skip to contents.

ミャンマー総選挙とその後 (5) 総選挙後のミャンマー政治

アジアの出来事

地域研究センター 工藤 年博
PDFpdf(162KB)

前回まで、2010年ミャンマー総選挙の結果を検討してきた。連邦団結発展党が「圧勝」したことは予想通りであったが、州における少数民族政党の健闘や、ヤンゴン地域における国民民主勢力の善戦など、いくつかの予想外の結果も観察された。

このような選挙結果は、2011年2月までに招集される予定の連邦議会、及び地方議会にどのような影響を与えるのであろうか。また、新たな政治体制はどのようなものとなり、新政権はどこへ向かうのか。今回は「総選挙後」を展望してみよう。

議会内勢力
連邦議会(人民代表院、民族代表院)及び地方議会(7地域議会、7州議会)には、今回の総選挙で選ばれた議員に加えて、国軍司令官より任命される軍人議員がそれぞれ4分の1ずつ含まれる。これを反映した議会内の勢力は、表1のとおりとなる。全体としては、連邦団結発展党の「圧勝」ではあったが、議会ごとに議会内勢力の構成が異なり、議会運営のあり方も違ってくると予想される。
表1 議会内勢力の構成比 (%)
  連邦団結発展党 国軍 国民統一党 その他
連邦議会 人民代表院 60 25 3 12
民族代表院 58 25 2 15
合計 59 25 3 13
地域議会 ヤンゴン 61 25 7 14
バゴー 68 25 7 7
エーヤワディー 67 25 8 8
マンダレー 72 25 0 3
ザガイン 66 25 8 9
マグウェー 69 25 6 6
タニンターリー 71 25 4 4
州議会 シャン 38 25 1 37
カチン 39 25 22 36
ラカイン 30 25 2 45
モン 46 25 7 29
チン 29 25 0 46
カレン 31 25 0 44
カヤー 75 25 0 0
(出所) New Light of Myanmar (2010年11月8日、11~18日)。
第1に、連邦議会の両院における連邦団結発展党の「圧勝」により、全体の4分の1を占める国軍議員を含んでも、同党が両院で過半数を握ることになった。このことは、大統領の選出において連邦団結発展党が国軍議員の協力を必要とせず、単独で決定権をもったことを意味する。

大統領の選出にあたっては、人民代表院の民選議員、民族代表院の民選議員、両院の国軍議員の3つのグループが1人ずつ候補者を出し、連邦議会が多数決で大統領を選ぶ仕組みになっている(図1)。連邦団結発展党は両院から2人の候補者を出すことができ、連邦議会でどちらかの候補者を大統領に選出することができる。

逆にいえば、理論上は、大統領は国軍議員の意向から独立して行動できるということになる。現在は「連邦団結発展党≒国軍」という理解をされているが、実際には連邦団結発展党には実業家、法律家、学者、地元の篤志家など多様な人材が参加しており、国軍の考え方や利害と完全に一致するわけではない。総選挙における「圧勝」により、連邦団結発展党の自律性が高まる可能性がある。
図1 ミャンマーの新国家機構図
(出所)2008年憲法に基づき筆者作成。

第2に、連邦議会において、連邦団結発展党は国軍議員を合わせて4分の3以上の議席を占めており、両者が協力すれば憲法改正や国境及び地域・州境の変更など、重要な決定を行うことができる。また、3分の2以上の議席があれば大統領を弾劾することも可能である。大統領候補は議員である必要も軍人である必要もないため、大統領が就任後に党や国軍の意向に沿って行政を行わない可能性もあり得る。その場合でも、連邦団結発展党は国軍議員の協力を得れば、大統領を辞任させる力を持つ。

第3に、地方議会においては多様な状況が生まれた。7つの地域議会においては、連邦団結発展党が過半数を上回る議席を占めている。国軍議席と合わせると4分の3を超える議席をもっており、連邦議会と同様な状況にある。

これに対して、7つの州議会においては、カヤー州を除いて、連邦団結発展党は過半数の議席を確保できなかった。国軍議席と合わせれば過半数を制することができるため、当面は議会内で与党が苦境に陥ることはないであろう。しかし、国軍議席と合わせても4分の3を超えることはできず、州知事(Chief Minister)を弾劾することはできない。

州知事は州議会の議員の中から、大統領が任命する決まりである(2008年憲法261条)。州議会の中には少数民族政党が第1党、あるいは少数民族政党が連立を組むと連邦団結発展党の議席を上回るところもあり、国軍議員の理解を得られれば、少数民族政党から州知事が誕生するケースも考えられる。例えば、ラカイン州議会ではラカイン民族発展党が第1党であるし、チン州でも二つのチン族政党が連携すれば最大勢力となる。このように、ミャンマーの議会制民主主義は州議会から始まるかも知れない。

大統領、知事、国軍司令官
このように州議会において政党政治の可能性をみることはできるものの、連邦議会においては連邦団結発展党の「圧勝」には違いなく、議会内で民主的な議論が展開されるかは疑問である。欧米諸国を中心とする国際社会の大方が、今回の総選挙を国軍の国政関与を「合法化」するためのごまかしに過ぎないと評価するゆえんである。

そのため、これからのミャンマー政治を考える上で実質的に注目すべきは、議会よりも行政府、とくに大統領であろう。大統領は、総選挙から105日以内に招集される連邦議会の第1回通常国会において選出される。重要なのは、最高意思決定機関である国家平和発展評議会(SPDC)議長かつ国軍司令官のタンシュエ上級大将(77)が、これまで一手に握ってきた権力が、大統領と国軍司令官の2人に分割される点である。

国軍司令官は国防・内務・国境大臣の任命や、国軍と連邦政府の幹部等で組織される「国防治安評議会」を通じて、引き続き政府に強い影響力を保持する(図1)。しかし、少なくとも平時においては、国軍司令官が国家運営に直接介入することはなくなる。日々の国家運営は大統領に任されるのである。誰が大統領になるのか、新大統領はどのような考えをもっているのか、そしてなにをするのか、等が総選挙後のミャンマー政治をみる上で重要である。現時点では憶測の域を出ないが、連邦団結発展党の「圧勝」により、同党の幹部が就任する可能性が高まったといえるだろう。

その後、新大統領は内閣を組織する。新たに組織される内閣には、現役閣僚及び退役した国軍幹部らが多く含まれると予想される。連邦団結発展党の党首のテインセイン首相(SPDC委員)をはじめとするほとんどの現役大臣、シュエマン前国軍総参謀長(SPDC委員)、ティンアウンミンウー前国軍兵站局長(SPDC第1書記)ら総選挙直前に退役した国軍幹部が、連邦団結発展党から出馬し、全員当選しているからである。新政権が誕生するとSPDCから行政権が移管され、民政移管が完了する。

連邦議会とほぼ同時に、地域・州議会も招集される。地方政府の首長である地域・州知事は、地域・州議会の議員の中から大統領が任命する。この規程は、大統領や連邦政府の大臣が連邦議会の議員である必要がない点と異なっている。そのため、今回地域議会で出馬し、議席を得た現役閣僚や国軍幹部が地域知事に任命される可能性が高い。例えば、ティンエイ前国軍国防産業局長(SPDC委員)はザガイン地域議会で当選しているし、ニャンウィン外務大臣はバゴー地域議会で当選している。一方、州議会で出馬・当選している現役閣僚や国軍幹部はほとんどおらず、州知事については少数民族代表などが選ばれる可能生もある。

もうひとつ重要な点は、国軍幹部の世代交代が起こることである。1992年以来、国軍司令官を務めてきたタンシュエ上級大将は、マウンエイ副司令官(73)と共に引退すると噂されている。新たな国軍司令官には、確認は取れていないが、ミンアウン中将(軍務局長)、国軍副司令官にはコーコー中将(第3作戦室長)の就任が内定したともいわれる。彼らは50代半ばであり、20歳以上の若返りとなる。世代交代した国軍幹部が、新たな政治体制における国軍の役割をいかに定義するのか。それによって、ミャンマー政治のあり方が大きく変わる可能性もあるだろう。

新政権の課題
今回の総選挙を経て、連邦議会、地方議会が設置され、そこには限定的ではあるが民主化政党や少数民族政党の代表が参加することになった。また、退役軍人となる可能性は高いものの、いちおう「文民」の大統領が誕生する。1988年の軍事クーデター以来22年を経て、ミャンマーではようやく新たな政治制度に基づいた国の統治・運営が始まろうとしている。

しかし、新たな政治体制と新政権の誕生が、自動的に国の平和と国民生活の向上に結びつくわけではない。総選挙をボイコットしたスーチー氏と新政権は、相変わらず議会の外で対立を続けるだろうし、国軍と少数民族武装勢力との武力衝突の危険も高まっている。連邦団結発展党の統治能力も未知数である。今後、政治状況が流動化する要因は少なくない。

新政権がスーチー氏や少数民族勢力の批判をかわし、政権運営を安定させるためには、国民に目に見える変化を示す必要がある。そのためには、新政権がなにをするのか、すなわち政策選択が重要となる。とくに疲弊したミャンマー経済、国民生活をどう立て直すのかが喫緊の課題である。新政権の経済政策や制度が、幅広い国民各層や地域が裨益する経済成長を進められるものとなるのか。この成否に新政権の命運がかかるだろう。