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Oi! do ブラジル—リオデジャネイロから徒然なるままに
2006年5月 ラテンアメリカの中のブラジル

ブラジル現地報告

ブラジル

海外派遣員 近田 亮平
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2006年5月

今月のひとり言—外からブラジルを見てみると

今月のはじめ、ブラジルの隣国ウルグアイを訪れてきた。去年の3月にブラジルに赴任して以来、実は初めてとなる他のラテンアメリカの国訪問であった。ウルグアイの首都モンテビデオに住む友人を訪ね、週末のみのブラジル出国であったが、ブラジルの外に出てみると、自分が研究対処としているブラジルのことがよりよく(“良く”ではないが・・・)見えたとともに、ブラジルをラテンアメリカ全体の動きの中で捉えることができたように思う。

特に今月は、ボリビアが天然ガス国有化を断行したり、ベネズエラのチャベス大統領が南米地域統合やラテンアメリカ諸国への内政干渉とも取れる言動を活発化させたりと、ラテンアメリカ諸国全体に関わる事件等が多かった月であった。このような中、ブラジルはこれら周辺国の動きに翻弄されるとともに、その対応と処理に奔走することとなった。

これらの事件をもとに、最近の動きを簡略かつ風刺的に例えるとすると、次のようになるのかもしれない。「アメリカ小学校・南米学級」の学級委員長としてクラスをまとめようとしていたルーラ。ところが、ルーラの“まとめ方”が、他のクラス・メートにとってはあまり面白くなく感じるようになってきて。そんなクラスの中の不満を察知したのが、以前からクラスのリーダーの座を狙っていたガキ大将チャベス。ルーラはチャベスを仲良しだと思っており、最近まで2人の仲は上手く行っていたのであるが、チャベスは転入生のモラーレス(ボリビア)を仲間に引き入れるとともに、副学級委員長のキルチネル(アルゼンチン)まで手懐け、更にはもうすぐ転校して行くトレド(ペルー)にちょっかいを出し、南米学級のリーダーに伸し上がろうと動き出し。仕舞いには、隣の「特別学級」カストロ学級委員長まで引っ張り出して大はしゃぎ。その一方で、バスケス(ウルグアイ)やドゥアルテ(パラグアイ)はクラスの輪から仲間はずれにされたことにヘソを曲げ、何やら密談。そして、左だったはずのバスケスがアメリカ小学校のブッシュ校長に泣きつくことに。クラスをまとめきれなくなった学級委員長ルーラは、ブッシュ校長と仲が良く、再選が決まったウリベ(コロンビア)にとりあえず接近。こんな最近の南米学級のドタバタを横目に見ながら、優等生のバチェレ(チリ)は一人せっせと勉強に勤しんでいて。

自分の研究対象であるブラジルのことで、まだまだ勉強しなければならないことは山積しているとともに、ブラジル地域研究者としては、同国の情勢や変化について追究していかなければならないことに終わりはないといえる。しかし、これからの残されたブラジル滞在の時間で、できるかぎりブラジルをラテンアメリカ全体、または世界の動きの中で捉えていくこと、そして、その術を学ぶことの必要性と重要性を実感した2006年5月であった。

今月のブラジル
経済

GDP:2006年第1四半期のGDP(暫定値)が発表され、前期比(季節調整済み)は市場の予想を上回る前期比1.4%の成長となった。この要因としては、レアル高の影響で輸入(11.6%)が1996年第4四半期以来の大幅な伸びを記録したこと、輸出(3.9%)が12期連続でプラス成長となったこと、また、投資である総固定資本形成が3.7%の伸びを記録したことに加え、家計消費支出(0.5%)と政府消費支出(1.0%)も順調な伸びを記録したことが挙げられる(グラフ1)。部門別でも、GDPの3つの主要部門である農業(1.1%)、工業(1.7%)、サービス業(0.8%)が、それぞれプラスの成長となった(グラフ2)。
グラフ1 2006年 第1四半期GDP:前期比の内訳別推移
(出所)IBGE

グラフ2 2006年第1四半期GDP:前期比の部門別推移
(出所)IBGE

また、2006年第1四半期GDPは前年同期比でも3.4%の成長となり、昨年半ば以降、景気の調整局面に入ったとの見方がされていたブラジル経済が、再び回復傾向に転じたことを示すものとして多くの市場関係者には受け止められた(グラフ3)。これは、前期比同様に輸入(15.9%)、輸出(9.3%)、総固定資本形成(9.0%)の大幅な伸びが大きな要因となった(グラフ4)。また、部門別にみると、レアル高と天災や口蹄疫、鳥インフルエンザの影響により農業(▲0.5%)が3期連続でマイナス成長となったが、工業(5.0%)とサービス業(2.8%)の好調さが、基本価格に対する付加価値(3.2%)の伸びをもたらす結果となり、全体として3.4%の成長という高い数値につながったといえる(グラフ5)。
グラフ3 四半期GDPの前年同期比の推移:2003年~
(出所)IBGE

グラフ4 2006年 第1四半期GDP:前年同期比の内訳別推移
(出所)IBGE

グラフ5 2006年 第1四半期GDP:前年同期比の部門別推移
(出所)IBGE

今回の第1四半期GDPの好調な数値は、8期連続で引き下げられた金利(Selic)が最も大きな要因であることは明らかである。政府はこのGDPの結果を国民に対して積極的にアピールしており、農業生産者からの激しい政府批判はあるものの(社会欄参照)、大統領選を前にルーラ大統領が依然として高い支持率を得ている要因のひとつになっているといえよう。

貿易収支:5月の貿易収支は、輸出入ともに5月としての過去最高額を記録し、輸出額がUS$102.75億(前月比4.8%、前年同月比4.7%増)、輸入額はUS$72.47億(前月比8.1%、前年同月比13.7%増)となった。しかし、為替市場における長期のレアル高の影響により輸入額が増加したため、貿易黒字(US$30.28億)は4月に引き続き、前月比▲2.2%、前年同月比▲12.1%とともにマイナスとなった。また、1月からの累計額は、輸出が前年比13.8%増のUS$494.66億となったのに対し、輸入が輸出の伸びを上回る前年比22.1%増のUS$340.02億となったため、貿易黒字(US$154.64億)は今年初めて前年比で▲1.0%のマイナスを記録した。

物価:発表された4月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、3月の0.43%から0.22%ポイントと大幅に下がり0.21%となった。この数値は前年同月の0.87%よりも低く、今年1月からの数値も1.65%となり、前年同期の2.68%を大きく下回る結果となった。

今回の物価安定の主な要因として、ガソリンが3月の2.78%→4月の▲0.09%、アルコールが同じく12.85%→▲0.11%へと大幅に下落したこと、また、テレビなどのAV製品(▲1.26%)、家電製品(▲1.06%)、長距離バス運賃(▲1.67%)などが値下がりしたことが挙げられている。この結果、非食料品項目全体で3月に1.14%上昇した物価は、4月は0.34%の上昇にとどまった。また、世界的な鳥インフルエンザの影響から鶏肉価格が引き続き下落していることもあり、4月の主要食糧品価格も3ヶ月連続のマイナスとなる▲0.27%を記録し、物価の安定に寄与するかたちとなった。

金利:また、今月31日に終了したCopom(通貨政策委員会)において、Selic金利(短期金利誘導目標)が8期連続で引き下げられ、15.75%→15.25%となった。最近の世界的な株式市場における混乱などの外的要因から、今回の引き下げ幅は、前回まで3回連続して実施された0.75%ポイントよりも小さい0.50%ポイントに止まった。しかしながら、15.25%という金利自体は、1999年にCopomが現在のシステムを採用して以来、2001年1月及び2月と同様に最も低いものとなった。

為替市場:今月の為替相場は、月の前半はドル安レアル高の傾向が続き、10日には2001年3月12日に次ぐレアル高となるUS$1=R$2.0578(買値)を記録した。しかし、月の半ばから米国のインフレ懸念の高まりなどによる世界的な株式市場の下落とともに、リスクの高い新興国から資金を引き上げる動きが強まり、レアルは大幅に売られる展開となった。24日には昨年の12月19日に次ぐレアル安となるUS$1=R$2.3711(売値)を記録し、その後、不安定となった世界の市場の動きに影響を受け、乱高下を繰り返すかたちで今月の取引を終えた。

株式市場:先月まで史上最高値を更新し続けてきたサンパウロ株式市場Bovespa指数であるが、新興国市場をはじめとする世界的な株式市場の下落の影響を受け、今月は大きく値を下げる展開となった。好調であった月の前半の9日に史上最高値となる41,979を記録した後は、一時株式は一方的に売られ、月の後半に若干値を戻す場面も見られたが、月末には36,530まで値を下げて今月の取引を終えた。

政治

ボリビア・ガス国有化:メーデーである5月1日に、ボリビアのモラーレス大統領は、公約であった天然ガス及び原油採掘プラントの国有化を突如宣言した。今回のボリビアの一方的な天然ガス国有化は、ベネズエラのチャベス大統領の後押しのもとに断行されたものといわれている。ボリビアの天然ガスの主要輸入国であるブラジルのルーラ大統領及びアルゼンチンのキルチネル大統領は、急遽、モラーレス大統領及びチャベス大統領と4カ国首脳会談を開催した。同会議において、ボリビアは輸出価格の値上げを条件に今後も天然ガスの供給を行うことを約束し、ルーラ大統領も「ボリビアの主権を尊重する」との声明を発表した。しかし、ブラジルのペトロブラス(ブラジル石油公社)がボリビア国内に有する既得権益のあり方、天然ガス国有化に際する賠償問題、及び今後の天然ガスの価格などについてのコンセンサスは得られず、具体的な内容は全て今後の交渉課題として先送りにされた。

その後、11日からウィーンで開催されたEU・中南米首脳会議の際に、モラーレス大統領は「ペトロブラスをはじめとする外国企業はボリビア国内で違憲行為を行っており、このような外国企業との契約書は無効であるとともに、天然ガス国有化に際しての賠償には応じられない」との発言を行い、ブラジル側を憤慨させた。しかし、次の日になり、「この発言はマスコミ側が過剰に反応し勝手に解釈したものであり、そのような発言は行っていない」との修正発言を行っており、前日の発言はブラジル側を牽制するという政治的な意図の強いものであったと考えられる。このような強硬的な姿勢のボリビア政府に対し、ブラジル政府は両国首脳会談やアモリン外相のボリビア派遣などを通した、対話による穏便な問題解決の道を探っている。しかし、政府のこのような温和路線に対しては、ペトロブラスをはじめとする政財界や国民の間で批判的な意見もかなり強いとともに、ブラジルとボリビアの両国関係は、今回の天然ガス国有化により一気に悪化したといわざるを得ない状況となった。

現在のブラジルにおける天然ガス消費量は約5000万m3といわれ、そのうちの約2600万m3をボリビアからの輸入に依存している。そして、同国から輸入される天然ガスは全て、ブラジル経済の経済先進地域である南部、南東部、中西部へと供給されている。今回のような外的要因による天然ガス供給問題に対処すべく、ブラジル政府は国内天然ガスの開発ペースをより速め、2008年までに天然ガスの自給率100%達成を目指すると発表しているが、実現可能性については疑問の余地が残るといえよう。

南米地域統合:今回のボリビアの天然ガス国有化問題を発端に、南米における地域統合の動きに一つの変化が見られたといえよう。つまり、今まで主にブラジル主導で進められてきた南米の地域統合が、ベネズエラ主導、というよりもチャベス大統領個人の強力な政治手腕とイニシアティブによって進められるようになってきたといえよう。

昨年12月にベネズエラのメルコスルへの正式加盟が決定した一方で、チャベス大統領はアンデス共同体(CAN)からの脱退を表明している。また、米国主導のFTAAに対抗してチャベス大統領が提唱している「米州ボリーバル代替構想(ALBA)」を実現すべく、今月、その前提となる「人民貿易協定(TCP)」をキューバとボリビアとの間で締結した。また、ペルーやメキシコ、ニカラグアといったラテンアメリカ諸国における選挙に際し、内政干渉とも取れる発言を繰り返す一方で、南米の地域大国ブラジルに対しては、主に資源分野での協力関係を深めている。また、このようなチャベス大統領の動きが活発化する一方で、左派政権であるウルグアイが、ボリビアの天然ガス国有化や南米ガス・パイプライン計画などから除外されたことに反発し、二国間協定を提唱しつつ米国に接近し、メルコスル脱退をほのめかすといった動きを見せている。

ルーラ政権は、今までの南米地域統合においてリーダー・シップを発揮し、国連の常任理事国入りを目指し途上国重視の独自外交路線を展開してきた。しかし、ここにきて、特に南米地域統合においては、チャベス大統領に政治的な主導権を握られてしまった感があることは否めないであろう。

議員権剥奪審議:引き続き今月も、PT(労働者党)による議員買収及び不正選挙資金事件に関与していたとされる下院議員の議員権剥奪の可否投票が行われた。しかし、結果は予想通り、Vadão Gomes(PP:進歩党)が議員権剥奪を免れることになった。この結果、汚職疑惑議員19名のうち、現在までに議員権を剥奪された者が3名、辞職した者が4名、審議待ちの者が1名であり、免罪となった者が11名にものぼるという結果となった。このことは、汚職事件を調査する倫理委員会の存在意義、議員権剥奪可否の採決を下す下院本会議での投票のあり方などに対し、国民の不信感と疑念を一層高めることになったといえる。

社会

サンパウロ暴動:今月12日(金)夜からほぼ1週間にわたり、サンパウロ州を中心に犯罪組織「首都第一コマンド」(PCC:Primeiro Comando da Capital)による大規模な組織的犯罪活動が発生し、サンパウロ市民をはじめブラジル国民を震撼させる事態となった。PCCによる犯罪行為は、警察や公的機関への襲撃や焼き討ち、刑務所内での暴動だけでなく、市内バスへの放火、銀行や地下鉄の駅などへの襲撃など、市民生活に身近なところでも多数発生し、多くの死傷者を出すに至った。また、サンパウロの国内空港にも爆弾が投下されるとの情報が入り、空港が一時閉鎖される事態となった。

22日のエスタード(O Estado de São Paulo)紙によると、今回のPCCによる一連の犯罪行為による死者数は、合計で166人にのぼった。この中には4名の一般市民が含まれるとともに、111名もが犯罪容疑のまま射殺されており、事件終息後、警察側の判断に対する批判が高まる原因となった。また、襲撃などの犯罪事件は合計で299件、逮捕者は125名、押収された武器は149器にのぼったとされる。この組織的犯罪事件勃発により、週明けのサンパウロ市は都市機能がほぼ全面的にストップするという麻痺状態に陥った。企業や商店、学校などは閉鎖したところが多く、市内バスが普段の30%しか運行されないなど公共交通機関も大幅に乱れたため、市内の道路は100キロを大幅に超える記録的な大渋滞となった。

また、主に刑務所での暴動はサンパウロ州だけにとどまらず、隣接する南マット・グロッソ州やパラナ州でも組織的に発生し、刑務所職員が人質になるなど、多くの死傷者を出す事態となった。これらの暴動は、「人権無視」として国際機関などから告発されるまでに至っているブラジル国内の刑務所の劣悪な環境が、その要因として指摘されている。

近年、サンパウロにおける一般犯罪の件数は減少傾向にあるとされる。しかし、過去最大かつ最悪といわれる今回の組織的犯罪事件の発生は、ブラジル社会に依然として根深く存続する治安問題と貧困という病理を、多くの国民に痛烈に再認識させるに十分であったといえよう。ブラジル経済の中心であるサンパウロが無法状態と化したという事実を目の当たりにし、残念ではあるが、これも多くのブラジルの現実の一つなのだと認識せざるを得ないであろう。

農業生産者の抗議運動:為替市場での長期にわたるドル安レアル高により大きな打撃をこうむっている輸出向け農業生産者が、現在の政府の農業及び為替政策に抗議するため、トラクターによる主要幹線道路や鉄道の封鎖などの直接行動を各地で展開した。また、農業を主な産業とする州知事や市長などがブラジリアの連邦政府を訪れ、同様の内容の陳情及び抗議運動を行った。

これに対し連邦政府は、755億レアルにのぼる農業生産者への緊急融資や既存債務の再調整などを含む対策を発表したものの、農業生産者や農業組合はこれを不十分とし、依然として抗議行動を継続する意向を表明している。なお、現在のブラジルの農業については、『ラテンアメリカ・レポート』Vol.23、No.1の拙稿「ブラジルにおける内陸部の農業開発の歴史と現状—南マット・グロッソ州ドウラードスの大規模農業—」を参照されたし。



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