skip to contents.

ブラジル経済レポート 2004年6月

ブラジル経済レポート

ブラジル

浜口伸明氏 神戸大学経済経営研究所
PDFpdf(48KB)
2004年6月

政治動向

国際収支
ブラジルのGDPに占める輸出の割合は90年代には13%ぐらいだったが、今年は25%に上昇している。(Veja 6月11日)応用経済研究所(IPEA)のジョアン・アルベルト・デ・ネグリ研究員の研究によれば、登録されている正式雇用の中で輸出企業が占める割合は昨年8.5%であったのが、15.6%に上昇した。輸出企業を中心とした雇用創出が進んでいることを示している。この、大企業を対象にしたサンプル調査では、輸出企業では従業員に求める水準が高いが賃金は平均して70%以上も高く、また勤務年限も長いことも示された。量・質ともに輸出部門の重要性が今後ますます高まることを示すものといえよう。

貿易紛争も起こっている。ブラジルにとって世界最大の大豆輸入国中国は戦略的な市場となっているが、最近中国に対して出荷した大豆の中に農薬に汚染されたものが混入していたとして、検疫で受け取りを拒否されるという事件が起こっている。中国側は23のブラジル生産者をブラックリストにあげて、実際上中国への輸出が停止してしまっている。近くブラジル政府のミッションが訪中して折衝に当たる。生産者たちは、農薬の問題は値段が高いときに結んだ買い取りの契約を履行したくない中国側の言いがかりだとして、WTOに提訴すべきだと息巻いている。5月末にルーラ大統領が訪中して中国市場への関心が一気に高まったところであったが、いきなりその難しさを感じさせることになった。

北部パラー州で口蹄疫に感染した牛が見つかった。33ヶ月続いて発生例が確認されてこず、牛肉の輸出が拡大してきた。輸出向け生産地である南部や中西部からは数千キロ離れた僻地であり、大規模な感染にはつながらないが、輸出への影響が心配された。さっそく昨年6億ドルの牛肉を輸入しているロシアが輸入の一時停止を通告してきたが、ブラジル側がパラー州は牛肉輸出が許可されている口蹄疫非感染地域に含まれていないことを説明し、輸入再開の目処が立ったと報道されている。
貿易収支(通関統計)
(出所)貿易開発省 SISCOMEX
 
  就業日 輸出 輸入 貿易黒字
100万ドル 1日当たり 100万ドル 1日当たり
通年 111 37,384 337 24,829 224 12,555
1月 21 5,799 276 4,216 201 1,583
2月 18 5,722 318 3,740 208 1,982
3月 23 7,927 345 5,325 232 2,602
4月 20 6,590 330 4,632 232 1,958
5月 21 7,941 378 4,823 230 3,118
6月 8 3,405 426 2,093 262 1,312
2003年6月 20 5,874 294 3,521 176 2,353
5月の貿易収支は輸出79億ドル、輸入48億ドルで31億ドルの黒字となり、1ヶ月の貿易黒字の記録を更新した。1日当たりの輸出量で見ると、6月に入っても拡大が続いている。5月との比較では基礎産品が22.8%、製造業品が9.5%、それぞれ増加しており、中間品がほぼ同値である。従来、アメリカが最大の輸出先であったが、今年1月~5月に限ってみればEU向けの輸出が対前年同期比で26%増加して全輸出の25%を占めるようになり、前年とほぼ同額に留まっているアメリカ市場向けが20%のシェアにとどまったために、EUがブラジルの最大の輸出先となった。ユーロがドルに対して増価したことが、主要な要因である。EU向け輸出は大半が一次産品(大豆、牛肉、鶏肉、アルミニウムなど)であるが、アメリカへの工業製品輸出には多くの工業製品が含まれており、その中で乗用車が57.52%、携帯電話が53.71%、自動車エンジンが53.51%、それぞれ昨年に比べて大幅に減少した。それを相殺する形で工業製品輸出が拡大したのは、主にアルゼンチン市場向けである。またEconomist Intelligence Unitが世界の500社に対して行ったアンケート調査によると、ブラジルは今年中に130億ドルの直接投資を受け入れるだろうと予測されている。2003年の直接投資流入額は101億ドルと2002年の実績166億ドルを大きく下回った。その回復が見込まれるとすれば、アメリカの金利引上げが予想される中で、貿易収支の改善 とともに、経済の安定に貢献する、重要なファンダメンタルとなる。


金融政策
中央銀根金融政策委員会は今月、金利を前月と同じ水準(年率16%)で据え置く決定を下した。インフレに影響を与えうる国際原油価格が上昇しており、またアメリカの金利引上げが予想されていて資本の流出が懸念される中で、当然の決定と受け止められながらも、昨年後半に積極的に金利引下げを行った結果がようやく現われて実体経済が上向く傾向が見えてきただけに、いっそうの金融緩和が難しい外部状況を改めて認識させることになり、重苦しい雰囲気を醸し出す結果となった。与党の中には、アロイジオ・メルカダンテ上院議員(PT)を初めとして、インフレターゲットの目標値を引き上げて、金融緩和を可能にすべきだ、との議論が出ている。中央銀行・財務省は公式にこうした可能性を認めていない。政府は現状においても今年の経済成長目標3.5%は達成可能だとしている。

ペトロブラスはガソリンの卸売価格を10.8%、ディーゼルの価格を10.6%ひきあげることを決定した。ペトロブラスの値上げはルーラ政権になってから初めてのことであるが、予想されていたよりも早期かつ大幅な値上げとなった。ただし、サンパウロ大学経済研究所の調査によれば、ガソリンスタンドでのガソリン小売価格の上昇幅は4.5%、ディーゼルは6.4%に止まっており、小売段階である程度コストが吸収されつつあるようである。

インフレ率はFGV(ジェトゥリオ・バルガス財団:FGV)の総合物価指数(IGP-M)、サンパウロ大学経済研究所(FIPE-USP)の消費者物価指数(IPC)、政府の公式使用である統計局IBGEの拡張物価指数(IPCA)の3つの指標がもっともよく使われる。IGP-Mは卸売物価指数、消費者物価指数、建設コスト指数を7対2対1のウエイトで合成した指数であるが、卸売物価には為替変動の影響が直接現われるために、レアル減価の浸透(Pass-Through)効果がいち早く現れ、変動の幅も大きい。IPC/FIPEはサンパウロ市都市圏だけにおける調査に基づいているので、全国的な指数とは言えないが、サンプル調査期間がIBGEより早いので先行指標として便利である。図では、今年3月以降のレアルの減価がまずIGP-Mの上昇となって現われているが、消費者物価への影響は1~2ヶ月のラグをもって見られている。なお、FIPEが発表しているIPCの各週の暫定速報値の対前月上昇率は5月第4週の0.57%から6月に入って第1週が0.77%、第2週が0.80%と上昇を続けており、これを先行指標と見ると、今後暫くIPCAへの上昇圧力も強まるものと予測される。
ブラジルの代表的インフレ指標
(出所)各機関発表値

雇用
下のグラフに表れているように、製造業の雇用および賃金労働時間は、生産活動が低下する12月から2月にかけての盛夏期に谷となるが、その後上昇するという年間サイクルを繰り返している。当然、雇用よりも労働時間が大きく変動して調整している。今年もこのパターンをたどっているが、4月に入っても昨年の低調な雇用水準のトレンドを引きずっている。
製造業分野の雇用と賃金労働時間の推移:2001年1月=100
(出所)IBGE, 月次工業調査(PIMES)

その中で、産業別に見て顕著に雇用が拡大しているのは、全体の中で雇用のシェアが小さい燃料とたばこを除くと、金属、機械、輸送機械といった輸出と関連の強い産業である。このことは前掲のIPEAの調査を裏付ける結果とも言える。
今年に入ってからの産業別雇用水準:2001年1月=100
(出所)IBGE, 月次工業調査(PIMES)

  2004年1月 2月 3月 4月
製造業 97.29 97.47 98.08 97.99
食品・飲料 106.88 106.14 105.1 104.81
たばこ 118.56 184.68 270.05 277.2
繊維 92.8 92.9 93.53 94.94
衣料 86.77 86.06 86.48 87.03
履物・皮革 97.61 98.45 98.74 98.5
木材 87.97 88.3 88.92 88.21
紙・印刷 89.68 89.85 89.48 89.3
燃料 160.59 162.64 160.56 174.03
化学製品 92.72 93.98 94.75 94.88
ゴム・プラスチック 97.1 98 98.63 99.23
非金属鉱物 89.83 88.69 88.33 87.41
基礎金属 104.78 105.75 104.08 104.47
金属製品 102.31 102.31 102.26 97.24
機械 114.26 114.63 120.33 119.93
電気電子機器 86.29 86.56 87.39 87.5
輸送機械 98.81 99.36 100.3 102.38
その他製造業 83.18 82.43 83.19 82.41



※最近の動向に関する情報は研究者個人の見解であり、あり得る過ちは全て執筆者個人に帰するもので、アジア経済研究所の見解を示したものではありません。また、これらの情報および写真画像の無断転載を一切禁止します。