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フィリピン中間選挙の概要

アジアの出来事

地域研究センター 鈴木 有理佳
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2013年5月
1. 選挙の経緯
フィリピンでは2013年5月13日に国政・地方統一選挙が実施された。本選挙は、6年ごとに行われる大統領選挙の間に実施された中間選挙である。改選対象となったのは上院の半数(12議席、任期6年)、下院(全292議席、任期3年)、州知事や市長などの地方政府の首長ならびに地方議会議員などで、全部で約1万8000議席にものぼった。

国政とくに上院の選挙戦は、ベニグノ・アキノⅢ大統領が所属する自由党を軸とした与党連合(Team PNoy)に対して、ジェジョマール・ビナイ副大統領を中心にした野党連合(United Nationalist Alliance:UNA)が挑むという構図で繰り広げられた。野党連合はビナイ副大統領とジョセフ・エストラーダ元大統領の各政党が母体である。両者は2010年大統領選挙に副大統領と大統領候補として一緒に組んで出馬した仲で、今回の中間選挙のため再び接近した。ビナイ副大統領は2016年の次期大統領選挙への出馬をすでに表明しており、今回の野党連合結成はその準備ではないかとも目された。

このように与野党の区別が一見ありながら、その実態は政策基盤や対立軸のない緩い結びつきであった。好調な経済と高支持率を維持しているアキノ大統領の影響もあって、野党側はアキノ政権を批判する材料が見当たらず、与党との違いを明確に打ち出せぬまま「建設的な野党」(野党連合幹部の発言)を自認するに止まった。そのため、争点のない選挙戦が繰り広げられた。そして、この与党連合対野党連合という構図は、上院において明確であったものの、下院や地方選挙ではほとんど明確ではなかったようである。与党連合内で別々の候補者を擁立するケースが散見されている。
本選挙の注目を集めたのは、やはり上院であった。上院選挙が注目されるのは毎度のことではあるが、今回のような中間選挙の場合、アキノ政権の信任投票という性格に加えて、次の大統領選挙を占う意味合いも持つ。憲法の規定上、大統領職は一期のみで再選はない。したがって、大統領と同じ全国区で争われる上院選挙での得票率は支持率を推し量るうえで有効であり、さらに上院議員になることは次の大統領になるためのひとつの近道でもある。ただし今回の場合、次の大統領を狙っているとされているビナイ副大統領は直接参戦せず、代わりに娘を上院議員候補として擁立した。そのビナイという名前がどこまで通用するか、そして事前調査で与党連合優位とされたアキノ陣営がどれだけ議席を確保するかが、上院選挙の焦点となった。

2. 選挙の結果
上院選挙の結果は与党連合の圧勝であった。改選12議席のうち、9議席を与党連合(Team PNoy)が占めた(下表参照)。



上院の選挙結果
当選者名 所属政党
(連合名)
得票数
(得票率)
前職
Grace Poe-Llamanzares Independent
(Team PNoy)
16,340,333
(51.8%)
新人(映画・テレビ倫理審査委員会前委員長、2004年大統領選挙に出馬した俳優フェルナンド・ポー・ジュニア.の娘)
Loren Legarda NPC
(Team PNoy)
14,942,824
(47.3%)
再選
Francis Escudero Independent
(Team PNoy)
14,137,127
(44.8%)
再選
Alan Peter Cayetano NP
(Team PNoy)
14,129,783
(44.8%)
再選
Nancy Binay UNA 13,310,851
(42.2%)
新人(私設秘書、ビナイ副大統領の娘)
Juan Edgardo “Sonny” Angara LABAN
(Team PNoy)
12,853,305
(40.7%)
新人(下院議員、アンガラ上院議員の息子)
Benigno “Bam” Aquino LP
(Team PNoy)
12,376,372
(39.2%)
新人(起業家、アキノ大統領の従兄弟)
Aquilino “Koko” Pimentel III PDP Laban
(Team PNoy)
11,846,088
(37.5%)
再選
Antonio Trillanes IV NP
(Team PNoy)
11,389,173
(36.1%)
再選
Cynthia Villar NP
(Team PNoy)
11,070,265
(35.1%)
新人(下院議員、ビリヤール上院議員の妻)
Joseph Victor “JV” Ejercito UNA 11,010,630
(34.9%)
新人(下院議員、エストラーダ元大統領の息子)
Gregorio Honasan UNA 10,620,981
(33.6%)
再選
(注) 得票数は5月21日時点のもの。得票率は投票総数31,568,679に占める割合。投票者は全候補者のなかから12人を選ぶため、得票率の合計は100%にならない。
(出所) 選挙委員会(http://2013electionresults.comelec.gov.ph/)およびPhilippine Daily Inquirerより筆者作成。


さらに上院当選者12人を詳しくみていくと、再選が6人、新人が6人であった。新人ではトップ当選したGrace Poe-Llamanzaresを除いて、他は政治家一族の出身である。Bam Aquinoはその名が示すとおり、アキノ一族である。Sonny Angaraは任期満了の父親に代わって、またCynthia Villarは同じく夫に代わって上院議員に当選した。JV Ejercitoはエストラーダ元大統領の息子である。異母兄が非改選議員のため、兄弟で上院議員となった。ちなみに再選したAlan Peter Cayetanoも姉が非改選議員のため、姉弟で上院議員である。

ビナイ副大統領の娘Nancy Binayは得票率42.2%で当選した。父親が3年前の大統領選挙で副大統領に当選した時の得票率(41.7%)とほぼ同じである。彼女は公職についたこともなく、また民間における実務経験もないことから、背後にいるビナイ副大統領の存在感を改めて見せつけたと受け止められている。

サプライズは得票率51.8%でトップ当選したGrace Poe-Llamanzaresであろう。彼女は政治家一族の出身ではなく、経験もない。事前の支持率調査ではせいぜい5~6番目で当選するのではないかと予想されていた。だが両親ともに俳優で、特に父親がフィリピン映画界を代表する俳優であったために圧倒的な知名度を誇ること、また選挙不正疑惑のつきまとう2004年の大統領選挙にその父親が出馬してグロリア・マカパガル・アロヨ候補に敗北し、そのまま年末に急逝したことから、同情票が集まったのではないかともみられている。

上院に限らず、政治家一族がその知名度と地盤を武器に当選する例が今回の選挙でも続出した。ビナイ副大統領の息子はマニラ首都圏マカティ市長に再選された。アロヨ前大統領は下院議員(パンパンガ州第2区)に、そしてその息子も別の選挙区から同じく下院議員(カマリネス・スル州第2区)に再選されている。エストラーダ元大統領はマニラ市長に選出され、同氏と内縁関係にあった妻(上院議員に当選したJVの母親)は同じマニラ首都圏のサンフアン市長に再選された。マルコス一族も健在である。マルコス元大統領夫人のイメルダ・マルコスが下院議員(イロコス・ノルテ州第2区)に再選され、娘はイロコス・ノルテ州知事に対立候補不在で選出された。息子はすでに上院の非改選議員である。そのほか、日本でも知られているプロボクサーで下院議員のマニー・パッキャオが対立候補不在で再び下院議員(サランガニ州)に選出され、その妻は同じくサランガニ州副知事に初当選した。このように、一族で国政・地方の政治ポストを多数獲得する事例は後を絶たない。こうした傾向は、選挙の度に強くなっているような印象がある。

3. 今後の議会運営
アキノ大統領が高支持率を維持するかぎり、議会運営は差し当たり順調に進むと考えられる。ただし、2016年大統領選挙が近づくにつれ、議員達の視線は国政よりも次の選挙に向けられる。そのため、来たる選挙を意識した議会運営が求められることになるであろう。

上下両院は7月末に新たな会期が始まる。そこでは議長が選出され、ほかにも副議長や委員会委員長などが決められていく。アキノ大統領の議会運営は、こうした議会要職の顔ぶれにもよる。まず下院はアキノ政権有利に動くと思われる。過去の例からみても、下院議長はほぼ間違いなく大統領陣営から選出されるであろう。また政党の凝集性が低く、移籍が容易なフィリピンでは、大統領が所属する政党に議員らが移動する傾向にある。さらには政党の枠を超えて政権を支持する側に回る場合も少なくない。3年後に再び選挙を迎える下院議員にとって、政権側についていたほうが何かと有利であるからだ。そのため、下院はアキノ政権を支持する議員が多数を占めることになると思われる。

上院になると様相が違ってくる。大統領と同じ全国区から選出されるとあって、個々の議員の独立性が強い。法案の可否でも、その法案ごとに支持・不支持の顔ぶれが違うことが当然のように見受けられる。今回の選挙では与党連合が圧勝したが、その実態はアキノ大統領の高支持率にあやかっただけという見方もあり、連合が維持される保証はない。まずは、上院議長に誰が選出されるか注目される。大統領に近い議員が議長に選出されればよいが、そうでない場合、その上院議長と協調関係を構築できるかが議会運営のひとつのカギとなろう。また多数派・少数派の構成も気になるところである。

すでに述べたように、フィリピンの大統領は再選禁止である。今後、2016年大統領選挙が近づくにつれ、有力候補者をめぐって様々な次元における政治的駆け引きが活発化すると思われる。実際、過去に何度も繰り返されてきた光景だ。アキノ大統領が後継者に誰を指名するか、またすでに出馬を表明しているビナイ副大統領をはじめ、他にも有力候補者が出てくるのか。フィリピンではそうした候補者(もしくは候補者と目される人達)の支持率調査が定期的に実施されるため、その結果をみながら議員もしくは政党間での駆け引きが行われることになるであろう。政治が賑やかになることは間違いない。その過程において、法案審議や政策執行が停滞しないか、もしくは次期選挙を意識して利益誘導型になってしまわないかが若干懸念されるところである。アキノ政権の後半戦はこれから始まる。