブラジル企業も経済のグローバル化に対応する動きを活発化させている。
グラフ3 直接投資額の推移:2003年以降
(出所)ブラジル中央銀行

油ガス田発見: Petrobrásは8日、国内最大規模の石油および天然ガス田を、サンパウロとリオの州境のサントス沖合の海底で発見したと発表した。この油ガス田の埋蔵量は50~80億バレルに達すると見られ、採掘に成功した場合、現在の国内埋蔵量144億バレルが50%以上増加する可能性もある。また、現在までに発見されたブラジルの石油は重油がほとんどであったが、今回の油田にはより軽い原油も存在するとされている。ただし、同油ガス田は海面2,000メートル下の海底を4,000メートル以上掘り進んだところにあり、技術や費用などの問題から採掘開始までには6、7年の時間が必要とみられている。

Lula大統領および政府は今回の油ガス田発見に関して、将来的にブラジルは石油の自給だけでなく輸出国になり得、状況によってはOPEC(石油輸出国機構)への加盟準備も進めると述べている。しかし、今回の油ガス田発見の発表は、Morales大統領によるボリビアの天然ガス国有化により、昨年来中断していた同国との天然ガス交渉再開の直後に行われた。そのため、ブラジルにとっての同油ガス田の経済的な意義を明示するだけでなく、外的影響により直面せざるを得なくなったボリビアとの天然ガス交渉を、より有利に進めようという政治的な意図が含まれているとの見方もされている(Estado de São Paulo, 9 de novembro)。

政治

チャベス: ベネズエラのChávez大統領は、11月8日から10日にかけてチリで開催された中南米諸国とスペイン、ポルトガルによるイベロアメリカ首脳会議に出席した際、米国に協力してイラク戦争に参戦したスペインを繰り返し激しく批判し、同席していたスペイン国王から「黙れ」と一喝されるなど、相変わらずの傍若無人ぶりを発揮。また、Chávez大統領は、コロンビアのUribe大統領から左翼ゲリラFARC(コロンビア革命軍)との人質解放交渉の仲介役を依頼されたが、Uribe大統領との約束を無視した行動に出たことから仲介役を外されることになった。そして、これらの扱いに対する報復として、ベネズエラはスペインとコロンビアとの外交関係を凍結。さらに、OPEC首脳会談出席のためイランを訪問した際には、核開発を進めるイランへの支持を表明するとともに、米国による脅威があった場合、石油供給の制限をもって反撃するとの強硬姿勢をエクアドルのCorrea大統領とともに打ち出した。そして、ベネズエラ国内でも、教会に対する批判を強めたり、大統領の無制限連続再選を可能とする憲法改正法案を提出したりするなど、その暴言暴動は留まる気配がない(憲法改正法案は国民投票で否認される)。

このようなChávez大統領の専制的かつ権威主義的な言動に対し、ブラジルの議会が警戒感と反発を強めたため、昨年7月のメルコスル首脳会談で決定されたベネズエラのメルコスル加盟に関して、ブラジルでの議会承認は保留されたままとなっていた。しかし、ベネズエラはブラジルにとって3番目の貿易相手国であることなどから、11月21日、ようやく下院法制委員会(CCJ)においてベネズエラのメルコスル加盟が承認されることとなった。今後、同案は下院本会議と上院に回されることになっているが、案件の「プライオリティ上の問題」(Chinaglia下院議長)から、下院本会議での審議は年明けにずれ込むものと見られている。

ブラジルの議会内には、経済同盟であるメルコスルをChávez大統領が非民主的な手法により政治的に利用するのではないかとの危惧が強まっている。また、ブラジル国内だけでなく海外においても、Chávez大統領による“ブラジル包囲網”が着々と築き上げられているとの見方があり、今後、Chávez大統領をはじめとする近隣諸国からの外的影響にどう対処していくかが、現実路線に基づき地域大国を目指すブラジルにとって、一つの大きな鍵を握っているといえる。

社会

航空危機再び: 11月7日、8年前に設立されたブラジルの新興航空会社BRAが、同社の全てのフライトを同日正午に中止するとともに、1,100人もの職員を解雇すると発表した。BRAはキャンセルしたフライトを他の航空会社へ引き継ぐよう交渉するとしたが、フライトの中止発表後、国内の空港はBRAの航空チケットを既に購入していたものの、搭乗するフライトのない乗客で溢れ、大混乱となった。

BRAは来年3月分のフライトを含む7万件もの航空チケットを既に販売していただけでなく、フライト中止を航空当局に申請した後も航空チケットの販売を続けていた。既に発券済みのBRAのフライトは、新興の航空会社OceanAirが引き継ぐことが決定されたが、航空便および空港の混乱はしばらく続いた。BRAは格安の航空チケットや徹底したコスト削減により、近年、ブラジルの航空業界でシェアを伸ばしてきたが、ずさんな運営や燃料費の高騰などによりU$1億以上もの負債を抱えるに至り、経営破たんに陥ったとされる。

ブラジルの民間の航空業界および政府の管理体制は、近年、航空便に対する国内の需要が急激に増加して来たにも関わらず、それに対応し得る人材およびインフラの整備を十分に行って来なかったといえる。その結果として、多くの死者を出す航空事故やフライトのキャンセルおよび大幅な遅延によるパニックなどが続発してきた。航空管制局(Departamento de Controle do Espaço Aéreo)によると、現在のフライトの運行を円滑に行うためには新たに1,500人もの管制官を配置する必要があるが、これだけの数の資格ある管制官の養成には約3年間かかるとされる。

HDI: 1990年以降、国連開発計画(UNDP)が毎年作成している人間開発指数(HDI)が発表され、ブラジルはHDI算出対象の過去30年間で初めて、人間開発上位国の基準である0.800ポイントに達した(2005年数値)。HDIは所得、教育、保健医療の各分野の数値から算出され、平均寿命は71.7歳(前年70.8歳)、15歳以上の識字率は88.6%(同88.6%)、初等~高等教育の就学率は87.5%(同85.7%)、一人当たりGDPはUS$8,402(同US$8,195)であった。

今回のHDIにおいてブラジルが最も改善した分野は所得であり、Bolsa Família(8月レポート参照)による所得移転が功を奏したかたちとなった。しかし、Bolsa Família は社会扶助政策であるため、貧困問題の根本的な改善には社会構造の抜本的な改革が必要だといえる。また、HDIの各国ランキングにおいてブラジルは前回の69位から70位へと一つ順位を下げており、ブラジルのHDI改善ペースが世界の他の諸国よりも緩慢であることが示される結果となった。

刑務所の劣悪さ: 北部パラー州の留置所において、窃盗の罪で逮捕された15歳の少女が、約20人の男性服役者のいる監房にほぼ1ヶ月もの間収監され、食事を得るために複数の男性から一日に何度も性的虐待を強制されたり、肉体的精神的な暴力を受けたりしていたことが明らかになった。警察や留置所の関係者は、この少女が留置所ではないしかるべき施設に収容されるはずの未成年であることを知っていたとされる。このように女性や未成年が成人男性のみの監房に収監され、性的虐待などを受けるケースは、国内の他の刑務所や留置所でも見られるとの報告が、人権団体やマスメディアなどによってなされている。

また、11月半ばには北東部ペルナンブコ州の州都レシーフェの刑務所において、4日間に渡る暴動が発生した。最終的に440人もの警察や刑務所関係者が刑務所内に突入することで、ようやく事態は沈静化したが、首を切断された1人を含む服役者3人が死亡、43人もの負傷者を出す惨事となった。この刑務所の収容可能人数は1,400であったが、暴動発生当時、3,900人もの服役囚が収監されていたとされる。

ブラジルの刑務所における収監状態の劣悪さは世界的に有名で、国内外の人権団体やNGOから非難と改善要求がなされている。昨年発生したサンパウロ州を中心とした組織的テロ犯罪(2006年5月・7月レポート参照)に関しても、刑務所内の劣悪な収監状態が要因の一つに挙げられている。近年のブラジルには不平等の是正や人間開発指数の改善など、ポジティブな変化が見られるものの、犯罪や治安、暴力などが“ブラジル・コスト”の中でも主も深刻な問題になりつつあるといえよう。