文字サイズ

標準
国・テーマ インデックス
研究活動のご紹介

ベトナム共産党第12回党大会:政治報告と主要人事

アジアの出来事

新領域研究センター 石塚 二葉

PDF (502KB)

2016年4月
1.はじめに

ベトナム共産党第12回全国代表者大会(党大会)は、2016年1月21日から28日にかけて、450万人の党員から選ばれた1510人の代表の参加により、ハノイの国家会議センターで開催された。

党大会は、ベトナム共産党の最高機関であり、5年に一度開催される。党大会の主要な任務は、前回の党大会決議の実施結果の評価を行い、今後5年間の党・国家運営の基本となる方針、政策を決定すること、および党の最高指導機関である中央執行委員会(中央委員会)を選出することである。これらの評価や決定は、前期の中央委員会が準備する政治報告や経済社会発展5カ年計画などの党大会文献草案や人事案にもとづく討議、採決という形で行われる。

第12回党大会では、まず1月21日午後から23日にかけて、党大会文献草案の検討が行われた。24日からは人事に焦点が移り、まず第12期中央委員会の選出基準や構成について、次いで第11期中央委員会が準備した第12期中央委員候補者名簿に関して討議が行われた。中央委員候補者名簿は、いくつかのプロセスを経て、議場から推薦された候補者を補充した後、25日に確定された。この確定した名簿にもとづいて26日に投票が行われ、投票結果は即日公表されて、第12期中央委員会が成立した。27日には、成立したばかりの第12期中央委員会が第1回総会を開き、政治局、書記長、中央検査委員会などを選出し、28日、選出結果を大会に報告した。同日、大会は、第12回党大会決議を全会一致で採択し、閉幕した。

19人の第12期政治局員の党務分担は2月初めから順次正式に決定された。党大会の結果に伴う主要国家機関人事の刷新については、当初は、5月に行われる国会議員選挙により選出される第14期国会の第1回目の会期(7月)において実現するとみられていたが、前倒しされて、第13期国会の最後の会期(3~4月)に行われた。その結果、国家主席、政府首相、国会議長らの顔ぶれも、既に党大会の結果に沿って一新されている。

党大会文献および人事のより詳細な分析を行うにはさらなる情報収集が必要となるが、本稿では、第12回党大会で基本的に承認された政治報告および第12期党指導部人事の概要を紹介し、若干の解説を試みることとしたい。

2.政治報告

(1)政治報告の構成と内容

政治報告は、内外の客観的情勢およびそのなかでの前回党大会決議の実施状況を評価し、今後5年間の政治や経済、外交の基本方針を示す文書である。まずは第12回党大会の政治報告の表題および構成をみていくこととする。

【政治報告の表題および構成】
「清廉で強靱な党建設を強化し、全民族の力と社会主義民主を発揮し、ドイモイ事業を全面的、一体的に推進し、祖国を堅固に防衛し、平和・安定的な環境を堅持し、早期にわが国を基本的に近代的な工業国にするために努力する(第12回党大会における第11期中央委員会の政治報告)」

  1. 第11回党大会決議実施の結果の評価(2011-2015年)およびドイモイの30年の評価(1986-2016年)
    1. 第11回党大会決議の実施結果の総括的な評価:原因と経験
    2. ドイモイの30年の評価(1986-2016年)
  2. 2016-2020年の国家発展総括目標、任務
    1. 今後数年間の世界およびわが国の状況の予測
    2. 今後5年間の国家発展総括目標および任務
  3. 成長モデルの刷新、経済の再編;国家の工業化、近代化の推進
  4. 社会主義志向市場経済の制度整備および発展
  5. 教育、訓練の基本的かつ全面的刷新;人材の育成
  6. 科学技術の発展と応用
  7. 文化、人間の建設、発展
  8. 社会の発展管理;社会的進歩、公平の実現
  9. 資源管理の強化;環境保護;主導的な天災の被害予防、気候変動への対応
  10. 新しい状況における国防、安全保障の強化、社会主義ベトナム祖国の堅固な防衛
  11. 対外活動の効果向上、主導的で積極的な国際統合
  12. 全民族の大団結の力の発揮
  13. 社会主義民主の発揮、人民の主人となる権利の実現の確保
  14. 社会主義法権国家の建設および完成
  15. 清廉で強靭な党建設、党の領導能力および闘争力の向上
第12回大会任期における6つの主要任務
以上を2011年の第11回党大会における政治報告の表題や構成と比べると、概ね同様の文言や章立てが用いられているが、それぞれの項目への力点の置き方の変化や新たに加わった文言などに、昨今の国内外の諸情勢や党指導部の姿勢を反映した今党大会の特色が表れている。政治報告の表題および本文の構成の変化から読み取れる今党大会の特色としては、以下のような諸点が指摘できる。
  • 第11回党大会の政治報告の表題が「党の領導能力、闘争力を引き続き向上させる」という文言で始まっていたのに対し、第12回党大会の政治報告では「清廉、強靭な党建設の強化」を第一に掲げており、第11期中央委員会第4回総会決議にもとづいて進められてきた党建設、党内の綱紀粛正が引き続き党指導部の最優先課題と位置づけられていることを示している。本文中でも、「XV. 清廉で強靭な党建設、党の領導能力および闘争力の向上」の章は、分量的に、各論部分であるIII~XVまでの部分の4分の1強を占めている。「党建設」の内容については後ほど改めて触れる。
  • 第11回党大会の政治報告の表題では「全民族の力の発揮」となっていた部分に、第12回党大会の政治報告の表題では「社会主義民主」の文言が加えられている。「XIII. 社会主義民主の発揮……」の章においては、近年の成果として2013年の憲法改正およびそれに伴う一連の法改正による人権規定の拡充などを挙げ、また今後の方針、任務として、党・国家の政策、法律、決定等に関して国民の意見を聴取することや、「人民が知り、人民が議論し、人民が行い、人民が検査する」という方針を制度化、実施することなどを定め、「民主」重視の姿勢を示している。他方、民主を利用して政治的安定、社会秩序を損なう行為には厳格に対処するなど、民主の発揮に伴う規律の強化の必要性にも留意していることは従来通りである。
  • 第11回党大会の政治報告の表題では「ドイモイ事業の全面的な推進」であった部分に、第12回党大会の政治報告の表題では「一体的(đồng bộ:歩調を合わせる)」の文言が加えられている。「II. 2. 今後5年間の国家発展総括目標および任務」などをみると、ここで特に「一体性」が必要とされているのは「経済分野および政治分野の刷新」のようである。「I. 2. ドイモイの30年の評価(1986-2016年)」の項では、30年間のドイモイ実施の限界、欠点のひとつとして、「政治の刷新は経済の刷新と一体性を欠いている;政治システムの能力および活動の効果はその任務に適っていない」ことが指摘され、30年の経験から得られる5つの教訓のひとつとして、「(党は)恒常的に自ら刷新し、綱紀を正し、党の領導能力および闘争力を高めなければならない;任務に適した十分な能力と品性を有する幹部、特に戦略的レベルの幹部を養成する;国家、祖国戦線、各政治社会組織、および全政治システムの活動の効力、効果を向上させる……」ことが挙げられている。そうであるとすれば、これもまた「党建設」と密接に関連しているようである。
  • 第12回党大会の政治報告の表題では、新たに「祖国の堅固な防衛、平和・安定的な環境の堅持」の文言が加わった。これは、従来から指摘される「和平演変」(武力を用いずに社会主義体制を転覆させること)の危機が依然として継続しているという認識に加え、主として、近年ベトナムにとって最大の外交上の課題となっている南シナ海(ベトナム語では東海)における領有権問題を背景として、党の祖国防衛に対する強い決意を表したものと思われる。「X. 新しい状況における国防、安全保障の強化……」の章では、「相違や紛争を、国際法の尊重にもとづき、平和的に解決する」ことや「早期に戦争、衝突の危機の予防措置を講じる」ことなどに言及する一方、「新しい状況の下で祖国防衛の必要に応じるため」、国防、安全保障能力の増強、装備の近代化などを行うこととしている。
  • 第11回党大会の政治報告の表題では、「2020年までにわが国を基本的に近代的な工業国にするための基礎を築く」こととされていたが、第12回党大会の政治報告の表題では、「2020年」という具体的な時期の明示がなくなり、この点に関しては、経済発展の実態を踏まえ、より現実的で控え目な表現となった。代わって本文中では、新たな目標として、「IV. 社会主義志向市場経済の制度整備および発展」の章で、「2020年までに、近代的な市場経済および国際統合に普遍的な標準に従って、社会主義志向市場経済の一体的な制度システムを基本的に完成するよう努力する」ことが掲げられている。
  • 本文の構成を見ると、第11回党大会の政治報告では各論部分がIII~XIIの10章に分かれていたのに対し、第12回党大会の政治報告ではIII~XVの13章となっている。具体的には、第11回党大会の政治報告の「V. 教育訓練、科学技術、知識経済の発展、環境保護」が、第12回党大会の政治報告ではV、VI、IXの3つの章に分かれ、また、前者の「X. 社会主義民主および全民族大団結の力の発揮」が後者ではXIIとXIIIの2つの章に分かれたことによる。

「今後5年間の総括目標」および政治報告末尾に掲げられた「第12回大会任期における6つの主要任務」でも、表題で挙げられた諸分野が主として取り上げられている。

【今後5年間の総括目標】

  • 清廉で強靭な党建設を強化し、党の領導能力および闘争力を向上させ、強靭な政治システムを建設する
  • 全民族の力および社会主義民主を発揮する
  • ドイモイ事業を全面的、一体的に推進する;経済を急速かつ堅固に発展させ、早期にわが国を近代的な工業国にするために努力する
  • 人民の物質的、精神的生活を向上させる
  • 祖国の独立、主権、統一、領土を堅固に防衛するために断固として戦い、党、国家、人民および社会主義制度を防衛する
  • 平和、安定を維持し、国家の発展のために主導的、積極的に国際統合を進める
  • 地域および世界におけるベトナムの位置づけおよび威信を向上させる

【第12回大会任期における6つの主要任務】

  1. 党建設、綱紀粛正を強化する;政治思想、道徳、生活に関する退化、内部の「自演変」「自転化」 1 を防止する。任務に応じた十分な能力、品性、威信を備えた幹部、特に戦略的レベルの幹部の養成に集中する。
  2. 無駄がなく、効率的、効果的に活動する政治システム全体の組織機構を建設する;汚職、濫費、官僚主義撲滅の戦いを推進する。
  3. 成長の質、労働生産性、および経済の競争力を向上させる方策の実現に集中する。3つの戦略的突破口(社会主義志向市場経済制度の整備;教育、訓練の根本的、全面的な刷新、人材、特に質の高い人材の育成;インフラシステムの一体的な建設)を引き続き実現する;成長モデルの刷新と密接に結びつけながら経済を全体的、一体的に再編する;国家の工業化、近代化、特に新農村の建設と密接に結びつく農業、農村の工業化、近代化を推進する。国有企業の再編、国家予算の再編、不良債務の処理および公的債務の安全確保の問題の解決を重視する。
  4. 祖国の独立、主権、統一、および領土防衛のため、断固として戦う;国家の発展のため、平和的、安定的な環境を維持する;国家の安全保障、社会の秩序、安全を確保する。対外関係を拡大、深化させる;新しい条件のもとで、好機を利用し、困難を乗り越え、国際統合の効果を実現し、国際的な場での国家の位置づけと威信を引き続き向上させる。
  5. 人民の力と創造力を強力に吸収し、発揮させる。物質的、精神的生活の向上に配慮し、差し迫った問題を解決する。社会発展の管理を強化し、社会、人間の安全保障を確保する;社会福祉を確保し、社会福利を向上させ、確実に貧困を削減する。人民の主人となる権利および全民族の大団結の力を発揮させる。
  6. 社会生活の各分野において人間の要素を発揮させる;道徳、人格、生活、知恵、および労働能力に関する人間建設に集中する;健全な文化環境を建設する。

(2)「党建設」について

以上のように、表題、総括目標、主要任務のいずれにおいても最も優先的に取り上げられているのが「党建設」である。そこで、以下では、本文中の「党建設」の章の内容を若干敷衍して検討してみたい。

ここでも第11回党大会の政治報告と比較してみると、それぞれの該当章に規定された党建設の「方向性、任務」は以下の通りである。
【党建設に関する方向性、任務】
【党建設に関する方向性、任務】

「清廉で強靭な党建設」の強調からは、一見、党建設の最大の眼目が汚職撲滅であるかのような印象を受ける。実際、第12回党大会の政治報告のひとつの新しい点は、それまでの政治報告が汚職の問題を主として国家に関する章の中で取り上げていたのに対し、これを党建設の章の中で重点的に扱っているところにある。

このことは、改善が進まない汚職の問題に、党指導部が自らリーダーシップをとって取り組もうとする姿勢を反映していると考えられる。2005年の汚職防止法によって、政府の下に、政府首相を長として設立された中央汚職防止指導委員会は、2012年に改組され、党政治局直属の機関として、党書記長が長を務めることとなった。第11期党指導部のもとでは、不正行為を行った容疑で国営企業や銀行幹部の逮捕、訴追が相次ぎ、汚職の罪による死刑判決も下されている。

このような取り組みの背後にあるのは、汚職の蔓延などの問題が、党の支配の正統性を低下させているという危機感である。現在の綱紀粛正運動の根拠となっている2012年の第11期中央委員会第4回総会決議は、党建設に関する差し迫った問題の第一として、指導的地位にある党員、高級幹部までを含む一部の党員が、政治思想、道徳、生活において退化し、理想の喪失、個人主義、機会主義、名声や富の追求、汚職、濫費等の問題を生じていることを挙げ、これらの問題は、党に対する国民の信頼を低下させ、ひいては党の指導的役割の障害となり、体制の存亡にも関わると述べている。

他方、第12回党大会の政治報告では、「汚職、濫費撲滅」が「国民動員工作の刷新……」とともに新たに「XV. 清廉で強靱な党建設……」の章の中の一項目となったものの、同章全体におけるその位置づけは、10項目中9番目と必ずしも高くない。上記の第4回総会決議の文言をみても、同様のことがいえる。ここでは、汚職の問題は、党員の政治思想や道徳、生活における退化の表れである現象のひとつと位置づけられている。そうであるとすれば、党建設イコール汚職撲滅と捉えるのは狭きに失するおそれがある。党建設の主たる目的は、より根本的に、幹部、党員を政治的、思想的に堅固にし、革命的道徳を強化することなどを通じて、個人主義、機会主義、汚職、「自演変」、「自転化」などの様々な消極的現象を防止、抑制することであると捉えるべきであろう。

それでは、汚職以外にどのような「政治思想、道徳、生活における退化」に起因する現象が現実に問題となっているのだろうか。

近年注目されるひとつの新しい動きとして、従来、内部からの体制改革を模索してきた一部の党員達が、党員の資格を有したまま、インターネットなどを利用して、体制改革の議論を外部へ向けて発信し始めていることが指摘できる。2013年、憲法改正草案に対する国民からの意見聴取が行われた際に、党内の改革志向の知識人ら72人のグループが、共産党の一党独裁の根拠となっている憲法第4条撤廃の提案を含む建議書を憲法起草委員会に提出した。同建議書はインターネット上にも掲載され、1万4000を超える賛同の署名を集めたという。このような動きに対し、グエン・フー・チョン党書記長は「誰が党の指導的役割を否定するのか?……これは(政治思想的、道徳的)退化以外の何ものでもない」と不快感をあらわにした。しかし、同様の批判的意思表明はその後も繰り返され、第12回党大会直前にも、党大会文献草案を批判し、書き直しを求める公開状が公表されている。

「マルクス・レーニン主義、ホーチミン思想を堅固にし、ベトナムの実情に合わせて創造的に運用、発展させる」(「1. 政治に関する党建設を重視する」冒頭部分)ことに始まる現行の「党建設」運動が目指すものは、ひとつにはこのような「逸脱」を防止、抑制すべく、党内のイデオロギー的引き締め、結束の強化を図ることであると考えられる。「清廉な党」を掲げているからといって、たとえば、中国の習近平政権による汚職撲滅キャンペーンのような取り組みがベトナムでも展開される可能性があるかといえば、少なくとも第12回党大会の政治報告からはそのような動きは予測できない。党内の結束を損なうようなラディカルな動きはむしろ想定しがたいように思われる。

3.党指導部人事

党指導部人事は、常に党大会における最大の関心の的のひとつであるが、第12期党指導部選出のプロセスはこれまでになく注目を集め、また複雑な展開を見せた。以下ではまず、党指導部選出プロセスについて概説し、次いで選出された新指導部の顔ぶれを紹介する。

(1)党指導部選出プロセス

党大会における新指導部選出の準備は、まず前期中央委員会による選挙の指針や規則、中央委員候補者名簿案の作成などの作業から始まる。第11期中央委員会は、2015年10月の第12回総会、同年12月の第13回総会において中央委員候補者名簿案について討議、採決を行ったが、中央委員候補者のうち、「四柱」といわれる政治局の4つの最高職位(党書記長、国家主席、政府首相、国会議長)の候補者については第13回総会までに結論が出なかった。そこで、第11期中央委員会は、2016年1月に第14回総会を開催してさらに検討を重ね、最終的には「四柱」の候補も確定した。

この段階で、第11期党書記長のグエン・フー・チョンが第12期党書記長候補として推薦されることが確定した(すなわち、ほぼ再任が確定した)。このことには二重の意外性があった。ひとつには、チョンが72歳という高齢で党書記長候補に選ばれたことである 2 。チョンは第11期党書記長就任時に既に67歳であり、政治局員の再任の場合の年齢制限が原則として再任時点で65歳以下であることからみても、当初から1期限りの在任であると予想されていた。もうひとつは、第12期党書記長の有力候補とみられていたグエン・タン・ズン 3 の引退が確定的になったことである。政府首相を2期務めたズンは、第12回党大会時点で67歳であり、党書記長候補に選ばれなかった時点で、第11期中央委員会が推薦する第12期政治局員、中央委員候補の名簿にも含まれないこととなった。

党大会における選挙手続きについては、2014年5月の第11期中央委員会第9回総会で党内選挙規則が改正されている。主な改正点は、第10回党大会以来認められてきた、大会出席者が議場において中央委員候補の追加的推薦や自薦を行う権利を制限し、前期中央委員会が推薦する候補者名簿に含まれない前期中央委員は、議場において中央委員に立候補することも推薦を受けることもできないとされた点である。この規定が額面通りに適用されれば、第11期中央委員会の推薦する第12期中央委員候補者名簿に含まれなかったズンは、党大会の開催前に既に引退が確定したことになる。しかし、党大会開催直前になって、この選挙規則は、名簿作成に携わる前期中央委員会や政治局の権限を強化して大会の権限を弱めるものであり、民主的でないという批判が持ち上がった。これに対し、党指導部は、「党大会に参加する第11期中央委員以外の代表は、従来通り、中央委員候補者を追加的に推薦することができる;ただし、第11期中央委員会が推薦する第12期中央委員候補者名簿に含まれていない第11期中央委員は、推薦を受けても辞退を申請しなければならず、その申請が大会によって否決された場合にのみ、追加的に候補者名簿に掲載される」という解釈を出した。

このような解釈は、ズンが議場からの推薦により中央委員候補となり、場合によっては党書記長の座をも争う可能性を残すこととなった。実際、大会に参加した68の代表団は、第12期中央委員(正規)候補として追加的に62人を推薦し(自薦はなし)、その中にはズン首相、チュオン・タン・サン国家主席、グエン・シン・フン国会議長(いずれも肩書当時)などが含まれていた。しかし、波乱はそこまでだった。推薦を受けた者のうちズンら第11期中央委員は推薦辞退を申請し、1月25日、大会による票決が行われた結果、辞退が承認された。こうして最終的にズンの引退が確定した。

1月26日には中央委員選挙が行われ、前日に確定された中央委員(正規)候補者220人の中から180人が、予備委員候補者26人の中から20人が選出された。議場からの追加的推薦による候補者の当選者はなかった。27日には選出されたばかりの第12期中央委員会が第1回総会を開催し、政治局、書記長、書記局、中央検査委員会、中央検査委員長を選出した。第12期政治局には再任7人、新任12人を含む19人が選出された。党書記長には、第11期中央委員会の推薦を受けたチョンが、「100%に近い支持」を得て再選し、「四柱」を構成する他の3人の候補者も予定通り承認された。

党大会後、5月には第14期国会議員選挙が実施され、7月には第14期国会の第1回の会期が開かれる予定である。党大会の結果に伴う国家主席、政府首相、国会議長などの主要国家機関人事の刷新は、当初、7月の第14期第1回国会で行われる予定であったが、党大会の結果、現役国家主席や政府首相、国会議長がすべて政治局員でなくなったことから、予定を繰り上げて、3~4月に開催された第13期第11回国会で人事の刷新が行われた(ただし、国会議員であることが要件となる役職については、5月の国会議員選挙で本人が落選した場合には人事の再調整が必要となる)。

(2)新指導部の顔ぶれ

以下では、主として第12期政治局、書記局および第13期第9回国会で選出された政府の人事について概観する。なお、各表の人名の掲載順は、それぞれの出所であるウェブサイト上の掲載順に従っている。

【第12期政治局】
【第12期政治局】
(出所:党大会ウェブサイト( http://daihoi12.dangcongsan.vn/ )にもとづき筆者作成)
* 第11期政治局員の再任。
【第12期書記局】
【第12期書記局】
(出所:党大会ウェブサイト( http://daihoi12.dangcongsan.vn/ )にもとづき筆者作成)
* 政治局員による兼務。
【政府閣僚】
【政府閣僚】
(出所:政府ウェブサイト( http://chinhphu.vn/ )にもとづき筆者作成)
* 留任。

政治局員の数は19人と第11期政治局よりも3人増え、書記局員の数は9人で第11期書記局よりも1人少ない。政府閣僚の数は27人で変わらなかった。

党書記長のグエン・フー・チョンは、党理論誌編集部で編集長まで務めた後、ハノイ市党委書記、国会議長を歴任した。第11期党大会では清潔なイメージを買われて党書記長に就任し、党建設、綱紀粛正を中心課題として党内改革を推進してきた。路線としては中国寄りの保守派という印象が強いが、2015年にはベトナム共産党書記長として史上初めてのアメリカ公式訪問を実現し、ベトナムのTPP(環太平洋パートナーシップ)協定参加にも積極的な姿勢をみせるなど、状況変化に対応する柔軟性も示してきた。

チョンが最終的にズンを押さえて書記長に選ばれた背景、経緯についてはまだ不明な部分が多いが、先に触れた選挙規則の改正などを含むチョン“派”の様々な工作が功を奏したという見方と、ズンの強いリーダーシップがコンセンサスを重視するベトナムの政治文化に合わなかったという見方があるようである。第11期党指導部では、かつてないほど権力抗争が表面化したことから、チョンは党がこのような状況を克服し、党内が落ち着くまで、当面の間引き続き書記長職を務めるが、5年の任期半ばで引退する意向であるという説もあり、既にその後継人事も取りざたされている。

党書記長以外の人事の全般的な特色としては、少なくとも表面上は、総じて「順当な」人事であり、指導部の若返り、女性や若年層の起用などの党の方針にほぼ忠実な人事であると思われる。国家主席のチャン・ダイ・クアンは、公安部門一筋という経歴からの国家主席就任には意外性がなくはないが、2013年、2014年に実施された国会による主要国家幹部に対する信任投票においては、2年続けて過半数の国会議員から高信任票を得ている 4 。政府首相のグエン・スアン・フックは副首相から、国会議長のグエン・ティ・キム・ガンは国会副議長からの昇進となった。両者ともに国会による信任投票では信任度が高く、特に女性として初めて「四柱」の一員となったガンは、信任投票の対象となった全主要国家幹部中、2年連続で最も多くの高信任票を得ている。

12人の新政治局員には、ゴー・スアン・リック、チュオン・ホア・ビン、チャン・クォック・ヴオンの3人の第11期書記局員や、ファム・ビン・ミン、ホアン・チュン・ハイの両副首相およびディン・ラ・タン交通運輸相、グエン・ヴァン・ビン中央銀行総裁の4人のグエン・タン・ズン政府の主要閣僚(いずれも肩書当時)が含まれる。政治局員中、72歳のチョンを除いた最年長は63歳、最年少は46歳の若さであり、来期の再任が見込める60歳以下は10人で半数を占める。女性政治局員は3人となった。地域的バランスについてみると、第12期政治局員の出身地は北部に偏っている(北部11人、中部と南部が各4人)。政府閣僚人事では、首相を除く26人中、留任が5人、次官からの昇進が11人を占める。政府閣僚の最年長は62歳のフック首相およびゴー・スアン・リック国防相であり、最年少は46歳のレ・ミン・フン中央銀行総裁である。

政治局も政府も、人数的には比較的大幅な入れ替えとなったが、今回退任となった政治局員、政府閣僚はすべて規定の年齢制限を超過しており、基本的に年齢を理由とした退任であると考えられる。激しい党内権力抗争があったにもかかわらず、党書記長を除く新指導部人事については、党派的な理由による操作が行われた形跡はあまりうかがわれない。むろん、詳細にみれば、個々の人事の背後には、退任に至ったズンら有力者との間の駆け引きや妥協もあったことと思われるが、全体としてみれば、今回の人事は、党の規則や方針に照らして説明可能な、「きれいな」人事であると評価できる。前期指導部は、党内の分裂を修復するために、原理原則を重視した、挙党一致体制を築こうとしたのではないか。新指導部が、規律のある、団結した共産党のイメージを内外に示すことができたとすれば、それこそが第1期チョン指導部による「党建設」の最大の成果ということができるかもしれない。

脚 注


  1. 「自演変」とは、幹部、党員の心の中で、資本主義的、消極的なものが、社会主義的、革命的なものに取って代わることであり、「自転化」とは、そのような変化の結果、幹部、党員の政治的観点や道徳、生活が変質してしまい、前衛、模範としての役割を果たさなくなるばかりか、党や国家に対する敵対勢力に加わるようにさえなることを指す(「共産雑誌」ウェブサイト http://www.tapchicongsan.org.vn/Home/Thong-tin-ly-luan/2013/20698/Phong-chong-tu-dien-bien-tu-chuyen-hoa-trong-can-bo-dang.aspx より。2016年4月26日参照)。
  2. 本稿では、年齢については月単位以下を考慮せず、年単位で計算する。チョンは1944年4月生まれ。
  3. ズンは、2015年1月の第11期中央委員会第10回総会で行われた党政治局員、書記局員に対する信任投票で、最も多くの「高信任」票を得たと伝えられる。
  4. 2年続けて過半数の国会議員から高信任票を得た政府閣僚は、クアンのほかにはフン・クアン・タイン国防相(肩書当時)のみである。