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Oi! do ブラジル—リオデジャネイロから徒然なるままに
地域研究と専門研究のバランス 2005年10月

ブラジル現地報告

ブラジル

海外派遣員 近田 亮平
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2005年10月
今月は、今までのブラジル滞在の紆余曲折と試行錯誤の中で、私が常に感じてきた&未だに悩んでいる「地域研究と専門研究のバランス」について、徒然なるままにちょっと書いてみようかと。まず先に結論を述べてしまうと、要は「むずかしい~!」ってことになるのであるが(汗)。

ここでいう地域研究とは、当然の如く私にとっては「ブラジル研究」。で、もう一方の専門研究の方は、前までは「都市貧困研究」と言っていたのであるが、実は「都市不平等研究」なんじゃないのかな、とブラジルに来て数ヶ月過ぎた頃から実感するようになっていて(詳細は後ほど)。なので、ここで述べている「地域研究と専門研究」とは、具体的には「ブラジル研究と都市不平等研究」と言い換えられると言えるかも。

まずは、地域研究としてのブラジル研究。ブラジル研究って、要はブラジルという国についていろいろ知ってる、詳しい、だけではなくて、調べる、分析する、考察するってことで、ブラジルについての"何でも屋"みたいな感じ(多分。「地域研究」の定義について異論の方もおられると思うけど)。でも、ブラジルって、やっぱりかなり大きくて複雑な国。いろんなことをカバーするのはかなり大変・・・。ブラジルに来てから、まずは最近好調な経済を見てたら、政治の大汚職事件が勃発して。で、政治の方を追ってたら、今月はいろいろと社会的に大きな事件が起こったり(下記【社会】をご参照)。近年、ブラジルは経済の安定+成長に加え、政治的な動向からラテンアメリカの地域大国として世界的に注目を集めるようになってきちゃってて、その動向を追うだけでかなりのお仕事・・・(ブラジルに関わっている私個人としてはうれしいことではあるけれど)。はまりだすと、それだけでどんどん底なし沼にはまってしまう。だからこそ、「ブラジル学」と呼ばれる学問分野(領域?)まで登場したりしてるんだけど。

今度は、専門研究としての都市不平等研究。なぜ、私の専門研究が「都市貧困」ではなくて「都市不平等」になったのか。これは前述したブラジル研究の影響が大なのであるが。つまり、ブラジルに久しぶり&初めて仕事で長期滞在しているうちに、"ブラジルの社会全体をもっと知りたい"という知的好奇心(欲求?)がむくむくと膨らんできた、というのがこの変化の主な理由。リオという都市部に住んでいることもあり、「都市」の部分は以前と変わらずとしても、「貧困」だけではこの国の(都市)「社会全体」が見えてこない。この国の(都市)社会全体を見るにはどうすればいいのか。こう考えたとき、ブラジルの社会全体が「貧困」も含んだ「不平等」な社会であることに気づき、この「不平等」な社会の都市の構造や変容を見てみたい!と考えるに至ったというわけ。で、この都市不平等研究を進めるにあたり、統計学や社会学的理論を使ってみようと暗中模索しているのが現状。統計学に関しては、以前にもここでお伝えしたように大学院でしっくりこず、カウンターパートの人に個人指導等を仰いでいるが、今月はその人が健康を崩されてしまい、ほぼ中断・・・(汗)。フィールド調査の方はようやくデータが収集できたといったところで、これから頑張らなくては。社会学的理論については、合間を見つけてはちょくちょく文献を読んでいるところ。

冒頭で述べたように、今月の私の徒然なる結論は、このブラジル研究と都市不平等研究のバランスを取っていくのが非常に難しい!ということ。ブラジル研究に入れ込むと、都市不平等研究が疎かになり(最近、ちょっとその傾向ありか?)。都市不平等研究に入れ込むと、ブラジル研究が疎かに。しかも、一つの研究にもいろんな分野や領域、アプローチがあって更に細分化されていて・・・。なので、これら2つのことを同時に、またはうまくスケジューリングしながら両方とも進めていくのにかなり苦労しているのが現状。でもまあ、私の仕事の要領の悪さと遅さ、そして究極的には能力不足がネックになっているのではあるが・・・(汗&涙)。

しかし、私の先輩研究者の中には地域研究と専門研究の両方を見事に極められている方々が多い。時間がかかってしまうかもしれないが、研究者というこの仕事、今のところ前職(ぎんこ~いん)よりは気に入ってるし、長続きしている。ブラジル滞在という今の貴重な経験を活かし、私も自己啓発に勤しみ、早く自分の研究スタイルを確立しなければ、と思う(焦る?)今日この頃。

今月のブラジル
経済

10月の貿易収支は、輸出入及び貿易黒字が総じて前月比マイナスとなったが、前年同月比では増加となった。輸出額はUS$99.04億(前月比▲6.9%、前年同月比12.0%増)、輸入額はUS$62.18億(前月比▲1.4%、前年同月比6.5%増)、貿易黒字額はUS$36.86億(前月比▲14.8%、前年同月比22.7%増)であった。また、今年の年初から10月までの合計では、輸出額が昨年一年間の合計US$964.75億を既に上回るUS$966.23億(前年同期比22.1%増)、輸入額がUS$602.73億(前年同期比18.1%増)となった。この結果、同貿易黒字額は前年同期比29.5%もの増加となるUS$363.5億を記録した。

このような好調な輸出及び貿易黒字をもとに、外貨準備高(IMF含む)も順調に伸びている(グラフ1参照)。年末の外貨準備高は、過去最高だった1996年のUS$601.1億を超えるものと予測されている。
グラフ1 外貨準備高の推移:1995年以降
(出所)ブラジル中央銀行
(注)2005年は10月末、それ以外は12月末の数値。

最近の為替相場は長期的なドル安レアル高傾向にあり、過去2ヶ月は特にこの傾向が顕著であった。しかし、今月は米国の金利先高観やブラジル中央銀行による介入もあり、ドルの急激な下落傾向に一旦歯止めが掛かり、US$1=R$2.25を挟んで安定的に推移した。しかし、株式市場に関しては、先月まで上昇を続けていたサンパウロのBovespa指数が、月初に31,856ポイントを記録した後は大きく値を崩し、その後は月間を通して30,000ポイント近辺での取引が続いた。主に米国の株式市場の下落などの外的要因が影響したとされる。

また、9月のIPCA(広範囲消費者物価指数)が発表され、8月の数値0.17%よりも高い0.35%となった。今回のIPCAの上昇には、主にガソリンをはじめとする燃料価格の上昇が最も影響を及ぼしたとされる。また、5月に引き上げられた法定最低賃金(R$260→R$300)の影響のほか、上下水道料金、航空運賃、住宅共益費(condom?nio)、中古車価格、医療保険費などの上昇も、その他の主要な上昇要因として挙げられている。一方で、主要食料品価格は4カ月連続でマイナスを記録した。この結果、年初からの累計値は昨年同月時点の5.49%を下回る3.95%となり、現在の経済成長がインフレ・コントロール下で実現されていることを示すものとなった。しかし、世界的な原油高、更には口蹄疫や大旱魃(下記【社会】参照)の影響が、今後物価にも現れてくるものと思われる。

このように物価が安定して推移する中、Selic金利(短期金利誘導目標)は先月に引き続き、今月19.50%→19.00%へと0.50%ポイント引き下げられた。また、この引き下げ幅は先月の0.25%ポイントを上回るものであり、インフレ抑制と経済ファンダメンタルズ強化にとって適切な金融政策だとして、市場では一様に好感を持って受け止められた。

また、今月、主に中小企業を対象にした減税措置であるMP255、通称「財に関する暫定措置(Medida Provis?ria do Bem)」の実施が決定された。これは今月中に失効した同様の暫定措置であるMP252の内容を変更し再実施するもので、主に輸出、不動産、パソコンなどに関わる中小企業が恩恵を受けることになる(主な概要は下記の表1を参照)。今回の措置に関しては、輸出の更なる振興や中小企業の育成につながるなど、同措置に関する経済界からの評価は概ね肯定的なものが多い。

しかし、ブラジルの税金の高さと制度の複雑さは「ブラジル・コスト」として世界的にも有名であり、ルーラ政権の下、税制改革が行われてきたものの、依然として改善すべき点が多く残されている。今回の減税措置は、この「ブラジル・コスト」軽減に資するものだといえるが、恒久的ではなく暫定的な措置であるため、今後、抜本的な制度の簡素化などの更なる対策が必要だといえる。
表1  財に関する暫定措置(MP255)の主な概要
業種等 概要
輸出企業 繊維業、製鉄業、IT業などで生産量の80%以上を輸出する企業が、資本財を販売または輸入した場合、PIS(社会統合計画)/Pasep(公務員厚生年金)とCofins(社会保険融資負担金)を免除。免除期間は、既存企業の場合は2年間、新規の企業の場合は3年間。
不動産業 6ヶ月以内に住宅不動産を売却し別物件を購入した場合、所得税を免除。ただし、5年間のうち1度限りとする。
個人 財の販売に関する所得税の免除対象額の緩和:R$20,000→R$35,000
中小企業 Simples(6種の連邦税を1種に減免する制度)の対象となる企業の総売上高の上限緩和:小規模企業R$12万→R$24万、中規模企業R$120万→R$240万
地方自治体 市当局(prefeitura)が国家社会保障院(INSS)に負っている債務の分割払いを60ヶ月から240ヶ月に延長。
パソコン製造業 最終価格がR$2,500までのパソコンに対し、PIS/PasepとCofinsを免除。2009年末まで有効。9.25%の価格低下となる。
乳製品製造業 粉ミルクなどの乳製品に対し、PIS/PasepとCofinsを免除。
専門知識を有する自営業者 ジャーナリスト、芸術家、研究員、弁護士などの専門知識を有する自営業者は法人として納税が可能。企業はこれらの自営業者を雇用するに当たり、個人労働者を雇用する際に支払う税金等を納める必要はない。ただし、この場合、これらの自営業者は有給休暇やボーナスなどの労働権利を失う。
研究開発費 企業及び自営業に対し、最高で現行と同額の研究開発費を控除(研究開発費控除の2倍増の可能性)。60%は如何なる研究開発費、20%は人件費、残りの20%は特許が取得できた場合。
その他 IOF(金融取引税)とCPMF(暫定金融取引負担金)の徴税:毎週→毎月
(出所)ブラジル政府の広報サイトRadiobras下院議院のサイト)、及び新聞等の情報をもとに筆者作成。
(注)各税金の概要等については税制改革を参照。
 

政治

今月は、PT(労働者党)による議員買収及び不正選挙資金疑惑の解明が進む中、Dirceu元文民官をはじめとする汚職疑惑議員の議員権剥奪問題が焦点の一つとなった。先月までに議員権を剥奪された議員が1名、辞任した議員は2名であったが、今月に入り、残りの汚職疑惑議員16名のうち、Jos? Borba(PMBD)とPaulo Rocha(PT)が辞任した。しかし、残りの14名の議員は自らの無実証明のための自己弁護を行った後、議員権剥奪の可否を問う本会議での投票に臨む道を選択することとなった。しかし、今月中に実施される予定だったDirceu下院議員に関する投票は、議員権剥奪を何としてでも回避しようとする同議員による自己弁護により何度も延期され、結局、来月に持ち越されることとなった。その結果、その他の議員に関する審議も遅延しており、今月は誰も議員権を剥奪されるには至らなかった。しかし、汚職事件の概要が明らかになった今、この汚職疑惑議員の議員権剥奪に関しては、既に時間の問題だとの見方が大半を占めている。

現在のところ、特に2002年に起きたサンパウロ州Santo Andr?市のCelso Daniel(PT)元市長殺害事件とPTの汚職事件との関連性が取りざたされているなど、国内政治における今回の汚職事件による混乱は依然として尾を引いているといえる。しかし、汚職事件のスキーム自体はほぼ明らかとなり、現在は関係者の処分とそれを可能とする細部にわたる事実関係の解明の段階に移ってきたといえる。つまり、汚職事件の全容解明と刑事責任の追及は引き続き行われるものの、今回の国内政治の危機は最大の山場を越え、今後は来年の大統領選挙を睨みつつ、どのように事態の収束を図っていくかという点に焦点が集まっていくものと思われる。

しかし、このような中、今月末にルーラ政権に関する新たな衝撃的な疑惑が持ち上がった。2002年の大統領選挙の際に、PTがキューバからUS$300万もの違法な選挙資金援助を受け取っていたとする記事を『Veja』誌が掲載したのである。ルーラ政権やPTはこの疑惑を全面的に否定しているが、更なる真相の究明が進み、仮にも事実であることが判明した場合、PTを取り巻く一連の汚職事件がブラジル国内の政治危機だけには留まらず、国際的な政治問題に発展する可能性が出てくる。ただし、もしそうなった場合でも、ブラジル国内のマスコミ、そして、そのマスコミと深く結びついた国内及び海外の権力エリートの存在を考慮に入れなければならないであろう。マスコミの暴露によって白日の下に晒される事件は、たとえそれが事実であるとしても、そのときの政治経済などの国際情勢と密接に関連した中で表面化することがあるため、その背景分析を含めたより慎重な検討が必要だといえる。  なお、今回のブラジルの汚職事件に関連して、参考までに「トランスペアレンシー・インターナショナル」というNGOが発表している世界159ヶ国の"汚職清潔度ランキング"を見ると、ブラジルは前年の59位(146ヶ国)から今年は62位へと順位を下げている。ラテンアメリカの中ではチリが最も順位が上で、日本と同じ21位(昨年、日本は24位)、アルゼンチンはアルジェリアやモサンビークと並んで97位であった。

また、今月は汚職事件関連のほかに、9日にPTの党首選出のための決戦投票が行われ、ルーラ政権で社会保障大臣と労働雇用大臣を歴任したRicardo Berzoiniが選出された。Berzoini新党首はルーラ政権を支持するPTの中核グループに属しており、来年の大統領選挙に向け、ルーラ大統領にとってPT内の支持を取り付けやすい状況になったといえる。しかし、今回のPT党首選は、PT内でルーラ政権に批判的な左派グループとの決選投票にまでもつれており、PT内部でもルーラ政権に対する評価が分かれていることを露呈するかたちとなったといえよう。

社会

口蹄疫:今月はヨーロッパで鳥インフルエンザの感染が確認され、世界各国でその対策に追われているが、ブラジルでは南マットグロッソ州の畜産牛に口蹄疫(こうていえき)の感染が確認され問題となった。ブラジル国内での口蹄疫の感染は過去にも例があるが、今までの例が畜産業のあまり盛んではない地域での感染であったのに対し、今回は国内で畜産業が最も盛んな地域の一つで、輸出向け牛肉の主産地である南マットグロッソ州での感染であったことから、牛肉及び乳製品の輸出と国内消費への影響が懸念されている。特に牛肉の輸出に関しては、米国などでの狂牛病(BSE)の影響もあり、近年、ブラジルは輸出量を急激に伸ばしており、2004年には年間で92.5万トンを輸出し、現在のところ世界最大の牛肉輸出国となっている。

政府は、口蹄疫の国内での更なる感染拡大防止と沈静化対策に追われる一方、ブラジル産牛肉の最大の輸入国であるロシア(今年の1月~9月までの輸入額は約4.06億ドル)をはじめとするヨーロッパ諸国などの輸入国に対し、ルーラ大統領のヨーロッパ外遊を利用するなどして、口蹄疫対策の説明とブラジル産牛肉の安全性のアピールに奔走している。しかし、既に47ヶ国がブラジル産牛肉の輸入の全面または一部輸入禁止措置を講じており、問題が長期化すれば、今後、経済に対する更なる影響が出てくることは確実である。なお、口蹄疫は牛以外では豚や羊などの特定の家畜において発症する病気で、ヒトにも感染するものの発症には至らないとされている。

大旱魃:アマゾン地域を中心とした北部と北東部が、過去数十年で最悪ともいわれる大旱魃に見舞われている。同地域の河川や湖沼の水位は著しく低下しており、アマゾン河の支流の一つであるSolim?es川の水位は、満水時の平均が12.3mとされるマナウスから1,105km上流の地点(Tabatinga)で、一時36cmにまで下がった。河川航行を主な移動手段とする同地域の住民にとって、生活飲料水及び食糧等の確保が非常に困難な状況となっている。また、農牧畜業や林業への被害、税金優遇区であるマナウスを結ぶ河川輸送への支障といった経済的問題、更には、同地域に生息する動植物への影響といった環境問題にまで発展している。今回の大旱魃により、北部と北東部のサトウキビの収穫量は、昨年の5,900万トンに比べ10~24%程度のマイナスになると予測されている。

政府は現在までに、これらの地域のうち479ムニシピオ(市)が既に非常事態にあるとし、同地域の住民に対する水や食糧、医療品の供給などの対策に乗り出している。この大旱魃は北半球側の大西洋の水温が通常よりも上昇したことが原因と見られており、メキシコ湾で大量に発生し中米や米国で大被害を及ぼしたハリケーンとの関連性を指摘する専門家もいる。アマゾン州などの内陸奥部では雨が降り始め、少しずつ状況は改善しつつあるが、パラー州や北東部の半乾燥地帯でのまとまった降雨は、来年の1月以降になるとの予測もあり、今後、更なる問題の深刻化が懸念されている。

武器に関する国民投票:23日に武器の合法的売買禁止の可否を問う国民投票がブラジル全土で行われ、反対が63.94%、賛成が約36.06%となった。事前の予測調査を大幅に上回る3分の2を反対票が占めたことにより、ブラジルの国民は武器の合法的売買禁止に対して「ノー」、つまり武器の合法的な売買に限っては「イエス」という明確な判断を下す結果となった。この背景には、ブラジルの治安が改善されないのは、武器の合法的売買自体が問題なのではなく、麻薬組織などが所有する非合法な武器の存在が問題なのであり、武器の合法的売買の禁止は治安問題の改善には結びつかないだけでなく、非合法な武器の売買を助長しかねないという国民の認識があるといえる。

スイスのNGO「Small Arms Survey」によると、ブラジル全国で1,850万もの武器が所有され、そのうち登録されているのは700万のみとされている。一方、雑誌『Veja』によると、犯罪組織は800万もの不法な武器を所有し、登録されている武器は250万であるとされる。これら以外にも、異なる団体やジャーナリズムが異なる数値を主張しており、合法及び非合法を含め実際にブラジル国内にどれだけの武器が存在しているのか、正確な数値を把握することは不可能だといえる。

今回の国民投票は、改善しない国内の治安問題対策として、2003年12月に施行された「非武装化法(Estatuto do Desarmamento)」(通称)の規定によって実施されたものである。この非武装化法の施行により、国内における武器の合法的な所有及び所持は以前よりも厳しい条件が課されるようになった。また、同法は武器を管轄する軍と警察の機関を統合し、国内に流通する武器を政府が監理しやすくすることも目的としている。現在、ブラジルで武器を所有または所持するには、年齢が25歳以上であること、無犯罪証明証を提出すること、武器を必要とする正当な理由が存在すること、心理テストで問題がないこと、拳銃の操作訓練を受講することなど多くの条件を満たさなければならず、しかも所有できる期間に制限がある。

また、昨年7月から今回の国民投票の終了まで、「全国非武装化キャンペーン(Campanha Nacional de Desarmamento)」という武器回収キャンペーンが実施された。キャンペーン期間中に所有している武器を連邦警察に提出すると、武器の所有形態に関して合法または非合法は一切問われずに、R$100~300を受け取ることができた。現在までに全国で約45万もの武器が提出され、連邦警察により処分された。そして、同キャンペーン終了後、国民投票の結果により武器の合法的売買は禁止されなかったが、非武装化法が定める条件を満たさない場合の武器の所有及び所持は犯罪として罰せられることになった。

今後、連邦政府によるこれらの治安改善への取り組みの成果が現れてくるか否かは、まだしばらく時間が必要だといえる。また、リオをはじめとする大都市圏の治安問題は、主に麻薬組織などが所有する非合法な武器の存在が問題であるため、今回行われたような合法的な領域における非武装化という治安対策が、治安問題の根本的な改善に対してどこまで功を奏するかは未知数であるといえよう。しかし、全国で最も治安の悪い市(ムニシピオ)の一つといわれたサンパウロ州Diadema市のように、バーなどの夜間営業時間を制限したり、コミュニティ・パトロールを実施したりするなどの独自の治安対策により、過去5年間で殺人事件を68%も減少することに成功したという例もある。

残念かつ不名誉なことではあるが、「治安の悪さ」はブラジルの代名詞の一つとなってしまっているといえよう。保健省による調査では、2003年に全国で銃器によって殺害された人は39,325人にものぼり、これは1日あたり108人で、同死亡要因の数値としては世界最悪を記録した。このような危機的ともいえる状況を改善するためには、今後、より多面的かつ包括的な治安対策の実施とブラジル国民自身の治安改善へのより積極的な取り組みが必要だといえる。

今月の独り言— Japonêsにみる "ブラジル"の形成

ブラジルでは先月、日系人監督による日本移民とデカセギを扱った映画『Gaijin2』が公開された(ブラジルの日系人は、主に非日系ブラジル人のことを"gaijin"(ガイジン)と呼ぶ習慣がある。この『Gaijin2』は同じ日系人監督が1980年に手がけた『Gaijin』の続編)。また、今月にはNHKでブラジルへの日本移民をテーマにした特別ドラマ『ハルとナツ』が放送された(自宅にNHKがない私は5夜連続のドラマを友人宅に行って視聴)。更に、今月の後半、日本から来伯した『松川響岳太鼓』という和太鼓の公演がリオで行われ、友人に誘われ観に行ってきた。

これらに対する私の評価は様々(長くなる)なのでここでは割愛するが、"japonês"をほとんど見かけることのないリオで(ブラジルでは"日本人"を意味する"japonês"(ジャポネス)が、日本人の顔をした"日系ブラジル人"に対しても使われる)、"japonês"に触れる機会が多かったここ最近。私が少し考えてみたりしたことは、"japonês"をはじめとする様々な異なる民族や人種によって、今のブラジルという国と国民が形成されてきたという歴史と現実。そして(更にちょっと広げてみて)、私が日々の生活で接し、研究対象としているブラジルの過去と現在、そして未来について、である。

ブラジルが"発見"されたのは1500年。なので、"発見"後のブラジルは今年で既に505年の歴史があることになる。しかし、ブラジルが植民地でも帝政でもなく「近代国家」としての道を歩み始めた歴史はさほど長くはない。奴隷制が廃止されたのは1888年で、連邦共和制に移行したのが1889年。そして、ブラジルの国家としての近代化を推し進め、今のブラジル「国民」の形成につながった各国移民の流入で見ると、ドイツ移民はかなり早くて1824年だが、イタリア移民は1870年、アラブ移民は1880年、スペイン移民は1890年、第1回の日本移民を乗せた笠戸丸がサントス港に着いたのは1908年である。つまり、今、私たちが目にする「近代国家」としてのブラジル、そして、そのブラジルの「国民」が形成され始めてから、実はまだ100年ちょっとしか経っていないのである。

ブラジルに関しては、1980年代の"失われた10年"やその後の経済的混乱、または政治腐敗や治安の悪さなどのなかなか改善しない社会問題から、「o Brasil não vai para frente!(ブラジルは前に進まない)」という声をよく耳にする。しかし、やっぱり植民地時代が長く重く、その遺制がブラジルの地と人々の中にあまりにも深く刻み込まれていること(今年ついに日本語訳が出版された、ジルベルト・フレイレの『大邸宅と奴隷小屋—ブラジルにおける家父長制家族の形成』(鈴木茂 訳)を読みながらそう思う)。それでも、"japonês"やいろんな異なる人々によって形成されてきた「近代国家」としてのブラジルとその「国民」の歴史はまだ浅いわけで、今、私たちが目にしている"ブラジル"は方向性としては間違っているわけではなく、まだまだこれからであること。これらを考えて、ブラジルの発展を長(~)い目で見ると、「o Brasil está indo para frente(ブラジルは前に進んでいる:ただし「!」なしかも・・・汗)」と思ったりする(注:個人的な希望を含む)。



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