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ブラジル経済レポート 2004年12月

ブラジル経済レポート

ブラジル

浜口伸明氏 神戸大学経済経営研究所
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2004年12月

連立与党から一部離脱

与党連合に参加しているPMDB(下院513議席中PT(90議席)に次ぐ77議席)、上院81議席中最多の22議席)が臨時総会を開いて、連立離脱を決定した。同じ日にPPS(下院23議席、上院2議席)も理事会決定として連立与党を脱退することを明らかにした。閣僚としてPMDBは通信省と社会保障省の2つの大臣ポストを、PPSは国家統合省の大臣ポストを、さらにさまざまな政府機関の管理ポストを持っていたが、今回の決定により党員は辞任するよう勧告した。現職閣僚の党員をはじめ一部はこの執行部の決定に猛烈に反発している。しかし執行部側はもし党の決定に従って辞任しないならば、党から除名する旨勧告した。

今回のPMDBとPPSの歩調を合わせた動きは、表向きルーラ政権の経済政策や社会政策に異議を唱えたものとしているが、2006年の大統領選挙を睨んだ、ルーラ再選支持派と独自候補擁立派との間の権力闘争が表面化したというのが、現地の報道の見解である。PMDBについては今回の決定を主導したのはテメール党首、ガロチニョ前リオデジャネイロ州知事、クエルシア元サンパウロ州知事であった。テメール党首については、先の統一地方選挙において、ルーラ大統領がサンパウロ市長選挙で再選を挑んでいたマルタ・スプリシー前市長にテメール氏を副市長とするコンビで出馬するように要請したものの、長年の政敵であるクエルシア氏のPMDBと組むことをスプリシー氏が拒否し、破談になったという経緯があった。PPSは南部最大の都市ポルトアレグレの市長選でPTの候補を破って当選しており、サンパウロ市長選挙でもスプリシー再選を支持せずにジョゼ・セーハ陣営に回っている。両党ともにルーラ政権下で議席数に見合うポストが与えられないことへの不満があった。

現職の閣僚やサルネイ前上院議長(元大統領)、カリェイロス上院党代表、ボルバ下院党代表などは、今回の決定を無効だとして、連邦最高裁の仮処分決定を取り付けた。今後の動向の見通しがつきにくい状況にあるものの、このまま進めばPMDBが分裂するのは必至と見られている。PMDBが分裂すれば、ブラジル政界はPTを中心とする現政権のグループとPSDB-PFLの連合を中心とする前政権グループの2大勢力へと、より鮮明に色分けされることになる。その中でPPSはすでに連立から離脱しているPDT(下院15議席、上院5議席)との合併を視野に入れ、より左派色の強い第3グループの形成を目指している。

今回の事件により、ルーラ政権の統治能力がどう影響を受けるのかが注目されるところである。PTは、これまでも野党の意向を無視して強行に採決することはなく、与野党間の調整により法案を採択してきた。PMDB・PPSが離脱して政権基盤が弱体化するとの見方もあるが、今後もこれまでのスタイルを踏襲することによって、安定的に政権を運営していくことは十分可能であろう。さしあたって金融市場はほとんど反応を示しておらず、今回の事件にさほどの政治リスクを感じていないようである。

なによりも、ルーラ政権には依然として強い世論の後押しがある。経済状況が上向きに転じたことにより、政権支持率と大統領個人への支持率はともに再び高まりつつあって政権維持への自信を深めている(下図参照)。野党が政策を批判しても「大統領選挙のための計算的な言動だ」と一蹴されそうな勢いがあり、慎重にならざるを得ないだろう。
(出所)O Estado de Sao Paulo 15/12/2004 元資料はCNT/Sensus調査。

10周年を迎えて正念場のメルコスル

1994年に共同市場として発足したメルコスルの10周年を記念する関係国サミットがブラジルのオウロプレット(ミナスジェライス州)で開催された。会議の中ではメルコスルとインドおよびアフリカ南端諸国グループ(南アフリカ、ボツワナ、レソト、ナミビア、スワジランド)との貿易協定、エクアドル、ベネズエラ、コロンビアのメルコスル準加盟の認定、パラグアイとウルグアイを対象とした機構統一化基金(主に衛生検疫機関の整備に充当される)の設立、などが議題となった。インドと南アフリカには今年ルーラ大統領が訪問し、関係強化を呼びかけていた。

一方では、今年、アルゼンチンとブラジルの通商関係ではさまざまな問題が持ち上がっており、キルチネル大統領、ラヴァニャ経済大臣が出席しないのではないかという憶測もでまわった。アルゼンチンはブラジル製品が大量に流入してきていることに危機感を募らせており、家電製品の輸入規制を宣言している。この措置は両国の業界団体同士で自主規制体制を協議することで、国レベルでの規制措置は棚上げにされているものの、アルゼンチン政府は現在メルコスルでは制度的に認められていないセーフガードを各国の権利として認めるよう主張し、キルチネル大統領は「牙をむいた猛犬の顔でオウロプレットに向かう」と言い放った。これに対してブラジル政府側も「報復関税に訴えることもありうる」とほのめかして、これまで不安定なアルゼンチン経済の状況を理解して寛容な姿勢を見せてきたブラジルも対決姿勢を見せるようになった。結局、セーフガードを導入することについては他の南米諸国も自由貿易の後退につながると批判しており、アルゼンチンはこの点では同調者を得られず、今回は議題に上らなかった。

このような不協和音が背景にあって、7日にペルーのクスコで開催された南米地域の経済協力を推進するための南米共同体(アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、ギアナ、パラグアイ、ペルー、スリナム、ウルグアイ、ベネズエラの13カ国が参加)の発足サミットには、メルコスルからはルーラ大統領以外は特使を送っただけであった。

このようにメルコスル関係がギクシャクしている中、本来検討すべきはずのメルコスル自体の制度的整備や対外共通関税の見直しなどについては進展がなかったものの、対外的には外への拡張を印象付けて、オウロプレット・サミットを意義あるものとしたことはブラジル外交の面目躍如たるところであった。

新・破産法の成立は融資拡大につながるか?

国会では、すでに下院通過後に上院で大幅修正が加えられたため下院に再び差し戻された新・破産法が可決された。破産法の改正が国会で論議され始めてからすでに11年の歳月が流れている。今回の改正の狙いは、破綻企業の再生手続きを迅速化して事業資産が浪費されることを防ぐことと、銀行債権の優先権を確立して信用リスクを減らし、金利スプレッドの引き下げを促すことにある。現行法からの主な改正点は以下のとおり。

1945年に施行された現行の破産法の下で、これまでブラジルの会社再建の主流となってきた和議申請は破綻企業主導によるもので、債権者の合意が得られずに裁判所に持ち込まれて結局解決まで非常に長期の時間(最長20年)を要するものが多かった。新・破産法では和議制度を廃止し、日本流に言うところの民事再生(extrajudicial)と裁判所の監督下におかれる会社更生(judicial)に分けられた。民事再生では破綻企業が債権者(従業員と税務署は含まない)に提示する再建計画は裁判所の認可を受けなければならない。会社更生手続きでは、破綻企業は、給料未払いとなっている従業員や税金の滞納がある税務署を含むすべての債権者との間で再建計画について合意を取り付けなければならない。再建計画は事業部門の売却や会社全体の売却、あるいは他社との合併などを含む所有権の移転を軸に協議され、買収する企業には破綻企業が抱える債務は転嫁されない。再建計画の合意が不首尾に終われば、180日後に裁判所は直ちに当該企業の破産を宣告する。再建計画では未払い賃金の解消を優先する。破産の際の債権者先取特権の優先順位は、これまで労働者(無限責任)、税務署、担保物件の保有者、特権事項が記載された債権、その他、となっていたのが、新・破産法では、労働者への債務は一人当たり上限を最低賃金の150倍までと定める上限が設けられr、これまで優先順位の低かった銀行融資について、担保物件のあるものについては租税滞納分よりも優先する先取特権が認められた。

来年の最低賃金はR$300?

ルーラ大統領は、来年の最低賃金を政府予算案が想定しているR$281よりも上乗せしたR$300とすることを労働組合に対して約束した。労働組合側はR$320を要求してきたので、まだ不十分であるとしているが、現在はR$260であるので15.4%の引き上げとなり、物価上昇を上回る実質賃上げとなる。大統領は加えて、所得税の月収入課税範囲を以下のように変更すると発表した。

 
  今年 来年
免税 R$1,058まで R$1,164
15% R$1,058~R$2,115 R$1,164~2,327
27.5% R$2,115以上 R$2,327以上

これにより、中・低所得層では所得税が免除になったり、税率が下がったりする人たちが出てくる。しかし、最低賃金の上げ幅の拡大と税率表の改定によって、国庫にR$40億の追加支出(最低賃金の引き上げ幅をR$19増やしたことにより約R$25億、所得税表変更の減税効果がR$15億)を必要とする。この大統領案が実現可能かどうか、早くも野党側からは疑問の声が上がっており、地方政府からはこれに応じられる財政状況ではないという批判が出ている。この問題は、現在国会で審議中の来年度予算の中で話し合われる。

さらに金利引き上げ。財政構造は安定的改善へ。

12月の中央銀行金融政策委員会(COPOM)は全会一致で、基準参照金利SELICを現在の17.25%から0.5%ポイント引き上げて17.75%とすることを決定した。これで9月以降4ヶ月連続して金利が引き上げられている。

現在インフレ圧力がそれほど高いとは思われないが、来年のインフレ目標達成を容易にするために、今年中に調整を終わらせておこうとする意図を読み取ることができる。1月以降は今の水準をしばらく維持して、物価上昇の鈍化が明らかになった時点で引き下げを検討し始めるものと思われる。来年のインフレ目標は4.5%を中間値とする上限2.5%であるが、政府のターゲットは5.1%である。Folha de Sao Paulo紙は、実は中央銀行は来年のインフレ率をもう少し高めに見積もっている、という記事を掲載したところ、即座に「5.1%の目標を堅持する」という中央銀行からの声明が出された。中央銀行が物価の番人としての姿勢に疑問を持たれることに極端に神経質になっていることをうかがわせる。

12月のレアルの対ドルレートは2.7レアル台前半で安定的に推移している。中央銀行は今月に入って断続的に為替市場でドル買いを行い、外貨準備は11月末に500億ドルの水準から15日までに約6億ドル増加している。中央銀行はこのオペレーションは単なる外貨準備の積み増しを目的としたもので、為替レート水準に介入する意図を否定しているが、この介入が1ドル=2.7レアル台を一時割り込んだタイミングで行われたことや、工業界ではレアル高の行き過ぎに歯止めをかけることへの要望が強く、政府側からも2.8レアル水準が望ましいとする声が上がっていることから、それらに応えたものと受け止められている。

財政面では、プライマリー収支黒字の継続により、債務の対GDP比が昨年末には57.2%であったのが今年は11月末現在で53%に減少するという形で、ようやく結果に現れている。これまでは緊縮財政をつづけても債務の利子支払いがそれを上回って、結局債務残高が増加するという悪循環が続いてきた。債務の対GDP比が前年よりも減少するのは10年ぶりで、実にレアル計画以後はじめてのことである。この債務の軽量化に貢献しているのは、ルーラ政権が取り組んできたドル連動債務の削減であり、その比率は昨年末に債務全体の23.82%であったのが、現在は10.35%となっている。代わって固定金利ものが11.27%から18.71%に増加している。

民間銀行では一部すでに海外でレアル建てで起債し資金調達する動きが始まっており、政府も来年にはレアル建て国債で海外市場における資金調達が可能になると期待している。

経済成長予測を上方修正。生産・雇用が拡大。

これまで今年の経済成長率は4.5%程度にとどまると予測されてきたが、最近政府の応用経済研究所(IPEA)は、これを5.2%に上方修正すると発表した。その根拠になっているのは、今年第3四半期に大幅な投資の拡大が見られたためで、年間の対GDP投資比率は2001年に19.5%であったのが過去2年間18.3%、17.8%と減少を続けていたのが、今年は19.9%に回復することが見込まれる。IPEAでは、投資の拡大はここしばらく続くものと見られ、来年は投資率がさらに上昇して21.3%になると予測している。しかし来年はレアル高を背景に輸出の成長が鈍り輸入が増加すると見て、GDPの成長率は3.8%にとどまるとしている。

生産・雇用の状況は過去10年で最もよい状況にあるといってよいだろう。ベルゾイニ労働大臣の発表によれば、正式な雇用契約の下で雇用されている労働者の数は昨年よりも187.5万人増加しており、この増加幅は昨年よりも倍増している。ただし、IBGEが発表した10月の工業雇用指数(季節調節済み)は9月を0.2%下回っており、5カ月続いた雇用の成長は鈍化している。

自動車工業会(ANFAVEA)は今年の自動車生産台数が過去最高の220万台に達する見通しを示した。このうち国内市場は154万台で昨年を7.8%上回っている。輸出は86億ドルを稼ぎ出した。雇用数は10.2万人で、これまで最高の207万台(ほとんどは国内市場向け)を生産した1997年の11.5万人に次ぐ水準にある(O Estado de Sao Paulo 07/12/2004)。自動車メーカーの中には、輸出需要に応えるため、年末からカーニバルにかけての休暇シーズンを返上して生産ラインを稼動させる予定を組むところもある。(O Estado de Sao Paulo 08/12/2004)

自由貿易港が設置されているマナウスでも好況が続いている。今年のZFM(マナウス・フリーゾーン)の売上額は昨年の105億ドルから135億ドルに増加し、雇用は66725人から85000人に増加している。これをリードしているのは携帯電話の生産で、国内需要が爆発的に増加しているために、輸出に回す余力がなくなっているほどだ。さらに、テレビやDVDなどの家電製品が続いている。すでにマナウスのコンテナ輸送能力の限界がフレートの上昇を招いている。

農業部門では順調に2月以降の収穫期を迎えれば、2004/05年の穀物生産量は2003/04年の1191億トンを10%上回る史上最高の1320億トンを記録する見通しである。ニューヨークタイムズ(12月12日)はブラジル農業はすでに相当に生産性が高いうえに、なお成長を可能にするフロンティアを残していると、「世界の食卓を満たす」ブラジルの未来を見通している。

国際収支

12月12日までの通年の通関ベースの貿易取引は、輸出が905億ドル(対前年比30%増加)、輸入が593億ドルで(同28%増加)、312億ドルの黒字を記録している(昨年は233億ドル)。輸出はすでに史上最高の水準にあるが、政府では来年は輸出が1000億ドルの大台を突破するのは確実と見ている。

下の表に示した現時点で公表されている国際収支は9月までのデータであるが、この時点ですでに貿易黒字は昨年通年分を超えていて経常収支黒字も増加している。資本・金融収支では、世界から対ブラジルの直接投資が大幅に増加しているにもかかわらず、大規模なブラジルから対世界の直接投資が(AmBev社のInterBrew社との株式交換を指している)行われたことによりネット流入は減少している。この他には、ブラジル(政府・企業)が海外で発行した債券が借り替えられずに償還されたことによる証券投資の純流出と、IMFに対する返済が行われたことによる融資等その他投資項目の赤字により、資本・金融収支は大幅なマイナスとなっている。

 
国際収支(100万ドル)
(出所)ブラジル中央銀行
 
  2003.1-9月 2003通年 2004.1-9月
貿易収支 17,790 24,794 25,114
輸出 52,790 73,084 70,278
輸入 35,000 48,290 45,164
サービス収支 -3,763 -5,100 -3,346
所得収支 -12,343 -18,552 -14,547
移転収支 2,106 2,867 2,381
経常収支 3,790 4,008 9,603
資本・金融収支 10,044 5,111 -7,372
資本収支 340 498 548
金融収支 9,704 4,613 -7,920
(直接投資) 6,244 9,894 3,555
ブラジルから対世界 -223 -249 -8,825
世界から対ブラジル 6,467 10,144 12,381
(証券投資) 3,649 5,308 -4,228
(デリバティブ) -180 -151 -534
(その他投資(融資等)) -8 -10,438 -6,714
誤差脱漏 -680 -624 -1,641
国際収支 13,154 8,496 590

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