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インドネシア:ジョコ・ウィドド新政権の発足 ——議会との対立を乗り越えられるか——

アジアの出来事

地域研究センター 川村 晃一

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2014年12月

10月20日、7月の選挙で勝利したジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)がインドネシア共和国第7代大統領に就任した。国民の高い期待を背負うジョコウィ新大統領は、選挙公約を実現すべく、貧困層向けの教育・医療費無償化政策の実行や、その財源創出のための石油燃料補助金の削減など、素早い初動を見せている。11月に開催されたAPEC、ASEANサミット、G20という一連の国際会議にも参加し、国際社会からも温かく迎えられた。

上々の船出をはたしたとはいえ、今後の政権運営を考えると、楽観してもいられない。なぜなら、ジョコウィ政権は、「分割政府」という現実に直面せざるをえないからである。

「分割政府」とは、大統領の出身政党と議会の多数派が異なる状態のことをいう。ジョコウィ大統領の出身政党である闘争民主党(PDIP)の議席占有率はわずか20%、連立を組んだ5政党をあわせても44%にすぎない(図参照)。このような状況では、ジョコウィ大統領が自らの政策を進めるために新たに法律を作ろうとしても、議会の反対にあってたちまち立ち往生してしまう。

【図】国民議会(DPR)の議席配分

【図】国民議会(DPR)の議席配分

(出所)筆者作成。

しかも、インドネシアの政治制度は、1998年にスハルト大統領が退陣するまで40年あまり続いた強権的な権威主義体制への反省から、大統領の権限が弱められ、逆に、議会の権限が強化された。大統領は単独で法律を制定することはできないし、政府が提出した予算案のなかで、議会による修正を許さない項目もない。大統領には、議会を解散する権限もない。つまり、政策を遂行するための立法化が必要な際には、大統領は議会の同意を得るしか道がないのである。

しかも、議会で多数派を占める野党連合の結束は、予想以上に固い。大統領選でジョコウィに負けたプラボウォ・スビアント(グリンドラ党党首)は、5年後の再挑戦を狙って、ジョコウィ政権に対する攻勢をすでに開始している。国民議会の議長団ポスト(議長1名、副議長4名)は、すべて野党の手に落ちた。予算委員会や他の常任委員会の正副委員長ポストもほとんど野党に握られることになった。議会運営の主導権は、過半数を占める野党に握られており、今後の法案審議では野党の攻勢がますます強まるだろう。野党はジョコウィ政権の政策に反対するだけでなく、野党に有利な(与党に不利な)立法を進めていくとみられる。

ジョコウィ大統領が議会での支持基盤を安定させるためには、野党の切り崩しが必要である。もともと与党指向の強いゴルカル党が野党から鞍替えすれば、与党連合の議席占有率は60%に高まる。実際、野党連合を主導してきたアブリザル・バクリ党首を2015年1月の党大会で追い落とし、党の方針を与党入りに転換させようとするグループが党内にいたため、同党の動向が注目されていた。ところが、バクリ党首は、地方支部の支持を固めたうえで、党首選を行う党大会を急遽11月末に繰り上げて開催し、反バクリ派を党から追放して再選を勝ち取ることに成功した。バクリが2019年までゴルカル党党首にとどまることがほぼ確実になったことで、同党が与党入りする可能性はほとんどなくなった。

ただし、野党連合も一枚岩というわけではない。スシロ・バンバン・ユドヨノ前大統領が率いる民主主義者党は、野党の結束を最優先には考えていない。しかし、いずれにせよ、ジョコウィ政権は議会で法律を通すために野党各党と取引をしなければならない。さらに、インドネシアの議会では「多数決による採決」よりも「全会一致」(ムシャワラ・ムファカット)を優先する制度が採用されているため、法案審議では野党との調整が必須である。しかも、政党政治家としての経験を持たないジョコウィは、出身政党の党首であるメガワティ・スカルノプトゥリ元大統領(スカルノ初代大統領の長女)の意向もうかがわなければならない。

つまり、分割政府、弱い大統領、全会一致を原則とする議会審議、大統領と与党党首の不一致、といったインドネシアの制度的特徴を前提とすると、ジョコウィが実行力をもって政策を遂行できるかどうかは、議会との良好な関係を構築できるかどうかにかかっている。