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2007年7月 構造的な航空危機の結末?

月間ブラジル・レポート

ブラジル

地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ 近田 亮平
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2007年7月

経済

貿易収支: 7月の貿易収支は、営業日が22日と多かったこともあり、輸出入ともに過去最高額を記録し、輸入額がUS$141.20億(前月比7.6%、前年同月比3.4%増)、輸入額がUS$107.73億(同15.8%、34.8%増)となった。特に輸入額は更なるレアル高の影響で、史上初めてU$100億を突破し、この輸入額の大幅な増加により、貿易黒字額はUS$ 33.47億(同▲12.3%、▲40.9%)と前月および前年同月に比べ大きく減少した。また、年初からの累計額は、輸出額のUS$873.34億(前年同期比16.9%増)に対し、輸入額がUS$633.49億(同27.9%増)と輸出額の増加率を上回ったため、貿易黒字額は前年同期比マイナスのUS$ 239.85億(同▲4.8%増)となった。

輸出に関しては、完成品がUS$ 70.78億(一日平均額の前月比▲8.3%、前年同月比▲0.8%)、半製品がUS$ 19.04億(同▲6.0%、▲3.7%)、一次産品がUS$ 48.78億(同11.0%、0.0%増)となった。工業製品はレアル高により輸出価格が上昇したこともあり、一日平均額で減少したものの総額では増加し、一次産品は原油やバイオ・エネルギー関連作物の国際価格が上昇したことを受け、工業製品よりも増加が顕著であった。

一方の輸入に関しては、資本財がUS$ 21.47億(同▲0.3%、24.6%増)、原料・中間財がUS$ 52.76億(同2.2%、23.4%増)、耐久消費財がUS$ 6.82億(同▲5.9%、21.7%増)、非耐久消費財がUS$ 6.64億(同9.8%、32.6%増)、原油・燃料がUS$20.04億(同26.3%、52.5%増)となった。くすぶる国内のエネルギー供給問題や国際原油価格の上昇などから、主に石油の輸入額の増加が顕著だったことに加え、アルゼンチンやメキシコ、韓国からの衣料や薬品などの非耐久消費財の輸入額が増加した。

物価: 発表された6月の IPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比では全く同じ数値となったものの、▲0.21%のデフレを記録した前年同月と比べ0.49%ポイント高い0.28%となった。これの結果、年初来の累計値は昨年同期の1.54%に比べ0.54%ポイント高い2.08%となった。

今回の物価上昇要因としては、牛乳および乳製品、フェイジョン豆(エンドウ豆に似たブラジルの主要食物)、鶏卵などの価格が上昇し、食料品価格が全体で0.16%(5月)→1.09%(6月)へ上昇したことが挙げられる。このほかにも、衣料品価格や家庭内労働者(empregados dom?sticos)賃金の上昇も大きく影響した。一方で、5月に引き続きサトウキビが収穫期であったため、アルコール燃料価格が2.82%(同)→▲12.35(同)へと大きく下落し、これに誘発されガソリン価格も0.33%(同)→▲0.77(同)へと下がり、物価全体の上昇を抑制するかたちとなった。

金利: 7月17、18日に開催されたCopom(通貨政策委員会)において、政策金利であるSelic金利(短期金利誘導目標)が12.00%→11.50%へと17回連続で引き下げられた。今回も前回と同様▲0.50%ポイントの引き下げ幅となり、今年の前半に比べ金利引き下げペースは速められたが、今回も含め3回連続で全会一致での決定ではなく、より緩やかな金利引き下げを主張した委員もいた。より高い経済成長の達成や歯止めのかからないドル安レアル高対策としては、更なる金利引き下げが必要であるが、株式市場や貿易が好調なことに加え、物価が昨年に比べ若干高めに推移していることなどから、Copom内部で意見が分かれているといえる。

為替市場: 為替市場:7月半ば過ぎまでの対ドル為替市場は、好調な株式市場や外国直接投資(後述)などを背景にレアルが一方的に買われる展開となった。9日にUS$1=R$1.9を突破すると、23日には2000年9月末以来のドル安レアル高となる、US$1=R$1.844(買値)までレアルは上昇した。しかし、米国に端を発した世界的な株価下落を受け、新興市場から資金を引き上げる動きが強まるとともに、6月に137まで低下していたブラジルのカントリー・リスクが22日には一気に220まで上昇したことなどから(グラフ1)、為替相場は一時US$1=R$1.9を回復するレベルまでドル高レアル安に振れた。しかしながら、基本的なドル安レアル高のトレンドを変えるまでにはいたらず、月末には再びUS$1=R$1.9を上回るレベルまでレアルが買い戻され、今月の取引を終えた。

株式市場: 7月のサンパウロ株式市場(Bovespa指数)は、原油やバイオ・エネルギー関連の一次産品の国際価格の上昇、Selic金利の更なる引き下げ、外資による国内企業買収等による直接投資の増加(後述)などを好感し、月の半ば過ぎまでは先月までと同様に、史上最高値を次々に更新しながら続伸。19日には58,125ポイントまで上昇した。しかしその後、米国の不動産市場に対する不安感が引き金となり、米国のみならず世界の株式市場が大幅に下落すると、新興市場からの資金引き上げとともにカントリー・リスクが上昇(グラフ1)。サンパウロ株式市場は急激に値を下げ、一時52,922ポイントまで下落した。この結果、月末に54,573ポイントまで値を戻したものの、7月のサンパウロ株式市場は、中国株式市場に端を発した世界同時株安が起きた今年2月以来のマイナスとなる▲0.39%の下落となった。
グラフ1 カントリー・リスクの推移:2006年以降
(出所)J. P. Morgan

直接投資: 発表された6月の直接投資額によると、海外からの直接投資額(FDI)がU$103.18億となり、月間のFDIの額としては1947年以来最高で、2003年一年間のFDIの総額U$101.44億を上回る額を記録した。また、過去12ヶ月のFDIの総額はU$322.61億に達し、政府系企業の大型民営化案件が複数実施された2000年のU$327.79億にほぼ匹敵する額となった。6月はインドのMittal製鉄によるArcelor製鉄の買収(U$28.93億)、サービス部門におけるアイルランドのExperianグループによるSerasa社買収(U$14.95億)、金融部門におけるドイツ銀行のUnibancoへの資本参加(U$4.94億)など、外資系企業によるブラジル市場への大型参入案件が相次いだ。これにより、中央銀行は2007年のFDI総額予測を見直すとみられているが、6月の巨額なFDIは単発的なものであり、今後、この傾向が継続するとの見方はしていない。
グラフ2 直接投資額の推移:2006年以降
(出所)ブラジル中央銀行

政治

Petrobrás汚職事件: Petrobrás(ブラジル石油公社)の海底油田採掘プラットフォーム案件の入札をめぐり、汚職が行われていた疑惑が発覚した。今回の汚職事件は、リオ州Angra dos Reis市の沖にある海底油田採掘プラットフォームの改築およびメンテナンスの入札に関し、Angraporto という企業が複数の建設業者と結託し、Petrobrásの職員から有益な情報等を得る代わりに賄賂を贈り、案件を不正に落札していたとされるものである。また、落札された案件においては、予算の水増し請求や架空取引などによる資金の横領が行われており、過去3件の案件だけでR$6,000万以上の資金が横領されたとされている。さらに、Petrobrásと業務契約を結んでいるNGOの中にも、同様のスキームで資金を横領していたとされる汚職事件が発覚しており、政府の公社であるPetrobrásを舞台とした組織的な汚職構造の存在が明るみに出た。

今回のこれらの事件で、Petrobrás、Angraportoをはじめとする建設業者、NGOの職員など15名が既に逮捕された。しかし、汚職事件への関与が疑われている者の数は20名以上に上っており、今後の調査の進展により逮捕者の数はさらに増えるものと予測されている。

社会

飛行機墜落事故: 17日の夜7時少し前、サンパウロ市内にあるブラジルで最も混雑するCongonhas空港に着陸しようとした飛行機が滑走路をオーバーし、時速175kmもの速度で空港のすぐ横を通る主要道路の反対側にある建物に激突し大破するという大事故が発生した。この事故を起こしたのはブラジル航空業界トップのTAM航空の飛行機で、ブラジル南部のポルト・アレグレを発ちサンパウロに到着するところだった。この事故は、乗員乗客と事故機が衝突した建物にいた人々を含め、月末までに199名もの犠牲者を出す、ブラジル民間航空史上最悪の事故となった。事故の原因については、幾つもの穴があるなど問題のある滑走路が雨により滑りやすい状態だったこと、4日前の機体検査で逆噴射エンジンの問題が見つかっていたにも関わらず修理を行わずに飛行を続けていたこと、パイロットの操縦ミス、空港内部のシステム上の問題など様々な可能性が挙げられているが、依然として結論には至っておらず、現在もなお原因究明の調査が続いている。

事件発生直後から、Congonhas空港を発着していた航空便は、サンパウロ市に隣接するGuarulhos市にある Cumbica国際空港へ移転されることになった。しかし、Cumbica国際空港をはじめとする国内主要空港の航空便はキャンセルや遅延などで大幅に乱れ、乗客は空港での長時間の待機を余儀なくされるなど、事故後数日間にわたりブラジルの空の便は麻痺状態が続いた。この原因の一つとして、事故発生により航空便が正常に運行されていないにも関わらず、航空会社が航空チケットの販売を続けたことが挙げられており、これに対して政府は航空チケットの販売を禁止する措置を講じた。事故から1週間後、Congonhas空港における航空便の離着陸は再開されたが、運航はサンパウロと国内主要都市を結ぶ路線に限られており、多くの便はCumbica国際空港において発着している。

Congonhas空港はサンパウロ市の中心街からさほど離れていない、市内の住宅街の真ん中に位置し、周辺には交通量の多い主要道路も通っている。以前から、同空港の立地場所の危険性や、発着便数や利用者数の多さに比べ滑走路をはじめとするインフラ設備が整っていないことなどが問題として指摘されており、その改善が課題として挙げられていた。

今回の飛行機事件およびその後の航空便の混乱に対処すべく、Lula大統領はWaldir PiresからNelson Jobim連邦最高裁判事へと国防大臣を交代させるとともに、事故の責任を取るかたちで、Anac(国家民間航空庁)やInfraero(ブラジル空港インフラ公社)の役員などが辞任に追い込まれることになった。また、事故発生後、政府はサンパウロ市近郊に第3の空港を建設する計画を打ち出したが、その10日後にはこの計画を撤回し、現在2本あるCumbica国際空港の滑走路を3本へと増設すると発表した。しかし、同空港に新たな滑走路を増設するには、既に住宅地となっている土地の買収などが必要で時間がかかること、Cumbica国際空港のキャパシティも限界に達していること、滑走路などのインフラに問題を抱えていることなど、その実現と問題解決の可能性には多くの疑問があるといえる。

サンパウロへの経済機能の集中により、同市を拠点とした航空便によるヒトとモノの流れは年々増加傾向にある。2006年において、ブラジル国内の総航空旅客数の34.5%がCongonhasとCumbica空港のあるサンパウロに集中している。しかしその一方で、これら2つの空港の年間搭乗可能旅客数は約2,850万人であるのにも関わらず、その20.3%超に当たる約3,430万人が両空港を利用したとされる(『Veja』11 de julho, 2007)。

また、人口において国内第二位のリオとサンパウロの間のヒトとモノの輸送も大きな問題となっている。リオは経済的な重要性ではサンパウロに劣るものの、Petrobrásや鉄鉱メジャーのCVRD(リオドセ社)などの有力企業の本社があり、IBGE(ブラジル地理院)などの政府機関も存在する。また、世界的にも有数の観光地であることに加え、この7月には北中米大陸最大のスポーツの祭典であるパン・アメリカ大会が開催されるなど、近年、国際的な会議やイベントなどが多く開催されている。したがって、サンパウロ-リオ間の輸送を円滑に行うことは、現在および今後のブラジルにとって経済面のみならず様々な意味において非常に重要だといえる。現在、両都市間の輸送は飛行機と長距離バスがメインとなっているが、距離にして約430kmしか離れていないこともあり、今後、鉄道による輸送網の整備が必要との指摘もなされている。

今までの当ブラジル月間レポートや現地報告において、154名の犠牲者を出したGol航空機の墜落事故や、その後、国内主要空港でたびたび発生したパニック情況を報告してきた。近年のブラジルでは飛行機を利用する人口が年々増加傾向にあり、2004年に約8,300万人であった乗客数は2007年には1億1,400万人に達すると見られている(『Veja』11 de julho, 2007)。その一方で、急激に増加する需要を支える供給側は、航空インフラやシステムの整備の遅れ、管制官といった人材および航空機自体の不足などの問題点を抱えている。しかし、航空会社の利益優先主義や価格競争による利益圧迫から、問題点への対策や安全面の整備が後回しにされてきたと考えられる。また、このような航空業界の状況に対して、政府が適切な措置を講じてこなかったことも大きく影響したといえよう。そして、急増する需要に対処し切れないまま、構造的な問題の解決を先送りにしてきた結末の一つが、今回のブラジル航空史上最悪の大惨事であったといえるのではなかろうか。