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ブラジル経済レポート 2004年3月

ブラジル経済レポート

ブラジル

浜口伸明氏 神戸大学経済経営研究所
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2004年3月
政治  ▼経済  ▼景気対策  ▼M&Aと企業動向  

政治

ディルセウ文官長の腹心ディニス元補佐官のリオデジャネイロ州宝くじ局長時代の汚職事件を巡って野党が国会に聴聞委員会を設ける運動を続けていたが、労働者党側はいまのところこれを何とか押さえ込んだ格好になっている。大統領はビンゴ賭博禁止令を出して、制度的な問題として片付けようとしたが、そのような対応は臭いものに蓋をしようとしただけの単なる目くらましで、野党時代は政府の汚職追及に躍起になっていた労働者党とは思えないと失望を与えている。またビンゴ遊技場の閉鎖を命じたために従業員に大量の失業者を生み出したことでも非難された。ただし、このとき失業者の数はかなり過大にマスコミに流れたため、野党の画策ではというも憶測が流れた。

与党側の工作にもかかわらず、ディルセウ氏は表に出る機会がめっきり少なくなり、求心力に翳りが出始めている。与党の政治家から勝手な発言が飛び出す風潮が出始めている。社会保障省のランド大臣(PMDB)は社会保障保険料の3%ポイント引き上げを検討中と報じられた。物価スライド調整で支給額が増えることに備えるための措置として検討されているが、与党内の反対意見が強く、ルーラ大統領はさっそく保険料の引き上げを認めないと発言している。アレンカール副大統領が所属する自由党(PT)のコスタ・ネト党首は公然とパロッシ財務相、メイレレス中銀総裁の辞任を要求する発言をしている。また、ロドリゲス農務大臣は東北地域のサトウキビ農業への補助を要請しても応じないマンテガ企画大臣を「ごろつき野郎」と呼んで波紋を呼んでいる。総合誌VEJAの3月24日号では、すでに統制が喪失した政権末期の雰囲気さえ漂い始めていると報道している。以前は、党議に逆らって年金改革法案に賛成しなかった労働者党議員を除名処分にするほどの睨みを利かせていたのが、こういう足並みの乱れが目に付く事は、ディルセウ氏の影響力の低下とも関連している。彼の復権が可能かどうかは、この政権の求心力に大きな影響を与えるだけに、注目される。

検察の調査により、ディニス元補佐官はルーラ政権発足後ブラジリアに来てからも汚職を続けていた疑惑が持ち上がっており、問題が拡大することも懸念される。ディニスは昨年連邦宝くじを運営する連邦貯蓄金庫(CEF)のシステム管理をしている外資系のGtech社に契約延長を認める条件としてロジェリオ・ブラッティという人物を雇うことを要求した事がわかっている。このブラッティ某は、パロッシ財務相がリベイロン・プレト市長であった1993~94年当時に彼の部下であったために、今度はディルセウ文官長と並ぶルーラ政権のもう1人のスーパーミニスターである財務大臣に飛び火するかとも思われたが、ブラッティは汚職疑惑で94年にパロッシから解雇されているので、その恐れは無さそうである。

経済

インフレと金利

インフレ率はヴァルガス財団の毎月10日の総合物価指数IGP-10(毎月の10日に対前月比で示した卸売物価指数を60%、消費者物価指数を30%。建設指数を10%の比率でブレンドした指数)は1.05%で前月の0.78%を上回った。これは、卸売物価の上昇によるもので、消費者物価上昇率は2月の0.47%から0.34%に下落している。IBGEが発表する消費者物価の公式指数IPCAはまだ現時点で出ていないのが、年率にしておよそ6%の水準にあり、今年のインフレ目標の5.5%を上回っている模様である。

まだインフレが完全に沈静化していないなか、ブラジル中央銀行は3月17日の金融政策委員会(COPOM)で0.25%ポイントの金利引下げを決定し、16.5%となった。今年になってずっと金融緩和が足止めされてきたところであり、初めての金利引下げとなったが、全員一致ではなく委員会の中でも 6対3で意見が分かれた。ほとんどの金融市場関係者は金利据え置きを予想していたところで中央銀行が金利引下げに努力する姿勢を示した事は好感されているが、この微小な引き下げは多少意外な印象をもたれた。実体的にはあまり影響をもたないであろう。


生産と雇用

BGEが発表した1月の工業生産と小売数量の指数は引き続き回復の基調を保っている。特に小売ではリオデジャネイロ、サンパウロ、ベロオリゾンテの三大都市で対前年同月比7%台の高い伸びを示した。全国平均でも6%の成長である。労働省の全国雇用登録データベースに登録されている正規雇用者は2月に13万9000人増加し、今年に入ってからの2ヶ月で23万9100人の増加で、過去10年でもっとも良いペースで増加している。
小売数量指数
(出所)IBGE月次商業調査

国際収支
3月17日に発表になった今年1月の国際収支は、貿易黒字が15.9億ドル(輸出56億—輸入42.1億)、経常収支が6.7億ドルの黒字、資本収支が国債の海外発行などにより38.5億ドルの黒字。42億ドルほどの外貨準備積み増しに成功している。

輸出は引き続き好調である。通関ベースで見ると、今年3月前半までで昨年を28%上回る149億ドル、輸入は104億ドルで、45億ドルの貿易黒字を計上している。北米とアジアを中心にBSEと鳥インフルエンザに関連した需要が拡大し、食肉輸出は牛肉、鶏肉ともに50%増。大豆輸出は今年も好調が予想されているが、現在最大の輸出港パラナグアでは、港湾業務の非効率さを訴えてパラナ州の港湾監督官庁の責任者(ロベルト・レキオン州知事の弟)の辞職を要求するデモが続いており、積荷がほぼストップした状態で、穀物を満載したトラックの列は3月20日現在で70キロに及んでいる。パラナ州では州の法律で遺伝子組み替え大豆の州内での流通を禁止しており、このためパラナグア港からの出荷をできなくするために検査を強化していて、このため船積みに大幅な遅れを生じさせている。州当局は港の職員が怠けているだけだとして取り合わない。

景気対策

建設・公共事業

政府は不況にあえぐ建設業界を活性化するために、財務省で住宅金融の拡大の具体策を検討することを約束。下院は民活法(PPP)を可決し、上院に送った。民間が行政と共同でインフラに投資する道を開くもので、民間にとっては投資リスクを軽減する事につながる。注目すべき点は、財政責任法であらゆるレベルの行政が新規に債務を負うことを禁止されてきたが、今回の法案の適用範囲の案件については、この規制から除外することになりそうなことである。IMFには財政黒字目標からインフラ投資向け支出を除外して考えるよう要求して、アルゼンチン政府と共同歩調をとって交渉しようとしている。そのアルゼンチンはIMFに対して返済期限が到来した31.5億ドルの支払いを行わないのではないかと懸念されていたが、予想に反してこれを実施し、この第1四半期においてIMFが要求する財政収支のプライマリー黒字目標GDP3%を超える財政の節約を実施している。民間債権者はアルゼンチンが債務の4分の3カットを要求しているのが、財政再建がすすめばもう少し返済してくれるのではないかと期待している。アルゼンチン政府はIMFが押し付けているコンディショナリティの緩和を要求して今後も粘り強く交渉していくつもりであるし、債権カット要求を変更するつもりはない、と強硬な姿勢を崩していない。


産業政策

フルラン開発相はブラジル政府の産業政策の指針として、以下の点を明らかにした。


  • BNDESにModermaqというクレジットラインを用意する。予算は25億レアル。融資期間は60ヶ月で最初の3ヶ月間の返済を猶予する。金利は年14.95%。資金の使途は生産設備の近代化。

  • 輸出促進政策:パイロットプログラムとして5つの州の産業集積に年間4000万レアルを4年間拠出。集積地の技術能力の向上、経営近代化、地域機関の関係強化。SEBRAE(中小企業振興のための国の機関)、開発省の貿易振興公社(APEX)、BNDES、科学技術省が共同管轄。

  • 開発省産業政策調整局の外郭団体として産業開発公社を設立。公設工業試験場のネットワーク化、ボトルネックの特定化、開発戦略の策定などに当たる。

  • 半導体、ソフトウェア、医薬品、資本財を特定関心分野とした具体的な戦略を策定する。

  • また、ルーラ大統領は19日にフィアットの工場を訪問し、2月末で失効した自動車販売への工業製品税(IPI)の減税措置を復活する意向を示し、近く自動車メーカーと会合を持ちたいと発言した。雇用の確保と新車価格上昇の抑制を望んだ趣旨の発言と見られる。この会合がいつ開催されるかはまだ決定していない。フィアット社は本社のモルキオ社長が2006年までに33億レアルを投資する計画を発表した。世界的に大幅なリストラ計画を進めている同社としては異例の事と受け止められた。

M&Aと企業動向

ベルギーのインターブリュー社はブラジル企業で世界5位のビール会社AmBev社の57%の株式を取得し、傘下に治めることを発表した。今回この株式を売却する事になったリーマン氏など4人の投資家グループはインターブリュー本社の株式を取得し、取締役のポストにつくとともに、社名をInterbrew-Ambevと変更する。

米系ウォールマートはブラジル東北部を拠点に151店舗を展開するスーパー/ハイパー・マーケットの流通チェーン・ボンプレッソを買収する。ボンプレッソは2000年にオランダのロイヤル・アホルドが地元資本から買収したもの。店舗のほかにクレジットカードを運営する。これで、国内資本ポンジアスカルとカルフルの2強に次ぐ存在となる。

アメリカのワールドコムが民営化の際に落札した長距離・国際電話の通信キャリア・エンブラテルを売却する意向を示していたが、この度、メキシコのカルソ・グループが所有するテルメックスが取得する意向を示した。カルソ・グループはすでにATL、TESS、Americel、Claroなどリオ、サンパウロ、ブラジリア、ポルトアレグレなどで携帯電話事業を展開している。カルソ・グループの他にはエンブラテルの国営企業時代の従業員年金基金や固定電話事業3社(テレマル、ブラジルテレコム、テレフォニカ)のコンソーシアムが買収の名乗りをあげている。エンブラテルはテレビ放送や軍事通信に用いる人工衛星を所有している事から、政府はBNDES(国立経済社会開発銀行)が拒否権を与えられる黄金株を持つ形で資本参加することを希望している。

地方都市中心のローカルエアラインであるオーシャンエアは倒産したコロンビアのフラッグキャリアのエアライン、アビアンカの株式75%を取得したと発表した。オーシャンエアはボリビア出身の事業家German Efromovichが率いるSinergyグループの支配下にある。同グループは、一般にはほとんどその名前を知られていないが、造船、海底油田探索プラットホームの建造、ブラジル・エクアドル・コロンビアにおける原油開発など幅広い事業を手がけ、最近では経営危機に陥っている経済紙Gazeta Mercantilに資本参加し実質的に経営を握っている。

国内2大エアラインVARIGとTAMの本格的合併は当面棚上げにされることになった。公正取引委員会からの懸念が表明されたため。共同運航などの業務提携は続けられる。VARIGは北京事務所を開設し、8月に予定されている北京-サンパウロ間の直行便(ミュンヘン経由)の開設に備えている。




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