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インドネシアのエネルギー政策 —増産・節約・低環境負荷を目指して

アジアの出来事

アジア

地域研究センター 佐藤 百合
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2011年11月
エネルギー問題は、世界的な需要の高まりを背景にして、近年では国家の安定にかかわる安全保障の一環として広く認識されるようになっている。資源が豊富だとみられてきたインドネシアも、例外ではない。

国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の統計によると、インドネシアはいまだにアジア有数のエネルギー輸出国で、純輸出量は約1.5億石油換算トン(2008年)とされている。だが、近年のインドネシアはエネルギー消費国としての性格を強めている。

消費が伸びる石油とガス
インドネシアの石油と天然ガスの長期的な国内需給トレンドをみると(図1)、石油は1998年から減産に転じた。現在のスシロ・バンバン・ユドヨノ政権(2004年~)は増産の大号令をかけているが、横ばいを維持するのが精一杯なのが現状である。減産の主な原因は、既存の大油田からの生産量が減り、相対的に投資リスクの高い新規油田を開発すべきだったところ、1998年にスハルト政権崩壊という大きな政治変動があったため、それ以降国際メジャーがいっせいに探鉱投資を手控えたことにある。

国際メジャーは、天然ガスに開発の軸足を移している。天然ガスの生産も、インドネシア経済がアジア通貨危機とスハルト政権崩壊の後に低迷を続けた10年間には横ばいだったが、2008年からは増産基調を回復した。2009年に西パプア州のタングーで液化天然ガス(LNG)の生産が始まり、2014年には中スラウェシ州のドンギ・スノロでもLNGの生産開始が予定されている。

一方、図1にみるとおり、国内消費は一貫して増加している。石油は2003年に消費が生産を上回った。以来インドネシアは石油の純消費国になり、2008年にはOPEC(石油輸出国機構)からも脱退した。

経済の好不況に左右されずに消費が増え続けてきた理由の一つは、政府が補助金政策によって燃料価格を低く抑えてきたからである。その証拠に、政府が2005年に燃料補助金を削減するため石油燃料(ガソリン、軽油、灯油)の価格を2倍以上に値上げした後は、消費の伸びは鈍化した。その代わり、今度はガスの家庭用消費が伸びている。
図1 インドネシアにおける石油と天延ガスの生産量と消費量(1970~2010年)
図1 インドネシアにおける石油と天延ガスの生産量と消費量(1970~2010年)
(出所)BP Statistical Review of World Energy 2011.

石油とガスの生産から国内消費を差し引いた余剰生産量は、ピークだった1991年の7300万トン(石油換算トン)から2000年には5000万トンを切り、2004年以降は2000万トン台まで低下している。今後のガスの増産を織り込んだとしても、インドネシアはかつてように大きな輸出余力は発揮しえなくなっている。

石炭は世界第二の輸出国へ
それでもインドネシアが有力なエネルギー純輸出国とされているのは、実は2000年代に石炭の生産が急増したからである。石炭の生産量は、2000年には石油換算トンで石油、ガスのいずれよりも少なかったのに、2006年には石油・ガスの合計額をあっという間に抜き去った。2000年代を通じて年率15%もの伸び率で生産が拡大し、生産量の8割以上を輸出に回している(図2)。

ただし問題は、インドネシア産の石炭は石炭化度の低い褐炭で、熱効率が低く温室効果ガスの排出率が高いことである。低品位ゆえに見向きもされなかったのが、大量に買ってくれる中国が現れ、国際価格も上がったために状況が一変した。

インドネシアの石炭は、世界における生産シェアは5%にすぎないが、産出量の76%に当たる2.1億トン(2010年、エネルギー鉱物資源省)を輸出し、オーストラリアに次ぐ世界第二位の輸出国になっている。輸出先は、世界最大の輸入国である日本と第二位の中国で、とくに後者への輸出が急増している。
図2 インドネシアにおける石炭の生産量と消費量(1970~2010年)
図2 インドネシアにおける石炭の生産量と消費量(1970~2010年)
(出所)BP Statistical Review of World Energy 2011.

エネルギー国内供給、そして低環境負荷エネルギーと省エネの重視へ
インドネシア政府のエネルギー政策の基本は、エネルギー安全保障、すなわち増加する国内需要に対して安定的な国内供給を確保することである。国営電力会社PLNは、「6~7%の経済成長を前提とすると、電力に限ってもエネルギー消費は年率9.2%で伸びる」と予測している(PLN年報、2010年版)。

2007年エネルギー法(法律2007年第30号)は、国内供給の確保を外貨獲得よりも上位の目的に掲げ、2001年石油ガス法(法律2001年第22号)も政府に燃料の安定供給を義務づけ、ガスの国内供給を輸出よりも優先するよう定めている。2009年鉱物・石炭鉱業法(法律2009年第4号)は、政府が毎年の鉱物生産量と輸出量を設定する権限をもつことを定め、たとえば2011年の石炭については国内供給義務が24.17%に設定されている。

もう一つの重要なエネルギー政策の基本が、新・再生可能エネルギーへのシフトである。 図3に示したように、インドネシアの一次エネルギー源の構成は、石油が9割近くを占めていた初期段階から1980~90年代には天然ガスが伸び、2000年代には石炭が拡大した。今後は新・再生可能エネルギーを拡大させる方針で、2006年の「国家エネルギー政策」で2025年の数値目標を17%に定め、さらに2010年の「ヴィジョン25/25」では25%に大きく上方修正した。この上方修正は、政府が同じく2010年に打ち出した温室効果ガスの排出抑制政策と軌を一にする動きである。
図3 インドネシアの一次エネルギー源の変遷と2025年目標
図3 インドネシアの一次エネルギー源の変遷と2025年目標
(出所)エネルギー鉱業省データ資料、同省「vision 25/25」、大統領令2006年第5号。

2007年エネルギー法によれば、新エネルギーとはCBM(炭層メタン)、液化石炭、ガス化石炭、水素、原子力などの新技術を活用したエネルギー、再生可能エネルギーとは地熱、風力、バイオ、太陽光、水流、海洋温度差などを利用した持続可能エネルギーと定義されている。

ここからわかるように、新エネルギーには化石燃料が含まれている。とりわけ、豊富に産する低品位石炭をクリーン石炭技術(CCT)によって改質することが重視されている。つまり、新・再生可能エネルギーへのシフトは、化石燃料からの脱却と同義ではなく、むしろそこでのキーワードは、低環境負荷のクリーンでグリーンなエネルギーという点にある。ただし、原子力については、東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、ユドヨノ大統領は当面はこれを推進しない姿勢を示した。

「ヴィジョン25/25」は同時に、需要面での省エネルギーを掲げている。2025年までのエネルギー消費の伸び率を従来予測の9.3%から6.4%に低減させ、総消費量を従来予測よりも34%節約するのが目標である。

6%台の持続的成長を目指すインドネシアは、同時に、エネルギーの増産、節約、低環境負荷へと大きくエネルギー政策の舵を切らざるを得なくなっている。