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Oi! do ブラジル—リオデジャネイロから徒然なるままに
2006年6月 Copa do Mundoな1ヶ月

ブラジル現地報告

ブラジル

海外派遣員 近田 亮平
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2006年6月

今月のひとり言—ワールドカップ一色のブラジル

今月の見出しにある「Copa do Mundo」とは、ポルトガル語で「ワールド・カップ」を意味する。ワールド・カップは色々なスポーツにあるが、ブラジルで"Copa"といえば(Copa do Mundoを約してCopaと言う)、もちろん、サッカー(futebol)のワールド・カップである。

今月ドイツで開催されたCopa。よく「サッカーの本場ブラジル」といわれるが、ブラジルは今回を含め18回のCopaで、唯一全大会出場を誇り。過去5度の優勝は、単独1位(2位は優勝3回のイタリアと(旧西)ドイツ)。過去3大会連続で決勝進出((旧西)ドイツとタイ記録)。ブラジル及びブラジル人にとって、サッカーは国を挙げて誇るべきスポーツであり、4年に1度開かれるサッカー界最大のイベントであるCopaは、まさに特別な存在なのである。

Copaの開催期間中及び開催前から、ブラジル中がサッカー一色になる。リオの街のあちこちがCopa用の"緑と黄色"(ブラジルの国旗の色)の飾りで彩られ、Copa関連の商品が店先にずらりと並べられる。また、セレソン(ブラジル代表チームを意味する"seleção")の有名選手が、テレビ・コマーシャル等に頻繁に登場し、Copaが開催される年は"Copa特需"が生まれ、ブラジルが勝ち進めば勝ち進むほど、"Copa景気"が経済に好影響を与えるといわれている(ただし、過去の年間GDPを見る限り、1990年▲4.35%、94年5.85%、98年0.13%、2002年1.93%と、あまり相関関係は見られないが)。

ともあれ、ブラジルではセレソンの試合がある日は、仕事も試合開始時間に合わせ、ほとんどの人が職場を後にする。私の職場(IPEA:ブラジル政府の研究機関)でも、試合が午後4時開始の時には午後1時まで、正午開始の場合は午前11までと、正規の就業時間が短縮された。そして、ブラジルが試合に勝てば、花火や爆竹が街のあちこちで炸裂し(しかも夜遅くにも)、勝利の美酒に酔った人たちがバーやレストランで大騒ぎする光景がよく見られる。

ちなみに、ブラジル対日本の試合のとき、私はブラジルのユニフォームを着て、すっかり"えせ日系ブラジル人"になりすまし、職場の友人たちと試合を観戦した。しかしこれは、「もしも万が一、日本が勝ったりしたら(日本の監督はジーコで、ブラジルは予選通過が決まっていたので)」、私の顔がどうしても日本人なので、周りの(酔っ払った)ブラジル人から何をされるかわからず、それを避けるための"現実的"な自己防衛策でもあったのである(実際、ブラジルが勝った日、次の試合は日本戦ということで酔っ払いに道端で絡まれたことがあった)。

しかし、「どうせ日本にとっての"奇跡"は起こらないだろう」と決め込み、気分もブラジル人になったつもりでブラジル対日本戦に観戦していたのだが。いざ、試合が始まり、しかも日本が先制点を奪ったりしたものだから・・・。一緒にいたブラジル人の友達のことなど気にせず、一人で大声を張り上げ(やっぱり私は日本人)、かなり周りからひんしゅくを買ってしまった私であった。しかし、終わってみれば、結果は4対1で日本の惨敗。すっかりまた“えせ日系ブラジル人”に戻り、友人たちとブラジルの勝利を祝ったのであった。

今回のCopa。日本は残念な結果に終わり、"史上最強"と言われていたブラジルもまたしかり。不思議なもので、ブラジルがフランスに負けた瞬間、私も呆然と放心状態となり、その日は一日機嫌が悪く、次の日も何か引きずってしまった感じで過ごした。しかし、残念な結果には終わったが、ブラジルにおける"Copa"の意味を、今回肌身で感じることができたように思う。

最後に蛇足ではあるが。残念な結果に終わったにも関わらず、帰国した日本代表を多くの日本の人が温かく迎えた(私がニュース等で見る限り)一方、そこは「サッカーの本場ブラジル」。帰国したセレソンを多くの人が温かくは迎えなかったのである・・・。これも“お国柄”の違いであろうか。今はただ、4年後のCopaを楽しみにして。

今月のブラジル
経済

貿易収支:6月の貿易収支は、輸出額が今年3月の数値を上回る過去最高額US$114.35億(前月比11.3%、前年同月比12.0%増)を記録した。また、輸入額は6月としての過去最高額となるUS$73.53億(前月比1.5%、前年同月比19.1%増)となった。この結果、貿易黒字も6月としての過去最高額となるUS$40.82億(前月比34.8%、前年同月比1.2%)にのぼった。しかし、1月からの累計額(上半期)は、輸出が前年比13.5%増のUS$609.01億となったのに対し、長引くレアル高の影響から、輸入が依然として輸出の伸びを上回る前年比21.6%増のUS$413.60億となったため、貿易黒字(US$195.41億)は5月に引き続き前年比で▲0.6%のマイナスを記録した。ただし、貿易取引額は過去最高となった。

物価:発表された5月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、4月の0.21%から0.11%ポイントと大幅に下がり0.10%となった。この数値は前年同月の0.49%よりも大幅に低く、年初からの累計値も1.75%となり、前年同期の3.18%を大きく下回る結果となった。

今回の物価安定の主な要因として、サトウキビの収穫と商品化が行われた結果、アルコールが前月▲0.11%→▲11.06%と大幅に下落したことが挙げられる。またこの他に、衣料品(前月1.18%→0.90%)、電力(同1.23%→0.24%)、住宅管理・共益費(同1.25%→0.74%)、政府の価格調整による医薬品(同2.03%→1.41%)などの価格上昇が鈍化したことが挙げられている。この結果、非食料品項目全体の物価上昇は、前月0.34%→0.14%へと低下した。また、主要食糧品価格も4ヶ月連続のマイナスとなる▲0.03%を記録したものの、下落幅は4月の▲0.27%よりも小さくなった。これは、鶏肉(前月▲5.93%→8.42%)や牛肉(同▲1.33%→1.17%)の価格上昇が主な要因として挙げられている。

金利:今月は、政策金利であるSelic金利(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは7月の18、19日に開催予定。

為替市場:先月、世界的な株式市場の下落などからレアル安に触れた為替相場であるが、今月は月の後半まではUS$1=R$2.25~2.30での狭いレンジでの取引が続いた。しかし、月の後半になると、米国の利上げ打ち止めが近いとの思惑が広がり、海外市場が落ち着きを取り戻すとともに、今月中に一時275あったブラジルのカントリー・リスクが240まで低下するなど、再び新興国市場への資金流入が活発化した。この結果、月末には今月のレアル最高値となるUS$1=R$2.1635(買値)までレアルが買われ、今月の取引を終えた。

株式市場:今月のサンパウロ株式市場Bovespa指数は、為替市場と同様に先月からの海外市場における混乱から、月の半ばまでは下落傾向が続いた。13日にはニューヨーク株式市場の下落などの影響を受け、昨年12月8日以来の安値となる32,848を記録した。しかし、月の後半はカントリー・リスクの低下などにより、月末には36,631まで値を戻して今月の取引を終えた。

実質所得と失業率:発表された6大都市圏(サンパウロ、リオ、ポルトアレグレ、ベロオリゾンテ、サルバドール、レシーフェ)の5月の実質平均所得(月額)は、前年同月比で7.7%と高い伸びを示した(グラフ1)。この数値は、ブラジル地理統計院(IBGE)が2002年3月以降、現在の方式によって調査を開始した中で最も高い数値となった。また、5月の6大都市圏の失業率は10.2%となり、前月から0.2%ポイント低下した。昨年来、失業率は10%前後で安定的に推移している。

このことは、昨年からの金利の継続的な引き下げと物価の安定などが、労働市場にも好影響を及ぼすとともに、実質所得の増加というかたちで徐々にその結果が現れてきたものといえよう。
グラフ1 6大都市圏の実質平均所得(月額)伸び率の推移:2003年3月以降
(出所)IBGE

VARIG航空危機:1997年にはブラジルの航空市場の約半分(48.2%)を占め、国内最大手の航空会社であったVARIG航空が、総額75億レアルもの負債を抱え瀕死状態に陥っている。昨年6月には新破産法の適用を受け経営再建を目指していたが、今年5月のブラジルの航空市場におけるシェアは14.4%まで低下し、今月に入ると資金繰りに行き詰まりフライトのキャンセルが続出した。

今月8日に同社買収のための競売が開かれたが、買収を希望したのはVARIG航空の従業員組合である「VARIGグループ労働者(TGV:Trabalhadores do Grupo Varig)」のみであり、結局、最終的には買収資金が不足し、同競売は不成立に終わった。その後、VARIG航空の元子会社で航空貨物輸送会社の「VarigLog」が買収に名乗りを上げ、同社がVARIG航空へ当面の運航可能な資金を提供するとともに、7月12日に新たな競売が実施されることになった。次回の競売にはVarigLogの他に「全国製鉄会社(CSN:Companhia Siderúrgica Nacional)」の元社長が参入の意向を表明したとの報道もなされており、ひとまずVARIG航空倒産の可能性は低下したが、依然として同社を取り巻く状況は予断を許さないものだといえよう。

政治

大統領選挙:10月の大統領選挙及び現政権の評価に関する世論調査(IBOPE)で、ルーラ大統領が更に支持率を伸ばすという結果が出た。主要政党の一つであるPMDB(ブラジル民主運動党)が大統領候補者擁立をほぼ断念したことから、選挙戦はルーラ大統領とアルキミン候補(PSDB:ブラジル社会民主党)に絞られた形となった。本調査(下記グラフ)は6月前半に行われたものであるが、3月に比べ、大統領選での投票動向(1回目、決選投票)、政権及び大統領に対する評価ともに、ルーラ大統領と現政権への支持率は上昇している。

ブラジルでもより貧困地域といわれる北東部では、アルキミン候補への支持率が8%であるのに対し、ルーラ大統領へのそれは66%にも達している。また、所得別の支持率に関して、最低賃金(350レアル)10倍以上の高所得者層のみが、ルーラ大統領27%とアルキミン候補36%と、アルキミン候補の支持率が上回っているものの、他の全ての所得階層ではルーラ大統領の支持率の方が高くなっている。特に、最低賃金1倍までの低所得者層における支持率は、ルーラ大統領の60%に対し、アルキミン候補は10%と両者の間に大きな差がある。
グラフ2 大統領選挙の投票動向:第1回目投票(PMDB候補なしの場合)
(出所)IBOPE

グラフ3 大統領選挙の投票動向:決選投票の場合
(出所)IBOPE

グラフ4 ルーラ政権に対する評価の推移
(出所)IBOPE

グラフ5 ルーラ大統領に対する評価の推移
(出所)IBOPE

公式な大統領選挙戦はまだ始まっていないこと(7月6日開始)、また、選挙が近づくにつれ政治的な駆け引きが活発化し、暴露事件などの予測不可能な事態が発生する可能性も否定できないことなどから、現時点での支持率も、今後、様々な内的及び外的要因に影響を受けていくものと思われる。このような予兆を示すものの一つとして、今月の後半に行われた別の世論調査(Data Folha)では、ルーラ大統領とアルキミン候補の支持率の差が縮まったことが挙げられる。これは、以前、サンパウロ州を中心とする地方以外では全くといっていいほど無名だったアルキミン候補のテレビ等への出演機会が増え、同氏の認知度が上がったことが指摘されている。この他にも、憲法が禁止している選挙6ヶ月前の公務員給与引き上げをルーラ大統領が複雑な操作により強行決定したこと、今月末にルーラ政権の農業政策に批判的であったRoberto Rodrigues農業大臣が辞任したことなども、その要因として考えられよう。

このような中、24日、ルーラ大統領は大統領選挙への出馬を正式に発表し、再選された場合、財政のプライマリーサープラス(利払い費を除く財政収支黒字)よりも社会政策を重視する方針を表明した。このことは、ルーラ政権が実施した「家族基金プログラム(Bolsa Família)」をはじめとする社会政策が功を奏し、依然として国民の多くを占める低所得者層の支持率が高まったことに自信を得たものと受け止められよう。また、先月発表された第1四半期GDPの結果が良好であり、中高所得者層の間でも現政権の継続を望む声が高まっており、ルーラ大統領への高支持率は現時点での一つの流れを表すものといえよう。

しかし、 より低所得者層の間で高いルーラ大統領個人の人気は“Lulismo”(ルーラ主義)と呼ばれ、過去や現在のポピュリスト的なラテンアメリカの指導者と比較されるとともに、assistencialismを象徴するものであり、一部にはブラジルの“ベネズエラ化”を危惧する声さえある。また、ルーラ大統領個人の高い人気とは裏腹に、昨年勃発した一連の汚職事件の影響から、所属政党であるPT(労働者党)の政治的基盤は決して強固なものとは言い難い。大統領選挙戦においても、2002年には4つの政党と連携を組んで選挙戦を戦ったが、今年は副大統領候補のJosé Alencarが所属するPRB(ブラジル共和党)とPC do B(ブラジルの共産党)の2政党との連携に止まることになった。ルーラ大統領が再選された場合も、PT及び連立与党だけでは法案成立に必要な議席数は獲得できない見込みであり、議会運営において困難を要するものと予想される。

社会

MST:今月6日、MST(土地なし農民運動)の関連団体であるMLST(Movimento de Libertação dos Sem-Terra:土地なし民解放運動)が、ブラジリアの下院議会の建物の一部を襲撃及び破壊するという、非常に暴力的な事件が発生した。この事件で、578名ものMLST関係者が逮捕されるとともに、議会の警備員24名とMLST関係者2名が負傷し、被害額は15万レアルにものぼるとされる。

今回の事件は、最近、より暴力的になりつつあるMSTの活動を象徴するというだけでなく、Bruno Maralhãoをはじめとする数名のPT幹部によって指揮されたものであったという点において、ブラジル国民に大きな衝撃を与えた。政権党であるPTは、MST関連団体を政治的支持基盤の一つとしており、ルーラ政権は更なる農地改革を推進している。本事件発生直前にも、ルーラ政権は560万レアルもの資金をMLST関連団体(Associação Nacional de Reforma Agrária)に拠出している。

しかし、MSTなどの団体はルーラ政権の農地改革が不十分であると主張し、現在までに度重なる土地占拠や道路封鎖などの直接実力行動を繰り返してきた。そして、今年が大統領選挙の年であることを利用し、これらの行動をより暴力的かつ頻繁に行い、ルーラ政権に圧力をかける手段に出ていると考えられる。最近、支持率を高めているルーラ政権であるが、土地なし農民運動団体への対処を誤ると、これから本格化する大統領選挙に少なからぬ影響が出る可能性も考えられよう。



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