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Oi! do ブラジル—リオデジャネイロから徒然なるままに
2006年7月 海外で長く“生活”すること

ブラジル現地報告

ブラジル

海外派遣員 近田 亮平
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2006年7月

今月のひとり言—ブラジルを“生活の場”にして

現在、私は自らの研究対象であるブラジルに滞在しており、日々の日常においてもできる限りブラジル研究に集中しなければならないと同時に、それが可能な状況にあるといえる。ブラジルでの私の仕事や生活は、現地の日本人及び日系人社会とは全くといってよいほどコンタクトのない、まさに“ブラジル社会どっぷり”なものとなっている。これは、当研究所の特色として、「“現地主義”に基づいて開発途上国で研究及び調査活動を行うこと」が標榜されているためであるからだといえよう(“現地主義”等、当研究所の特色や歴史などについては、広報映像をご参照)。

しかし、このような“現地主義”を日々実践している私にも、 “日本”を身近に感じさせてくれ、私生活の面で大変お世話になっている日系人の方がいる。この方はブラジル生まれの日系2世の女性で、ご主人は日本で生まれ育った1世の方である。もう12年以上も親しくさせていただき、私にとって“ブラジルのお母さん”のような存在である。子供さんがいらっしゃらないこともあり、私のことを本当の息子のようにいろいろと面倒を見てくださってきた。また、この方はブラジル生まれブラジル育ちであることから、私が“現地主義”で行き詰ったとき、「ブラジル人とは?ブラジル社会とは?」について、“日本人”の観点から私にいろいろと教えてくださった。

ただ、この方が年初から重病を患われ、今月その容態が急激に悪化するという事態になった。今まで長年にわたり大変お世話になってきた方のため、日常業務は行ったものの、私は予定していた研究スケジュールを変更し、日々、看病に努めることにした。しかし、残念ながら今月末、私を含めた多くの人たちの願い叶わず、逝去されることとなった。

私が昨年の3月にブラジルに赴任して以来、今月で1年5ヶ月という月日が流れた。私のブラジル滞在は2年間の予定であり、このようにある程度の長い時間を海外で“生活”していると、実に様々な、しかも予期せぬことが起きるものである。1年であれば全力で駆け抜けているうちに終わりを迎えられることもあろうが、やはり2年ともなると、海外に“生活の場”を移し、ある程度ここに根を下ろして“生活”することになる。そして、期間が限られているとはいえ、ある一定の場所に長期で“生活の場”を築いて行けば行くほど、そこにおける“生活”の中で、人々の人生を左右するような出来事に直面するものなのだと実感している。フルマラソンを100mダッシュで駆け抜けることは、やはり無理なことなのだと。

今はただ、長い間お世話になった方のご冥福を心よりお祈りしている。今月のひとり言は、少しプライベートな内容になってしまったが、ご了承いただきたい。

今月のブラジル
経済

貿易収支:7月の貿易収支は、輸出入及び貿易黒字額がいずれも過去最高額を記録した(グラフ1)。輸出額がUS$136.22億(前月比19.1%、前年同月比23.1%増)、輸入額はUS$79.84億(前月比8.6%、前年同月比31.8%増)、貿易黒字額はUS$56.38億(前月比38.1%、前年同月比12.7%)となった。また、年初からの累計額は、輸出が前年比15.1%増のUS$745.22億、輸入が前年比23.1%増のUS$493.52億となったため、過去2ヶ月連続で前年比マイナスとなっていた貿易黒字(US$154.64億)は、再び前年比2.1%のプラスへと転じた。

貿易収支が過去最高額を記録した主な要因としては、輸出において酸化・水酸化アルミニウムが前年同月比で400%(US$2億)、アルコールが285.3%(US$2.89億)、砂糖が118.2%(US$5.15億)、鉄鉱石が63.9%(US$10.7億)、大豆が46.6%(US$9.78億)増加したことなどが挙げられている。また、輸入においては、為替相場がUS$1=R$2.2近辺のレアル高で安定していることから、ほぼ全てのカテゴリーにおいて輸入量が増加したことによるものである。
グラフ1 貿易収支の推移:2003年~
(出所)MDIC/Secexを元に筆者作成。

物価:発表された6月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、5月の0.10%から0.31%ポイントもの低下となる▲0.21%となった。デフレとしては昨年同月の▲0.02%以来、マイナス幅の大きさとしては1998年9月の▲0.22%に次ぐ数値を記録した。この結果、年初からの累計値(上半期)は1.54%となり、前年同期の3.16%を大幅に下回ることになった。

今回の物価下落の主な要因として、5月同様にサトウキビの収穫と商品化が行われた結果、5月に▲11.06%低下したアルコール価格が6月も▲8.77%下落し、ガソリン価格も5月0.44%→▲1.60%へとマイナスになったことが挙げられている。また、非食料品項目全体の物価も5月0.14%→▲0.10%へと低下した。更に、主要食糧品価格も5ヶ月連続のマイナスを記録し、5月▲0.03%→▲0.61%となったことが今回のデフレの要因の一つとなっている。

金利:今月18日と19日に開催されたCopom(通貨政策委員会)において、Selic金利(短期金利誘導目標)が昨年10月から9回連続で引き下げられ、15.25%→14.75%となった。今回の金利引下げにより、Selicは1999年にCopomが現在のシステムを採用して以来の最低水準になるとともに、名目金利は1975年3月以来の低水準となった。しかし、インフレ率を差し引いた向こう12ヶ月の金利である実質金利は9.9%であり、依然として世界でも最も高い水準となっている。

今回の0.50%ポイントという引き下げ幅は市場の予想範囲内であったため、株式及び為替市場にとって大きなインパクトとはならなかった。しかし、依然として金利引下げの余地はあるとの見方がされており、今回及び今後の更なる金利引下げにより、ブラジル経済に対する期待感がより高まる可能性が考えられよう。

為替市場:今月の為替相場は、中東情勢の更なる悪化による有事のドル買いから、若干ドルが値を戻す場面が見られたものの、基本的にはUS$1=R$2.2を下回る狭いレンジでの取引となった。26日に政府はドル安レアル高是正のための為替政策を発表したが、カウントリー・リスクが月の後半に220まで低下したこともあり、現在のところ、市場のトレンドを変えるほどのインパクトを与えるには至っていない。

なお、政府が発表した為替政策の主なポイントは、今まで海外での売上金はブラジル国内において全額をレアルに交換する必要があったが、今後は一部(現状30%)を海外にて外貨で保有することができるとする点である。そして、この海外に残された外貨建て資金は、企業の債務支払いや貿易決済、投資などに使用することができるというものである。また、ブラジル国内に入る金額が30%減ることにより、それに伴って支払う税金額等も少なくなるため、輸出業者にとってプラスの効果があるものとされる。

Mantega大蔵大臣によれば、同政策は約US$200億に及ぶ資金のブラジル国内への流入を削減でき、為替市場におけるドルの更なる下落を抑えることが可能であるが、即効的なものではなく長期的に効果が現れてくるものだとされる。なお、同政策は、最近の長期にわたるレアル高により為替差損をこうむっている輸出業者や農業生産者の不満を抑える狙いがあるとされている。

株式市場:今月のサンパウロ株式市場Bovespa指数は、中東情勢の悪化と米国経済の先行きに対する不透明感から、先月に引き続き今月も慎重な取引に終始した。外国人投資家による資金引き上げの動きも強く、17日には一時35,000ポイントを下回る場面も見られたが、月全体を通して36,000ポイントを挟んだ取引となった。

政治

“ヒル”汚職事件:Cardoso前政権から現在に至るまで、中央政府の予算をもとに地方自治体(ムニシピオ)が救急車を購入する際、多数の上下院議員がPlanamという会社に不当な便宜を図る代わりに、同社から金銭及び物品等の賄賂を受け取っていたという汚職疑惑事件が問題となっている。同事件は、自らの地位を利用して私腹を肥やすことから、吸血虫の“Sanguessuga”(ヒル(蛭))に例えられ“ヒル”汚職事件と呼ばれている。

この汚職疑惑事件に関しては、既にCPI(議会調査委員会)が設置されており、90名以上の現職議員及び20名以上の元議員が事件に関与していたとしてリストアップされている。これらの議員の所属政党は12政党にも及び、中には元及び前保健大臣や、過去の汚職事件への関与を取りざたされた議員も複数含まれている。今月末までに連邦警察が調査したところによると、2001年以降、1億1,000万レアルもの不正な資金の動きがあり、上下院議員及び市長は水増し決算額の10~15%を受け取り、493もの市長が関与していたとされる。

今回の汚職疑惑事件は、現在のところ、昨年暴露されたPTによる一連の汚職事件とは異なり、Lula政権及びPT(労働者党)の中枢と関連した汚職問題ではないと思われる。しかし、中央政府を舞台にCardoso前政権から最近に至るまで大規模な汚職が行われていた可能性が高く、ブラジル政治における汚職問題の根の深さを露呈するものといえる。

現在のところ大統領選挙への影響はほとんど見られないが、今回の事件は政府による統制の欠如だとして、他の候補者たちはLula政権に対する非難を強めている。したがって、昨年のPTによる一連の汚職事件も含め、今後、「汚職問題」として選挙戦の重要な争点の一つとなる可能性も十分にある。また、大統領選挙への影響は限定的なものに止まったとしても、当汚職事件の疑惑議員の多くが州知事や上下院議員などの選挙に立候補していることから、今後の地方選挙戦の動向に、より大きな影響を与えるものと考えられよう。

大統領選挙:今月行われた大統領選挙に関する世論調査(IBOPE)において、Lula大統領が依然として高い支持率を維持しているものの、公式な選挙戦開始と共に、PSDB(ブラジル社会民主党)のAlckmin候補とPSOL(自由と社会主義政党)のHelena候補が支持率を伸ばす結果となった。現時点で選挙が行われた場合、他候補の合計得票数は38%でLula大統領の44%を下回るため、Lula大統領が再選されることになる。しかし、今後、選挙戦が進むにつれ、全国的に知名度が低かったAlckmin候補の認知度及び支持率が更に上昇すると共に、元PT党員で左派のHelena候補が台風の目になることが予測されることから、大統領選挙は決選投票へともつれる可能性が高まってきたといえる(グラフ2)。

大統領選挙が決選投票となった場合、現時点では依然としてLula大統領が有利な情勢となっている(グラフ3)。しかし、Lula大統領への拒絶票が前回の28%(45日前)から32%へと上昇したのに対し、Alckmin候補のそれは34%(同)から17%へと低下している。したがって、決選投票となった場合、浮動票がAlckmin候補に流れる可能性も十分に予想されることから、今後、大統領選挙戦は混迷の度合いを増していくものと思われる。
グラフ2 大統領選挙の投票動向:第1回目投票
(出所)IBOPE

グラフ3 大統領選挙の投票動向:決選投票の場合
(出所)IBOPE

更に、Lula政権及び大統領に対する評価に関する世論調査も同時に行われ、最近は上昇傾向にあった支持率は、今回の調査では低下し、不支持率が上昇する結果となった(グラフ4及び5)。3ヵ月毎である過去の調査に対し、今回の調査は前回から1カ月後に行われたため、薄線にて表示)。IBOPEによれば、今回の支持率低下の主な要因の一つとして、サンパウロにおける治安悪化(社会欄参照)が考えられるとされている。
グラフ4 ルーラ政権に対する評価の推移
(出所)IBOPE

グラフ5 ルーラ大統領に対する評価の推移
(出所)IBOPE

メルコスル:今月10日、ベネズエラのメルコスルへの正式加盟に関する議定書の調印が行われ、メルコスルの正式加盟国はブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイにベネズエラを加えた5カ国となった。また、21日にメルコスル正式加盟5カ国及びチリとボリビアの準加盟国による首脳会議が、アルゼンチンのコルドバで開催された。今回のメルコスル首脳会議には、キューバのカストロ議長が特別ゲストとして招待され、米国の経済制裁を45年間にわたり受けている同国とメルコスルの間で、低関税の貿易品目を大幅に拡大する協定が締結された。

メルコスルは、1995年に貿易を中心とした経済交流の促進を目的に発足した関税同盟であり、将来的にはEU(欧州連合)のようなかたちでの南米の地域統合を目指しているとされる。現在、メキシコがメルコスル加盟に関心を示しているものの、近年は加盟国同士の経済的な利害衝突が表面化するなど、経済的な側面における地域統合には大きな進展が見られていない。その一方で、地域統合のための政治的主張の場として利用されることが多くなり、特に、今回のベネズエラの正式加盟及びカストロ議長の参加により、反米及び左派的傾向が強まったといえよう。

社会

サンパウロ組織的犯罪再び:今年5月、サンパウロ州を中心に犯罪組織「首都第一コマンド」(PCC:Primeiro Comando da Capital)による大規模な組織的犯罪事件が多発したが、今月11日の深夜から再び、サンパウロ州の各地において、同じくPCCによる組織的犯罪事件が多数発生した。今回は警察署などの公的機関や銀行が襲撃されただけでなく、スーパーマーケットや商店、中古車店舗など一般市民の生活にも身近な施設とともに、警察官の自宅も標的とされるに至った。また、前回同様に約90台もの市内バスが放火され、サンパウロ市内の公的交通手段は再び麻痺状態に陥った。

17日のエスタード(O Estado de São Paulo)紙によると、今回のPCCによる一連の組織的犯罪行為は合計で168件にのぼった。死者数は、今回の一連の事件との関連性が未確定なものも合わせると合計19名(含む一般市民2名)で、負傷者が10名(含む一般市民6名)、逮捕者が78名となっている。また、今回、PCCが再び組織的犯罪に及んだ要因としては、PCC幹部数名が遠隔地の刑務所に移されたこと、また、5月の刑務所内暴動により刑務所の施設が破壊されたことから、1,443人もの囚人を通常100人強しか収容できない刑務所の中庭に数日間留置したことに対する報復と見られている。

今回、再びサンパウロ州の治安が悪化したことを受け、連邦政府は軍隊の投入などの支援を州政府に打診したものの、州政府はこれを拒否。10月の大統領及び上下院議員選挙との関連から、与党PTの連邦政府と野党PFL(自由前線党)のサンパウロ州政府(大統領選挙出馬のために知事職を辞任したAlckmin前知事はPSDB)が、治安問題の原因と責任を互いに責み合い、事態の収拾の遅延と悪化をもたらしているといえよう。最終的には治安対策用として、連邦政府からサンパウロ州政府へ1億レアルもの資金等が送られることになったが、今回の組織的犯罪事件の再発により、ブラジルにおける治安問題が如何に深刻で根の深いものであるかが白日の下に晒されたといえよう。したがって、今回の経済的な損失だけでなく、ブラジル、特に経済の中心であるサンパウロの対外的イメージが大きく損なわれたことによる、今後のブラジル経済へのネガティブな影響も決して少なくはないと考えられよう。



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