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Oi! do ブラジル—リオデジャネイロから徒然なるままに
2006年3月 もちろん全くの途上国ではないけれど

ブラジル現地報告

ブラジル

海外派遣員 近田 亮平
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2006年3月

今月のひとり言—“やっぱりブラジル・・・”的ブラジル

インフレが終息した1990年代半ば以降、特にここ数年のブラジルは概ね政治経済が安定したといえる。現地の総合雑誌『Veja』(ブラジル版『Time』『Newsweek』といったところ)も、去年、「“未来の大国”と言われていたブラジルの“未来”が到来した」という特集を組んでブラジルの成長振りを称えた。

経済に関しては、好調な輸出をもとにした貿易黒字の伸び、強い通貨レアル、史上最高値を更新し続ける株式市場、IMF融資の完済など、GDPは低い伸びに留まっているものの、その安定度は今までにないものといえよう。また、政治においても、去年発覚した数々の汚職事件などの問題や、今月のパロッシ大蔵大臣辞任(後述)といったショッキングなニュースはあるものの、文民統制が確立され、ベネズエラのチャベス大統領のような独裁政権が誕生する可能性も非常に低く、制度的には民主主義が定着してきたといえよう。外交でも独自路線を打ち出すとともに、国連の常任理事国入りを目指すなど地域大国化の道を歩んでいる。更に、社会においても、世界社会フォーラムの開催や市民参加型政策の実施に見られるように一般市民による諸活動も活発であり、近年、社会における不平等の是正が進んでいるとの調査結果も発表された。

このような要素をもとに、最近、楽観的なブラジル像を抱いていた私であったが、今月は頭から冷水を浴びさせられるような出来事が続発した。まずは、政治欄でまとめた汚職疑惑下院議員の議員権剥奪問題である。国民の政治に対する信頼をあそこまで失墜させたにも関わらず、明らかに収賄の罪を犯した議員が免罪となること自体、摩訶不思議であるが、更に私にとって理解し難かったのは、罪を免れた議員が免罪の直後に、マスコミの前で家族や関係者とともに“フェスタ”を開きシャンパンで“祝杯”を挙げるという、日本ではありえない光景をお披露目していたことである。民主主義の制度という“箱”は一応できあがったものの、その “中身” がまだまだ箱と相応したものになっていないブラジル政治の現実を見せつけられた感じである。

また、社会の欄でまとめたリオのファヴェーラ(不法土地占拠スラム街)の麻薬組織に対する軍隊の大規模掃討作戦や、MST(土地なし農民運動)による暴力的な土地占拠行動も勃発した。戦争でもないのに一国の第2位の都市を戦車が走り回るという光景は、やはり正常な状況とはとても言えるものではなかろう。もし、大阪やロサンゼルスの街中でこのような事態が起きたのであれば、まさに世紀の一大ニュースになるであろうし、市民は大パニックに陥るであろう。しかし、軍隊が出動したファヴェーラなどの一部の地域を除き、リオの市民と街は通常通りの日常を送っているのである。MSTに関しては、警察や地主などの武力抗争にまで発展する場合が多々あり、過去3年間で72人もの死者が出ている(出所:O Globo紙)。

政治、経済、社会的な重要性からして、ブラジルはもちろん全くの途上国ではないし、昨年10月の「今月のひとり言」で書いたように、長い目で見るとブラジルが進んでいる方向性は間違っていないと思われる。私の受入機関であるIPEAのPaes de Barros氏も、ブラジルの労働市場における不平等は2001年から改善傾向にあると述べている。しかし、同氏の研究によると、このブラジルの不平等が世界の平均に達するためには、現在のトレンドを今後20年間継続しなければならないそうであり、今月起きたいくつかの出来事を見る限り、「“やっぱりブラジル・・・”的なブラジル」から脱却するにはまだまだ時間がかかりそう、というのが、今のブラジルの等身大の姿なのかもしれない。

今月のブラジル
経済

貿易収支:3月の貿易収支は、営業日が23日と多かったことから、輸出額がUS$113.67億(前月比29.9%、前年同月比22.9%増)となり、2005年8月のUS$113.46億を上回る過去最高額を記録した。一方の輸入額も、前月同様、為替市場におけるレアル高の影響により、前年同月比の増加率が輸出額のそれを上回るとともに、過去最高額であった2005年8月のUS$ 76.89億に次ぐUS$76.86億(前月比29.6%、前年同月比30.1%増)に上った。また、貿易黒字額も3月としては過去最高額となるUS$36.81億(前月比30.5%、前年同月比10.1%増)となった。この結果、輸出入を合わせた貿易取引額が、2005年8月のUS$190.35億を上回る過去最高額となるUS$190.53億を記録した。また、1月からの累計額は、輸出がUS$293.88億(前年比20.2%増)、輸入がUS$200.42億(前年比24.1%増)、貿易黒字がUS$93.46億(前年比12.5%増)となり、貿易に関しては依然として好調を維持していることを表すものとなった。

物価:発表された2月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、1月の0.59%から0.18%ポイント下がり0.41%となった。この数値は前年同月の0.59%よりも低く、今年1月からの数値も1.00%となり、前年同期の1.17%を下回った。

2月は学校の新学期開始に伴い教育費が大幅に上昇(4.44%)したほかは、特に目立った物価上昇は見られず、逆に衣料品価格が▲0.54%、家具・家電製品価格が▲0.39%、主要食糧品価格が▲0.28%と前月比でマイナスを記録したことが、物価の安定につながった。また、今月8日に開かれたSelic金利(短期金利誘導目標)を決めるCopom(通貨政策委員会)において、Selicが6ヶ月連続で引き下げられ、17.25%→16.50%となった。0.75%の引き下げ幅は、市場が予測していた前月同様の数値であった。しかし、9人のCopom委員のうち3人が1.00%の引き下げを主張するなど、先月発表されたGDPの低い成長率などで更に高まった高金利政策への批判の影響が出ており、今後しばらくは更なる金利引き下げが続くものと思われる。

為替市場:為替相場は、今月前半は昨年来のドル安レアル高傾向を引き継ぎ、16日にはUS$1=R$2.1(買値)を割り込んだ2001年3月21日に次ぐ、US$1=R$2.1059(買値)まで一時レアル高が進んだ。しかしその後、中央銀行のドル買いなどにより今までのレアル高傾向に若干の歯止めが掛かる中、パロッシ大蔵大臣辞任の報が伝わると、28日にはUS$1=R$2.2238(売値)までレアル売りが進行した。その後は月末に向け再びレアルが値を戻す展開となり、US$1=R$2.1716(買値)で今月の取引を終えた(グラフ1)。
グラフ1 レアルの対ドル為替レートの推移:2006年
(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:サンパウロ株式市場のBovespa指数は、パロッシ大蔵大臣の汚職疑惑が再燃したこともあり、今月は軟調に推移した。そして、パロッシ大蔵大臣の辞任決定後、今後の先行きに対する不安を反映するかたちで、2日には過去最も低い217にまで低下していたカントリー・リスクが241にまで上昇するとともに、株式も売られる展開となった。そして、月末終値では昨年10月(▲4.4%)以来の前月比マイナスとなる▲1.7%を記録して今月の取引を終えた。

政治

パロッシ大蔵大臣辞任:昨年から汚職疑惑が取りざたされていたパロッシ大蔵大臣が、今月ついに辞任に追い込まれることとなった。昨年持ち上がった同大臣の汚職疑惑とは、サンパウロ州のRibeirao Preto市長時代の自らの汚職疑惑とPT(労働者党)による一連の汚職疑惑への関与に関するものであった。一時、同大臣の辞任を要求する声が高まったものの、ルーラ大統領をはじめとする強力な支援により、昨年はこの危機を脱することができた。

しかし、PTによる汚職疑惑等の秘密会議が行われたとされる別荘にパロッシ大臣もいたことを、別荘の管理人が暴露したことにより、同大臣への汚職疑惑と辞任要求が再燃した。パロッシ大臣は公の場でこの疑惑を否定。しかし、月給が700レアルである別荘管理人の連邦貯蓄銀行(CEF)の口座に25,000レアルもの大金が振り込まれたことを、同大臣の政敵が、別荘管理人が虚偽の発言を行うために支払った報酬と思い、その出所を突き止めるべくMattoso CEF総裁に指示し、管理人の口座明細を許可なしに入手していたという違法行為を行っていたことが明らかとなった。結局、パロッシ大臣はこの事実を認め、ルーラ政権発足以来務めてきた大蔵大臣の座から去ることとなった。今後、パロッシの汚職疑惑解明のための調査及び審議が行われる予定である。

なお、新しい大蔵大臣には、社会経済開発銀行(BNDES)総裁のMantegaが就任することになった。パロッシの辞任により、一時マーケットはネガティヴな反応を示したものの、Mantegaが金利低下をベースにした経済成長主義者と目されていることから、今後の更なる経済成長への期待感もあり、その後、マーケットは平静を取り戻した。しかし、ルーラ大統領は政権の両腕であったジルセウに続きパロッシをも失うこととなり、今後の政権運営及び大統領選挙に向け、苦しい状況に追い込まれたと言わざるを得ないであろう。

議員権剥奪審議:PTによる議員買収及び不正選挙資金事件に関与していたとされる下院議員の議員権剥奪の可否投票が行われ、Pedro Correa(PP:自由党)が議員権を剥奪されたものの、Professor Luizinho(PT)、Roberto Brant(PFL:自由戦線党)、Pedro Henry(PP)、Joao Magno(PT)の4名もが議員権剥奪を免れることになった。今回の免罪という結果となった背景には、与野党間及び議員個人間において高度に政治的な取引があったことは否めないであろう。この結果、汚職疑惑議員19名のうち、現在までに議員権を剥奪されたのが3名、辞職したのが4名、免罪となったのが6名、議員権剥奪の審議待ちが6名となった。

今回の決定は国民の世論を裏切るものであり、政治を司るブラジリアと一般国民との乖離を指摘したり、ブラジルの民主主義への疑問を呈するなど、マスコミを中心に批判的意見が大半を占めた。残りの汚職疑惑議員6名も免罪となる可能性が高いと見られており、今後、引き続き国民の世論を裏切るような決定が下された場合、今年に入りルーラ大統領に対する支持率は上昇傾向にあるものの、10月の選挙の際にPTをはじめとする連立与党への批判となって現れる可能性も多いに考えられよう。

大統領選挙:サンパウロのセーハ市長とアルキミン知事の間で争われていたPSDB(ブラジル社会民主党)の大統領候補者選びであるが、アルキミン知事を選出することでようやく決着がついた。しかし、ルーラ大統領の最大の対抗馬とされるPSDBの候補者選びの難航は、現在までのルーラ大統領の支持率回復をもたらしただけでなく、世論調査でセーハ市長よりも支持率の低かったアルキミン知事を選出する結果となり、ルーラ大統領にとって今後の選挙戦を有利に展開しやすくなったといえる。下記グラフは、PSDBの大統領候補者決定の直前に行われた、ルーラ政権及び大統領に対する評価と大統領選挙の投票動向に関する世論調査の結果であるが、このような現在の情勢を如実に物語るものになったといえよう。

しかし、月末にパロッシ大蔵大臣が自らの汚職疑惑によって辞任したことにより、今後、“喉もと過ぎた”はずだったルーラ大統領自身の汚職疑惑への関与が再び取りざたされる可能性も十分に考えられよう。したがって、今回のパロッシ大蔵大臣辞任により、今後の大統領選挙の行方はまだまだ予断を許さない状況となったといえる。
グラフ2 ルーラ政権に対する評価
(出所)IBOPE

グラフ3 ルーラ大統領に対する評価
(出所)IBOPE

グラフ4 大統領選挙の支持投票動向調査
PSDB大統領候補者にアルキミン知事が選出されたケース

(出所)IBOPE

社会

リオの麻薬組織掃討作戦:今月のはじめ、リオで最初のファヴェーラといわれるProvidenciaファヴェーラを含む、中心部から北部にかけての9つのファヴェーラへの軍隊による大規模な掃討作戦が行われた。今回の掃討作戦の目的は、今月3日に麻薬組織によって軍の兵舎から盗まれた11丁の武器を取り返すことであるが、過去にも武器を強奪された軍隊としては、威信にかけた大規模行動に出たといえる。

連日行われた軍隊の掃討作戦は、ファヴェーラ内部での麻薬組織との銃撃戦だけに留まらず、戦車を出動させたり幹線道路での取り締まり及びヘリコプターやボートによるパトロールを行うなど、陸海空全面における大規模なものとなった。今回の掃討作戦に出動した軍隊の数は、ハイチでの国連軍に参加したブラジル軍隊の数を上回る1,600人以上とされる。

最終的に軍隊は、南米最大といわれるRocinhaを含む13ファヴェーラにおいて掃討作戦を展開し、作戦を開始して12日後に盗まれた武器を全て発見することに成功した。また、武器を強奪した犯人グループの一部が捕まっている。なお、今回の軍隊と麻薬組織との銃撃戦において、一般市民を含む数名の死傷者が出た。

MST:今月、MST(土地なし農民運動)の活動が各地で活発化した。まずはペルナンブコ州において、約40ものファゼンダ(大農場)の土地が約10万人ものMSTや関連団体によって占拠された。これら一連のMSTによる土地占拠行動は、一部、逮捕者や負傷者を出す警察との武力衝突にまで至った。また、南リオ・グランデ州において約2,000人ものMST関連の女性団体によって、現地の農場試験場の施設が破壊されるという事件が起きるとともに、同様の事件がパラナ州でも発生した。 

更に、これらのほかにもゴイアス州やサンパウロ州などにおいて、MST関連団体が土地占拠や幹線道路封鎖などの抗議行動を起こしている。

MSTの活動は「赤い4月」と称して主に4月に集中することが多いが、MST幹部は今回の一連の土地占拠運動を「赤い2006」と称している。今年は大統領選挙を控えていることもあり、今後、MSTの活動がより活発化していくものと思われる。



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