skip to contents.

インドネシアは世界第3のCO2排出国か

アジアの出来事

地域研究センター 佐藤 百合
PDFpdf (310KB)
2011年12月
世界第15位か第3位か
インドネシアの温室効果ガスの排出量をめぐって、これまで2つの異なる見解があった。

国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)に代表される標準的な国際統計では、インドネシアの排出量は世界第15位の3.8億トン(2009年)で、中国の69億トン、アメリカの52億トンに遠く及ばない。

それに対して、国際湿地保全連合は、森林火災や泥炭の分解によって排出される二酸化炭素を考慮に入れると、インドネシアはアメリカ、中国に次ぐ世界第3の温室効果ガス排出国になる、との報告を2006年に発表した。世界銀行のレポートや国内外の環境NGOもこの見解を取り上げるようになった。インドネシア政府は、それらの推計値は正確ではないと反論してきた。

自ら認めた世界第3位の排出国
だが、2010年8月、2年前にユドヨノ大統領が組織した閣僚・官僚・有識者から成る気候変動国家評議会(議長は大統領)は、調査研究の末、インドネシアは世界第3の温室効果ガス排出国である、と自ら認める報告書(注1)を発表したのである。

報告書によれば、インドネシアが排出する温室効果ガスは2005年にCO2換算で21億トンであった(図1)。これは発電・運輸・農業・鉱工業からの排出量に、年1.8万km2におよぶ森林伐採・破壊・火災から排出される8.4億トン(全体の41%)、泥炭地の破壊・分解から生じる7.7億トン(同37%)を加算した結果である。このままいけば、2030年に排出量は33億トンに増加すると報告書は予測する。

しかし、と報告書が強調するのは、ここからである。それほどコストのかからない5つの対策を適切に講じれば、ガス排出量は2030年に19億トン減らせるという。その対策とは、(1) 森林伐採の抑制、(2) 泥炭地の火災防止、(3) 泥炭地の改良、(4) 持続可能な森林管理、(5) 劣化森林の再生である。
図1 インドネシアの温暖化ガス排出量の実績と予測
図1 インドネシアの温暖化ガス排出量の実績と予測
(注)1.各セクターからの直接排出量のみを計上。
   2.「土地利用・土地利用転換・森林」からの排出量は、吸収量を差し引いた純排出量。
(出所)気候変動国家評議会(2010)(注1の文献)、11ページ。

原生林の新規開発凍結令
2011年5月、ユドヨノ大統領は、原生林と泥炭地の開発許可の新規発行を向こう2年間凍結するという大統領訓令(Inpres)2011年第10号を出した。ただし、エネルギー開発と食糧生産の用地は除外されている。エネルギーと食糧の増産は、ユドヨノ政権の掲げる優先政策だからである。

インドネシア政府は、先の報告書発表に先立つ2010年半ば、原生林と泥炭地の新規開発を凍結することを条件に、10億ドルの無償援助をノルウェー政府から得ることで合意していた。これは、インドネシアにとって初めてのREDDプラスの枠組みでの国際環境支援であった。

REDDプラスとは、森林減少・劣化の抑制による温室効果ガスの排出量削減(REDD:Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation)に、積極的に炭素蓄積を増やす森林管理・植林などの行動をプラスした概念である。

ユドヨノ政権は、原生林と泥炭地の新規開発を凍結するにあたって、「インドネシアは世界第3のCO2排出国」との見解を科学的分析にもとづいて是認し、国内に周知しておく必要があったのだろう。

だが、この「新規開発凍結令」は、パーム油業界や炭鉱業界からは「成長のチャンスを奪う」と反対され、環境NGOからは除外規定などの「抜け道が多い」と批判されている。

インドネシア政府は、「成長と環境のバランス」を基本方針に掲げているが、まさしく言うは易し、行うは難し。だが、その微妙なバランスを模索するほかに道はない。

注1)Dewan Nasional Perubahan Iklim〔気候変動国家評議会〕, Indonesia’s Greenhouse Gas Abatement Cost Curve, Jakarta, August 2010.