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ミャンマー総選挙とその後 (4)国民民主勢力の戦い

アジアの出来事

アジア

地域研究センター 工藤 年博
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今回の総選挙では、連邦団結発展党(USDP)が連邦議会の8割近く、地域・州議会の75%の議席を獲得し、「圧勝」した。これは連邦団結発展党がその組織力、資金力、行政上の優位性などを使って、票を動員した結果である。しかし、全ての地域で連邦団結発展党の動員が成功したわけではない。例えば、前回みたように、少数民族が多く居住する7つの州(States)においては、少数民族政党が健闘した。総選挙は自由でも公正でもなかったが、その結果からは部分的にではあるが国民の声を聞くことができる。

さて、今回の総選挙において、民主化政党の代表格であった国民民主勢力(NDF)は、162人の立候補者のうち、わずか16人の当選者を出すに留まり、大敗を喫した。しかし、これらの16人の当選者は全てヤンゴンから選出されており、同地域に限ってみれば国民民主勢力は善戦しているともいえる。この点は、有権者の民主化政党への支持を考える上で重要である。そこで、今回は国民民主勢力のヤンゴンにおける戦いをみてみよう。

激戦区ヤンゴン
ヤンゴンは全国でも、最も厳しい選挙戦が展開された地域である。最大都市であるヤンゴン市(正確には、ヤンゴン市開発委員会管轄下の33郡)を有するヤンゴン地域(45郡)は、約450万人の有権者を抱える最大票田であった。人民代表院45議席、民族代表院12議席、ヤンゴン地域議会92議席(カレン族とラカイン族の民族代表2議席を含む)の149議席に対して、14政党及び無所属で合計458人が立候補し、競争率は3倍を超えた(全国平均は2.7倍)。なかでも、人民代表院の競争率は4.4倍、民族代表院のそれは4.0倍と激戦となった。

最大都市ヤンゴンは企業集積、産業集積、商業基盤が厚く、所得水準の比較的高い中間層、知識層、専門職が多い。国内外の情報も集まり易く、有権者の政治意識も高い。このため、連邦団結発展党の「動員」が相対的に効きにくく、比較的自由に投票行動がなされたと考えられる。その意味で、ヤンゴンにおける選挙結果は、ミャンマー国民の真の民意を読み解く上で重要である。
国民民主勢力のチョーミンフライン氏(右から2人目)
人民代表院選にヤンゴンのカマユッ選挙区から立候補した、国民民主勢力のチョーミンフライン氏(右から2人目)。
有権者にパンフレットを配り、投票を訴えた。
しかし、期日前投票でUSDP候補に逆転され、惜敗した(2010年11月3日、筆者撮影)。

健闘する国民民主勢力
表1は、ヤンゴン地域の連邦議会(人民代表院45議席、民族代表院12議席)の議席に対する、政党別の得票状況である。この表は、2010年11月12日付のビルマ語国営紙(Myanmar Alin)に掲載された、立候補者別の有効得票数を基に集計されている。ビルマ語国営紙は他地域についても順次、立候補者別の有効得票数を掲載しており、今後詳しい分析が求められる。なお、ビルマ語国営紙はインターネット版を利用したが、数字に整合性がとれない箇所がある。立候補者別の有効得票を積み上げた数字と、新聞に掲載された合計が合致しない場合は、積み上げた数字を使用した。
表1 ヤンゴン地域における主要政党候補者の得票状況
人民代表院(45議席)
政党 立候補者数 獲得議席数 有効得票率(%) 期日前比率(%)
当日 期日前 合計
連邦団結発展党 45 37 48.4 78.6 50.1 9.0
国民民主勢力 37 8 20.8 7.4 20.1 2.1
(37競争選挙区) 28.6 9.7 27.4 2.1
国民統一党 43 0 13.6 7.6 13.3 3.3
民主党(ミャンマー) 15 0 4.3 1.2 4.1 1.6
88世代学生青年党 18 0 6.2 2.3 6.0 2.2
その他 38 0 6.6 2.9 6.4 2.6
合計 196 45 100.0 100.0 100.0 5.7

民族代表院(12議席)
政党 立候補者数 獲得議席数 有効得票率(%) 期日前比率(%)
当日 期日前 合計
連邦団結発展党 12 8 47.6 78.8 49.3 8.7
国民民主勢力 10 4 26.5 10.0 25.6 2.1
(10競争選挙区) 31.6 11.6 30.5 2.1
国民統一党 12 0 15.5 8.1 15.1 2.9
民主党(ミャンマー) 3 0 2.8 0.8 2.7 1.7
88世代学生青年党 4 0 4.9 1.4 4.7 1.7
その他 7 0 2.6 0.9 2.5 1.9
合計 48 12 100.0 100.0 100.0 5.4
(注)国民民主勢力の( )内の数字は候補者を立てた選挙区のみを対象。
(出所)Myanmar Alin(国営ビルマ語新聞、2010年11月12日)。
人民代表院においては、45議席のうち、連邦団結発展党が37議席、国民民主勢力が8議席を獲得した。民族代表院においては、12議席のうち、連邦団結発展党が8議席、国民民主勢力が4議席を獲得した。国民統一党を含め他党は、ヤンゴン地域の連邦議会に議席を1つも持つことができなかった。ヤンゴン地域は、体制政党と民主化政党の戦いの場であった。

有効得票率(有効投票に対する得票率)をみてみると、連邦団結発展党は両院ともに約5割、国民民主勢力は人民代表院において約2割、民族代表院においておよそ4分の1を獲得している。獲得議席数は両院合わせて、連邦団結発展党が約8割、国民民主勢力が約2割であるので、前者が効率的に議席を獲得したことが分かる。逆にいえば、(第3極の形成を目指した国民統一党は除くとしても)民主化陣営内で選挙協力を行い、小規模な民主化政党による票の分散を避けることが出来ていれば、より多くの議席を民主化陣営(この場合は国民民主勢力)が獲得できていたはずである。

また、国民民主勢力が候補者を立てた選挙区(表1では「競争選挙区」と表記)のみにおける有効得票率をみると、両院ともに3割程度の支持を獲得していることが分かる。国民民主勢力を実質的にはヤンゴンの地域政党と考えるならば、これが連邦団結発展党の動員の下でも、民主化陣営が獲得し得る有権者の支持の水準であるとみなすことも可能であろう。このことは、仮に全国的な組織力も知名度もあり、国民人気の高いアウンサンスーチー氏(以下、スーチー氏)が(たとえ政党登録法により党を除名されたとしても)実質的に率いている国民民主連盟(NLD)が総選挙に参加し、全国の選挙区に候補者を立てることができていれば、少なくとも3割程度の議席を獲得できる可能性が高かったことを物語る。しかもこれは、スーチー氏の影響力を相当に過小評価した上での数字である。2010年11月13日のスーチー氏解放後の人々の熱狂的な歓迎ぶりをみれば、より広範な国民的支持を得られていたとしても不思議ではなかった。

もし少数民族政党などを含む野党陣営が、連邦議会の4分の1を占めていれば、彼らはいつでも特別国会の招集を要請できる力を持つことができた(2008年憲法第83条)。これにより、野党陣営は連邦団結発展党と、いつでも議会内で政治対話をすることが可能になったであろう。但し、連邦議会の4分の1は選挙を経ずに国軍司令官に任命される軍人議席で構成されるから、民主化・少数民族政党は実際には民選議席の3分の1の議席獲得が必要であった。しかし、この数字はすでに述べたとおり、国民民主連盟が総選挙に参加すれば、十分に実現可能なものであった。

期日前投票の影響
最後に、期日前投票の影響について、ヤンゴンを事例としてみてみよう。今回の総選挙の投開票において、組織的かつ大規模な不正があったとの証拠はまだ提示されていない。もちろん、投開票においても様々な違反や不透明な行為があったことは、逸話的に伝えられている。しかし、多くの場合、それらは事務手続きの不備や人的なミスが原因であったと思われる。現段階では、そこに当局の組織的不正の悪意を読み取るべきではないだろう。また、連邦団結発展党は選挙運動の段階ですでに選挙戦を有利にすすめており、あえて証拠が出やすく、批判を招き易い投開票の段階で、不正を働くインセンティブは少なかったと考えるべきであろう。

しかし、今回の選挙において、投開票に関して指摘された最大の問題は、期日前投票であった。少なくとも誰かしら人の目がある当日の投票所における投開票と異なり、期日前投票は実質的に投票者の名前が分かってしまう可能性があり、不正の温床と指摘されてきた。投票日が近づくにつれ、連邦団結発展党は公務員、軍人、政府と関係の深い大企業などから、期日前投票をかき集めていると噂された。

本来、期日前投票は不在者投票であったが(人民代表院選挙法第45条など)、それは次第に連邦団結発展党の集票メカニズムへと変化していったようである。選挙法によれば、期日前投票をできる人は、投票日に選挙区外にいる軍人、学生、訓練生、拘禁者、入院している病人などである。しかし、総選挙前に国営テレビが選挙教育として流した番組では、全ての軍人とその家族が期日前投票をすることができると紹介されるなど、選挙法の意図的な拡大解釈が行われた。期日前投票が、連邦団結発展党の票集めの手段として使われたことは確かだろう。

それでは、期日前投票は選挙結果に、どの程度の影響を与えたのであろうか。表1によれば、ヤンゴン地域の連邦議会の有効得票総数の6%弱が、期日前に投票された票であった。これは突出して高い数字ではない。例えば、2010年7月の日本の参議院選挙では、全投票者数に占める期日前投票はおよそ2割であった。もちろん、日本とミャンマーでは選挙を取り巻く環境が大きくことなるため、比較は適切ではないかも知れないが。

しかし、期日前投票が圧倒的に連邦団結発展党に有利であったことは、有効得票率に如実に示されている。連邦団結発展党の有効得票率は、両院において、投票所における投票では50%未満であるのに対し、期日前投票では8割近くを得た。そのため、連邦団結発展党が獲得した有効得票の1割弱は、期日前投票によってなされた票であった。これに対して、国民民主勢力の有効得票率は、投票所における投票が人民代表院で約2割、民族代表院で約4分の1であるのに対し、期日前投票ではそれぞれ7.4%、10.0%しか獲得できていない。結果として、国民民主勢力が獲得した有効得票に占める期日前投票の割合は、わずか2.1%に過ぎなかったのである。

国民民主勢力が投票所の投票においては勝っていたにもかからず、期日前投票で逆転されたケースは、人民代表院で4件発生した(表2)。但し、民族代表院では逆転のケースはなかった。
表2 期日前投票による逆転があった選挙区(ヤンゴン地域の人民代表院)

選挙区

政党/無所属
有効得票数 有効得票率(%) 期日前比率
当日 期日前 合計 当日 期日前 合計
ヤンキン(58.7%) 連邦団結発展党 11,415 2,172 13,587 41.2 65.9 43.8 16.0
国民民主勢力 12,480 696 13,176 45.0 21.1 42.5 5.3
国民統一党 3,840 429 4,269 13.8 13.0 13.8 10.0
 計 27,735 3,297 31,032 0.0 0.0 0.0 10.6
チャウタン(65.5%) 連邦団結発展党 28,704 3,034 31,738 41.0 73.5 42.8 9.6
国民民主勢力 30,250 746 30,996 43.2 18.1 41.8 2.4
国民統一党 11,020 346 11,366 15.7 8.4 15.3 3.0
 計 69,974 4,126 74,100 0.0 0.0 0.0 5.6
カマユッ(48.5%) 連邦団結発展党 8,100 1,043 9,143 29.5 68.7 31.6 11.4
国民民主勢力 8,799 172 8,971 32.1 11.3 31.0 1.9
無所属 6,078 159 6,237 22.1 10.5 21.5 2.5
国民統一党 2,130 110 2,240 7.8 7.2 7.7 4.9
88世代学生青年党 1,502 23 1,525 5.5 1.5 5.3 1.5
民主党(ミャンマー) 835 11 846 3.0 0.7 2.9 1.3
 計 27,444 1,518 28,962 0.0 0.0 0.0 5.2
バハン(57.2%) 連邦団結発展党 13,813 1,956 15,769 38.2 75.6 40.7 12.4
国民民主勢力 14,506 280 14,786 40.2 10.8 38.2 1.9
民主党(ミャンマー) 4,886 166 5,052 13.5 6.4 13.1 3.3
国民統一党 2,915 184 3,099 8.1 7.1 8.0 5.9
 計 36,120 2,586 38,706 0.0 0.0 0.0 6.7
(注)選挙区欄の( )内は「有効投票率」。「期日前比率」は有効投票数に占める期日前の有効投票数の割合。
(出所)Myanmar Alin(国営ビルマ語新聞、2010年11月12日)。
期日前投票による逆転がなければ、国民民主勢力は人民代表院で現在の8議席に4議席上乗せし、12議席になっていたわけで、それ自体は無視できない影響ではある。しかし、そうしたケースは地方では多くはないと思われ、総選挙結果の大勢に影響を与えるものではないだろう。また、期日前投票が連邦団結発展党に有利に働いたことは間違いないが、それが選挙結果を覆すために開票の段階で意図的に使われた証拠は今のところない。例えば、ヤンゴンにおいても国民民主勢力が連邦団結発展党に数千票の差で勝利している選挙区がいくつかあるが、そうした僅差の選挙区全てで期日前投票によって連邦団結発展党が逆転勝利しているわけではないのである。当局に期日前投票を使った開票操作の意思があったのであれば、他にも逆転できたケースは多かったはずである。期日前投票は動員しやすい票として、連邦団結発展党に利用されたと考えるべきであろう。

総選挙ボイコットの功罪
以上から、連邦団結発展党の「圧勝」は有権者の「動員」によるもので、投開票時の組織的な不正によるものではなかったいうことになる。そのため、連邦団結発展党による動員が成功しなかった、少数民族の各州やヤンゴン都市部においては、少数民族政党や民主化政党が勝利する余地があった。

その点では、シャン民族民主党やラカイン民族発展党などの少数民族政党は比較的良く準備をし、地元の選挙戦において健闘した。とくに州議会においては、相当な議会内勢力となることに成功した。

他方、民主化政党については、国民民主連盟が総選挙をボイコットし、小規模政党ばかりが準備不足のまま選挙戦に突入することとなったため、全国に候補者を十分に立てることができず、極めて少数の議席を獲得するに留まった。しかし、ヤンゴン地域における国民民主勢力の善戦をみても、国民民主連盟が参戦し、全国に候補者を立て、民主化陣営の票を一元的に集約することができれば、連邦議会においていつでも特別国会の招集を要請できる議席数、すなわち民選議員の3分の1相当を獲得することも不可能ではなかったように思われる。

もちろん、国民民主連盟、あるいはスーチー氏の主張は、そもそも2008年憲法が非民主的であり、選挙関連法が不当であるという、ゲームの「ルール」に関するものであり、それは選挙戦略以前の問題であった。選挙戦略上の観点から、その決定を批判するのは適当ではないのかも知れない。しかし、このことは、今回の総選挙によってまもなく誕生する新政権と、7年半ぶりに自宅軟禁から解放されたスーチー氏との間に、現時点では対話を可能とする共通基盤(ゲームの「ルール」に関する共通認識)がないことを意味している。すなわち、政治対話のための共通基盤をつくることが、もっとも重要、かつもっとも困難な政治課題である。