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Oi! do ブラジル—リオデジャネイロから徒然なるままに
2006年4月 Valeu a Pena!

ブラジル現地報告

ブラジル

海外派遣員 近田 亮平
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2006年4月

今月のひとり言—“やっぱりブラジル・・・”的ブラジル

今月の「Oi! do Brasil」のサブ・タイトルである「Valeu a Pena」とは、ポルトガル語で「・・・の価値があった」という意味である。では、“何の”「価値があった」のか。それは、先月から今月半ばにかけて、ブラジルに関する統計データを取り扱っている政府機関IBGE(ブラジル地理統計院)が開催するCDHP(調査能力開発講座)に参加したことである。そして、この講座への参加を通して、現在のブラジルが今後より発展するためには、何を改善しなければならないのかを身を持って学べたことである。

当講座は、カナダの統計局が開発したSurvey Skills Development Courseに基づき、実践を取り入れた上で6週間行われる短期集中講座で、毎年2、3回開催されている。今回の開催は18回目であり、対象者はIBGEの職員を中心に公募で選ばれた社会人28名で、2名のアフリカ(アンゴラ及びモサンビーク)からの参加者もあった。講座の内容は、実際の調査依頼者から与えられた調査課題を実施することにより、統計学的技法に基づく調査方法を学習するというもの。今年の調査課題は「リオデジャネイロ州カンポス・ドス・ゴイタカゼス市における住宅問題調査」であり、実際に同市でのデータ収集を中心とした6日間のフィールド調査が含まれていた。

何が「Valeu a Pena」だったのかを、主にフィールド調査における経験からまとめると次のようになる。まずは主な良い面として、ブラジルの統計データを一括して収集、分析、管理している政府機関の調査に参加でき、ブラジル政府がどういう調査に基づいて統計データを発表しているかを実体験に基づいてわかったこと。今回の調査は住宅事情に関する調査だったので、私自身の調査とも関連しており、今後の私の調査に活用できること。今回の調査は無作為抽出サンプル調査であるため、実際にブラジル人の家庭を訪問することで一般的なブラジル人の生活レベルを知ることができたこと。一言に“ブラジル人”と言っても、様々な人がいることがわかったこと、等等である。

しかし、今回、何が一番「Valeu a Pena」だったのか。それは、「ブラジルが何故なかなか発展しないのか」という理由を身をもって知ることができたことである。それを2つの言葉に要約すると「非生産性」と「非効率性」。 詳細を全て書くことはできないが、とにかく今回のフィールド調査は「非生産的」かつ「非効率」なものに感じられてしまった。

まずは、くじ引きで与えられた調査範囲が非常に広いがために、朝から夕方までひたすら歩き詰めで調査をし、夜遅くまで収集したデータの整理に追われる人がいる一方、割り当てられた調査の範囲が狭いため早々に調査を切り上げ、昼前にはホテルに戻って休んだり夜遅くまで飲んで騒いでいたりする人がいて。私の考えでは、自分の与えられた仕事が早く終了した人がいるのなら、まだ終了していない人のところにヘルプに行けば、調査全体の効率は上がるし、より生産的なはずなのに、と思えてしまい。

また、前日に夜遅くまで外出していた人たちの影響で、次の日に調査へ出かける時間が遅くなることも。そして、当然、調査の開始時間が遅れたことで家庭訪問する時間も遅れてしまい、インタビュー調査を行いたくも、対象の家庭に到着したときには仕事などで既に外出した後で誰も家にはいないということがしばしばあり。このような非効率な実施形態のため、日が暮れる夜9時頃まで調査を行ったり、他の参加者がまだ寝ていたり朝食をとっている中、割り当てられた作業が終了しない参加者は調査に出かけざるを得ないなど、非生産的な事態となり。

しかしながら、調査に出向いている参加者に対して講座の責任者が出した指示とは、「今日の調査は終了したことにして、次の段階に進め」というもの。「これではこの調査の結果は、事実と異なってしまうのではないか?」と思ってしまった私。また、今回のフィールド調査は5泊6日の予定で、事前に言われていたのは、「調査の進捗状況によって、最終日はリオへの移動だけにできるかもしれない」ということ。しかし、いざ実際に調査地に着てみると、責任者達はやたら調査を急がせていて。そして、その理由が、実は打ち上げの「バーベキュー・パーティー」をやるためであることがわかり。やるべき仕事である調査は中途半端で切り上げ、最終日の前日の昼過ぎからバーベキュー・パーティーをして、最終日はその疲れを取るために朝ゆっくり起きるというもの。「これで本当にいいのだろうか?」。

この他にも、「非生産的」かつ「非効率」な出来事が次から次へと起こり。私としては理解し難い疑問が募っていく一方で、モチベーションはどんどん低下してしまい。政府の機関でこれだから、または、政府の機関“だから”これなのか。国民の税金を使って、調査は適当に済ませ、バーベキュー・パーティーで盛り上がる。これだから、ブラジルはいつまでたっても“途上国”から抜け出せないのではないかと思わざるを得なく。

たまりかねた私が調査の責任者に私の意見を述べたところ、「その通りです」とあっさり納得しいて。「だったら良くない点は改善すべきではないのですか?!」と思ったが、部外者であり外国人の私は、そこまで踏み込む立場にもないかと思い、その場を引き揚げ。今回の講座は初めてとか2回、3回目というわけではなく、18回目の開催。「もう少し過去の経験から学ぶことはできないのだろうか?」と思わざるを得ず。

しかし、このように思ったのは私だけではなく、フィールド調査に参加したブラジル人の何人かも同じ意見を持っていて。「同じブラジル人でも信じられない。リオの人はフェスタ(パーティー・宴会)しか考えてないからダメだ!」と不満を述べていて。こういう人たちはブラジル人でもリオの人ではなく、今回の講座に参加するためにブラジルの他の地方から来た人がほとんど。ブラジル人にもいろいろな人がいるし、リオの人は本当に一般の人、特に外国人がイメージする陽気でフェスタ好きな“ブラジル人”の典型なのかもしれないと感じ。

最近のブラジルは、いろいろな意味でラテンアメリカにおいて地域大国化しつつあるのであるが、今回の講座及びフィールド調査を通して、私が実感したブラジルの“現実”とは、残念ながらブラジルは、「これではいつまでたっても先進国には絶対なれない中途半端な“途上国”」というものだと言わざるを得ないのであった。

今月のブラジル
経済

貿易収支:4月の貿易収支は営業日が18日と少なかったため、輸出入ともに前月比ではマイナスとなったものの、一営業日あたりの取引額がともに過去最高を記録したことから、前年同月比は上回る数値となった。しかし、為替市場におけるレアル高の影響から輸入額が増加したため、貿易黒字額(US$30.97億)は前月比▲15.8%、前年同月比▲4.9%とともに減少した。輸出額はUS$98.04億(前月比▲15.7%、前年同月比23.5%増)、輸入額はUS$67.07億(前月比▲12.7%、前年同月比44.1%増)となった。また、1月からの累計額は、輸出がUS$391.91億(前年比16.5%増)、輸入がUS$267.53億(前年比24.6%増)、貿易黒字がUS$124.38億(前年比2.2%増)となった。

物価:発表された3月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、2月の0.41%から0.02%ポイント下がり0.43%となった。この数値は前年同月の0.64%よりも低く、今年1月からの数値も1.44%となり、前年同期の1.79%を依然として下回っている。

3月はガソリン(2.78%)やアルコール(12.85%)などの燃料価格が上がったことから、輸送費(1.13%)の上昇が見られたほか、ガス(1.22%)や住居費(0.58%)なども値上がりし、非食料品項目全体で1.14%の物価上昇となった。しかし、主要食糧品価格が2月の▲0.28%に引き続き、3月も▲0.24%とマイナスを記録したことが物価の安定につながった。特に、世界的な鳥インフルエンザの影響を受け、輸出用の鶏肉が国内市場へと回されていることから、鶏肉の価格が昨年12月比で▲19.98%と大幅に下落していることが大きな要因となっている。

金利:今月19日に開かれたSelic金利(短期金利誘導目標)を決めるCopom(通貨政策委員会)において、Selicが7ヶ月連続で引き下げられ、16.50%→15.75%となった(グラフ1)。引き下げ幅に関して、経済界などではより大幅なものを期待する声もあったが、前月同様0.75%という概ね市場が予測していた引き下げ幅となった。
グラフ1 Selic金利の推移:2003年以降
(出所)ブラジル中央銀行

為替市場:今月の為替相場は、月末まではUS$1 = R$2.1を若干上回るレベルで安定的に推移した。しかし、米国の利上げ休止観測が高まったこともあり、月末の28日には5年ぶりにUS$1 = R$2.1を割り込み、2001年3月15日に次ぐUS$1 = R$2.0884(買値)までドルが売られ、今月の取引を終えた。

株式市場:今月のサンパウロ株式市場Bovespa指数は、特に月の半ば以降、好調な取引となった。この要因としては、Selic金利の更なる引き下げ、石油の自給率達成など、ブラジル経済の先行きに対する楽観的な見方が強まったことが挙げられる。そして、26日には初めて4万ポイントを突破する40,401ポイントの史上最高値を記録し、そのままのレベルで今月の取引を終えた(グラフ2)。
グラフ2 サンパウロ株式市場(Bovespa指数)の推移:2005年7月~
(出所)サンパウロ株式市場

石油自給率:今月21日、Petrobras(ブラジル石油公社)の新たな海底石油採掘施設(リオ州沖)の操業開始により、ブラジルは念願であった石油の自給率100%を達成するにいたった。この歴史的な瞬間を祝うべく、ルーラ大統領も臨席し記念式典が行われた。現在のブラジル国内の石油消費量は1日当たり185万バレルとされ、今後、国内の石油産出量がこの消費量を上回ることになる。そして、2010年には国内の1日当たりの石油消費量が約218万バレルであるのに対し、約240万バレルの産出量が見込まれている。

しかし、今回の石油自給率100%達成は、決してブラジルが独自で国内の石油価格を決定できることを意味してはいない。ブラジル国内におけるガソリンをはじめとする石油関連商品の値段は、ブラジル経済が世界経済に開放されている限り、世界の市場における石油価格の変動とリンクせざるを得ない。しかし、石油の自給確保により、今後ブラジルは国内のガソリンなどの価格安定や石油の輸入依存体制の軽減、更には石油関連商品の輸出増加を期待することができる。したがって、経済をはじめとする世界情勢の変動に対する脆弱性を低め、より安定的かつ自律した経済成長を実現できる可能性が高まったといえよう。

南米ガス・パイプライン:天然ガス産出国であるベネズエラからブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンへと天然ガスを供給するガス・パイプライン建設計画が、サンパウロにおいて開催されたルーラ大統領、ベネズエラのチャベス大統領、アルゼンチンのキシュネル大統領による3カ国首脳会談後に発表された。パイプラインが完成すれば全長9,283kmにも及び、建設費は約U$250億で、6年以内の完成を目指す一大プロジェクトである。チャベス大統領をはじめ、当プロジェクトへのボリビアの参加を強く呼びかけているが、現在のところボリビア政府は否定的な見解を表明している。

政治

PT汚職疑惑報告書:今月5日、PT(労働者党)による郵便公社汚職疑惑を調査するCPI(議会調査委員会)の最終報告書が、245日もの調査の末ついに承認された。この最終報告書は、ジルセウ元文民官やグシケン元情報戦略局長をはじめ、PTの元幹部や汚職事件に関与したされる109人もの疑惑についての調査結果を報告するものである。本最終報告書が承認されたことにより、今までの疑惑が“事実”であり、PTによる議員買収疑惑に関するスキームが公式に認められることになった。今後、本報告書をもとに各容疑についての法的な審議等が進められ、本報告書で告発された者への処罰が決定していくものと思われる。なお、PTはじめ政府与党側は、本報告書の承認を何とか阻止しようと激しい抵抗を試みたが、賛成17に対して反対4という大差で承認されることとなった。また、本報告書は、ルーラ大統領自身の汚職事件への関与については証拠不十分として事実は認めていないが、事件の存在を認知していたとしている。したがって、今後、ルーラ大統領への批判及び事件への関与の追及が再び高まることが予測されるだけでなく、大統領選挙へも影響を与えるものと考えられる。

議員権剥奪審議:今月もまた、PTによる議員買収及び不正選挙資金事件に関与していたとされる下院議員の議員権剥奪の可否投票が行われ、Joao Paulo Cunha、 Jose Mentor(ともにPT)が議員権剥奪を免れることになった。この結果、汚職疑惑議員19名のうち、現在までに議員権を剥奪されたのが3名、辞職したのが4名、免罪となったのが9名となり、議員権剥奪可否の審議待ちは残すところ3名のみとなった。

このように免罪議員が続出している要因のひとつとして、議員権剥奪の可否投票が秘密投票であることが指摘されている。つまり、投票する議員名と自らの判断結果が公にされないため、政治家個人または政党としての利害関係をもとにした疑惑議員“救済”が可能になってしまっているとされる。したがって、今回のJose Mentor議員に対する投票において、一部の野党議員は投票前に自らの投票用紙を自主的に開示する行動に出た。しかし、結果は更なる免罪議員の輩出となり、国民の政治不信感はより高まりつつあると言えよう。

社会

MST:今月もMST(土地なし農民運動)関連団体による土地占拠や道路封鎖といった活動が、ブラジル各地で活発に行われた。しかし、一部のMSTの活動が地主や政府に対する土地要求行動という社会運動本来の枠を逸脱し、特定施設の破壊や道路封鎖で止めたトラックからの物品略奪など、死傷者が出るまでにより暴力的かつ犯罪的なものへとエスカレートしてきている。また、これらの活動に参加しないメンバーに対し、内部で報復が行われていることも明らかになるとともに、今月にはMST関連団体のリーダー数名が逮捕される事態となった。

このようなMST関連団体の活動に対し、マスメディアや国民の中で批判的な声が高まってきている。しかし、その一方で、大統領選挙を控えた関係からか、ルーラ大統領はMSTの活動に対し好意的な声明を発表しており、このような大統領の姿勢を疑問視する意見も見られている。

リオの治安問題:リオの治安問題に関しては、先月、麻薬組織が巣窟するファヴェーラ(土地不法占拠居住区)での軍隊による一大掃討作戦が展開されたが、今月は一般市民により身近な場所で犯罪や事件が発生した。その中の一つに、世界的にも有名なコパカバーナ地区での麻薬組織と警察との銃撃戦がある。リオのファヴェーラは地形との関係から、居住環境の良くない急斜面の丘に形成されるケースが多く、このようなファヴェーラ化した丘(リオでは“丘”イコール“ファヴェーラ”を意味することが多い)はリオ市内のいたるところに存在する。したがって、今回のようなコパカバーナ地区のような場所での銃撃戦も非日常的なことであるとはいえない。

しかしそれでも、今回の銃撃戦はリオに散在するファヴェーラと関連した「治安の悪さ」だったのであるが、今月、ファヴェーラとは関係のない一般市民を巻き込んだ犯罪が発生した。事件の場所は同じくコパカバーナ地区であるが、前述の銃撃戦とは異なり、コパカバーナ・ビーチに面した高級マンションが事件の出発点となった。今月6日の夕方、拳銃を持った強盗がその高級マンションに押し入り、通報を受けて駆けつけた警察との間で銃撃戦となった。その際に、まず警官一人が頭に銃弾を被弾。その後、逃走した強盗と警察との銃撃戦は続き、近くのレストランで食事をしていた一般市民が犠牲となり。さらに、隣接している学校に流れ弾が着弾し、学校はパニック状態へと陥り。最終的には、強盗を含む2名もの死者と5名もの負傷者を出し事件は終了することとなった。

この報告書で毎回お伝えすることはできないが、残念ながらリオ市内や隣接する市(ムニシピオ)のファヴェーラ及び低所得者層居住区では、日常茶飯事のように多くの犯罪や事件が起きており、連日、現地の新聞でこのようなニュースが報道されている。しかるべき場所と時間を守っていれば、滅多に身の危険を感じことがないのもリオの“現実”であるが、特定の場所と時間において身の危険を感じることが頻発しているのもリオの“現実”といえよう。


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