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スリランカ内戦に関する国連専門家レポート

アジアの出来事

アジア

地域研究センター 荒井 悦代
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2009年5月にスリランカでは北・東部の独立を求めるタミル・イーラム解放の虎(LTTE)との政府軍の間で長年続いた民族紛争が終結した。しかしその際、深刻な人道・人権侵害があったとされている。2010年6月に国連事務総長は 、専門家パネルを任命し報告書の作成を求めた。専門家パネルはMarzuki Darusman(インドネシア・議長)、Steven Ranter(アメリカ)、Yasmin Sooka(南アフリカ)からなる。

2011年4月に提出された報告書では、スリランカ政府を強い調子で糾弾している。スリランカ政府はLTTE掃討にあたっては、あくまでも「民間人の被害ゼロ」を方針として「人道救援作戦」を行ったと主張している。しかし 、専門家パネルは、調査の結果、紛争末期の状況はスリランカ政府の主張と大きく異なると断じている。つまり、スリランカ政府およびLTTE双方が甚大な人道・人権侵害を犯していたと明らかにしている。

スリランカ政府が犯した5つの深刻な違反は

  1. 広範囲に及ぶ爆撃により一般市民を殺害した
  2. 病院や人道的な活動を行う施設を爆撃した
  3. 人道主義的な援助を拒否した
  4. 国内避難民(IDP)およびLTTEメンバーを含む紛争の犠牲者・生存者に対する人権を侵害した
  5. 紛争地域以外においても、メディアや政府批判を行うものに対して人権を侵害した

LTTEが犯した6つの深刻な違反は

  1. 民間人を人間の盾にした
  2. LTTE支配地域から民間人が避難しようとするのを許さなかった
  3. 民間人の至近距離で武器を用いた
  4. 子供を徴兵した
  5. 民間人を強制労働させた
  6. 自爆攻撃により民間人を殺害した

スリランカ大統領は、今後の和解に向けた「過去の教訓・和解委員会」(LLRC)を任命し、非常事態宣言の内容を緩和するなど戦後措置をとったものの、報告書はそれに対しても手厳しい。報告書によれば 、スリランカ政府の説明責任に対する認識は国際的な基準を満たさない、スリランカ政府による調査機関であるLLRCにも深刻な問題がある、スリランカ国内の司法制度も紛争末期の人道・人権問題に対処するものとして不十分である 、そのほかにも様々な形の阻害要因があり、紛争の原因追及や紛争後の和平構築に支障を来しているとの認識である。すなわち、紛争末期の人道・人権侵害に対して、スリランカ政府が現在行っている手法では 、犠牲者・生存者らが報われないと判断して、スリランカ政府に対して具体的な処方と国連などの介入を勧告している。

スリランカ政府および国連、その他の機関に対して3分野における勧告を行った。すなわち1)調査、2)スリランカ政府が説明責任を果たすために取るべき手段(短期、長期)、3)国連としてなすべきこと 、である。

  1. 調査
    • スリランカ政府は、紛争中にスリランカ政府とLTTEが犯した国際人道・人権侵害とされる事象について誠実な調査をすべきである。
    • 国連事務総長は直ちに監視と調査を行う独立国際機構を立ち上げるべきである。
  2. スリランカ政府が短期的および長期的になすべきこと
    1. ワンニ地方の全ての犠牲者および生存者の権利と尊厳を確保するために短期的措置として以下のことを行う。
      1. 国家による全ての暴力を停止する
      2. 遺体などを家族の元に戻し、葬儀ができるようにする
      3. 早急かつ無料で死者および行方不明者に死亡証明書を発行する
      4. 全ての生存者に心理社会的なサポートを行う
      5. 全ての避難民を解放し、要望に従い元の居住地あるいは新しい居住地に移転させる
      6. 全ての生存者が日常生活に戻れるよう暫定的な支援を行う
    2. スリランカ政府は、行方不明者の調査を行い、その所在を明らかにする。スリランカ政府は「強制的・非自発的行方不明作業委員会」(訳注:国連の機関)をスリランカに招聘すべき。
    3. スリランカ政府は直ちに非常事態宣言を廃止し、テロリズム防止法を改正すべきである。LTTE容疑者および上記法により拘留中の者に対しては、以下の処方をすべきである。
      1. 現在拘留中の全員の名前、拘留地を公表する。拘留者に対しては、拘留の法的根拠を知らしめる。
      2. 全ての拘留者に家族および弁護士への接見を許可する、など
    4. スリランカ政府は国家的な暴力および移動・集会・表現の自由を阻止するような行為をやめること。
  3. 国連がなすべきこと
  • 国連人権理事会(UNHRC)は2009年5月の特別会議における決議見直しを目的として招集されるべきである。

《訳者注釈》
報告書にかんしては、当該期間中の民間人の死者が4万人に達していたとの指摘など、スリランカ政府としては受け入れがたい点が多く真っ向から対立している。なかでもスリランカ政府として最も不都合なのは 、国際会議の矢面に立たされることである。ようやく紛争が終わり、経済発展に本格的に取り組みたいからである。そのためUNHRCでの審議を阻止しようと躍起になっている。

【注】
※本レポートは、“Report of the Secretary-General’s Panel of Experts on Accountability in Sri Lanka”31 March 2011(発表は2011年4月25日)(http://www.un.org/News/dh/infocus/Sri_Lanka/POE_Report_Full.pdf)のExecutive Summarry)を訳出・要約したものである。