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ブラジル経済レポート 2004年4月

ブラジル経済レポート

ブラジル

浜口伸明氏 神戸大学経済経営研究所
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2004年4月
経済情勢  ▼政治情勢   

経済情勢

4月のインフレは若干上昇傾向にある。為替レートの動向に敏感な卸売物価の動向を強く反映するジェトゥリオ・バルガス財団の総合物価指数(IGPM)は3月の態前月比1.05%から1.20%に、中央銀行が速報した現在の拡大消費者物価指数(IPCA)で見た期待インフレ率は年率5.58%で、4週間前の5.48%から上方修正された(Relatorio de Mercado, 16 de abril de 2004, 中央銀行IR(Investor Relation)部局<Gerin>発行)。今年のインフレ率の予想は6%となっており、中銀のインフレ目標5.5%を上回っている。インフレの原因は税制改革の結果社会保障分担金(Cofins)料率が引き上げられたことと、中国や米国における需要の拡大でプラスチックや鉄鋼などの輸入部材を中心に国際市場で需給バランスがタイトになっているものの価格が上昇したなどの影響により、コスト上昇が一部価格に転嫁されているためである。しかし、消費者市場が低調であるために、消費者物価への影響は最小限にとどまっている。

それでも、4月の中央銀行金融政策委員会COPOMは短期金利SELICの誘導目標を0.25%引き下げて、年率16%とすることを決定した。下げ幅は前月と同じで、市場では金利引下げを目指す中銀の意思を示すためのシンボリックなものに過ぎないと受け止められている。前回は一部金利引下げに慎重な理事の反対票が出たが、今月は全会一致の決定となった。

今後の金融政策を占う上で、国際経済の動きも重要な要素となる。アメリカの消費者物価上昇率が2月の0.3%から3月に0.5%に上昇したことが発表されたことを受けて、FRBが金利引上げに踏み切るのではないかという予測が流れており、そうするとブラジル中央銀行は資本流出を懸念して当分は金利の引き下げにさらに慎重にならざるを得ない。今月はじめに、目下のブラジルの政治的混乱に鑑み、JPモルガンが投資家に対してブラジルの債券を買うことを手控えるようアナウンスを発したことも、市場をいっそうナーバスにしている。先月まで右肩上がりで上昇を続けていたサンパウロ証券市場のボベスパ・インデックスも月初めの22700台から21700台へ5%近く水準を落としている。一方ドル相場は月初め2.8レアル台後半で推移していたのが4月後半現在、2.9レアル台前半に上昇傾向を示している。

そんな中、5月1日に改定される最低賃金の水準を巡る交渉が続いている。政府の経済政策担当チームは現在の240レアルに過去1年の物価上昇を調整した259レアルが適当と考えているが、大統領は270レアルまで引き上げるよう再考を迫っている。一方与党連合ではPTが280レアル、PMDBは300レアルを要求している。

90万人の公務員を対象にした賃金表の改定は現役世代が12.85%~32.27%の賃上げ、退職者は9.94~29.38%の年金の増額を得ることになる。今回の改定では役職者により厚い賃上げを与え、もっとも賃上げ率が低いのは公立学校の教員である。

貿易収支は依然として昨年の実績を大きく上回っているが、最近若干弱含みに推移し始めた。4月の第3週までの貿易収支は輸出が3億ドル、輸入が2億2800万ドルと、それぞれ対前年同月比で6%、15%増加した。製造業品と半製品の輸出はそれぞれ17.2%、3.9%増加しているが、一次産品は9.5%減少している。一次産品の現象は大豆の収穫が思わしくないためとも言われるが、一部には税関のストライキの影響も現れている。4月の輸出は前月との比較で一次産品が24.2%、半製品が22.1%、製造業品が2.5%減少している。為替レートがドル高に調整されることによって、製造業輸出が輸出を下支えすることが予想される。

製造業輸出で顕著な伸びを示しているのが輸送機械部門である。自動車工業会(Anfavea)によれば自動車生産は今年第1四半期で50万台に達した。これは昨年同期の実績を13.5%上回っている。アルゼンチンとヨーロッパ市場向けの輸出が好調である。第1四半期の自動車輸出額は16.1億ドルと昨年を57.3%も上回っている。このままのペースが続けば年間輸出額は過去最高の66億ドルに達すると予測されている。この他には、航空機のエンブラエル社は今年上半期ですでに23機のジェット機を海外の航空会社に納品した。

依然として景気の回復が本格的なものとならないのは国内需要が低調であるためである。O Estado de Sao Paulo(4月19日版)によると、平均的消費者にとって政府が料率を決定する支出(ガソリン・アルコール・ディーゼル等の燃料、航空料金、登記所手数料、郵便、自動車登録、電気、ガス、市街地不動産税、宝くじ、地下鉄、バス、有料道路通行料、健康保険、水道、タクシー、電話)が支出全体に占める比率は年々上昇しており、95年の13.3%から2003年には28.9%に達している。これらを除いた、いわば可処分所得は、94年を100とすると95年に126.7であったのが03年には80.4の水準に過ぎない。公共料金の引き上げに対して所得の上昇が小さいためにこのような現象が生じているが、最近の民間の消費者動向調査では、ルーラ政権になって、食品や衣料などの非耐久消費財では多少財布の紐が緩みかけていたのが、今年に入ってインフレ傾向を敏感に感じ初めて節約の必要を感じる人々が増えているという結果を示している。一方、非耐久消費財に関しては、ルーラ政権になってから購買意欲を示した比率は低下の一途をたどっている。雇用や給与水準の不安と高金利が消費者金融の理由を手控えさせていることを示している。

ルーラ政権の経済政策に対する批判は日増しに強くなっており、大統領自身も「何か打つ手は無いのか」と閣僚に知恵を絞るように命じているが、金利引下げも最低賃金の引き上げも思い切った手段を講じる状況に無くまったくお手上げの状態のように見える。水面下では企業家との会合を重ねていて、投資を行うよう要請しているが、制度的恩典を求める企業家との間でうまく折り合いがついているのかどうか不明である。4月はじめに全国工業会(CNI)において大統領も出席してフルラン開発大臣が「産業政策」を発表するセレモニーが行われたが、はたしてこれが実効を伴うものなのか、と産業界の反応は冷ややかなもので、大統領自身も規模が地味すぎると不機嫌であったと伝えられている。

昨年末に成立した税制改革と年金改革については、その後次のような動きがあった。

(1)ガソリン税(CIDE)の連邦から州への還付をこれまでの25%から29%に引き上げられる憲法改正(PEC228)が4月1日に下院を通過し、上院に送られたこと、

(2)下院の与党総務は5月末までに、これまでの憲法改正で先送りになっている州税の商品サービス流通税(ICMS)の全国的税率の統一を成立させて上院に送りたいという見通しを示している。現在、改正されることは決まっているが税率が決まっていないため、空白期間を利用して州政府がまだ本来禁止されているはずの税制恩典の供与を行っているので、早急にこれを是正したい旨。あわせて地域開発基金(貧困州の意見を懐柔するための措置)の設置を検討する。将来的には、ICMSを含めた間接税の一本化につながる抜本的な改正を予定しているが、これはもう少しあとに先送りされた。

(3)年金改革の追加憲法修正案(州公務員の年金額の上限を定めるもの)が上院から下院に送られたが、下院ではPT議員の間でも上院が可決した案では上限が高すぎて州の財政実態と合わないという意見が強く、条文の修正を求める動きが起こっている。これに対して、上院では与野党間の合意を踏まえて可決したものであり、条文に修正を加えるべきでないと、難色を示しており、調整が行われている。

政治情勢

O Estado de Sao Paulo 4月16日版は、2002年1月に暗殺されたPTのセルソ・ダニエル・サントアンドレ市長の兄ジョアン・フランシスコ・ダニエル氏の驚くべきインタビューを掲載した。ジョアン・フランシスコによれば、彼の兄は組織的な収賄事件に関与しており、彼の集金力が見込まれて当初ルーラ大統領の選挙参謀に任命されたほどであった(この役割はセルソの死後、パロッシ現財務相に引き継がれた)。彼は暗殺される前に贈賄側との関係を終わらせようとしていたが、おそらくそれが原因で拉致され拷問の結果銃殺されたと見られている。ジョアン・フランシスコは生前セルソの補佐官で現在ルーラ大統領の個人的秘書を勤めているジルベルト・カルバリョが何度となく当時PTの党首であったディルセウ現文官長に賄賂の一部を納めていたという。ディルセウ氏はジョアン・フランシスコ氏を訴えると怒りをあらわにしているが、腹心のディニス元補佐官の事件が依然としてくすぶっているなかで、新たな火種を抱えることになった。

一方、土地なし農民運動(MST)が「赤い4月」と称して農場を次々に不法占拠している。MSTはルーラが選挙公約にした農地改革の早期実施を要求している。ほかにもこうした社会の周辺部における火種は拡大している。奥アマゾンのロンドニア州では、採金鉱夫(ガリンペイロ)が先住民インディオの居住区を侵したとして、インディオたちがすでに29人のガリンペイロを殺害し、さらに100人近くが行方不明になっているといわれている。インディオたちは居住区の拡大を要求して下院に押しかける騒動も起こった。サンパウロでは7000人にのぼるホームレス支援グループ(MSTにもじって屋根なし国民運動とよばれる)が、福祉住宅基金の拡大を要求して5ヶ所で空きビルを一時不法占拠する事件を起こしている。この3つのグループは根底では組織的協力関係にあり、PTはこれまで社会運動として支援してきた。しかし、PTが政権をとって1年以上がたっても期待していた状況改善は遅々として進まず、苛立ちが表面化してきたところである。一方社会全般からはこれらの運動が支持を受けているわけではない。カルドーゾ政権期には騒乱がエスカレートしたときには軍隊や警察が鎮圧に動員されたこともあったが、法に準拠して毅然とした立場をとれないPT政権に対する不満も高まっている。

経済政策への不満と一部における社会不安の高まりは、ルーラ政権の支持率の明確な低下につながっている。3月末に行われた民間の調査機関Sensus世論調査によれば、ルーラ政権を積極的に支持する率は政権が発足した2003年1月の56.6%から34.6%へと20%ポイント低下した。つい最近まで2年後の大統領選挙でルーラ大統領の再選がかなり有力と考えられていたため、与党連合の求心力は強かったが、ここにきてPT以外の連立政党は、もろ手を上げてPT支持というわけではない、と一歩引いて情勢を見守るような動きを示している。一方、PSDBはルーラ再選に勝ち目が無いとすれば6年後を目指してミナスジェライス州知事のアエシオ・ネヴェスやサンパウロ州知事のジェラルド・アルキミンを軸に政権奪回を目指す長期戦略を立てるところであるが、同時並行で、ルーラの基盤が弱体化して勝ち目が出てくれば、2年後にカルドーゾ前大統領を再擁立するという「フェニックス計画」を進行中であるという。今年10月の全国統一市長選挙でどのような結果が示されるかが、今後のシナリオを大きく変えることになる。




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