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ブラジル経済レポート 2004年2月

ブラジル経済レポート

ブラジル

浜口伸明氏 神戸大学経済経営研究所
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2004年2月

経済状況

労働省が発表した1月の雇用統計によれば、同月全国で雇用失業総合登録(Caged)に新たに登録された正規雇用の数は約10万人に上った。産業別に見ると、新規雇用の分布は製造業で3万6000人、サービス業が3万4000人、建設が1万4000人、農業が1万1000人であった。景気が徐々に回復に向かっていることを物語っている。

しかし、一方ではインフレは上昇傾向が続いている。2月の月央で観測されたIPCA-15は0.9%を記録し、1月の0.68%を上回った。先月に引き続いて、新学期における学費の引き上げが最大の要因となっているが、そのほかに電力、上下水道、ガスなどの公共料金の値上げが行われた。新車価格の上昇も影響を与えている。グラフに見られるように昨今の物価上昇は為替レートの影響を受けたものではなく、もっぱら国内要因によるものと見える。中央銀行金融政策委員会(COPOM)は先月に引き続いて今月も金利引下げを見送り、16.5%に維持されることを決定した。経済界は金融緩和が足踏みしていることで、景気回復が腰折れになることを心配している。この物価上昇が沈静化するまでは金利の引き下げは見送らざるを得ないが、もしこの先レアルの切り下げに飛び火して物価上昇とのスパイラルが見え始めれば、逆に金利を引き上げる必要が生じるかもしれない。いずれにしても、昨年後半に10%ポイントSELIC金利を引き下げたのは、その前の1年のオーバーシューティングの調整に過ぎなかったが、ここから先は安易な金融緩和はインフレにつながりやすいので慎重な対応をとるものと思われる。
(出所)中央銀行。物価IPCAはIBGE

2004年1月の貿易収支は輸出が58億ドル、輸入が42億ドルで、16億ドルの貿易黒字を記録し、輸出が好調であった昨年の1月の実績(輸出48億ドル、輸入36.5億ドル、貿易黒字11.5億ドル)を上回った。昨年12月の実績(輸出67.5億ドル、輸入40億ドル、貿易黒字27.5億ドル)は下回っているが、全体的に休暇をとることが多いこの時期としては自然な現象といえる。ブラジル政府は、狂牛病や鳥インフルエンザなどの影響により国際的に畜産貿易が混乱しているなかでそれらの要因の影響を受けていないブラジルの貿易黒字を拡大させる影響があると予測している。

1月には大規模なドル買い介入が行われた結果、外貨準備が1月初めの491億ドルから月末までに533億ドルに増加し、現在もその水準を維持している。政府は今年の4月に30億ドルのグローバルボンドの償還、6月に13億ドルのローンの償還を予定しており、これらを借りかえるのかあるいは償還してしまうのか不明であるが、大規模な資金移動に備えた外貨準備の積み増しが行われたと見ることができる。

政治状況

ディニス事件

大統領府の国会対策次長でルーラ政権の決定をすべて取り仕切っているスーパーミニスター、ジョゼ・ディルセウ文官長の腹心であり、1月の閣僚再編で文官庁政治調整担当大臣補佐官に抜擢されたヴァウデミロ・ディニスが2002年のヤミの宝くじ(ジョゴ・デ・ビショ)を運営するカルロス・アウグスト・ラモス(通称カルリニョス・カショエイラ)との面会時に労働者党への選挙資金の献金と自分自身への賄賂を要求しているシーンをビデオテープに撮られ、これがメディア最大手グローボ・グループのニュース雑誌エポカに持ち込まれた。連邦警察と検察庁はすでにこの件について調査に入っており、ディニスの自宅から書類を押収した。法務省はディスが大掛かりな麻薬組織のマネーロンダリングにも関わっている疑惑をほのめかしている。ディニスはすでに解任されている。

ディニスは当時労働者党所属のベネジッタ・ダ・シルバ・リオデジャネイロ州知事の下で州の宝くじ公社の社長を務めていた。その職務権限を利用した疑いが持たれている。ラモス氏は10万レアルを献金し、この金はブラジリアの州知事戦を戦うゲラウド・マジェラ候補の選挙資金となった。

野党はこの件につき、上院に国会調査委員会を設置するように署名を集めている。PTとPMDBはこれを拒否する構えである。この問題でCPIが設置されれば国会審議は大幅に遅れることが予想され、改革のアジェンダが足踏みすることになる。金融市場では早速こうした懸念が広がって、ブラジルのソブリン債価格、サンパウロ証券取引市場指標ボベスパがともに下落、ドルはレアルに対して上昇している。先月から物価上昇率が高めに推移していることが懸念されているが、中銀の金利据え置き決定は政治的不安定さが高まったことを警戒した結果と受け止められている。

もし今回の不正事件にディルセウ大臣自身が関与しているとすれば、当然彼の辞任要求が出てくるし、ルーラ政権への政治的打撃は計り知れない。一説にはディルセウ大臣はすでにルーラ大統領に進退伺いを提出したといわれているが、官邸サイドはディルセウ大臣の辞任の可能性を完全に否定し、ディニスの文官庁任官中の行状について内部調査を行うことを約束した。ただし、この調査には今回問題になっている2年前の問題については含まれない。リオデジャネイロ州議会は独自に調査委員会を設置し、ディニス事件の実態調査に乗り出すことを決定した。

憲法第58条の規定によれば、CPI(国会調査委員会)は「下院および上院の議員の3分の2の要求によって(上下院)合同または単独で設置され、必要な場合、違反者の民事及び刑事責任を追求するために、その結論を検察庁に送付する」とある。上院ではすでにビンゴ賭博に関するCPIの設置に十分なサインを集めており、そこでディニス事件も審議される可能性がある。一方PSDBはディニス事件専門のCPIを設置すべきだとして、同意を募っている。

粉飾決済が明るみになって破綻したイタリアの食品メーカー・パルマラットはブラジルにも現地法人を有し、乳製品市場で大きなシェアをもっている。ブラジル国会はパルマラットのブラジル法人の状況について調査委員会を設置する予定である。三井住友銀行はパルマラットのブラジル法人の債権者のひとつであり、資産保全の目的から1月に裁判所に同社がブラジルに保有する資産の売却と海外への送金を禁止するように訴訟を起こし、サンパウロ民事法廷はパルマラットブラジルの取締役会を強制解任し会社更生に向けて介入した。イタリア政府が任命した仲介人エンリコ・ボンディは「もしパルマラット・ブラジルが倒産することがあれば、その責任を負う三井住友銀行を訴える」という手紙を三井住友銀行宛に送りつけた。三井住友銀行はブラジル当局がパルマラットに介入したことと同行の関係を否定している。


臨時国会閉幕

1月から2月初めにかけて召集された臨時国会では、下院で麻薬対策新法とバイオ・セーフティに関する法律、および新電力政策が可決され上院に送られた。また、上院からまわされた社会保障と税制の追加改革法案(憲法改正案)が所定の委員会における審議を開始した。

麻薬対策新法では、麻薬の使用者に対しては監獄よりも更正施設で社会復帰を促すような社会奉仕活動や雇用促進プログラムを適用する一方で、ドラッグの生産、流通、金融などに関わったものに対する罰則を強化することとした。バイオ・セーフティ法は、遺伝子組み換え技術を扱う組織を登録制とし、正確な情報提供と事故防止・検査の体制作りの義務付けと、違反者への罰則規定を明確にした。また遺伝子組み換えの種子の販売には1.5%の税金を課し、これをバイオセーフティ研究を支援する基金(FIDBIO)の財源とする。注目された今年の植え付けに限って認められた遺伝子組み換え大豆の認可を2004年作付けまで延長した。

新電力法は、電力流通取引所(CCEE)を設立して、これまでの電力卸売市場を廃止する。今後の新規電力供給契約期間は35年間とする。既存の契約が今後満了する際には、20年間延長することができる。2001年に発生したような電力危機が発生し、電力供給契約が果たせない場合は、それは発電業者の責任となり、罰金の対象ともなりうる。電力料金は大口需要家向け料金が上昇し、一般家庭向けが低下する。税金の滞納や銀行への債務返済遅延が生じている電力会社は電力料金を改定する権利を失う。これまで、独立行政法人の電力庁(ANEEL)に委譲されていた権限がエネルギー省に再吸収される。それらは、事業の監督権、新規コンセッションを付与する権限、などを含む。これまで民営化計画に含まれていた電力公社系の発電・送電会社(FURNASやCHESFなど)を民営化計画から正式に外す。これらの公社の新規投資を認可する。政府は電力部門における政府の役割を拡大するが、民間投資家へのコンセッションも開いていくという。このあたりがいったいどの程度政府が介入するつもりなのか、またこれまでのルールで投資した既存の民間事業者と新しいルールで参入する業者との関係をどうするのかなど、不透明な点が残されている。電力料金の引き上げが予想される電力集約型産業(アルミニウムなど)では、一部撤退を表明する企業もある。


今年度国会の政治的課題

臨時国会の閉幕に引き続いて2月中旬に本年度国会が開幕し、ルーラ大統領は国会に向けた演説で、次のような今年の優先プロジェクトを明らかにした。

1.社会計画

さまざまな社会計画(Fome Zero、Bolsa Escolaなど)の統一。制度強化。予算拡充。省庁間の協力強化。1月の省庁改変で社会補助省、食料保障貧困撲滅特別省、家族基金を統合して社会開発貧困撲滅省を設立し、前ベロオリゾンテ市長のパトゥルス・アナニアス下院議員(PT)を大臣に任命した。
飢餓撲滅計画(Programa Fome Zero)はさまざまな活動を総称するものとして、拡充する。現在の活動の幅はおおむね次のとおり。

  • 大衆レストラン
    リオデジャネイロのNGO活動家ベチーニョのイニシアティブで中央駅に1レアルで昼食を食べられるレストランを作ったのがモデルとなって、全国に広まった。最近では市の財政援助を受けている場合が多い。コミュニティ規模の食堂としてコミュニティ・キッチンも各所で設置されている。幼稚園、保育園、先住民学校を中心とした子供たちへの給食の配給も実施している。

  • 基礎食糧の配給
    飢餓の危機にあるコミュニティへの食料配給。とくに土地なし農民キャンプ、先住民村、キロンボ(かつての逃亡奴隷が形成した村)への基礎食品の配給。小農から優先的に(場合によっては代金先払いで)農産物や牛及びヤギの乳を買い上げ、飢餓のリスクに直面している人々に配給する。旱魃危険地域に貯水池を造成し、水の配給制度を整備する。企業、個人からの献金および食料の寄付を募っている。

  • 家族基金(ボルサ・ファミリア)
    2003年に学童基金(ボルサ・エスコラ)、食糧補助、ガス助成金、食糧カードの4つの生活扶助制度を統合した貧困家庭への所得補助。政府の報告によれば現在5461の市で実施され、受益者家庭の数は360万に達した。受給資格は、家族一人あたりの月間所得が50レアル以下の家庭か、あるいは100レアル以下で16歳以下の通学中の子供が居る家庭。支給額は基本額として家族構成に関わらず1家庭あたり月間50レアル、通学中の子供1人あたり15レアル(3人まで)。したがって、1家庭あたり最高95レアルとなる。州や市が協賛して追加支給する場合もありうる。受給者家族は定期的に健康診断を受けること、子供は通学すること、家庭の栄養に関する研修を受講することの3つの義務を負う。正式登録の無い人は補助の対象とできないので、出生登録をしていない人々の再登録をNGOと協力して進めている。


2.司法改革

司法の外部評価委員会を設置する。政府案では国会が任命することになっているが、コレア最高裁長官は政治の介入が強まることを懸念し、判事・弁護士協会(OAB)、検察庁の合議によりメンバーを決めることを提案。

3.労働改革(全国労働フォーラムFNTで協議した結果。大統領に答申)

    (1)労働者個人が自由に組合を選べるようにする。現在1企業で業種別に1つの組合が代表する(例・サンパウロ州の秘書の労働組合、ミナスジェライス州の金属工の労働組合)

    (2)労働組合税の廃止。労働者が自分が選んだ組合に自発的に組合費を払う。現在は1年に1度3月の給与の30分の1を支払う。企業は労働者の給与から天引きし自社の労働者が属している組合の口座(労働省に登録されている)に振り込む。最終的には労働組合がこの6割を取り、2割を労働省に納め、2割をこの組合が属している州や全国の上部組織に収める。

    (3)労働協約の交渉手順の変化

    現在:毎年給与調整を含め労働協約を見直す。改定前に労使交渉を行う。合意に達しなければ、どちらでも一方的に労働裁判所に調停を依頼することができ、裁判所の決定がルールとなる。


改正案:労働協約は項目ごとに改定の時期を設定できる(必ずしも毎年全面見直しする必要が無い)。改定の時期が来たら、労使交渉を行う。改定期限が来ても前の協定を延長して交渉を続ける。交渉を拒むと、使用者側は罰金を課され、組合側は労働者を代表する権利を失う。双方の合意に基づいてのみ外部機関の調停を依頼できる。調停を依頼するのは労働裁判所でも民間の中立的な弁護士でも良い。調停結果は労使双方が受け入れなければならない。
(これらはほぼ労働組合側の意向に沿ったもの。雇用者側の理解は得られていない。)

4.政治改革

当選後の党籍変更の規制や選挙資金の規正、比例名簿方式選挙の改正をおこなう。

世界銀行は5億ドルのプログラム・ローン供与を決定。ユーロ建てで、一括実行。返済期間は14年で当初4年間は猶予期間とする。輸送インフラ、金融セクター強化、研究開発支援など、生産の効率性を上げるプロジェクトであれば多様な使途が認められる。




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