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マレーシア第13回総選挙の概要

アジアの出来事

地域研究センター クー ブー テック
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2013年5月
2013年5月5日、マレーシアで第13回総選挙が実施された。今回は、連邦議会下院と12の州議会の選挙が同時におこなわれた。投票した人の数は1105万人で、登録有権者の約85%に達し、マレーシア史上最高の投票率となった。

1. 下院選挙の結果

下院選挙は計222議席をめぐって争われた。与党連合の国民戦線(Barisan Nasional: BN)が133議席を獲得し,連邦政府の政権を維持することとなった。一方,野党連合の人民連盟(Pakatan Rakyat: PR)は89議席を得た(表1)。
表1 州別にみる国民戦線と人民連盟の獲得議席(下院)
州/連邦直轄領(FT) 国民戦線(BN) 人民連盟*(PR) 合計
DAP PAS PKR PR
1 プルリス 3 3
2 クダ 10 1 4 5 15
3 クランタン 5 9 9 14
4 トレンガヌ 4 4 4 8
5 ペナン 3 7 3 10 13
6 ペラ 12 7 2 3 12 24
7 パハン 10 1 1 2 4 14
8 スランゴール 5 4 4 9 17 22
9 クアラルンプール(FT) 2 5 4 9 11
10 プトラジャヤ(FT) 1 1
11 ヌグリスンビラン 5 2 1 3 8
12 マラッカ 4 1 1 2 6
13 ジョホール 21 4 1 5 26
14 サバ 22 2 1 3 25
15 ラブアン(FT) 1 1
16 サラワク 25 5 1 6 31
合計 133 38 21 30 89 222
*人民連盟は,民主行動党(DAP),汎マレーシア・イスラーム党(PAS),人民公正党(PKR)の3党によって構成されている。
出典:The Star (Star Special, Full Results, 13th General Election 2013), 7 May 2013.

2. 州議会選挙の結果

州議会選挙では、国民戦線が8州の現有政権を維持し(プルリス州、トレンガヌ州、ペラ州、マラッカ州、ヌグリスンビラン州、パハン州、ジョホール州、サバ州)、ひとつの州(クダ州)で政権を奪回した1。一方、人民連盟は、クランタン州、ペナン州、スランゴール州の州政権を維持した(表2)。今回、選挙が実施されなかったサラワク州では、国民戦線が州政権を握っている。サラワクでは2011年に州議会選挙が実施され、国民戦線が55議席、人民連盟が15議席、無所属が1議席を獲得した。

表2 州議会選挙における国民戦線と人民連盟の獲得議席
  国民戦線
(BN)
人民連盟(PR) 合計
DAP PAS PKR PR
1 プルリス 13   1 1 2 15
2 クダ 21 2 9 4 15 36
3 クランタン 12   32 1 33 45
4 トレンガヌ 17   14 1 15 32
5 ペナン 10 19 1 10 30 40
6 ペラ 31 18 5 5 28 59
7 パハン 30 7 3 2 12 42
8 スランゴール 12 15 15 14 44 56
9 ヌグリスンビラン 22 11   3 14 36
10 マラッカ 21 6 1   7 28
11 ジョホール 38 13 4 1 18 56
12 サバ 48 4   7 12* 60
  合計 275 95 85 49 230 505*
*PRの友党であるサバの地方小政党の獲得議席(1議席)を含む。
出典:The Star (Star Special、 Full Results、 13th General Election 2013)、 7 May 2013.

3. 留意点

(1) 与野党の差
第13回総選挙の実質は、上述した結果よりも接戦であった。というのも、得票率をみると人民連盟が国民戦線よりもかなり多くの票を得ている。下院選挙では、人民連盟が50.87%の票を得たのに対し、国民戦線の得票率は47.38%だった。

しかし、これまでの選挙と同様に、恣意的に区割りがなされた小選挙区制のために、国民戦線が不釣り合いに高い占有率を記録した(表3)。


さらに、国民戦線は12の州議会選挙のうち九つを制したが、各州議会議席の総計505のうち275議席(54.5%)しか得ていない。一方、人民連盟は計230議席(45.5%)を獲得しながら、三つの州政権しか得られなかった。
表3 下院選挙における与野党の得票率・議席数・占有率(1959年~2013年)

選挙年
与党連合
(連盟/国民戦線)
野党 定数
得票率(%) 議席数 占有率*(%) 得票率(%) 議席数 占有率*(%)
1959 51.7 74 71 48.3 30 29 104
1964 58.5 89 86 41.5 15 14 104
1969 49.3 92 64 50.7 51 36 143
1974 60.7 135 88 39.3 19 12 154
1978 57.2 130 84 42.8 24 16 154
1982 60.5 132 86 39.5 22 14 154
1986 55.8 148 84 41.5 29 16 177
1990 53.4 127 71 46.6 53 29 180
1995 65.2 162 84 34.8 30 16 192
1999 56.5 148 77 43.5 45 23 193
2004 63.8 198 91 36.2 21** 9 219**
2008 51.4 140 63 48.6 82 37 222
2013 47.4 133 60 50.9 89 40 222
*小数点以下四捨五入。**無所属議員1人を含む。
出典:Suruhanjaya Pilihan Raya (Election Commission)、 Election Report、 various years; The Star (Star Special、 Full Results、 13th General Election 2013)、 7 May 2013; Tommy Thomas、 ‘BN is effectively a minority government’、 Malaysiakini、 May 10、 2013、 www.malaysiakini.com/news/229692 (accessed May 10、 2013.)

(2) 「二大政党連合制」に向けた進展
2008年の前回総選挙以来2、民主行動党(DAP)と汎マレーシア・イスラーム党(PAS)、人民公正党(PKR)は、イデオロギー面で相容れないのではないかとの疑いや政権からの厳しい圧力に晒されたにもかかわらず、政党連合として団結してきた。人民連盟の結束の強さは、団体登録官(Registrar of Societies)がDAPの現執行部の承認を拒否した際に、同党がPASとPKRの党シンボルを借りて選挙に挑む用意があると言明したことによく表れている。団体登録官の執行部承認拒否の姿勢は、選挙公示日の2日前に公式に示され、DAPの候補にとっては立候補の届け出にあたり党のシンボルを用いることにリスクがあった3。この問題では、結局団体登録官がDAPに対して党のシンボルの使用を認めることになったが、結果的にDAPとPKR、PASの協力が広く支持されることとなった。

加えて、さまざまな理由により、下院選と州議会選挙の双方において従来よりもかなり多くの無所属候補が出馬した。しかし当選者はなく、勝ったのは国民戦線と人民連盟のみであった。

このように、人民連盟の運営実態においても有権者の認識においても、「二大政党連合制」はすでに存在している。

(3) 社会経済的変容のインパクト
第13回総選挙で示された国民戦線への異論のなかでは、ポピュリストの都市中間層が民族の垣根を越えて訴えた、汚職や透明性の欠如、脆弱なガバナンス、民族差別制度、および右翼の自民族中心主義、宗教官僚の自宗教(イスラーム)中心主義に対する不満の声が目立った。こうした不満は、2007~8年頃から高まりを見せはじめ、拡大するソーシャル・メディアに支えられてさまざまな社会運動へと結実した。またこの不満の高まりは、今回の選挙で人民連盟が国民戦線を破って中央政権を奪取するのではないかという、政権交代に対する未曾有の期待をもたらした。都市部選挙区の人口的・民族的構成の変化に根ざしたこれらの社会政治的発展の多くは、過去40年間の構造的経済変容と新経済政策4の社会工学、都市化の進展によってもたらされたものである。

(4) 政府の争点
第13回総選挙は、国民戦線を率いるナジブ・トゥン・ラザクにとって、アブドゥラ・アフマド・バダウィから首相の座を引き継いで以来、初めての選挙であった。第13回選挙の結果は、ナジブ個人への支持を固めるうえではかなり物足りないものであったと見られている。ここ数年、さまざまなスキャンダルに苛まれてきたナジブが、批判をはねのけ、国民戦線の中核政党である統一マレー人国民組織(UMNO)総裁の座を潜在的挑戦者から守ることができるか否かは、今年10月のUMNO役員選挙が近づくにつれて判明するであろう。

(訳・中村正志


※この報告は機動研究事業「マレーシア第13回総選挙—争点、結果、含意」の一部であり、最終報告書は7月半ば以降に出版の予定である。
訳注
  1. クダ州では、人民連盟が2008年に実施された前回の州議会選挙を制して州政権を担っていた。
  2. DAPとPAS、PKRの3党は、2008年3月に実施された前回総選挙の結果をうけて、同年4月1日に政党連合・人民連盟を旗揚げした。
  3. DAPは2012年12月に中央執行部の選挙を実施したが、選挙の手続きに不備があったとの指摘があり団体登録官が調査に乗り出していた。団体登録官は、選挙公示日の直前に現執行部を承認しないとの書状をDAPに送った。もし、団体登録官がDAPの政党登録を一時停止するなどの措置をとれば、DAP候補の立候補届が受理されないおそれがあった。そのような最悪の事態を回避すべく、DAPの執行部は、同党候補を友党のPKRとPASの候補として立候補登録する用意があると言明した。同時にDAPは、団体登録官の対応を、与党と結託した選挙妨害と訴えて強く非難した。最終的には、団体登録官がDAP党員の同党候補としての立候補を妨げる考えがないことを言明し、事態は収束した。
  4. 新経済政策は、1971年に始まった民族間格差是正策である。日本のマスコミは「ブミプトラ政策」と呼んでいるが、この呼称はマレーシアではあまり使われていない。